ピア・サポートに関する研究

渡邉 賢二



[問題と目的]

 現在、子どもの対人関係の未熟さが指摘されている。つまり、子どもは人との交際や会話の仕方が未熟であると考えられる。そのため、困難な問題が生じても誰にも相談できず、自分自身の内にしまい込んでしまい、ストレスの原因の一つになってしまう。しかし、子どもが悩みや問題を抱えた時、最初に相談やアドバイスを求めていくのは、悩みや問題にもよるが、教師や親ではなく、友人であると言われている。子どもがクラスメートや友人などの同年代の者同士で問題解決に取り組むことは、各々のアイデンティティー獲得においても重要であると考えられる。友人間での悩み、苦しみへの解決策を考える時間は、年々減少していっているとの学校教育現場からの報告は少なくない。そこで、教師の指導のもとで、友人相互で話しを聞きあう態度を育成し、サポート力を高める必要がある。

Helen CowieSonia Sharp1996)は、学校でのピア・カウンセリングとは「同じか似かよった年齢グループに属する相手に対して、手を差しのべ、支援し、話に耳を傾けるというごく自然な傾向の延長線上にある諸行為をしめす。」と述べている。

 また、滝(1998)は、学校でのピア・サポートは、「悩みや問題をかかえた子どもに対する相談や支援を、教師たち大人が直接にするのではなく、子どもたち同士にさせていこうとする考え方、それを可能にする力を子どもたちに身につけさせる教育や訓練である。」と述べている。

 さらに、酒井(1998)は、一年間にわたり、中学校で、相手の話をよく聞いてあげる存在となることを目的にピア・サポーターの養成活動を行った。その結果、相手の立場を尊重し、聞くことができるようになり、思いやり行動をとることができるようになったと実践報告をしている。

 しかし、実際の教育現場において、中学生に適したしかも効果的なプログラムを作成して、短期間でピア・カウンセラー態度を向上させ、ピア・サポーターを養成したという実証的研究の報告はほとんどなされていない。

 そこで、本研究は、短期間で、ピア・サポーター養成の一つの手段として、ピア・カウンセリングを用いて、話しを聴くときのピア・カウンセラーの態度を育成することを目的とする。そこで、中学生が実施可能と思われる受動的な聴き方と能動的な聴き方のスキルを取り入れたピア・サポートトレーニングプログラム(Passive and active listening method 以下 PALMとする)を作成し、その効果を検討する。また、参加者と非参加者はの実験前と実験後の相談行動にどのような変化があるかを調査することを目的とする。

 

研 究 1

[目的]

 ピア・カウンセリングを用いて、話しを聴くときのピア・カウンセラーの態度を育成することを目的とする。そこで、受動的な聴き方と能動的な聴き方のスキルを取り入れたPALMを作成し、その効果を検討する。

[方法]

被験者:中学1年生の学級委員と学級委員によって選択された16名、担任教師と参加生徒の話し合いにより、実験群8名(男子4名、女子4名)、統制群8名(男子4名、女子4名)に分けた。

2 実施期日:1999年7月上旬、9月上旬

3 手続き:

(1)PALMの説明

  1. 学級担任は生徒に実験の験の目的と課題内容を説明した。
  2. A本日のカウンセリング課題、PALMの過程を印刷した用紙を配布した。

    Bクライエント役の説明:配布した用紙に話をする内容を簡単に書くように指示した。

    Cカウンセラー役の説明:(ア)話しを聴く姿勢、(イ)目線、(ウ)うなづき方、(エ)感情確認、(オ) 初めの言葉・終わりの言葉を実験者が見本をみせ、例をあげて説明した。

     

    (2)PALMを実施

      @生徒の様子を観察し、実験中のカウンセリングの発話内容をテープレコーダーで記録した。

     

  3. ピア・カウンセラー態度調査(Peer counselor attitude test 以下PCATとする)の質問項目を5段階で自己評 価させた。そして、この実験に関しての感想を記述させた。

     

    実験群の課題は、1回目「小学校時代にうれしかったこと、楽しかったこと」

     

            2回目「最近うれしかったこと、楽しかったこと」

     

            3回目「最近悩んでいること、困っていること」とした。

     

    統制群の課題は、1回目「最近悩んでいること、困っていること」

     

            2回目「小学校時代にうれしかったこと、楽しかったこと」

     

            3回目「最近うれしかったこと、楽しかったこと」とした。

     この手続きは、実験群・統制群において、1回目だけ実施した。2、3回目に関しては、カウンセラー役の説明は、用紙だけを配布した。その他の説明は繰り返し行った。

    (3)2ヶ月後、PALM参加者に対して、学校生活での行動の変化について自由記述させた。

    4 測定方法

    (1)PCAT:Lynn Johnson(1994)のSession Ratingを中学生にあうように、実験者と現職教員2名で協議し、クライエント役とカウンセラー役の質問紙各10項目を5段階で評定するように作成した。

    (2)PALM中における発話分析:カウンセラー役の逐語記録を「初めの記録」「終わりの記録」「受動的(受容・繰り返し・リード)」「能動的(感情確認)」に分類し、各PALM中の発話回数を評定した。

    (3)PALM後の感想分類:<感情表出><共感><カウンセリングスキル>のカテゴリーに分類し、記述回数を評定した。

    (4)PALM参加者の2ヶ月後の調査:PALM参加者に実験2ヶ月後、「PALMに参加して体験したことが、学校生活のどういう場面で有効であったか。」を自由記述で求めた。

    [結果と考察]

     PCATの結果から、実験群は、2回目が最低得点で、3回目が最高得点であった。統制群は、回を重ねるごとに、得点は上昇したが、有意差はみられなかった。また、実験群3回目と統制群1回目も有意差はみられなかった。個人平均得点は、回を重ねるごとに、上昇している生徒が多くいたが、個人差が非常にみられた。特に、男子より女子の方が高得点であった。これらのことから、PACT得点は上昇しているが、有意差がみられなかったのは、実験者が2,3回目の実験時にカウンセラー役の説明をしなかったことと、2回目の得点が減少していることから、カウンセリングの課題に問題があると考えられる。

     発話分析の結果、実験群と統制群の両方とも、教示した「初めの言葉」「終わりの言葉」は全員が実施できた。受動的な聴き方の「受容」「繰り返し」「リード」は回を重ねるごとに増加している生徒が多かった。特に男子より女子の方が多く実施することができた。能動的な聴き方の「感情確認」も同様であった。また、発話の録音テープから回を重ねるごとにスムーズにカウンセリングができるようになった。

      PALM後の感想分類の結果、よかったことの<感情表出><共感><カウンセリングスキル>の感想において、実験群は回を重ねるごとに増加したが、統制群の<感情表出><共感>は減少し、<カウンセリングスキル>は増加した。反省点の感想は実験群と統制群の両方、<カウンセリングスキル>の感想しか記述がなく、また共に回を重ねるごとに減少した。これらのことから、教示したPALMが実施できたといえる。

      PALM参加者の2ヶ月後の効果を検討した結果、「先生や友人の話しをきちんと聴けるようになった。」「会話がスムーズにできるようになった。」「話し方が変わったように思える。」「授業に集中できるようになった。」「話し合いの時、人の意見を聞いてから自分の意見を言えるようになった。」との報告を得られた。これらのことから、PALMに参加して身についたことが学校生活でいかされているという般化効果があったといえる。

    研 究 2

    [目的]

     研究1より、実験者のPALMの説明、カウンセリングの課題、実験群と統制群のカウンセリングスキルの一致度を変更して、ピア・カウンセリングを用いて、話しを聴くときのピア・カウンセラーの態度を育成することを目的とする。

     

    [方法]

      1.被験者:中学1年生の各クラスの班長32名、学級担任と実験者が話し合い各ペアの学校生活の様子や学業成績のことを考慮にいれて実験群16名(男子8名、女子8名)、統制群16名(男子8名、女子8名に分けた。

      2.実施期日:1999年10月上旬

      3.手続き:実験者のPALMの説明方法、カウンセリングの課題を変更し、その他は研究1と同様の方法で実施した。

      実験群の課題は、1回目「勉強のことで悩んでいること、困っていること」

                  2回目「部活のことで悩んでいること、困っていること」

                  3回目「友人のことで悩んでいること、困っていること」とした。

         統制群の課題は、「友人のことで悩んでいること、困っていること」とした

       PALMの説明は、実験群・統制群の両方において、1回目だけ実施した。実験群の23回目に関しては、前回実験で良くなかったことを反省させ、実験者が観察して良くなかったと感じたことを強調して、PALMの説明を行った。

       

      [結果と考察]

        PCATの結果から、実験群と統制群の両方、回を重ねるごとに得点は上昇し、有意差がみられた。また、実験群3回目と統制群1回目も有意差がみられた。さらに、自己認知項目と他者認知項目においても有意差がみられた。研究1と同様に、個人平均得点は、回を重ねるごとに上昇している生徒が多くいたが、個人差が非常にみられた。また、男子より女子の方が高得点であった。これらのことから、PALMはピア・カウンセラーの態度向上に有効であったといえる。また、PALMの説明方法とカウンセリング課題は、本実験においては非常に重要であると示唆された。

       

      研 究 3

      [目的]

       PALM参加者と非参加者は、PALMの実験前と実験後の相談行動にどのような変化があるかを調査することを目的とする。

       

      [方法]

        1.被験者:中学1年生、事前調査204名(男子104名、女子100名)、事後調査202名(男子103名、女子99名)

        2.実施期日:事前調査7月上旬、事後調査11月上旬

        3.質問紙:高校1年生を対象に「中学時代に友人として助けてもらって、うれしかったこと、よかったこと。」を自由記述で求めたものと、野川(1998)の「ピア・カウンセリングの取り組み」の報告から、中学生の悩みを「勉強、部活、友人関係、異性関係、家庭」の5項目に分類し、質問項目31項目を作成し、生徒には「意識調査」として、5段階評価で求めた。

        4.手続き:学級担任が、帰りのショートホームルームにて一斉に実施

        [結果と考察]

         質問紙31項目を@<友人に相談>、A<先生に相談>、B<親に相談>、C<友人から相談>、D<友人に相談して満足・解決>、E<先生に相談して満足・解決>、F<親に相談して満足・解決>、G<現在悩みがある>の8つのカテゴリーに分類した。(以下各カテゴリーを記号で記す)

         PALM事前事後の結果、@ACEの項目で有意差がみられた。男子は、@ACDEの項目で有意差がみられた。女子は、@AEの項目で有意差または有意傾向がみられた。

         PALM参加者と非参加者事前事後の結果、参加者は、@ACDEの項目で有意差がみられた。非参加者は、@ACEの項目で有意差がみられた。男子参加者は、@ACDEの項目で有意差または有意傾向がみられた。非参加者は、@ACEの項目で有意差または有意傾向がみられた。女子参加者は、@AEの項目で有意差または有意傾向がみられた。非参加者は、Dの項目で有意傾向がみられた。これらのことから、PALM参加者は、PALMの実験前と実験後の相談行動の頻度が増加した。また、非参加者も参加者の相談行動の変化の影響をうけ、相談行動が変化したと考えられる。

         

        [総合考察]

         研究1と研究2の結果より、PALMを実施すれば、ピア・カウンセラー態度が向上することが示された。実験者のPALMの説明方法、カウンセリングの課題は、PALMの効果に影響を及ぼすため、非常に重要であることも示された。

          また、発話分析は、生徒のノンバーバルな表現を分析することができなかったため、より詳細な分析をする場合にはビデオを使用することも考えられる。

         研究3と研究1の結果より、PALM参加者(52名)はPALMで身についたことを日常の学校生活でいかすことができたという相談行動頻度の増加と般化効果がみられた。また、非参加者もPALM参加者の相談行動の変化に影響をうけ、友人や先生に相談したという行動変化がみられた。その結果、学年全体の対人関係が円滑になったといえよう。

          以上の結果から、PALMは、サポーターの養成、人間関係の改善、不適応行動の予防により大きな効果が期待できるのではないかと考えられる。

         

         



        教育心理の卒論・修論のページにもどる