問 題 と 目 的 

 
   

1.青年期の発達および発達課題
2.時間的展望
3.孫―祖父母の関係性
4.加齢イメージと時間的展望
5.目的のまとめ

 

 

1.青年期の発達および発達課題  
 
 Erikson(1963)は、自我が家族や広範囲の社会的場面の中で発達していくそれぞれの時点で、成長に役立つ要素と当面する発達的危機の克服に焦点を当てた。発達過程には、基本的には規則性、非可逆性がある。人の総合的な人格は、各々の段階で獲得された強さと弱さの総計で成り立っていると考え、各段階は、その時期の発達に適応する積極的能力と、その能力に関連する弱点と脅威とで構成されている。それによれば、青年期において「同一性」対「同一性の拡散」を心理的危機とし、自己を独自な人間として総合したイメージを持つことが、その心理的危機を乗り越えた後の好ましい結果とされている。

 青年期には、「自我同一性」を確立することが主要発達課題として課せられている。自我同一性とは、「自分とは一体何か」「自分は何になりたいか」ということであり、このことを確立することが青年に課せられている。青年は、児童期にはなかったさまざまな新しい体験を経るうちに、このような自己の一貫性と同一性を確立しなければならない。

 Eriksonの同一性の概念には、自分が独自であるという感覚だけではなく、他人とのつながりの感覚も含まれている。更に成長の過程において、自分が表明したことや一貫性のある自分史を通じて、自分は同一の人間であるという感覚も含んでいる。自我同一性の感覚とは、自分の内的な同一性と連続性を維持する能力が、他者にとっての自己の意味の同一性と連続性の合致することの確信である。従って、自己評価は自分が確実な未来に向かう有効な一歩を学習し、自分の理解した社会的現実の中で、確かなパーソナリティを発達させているという確信にまで高められる。

 しかし、同一性は直ちに思い通りに達せられるのではない。青年は他の人から物質的、精神的に援助してもらっている間に夢を追い、また自分の才能を試しているうちに自分について知り、自己の一貫性を獲得していくのである。そのためには、青年期において幅広い試みと対人関係を経験することが必要となる。もし自分は何か、何になりたいのかがいつまでもはっきりしないまま続くと、自我の統合された状態を実現できないままになってしまう。この危険性をEriksonは「同一性の拡散」とよんだ。青年期の主要な発達課題は先に述べたとおり「自我同一性の確立」であるが、他にも情緒的成熟、異性愛の確立、心理的離乳、人生観の確立などが挙げられる。

 人生観の確立は、自分が今までどのような人生を過ごし、そして現在があり、これからどのような価値観を持って生きていくのかという考えを分化させることである。そのような点で、「自分とは一体何か」「自分は何になりたいか」ということを確立させる自我同一性と密接に結びついているといえる。そして過去を受容し、現在を見つめ、未来を展望することから、人生観を確立することは時間的展望を確立することと同義ともいえる。以上より、時間的展望を確立することは、自我同一性を確立することにつながる。

 

 

2.時間的展望  
 
 時間的展望は、「ある一定の時点における個人の心理学的過去および未来についての見解の総体」(Lewin, 1951)と定義されている。Lewinは、時間的展望を場の理論における生活空間の要素の一つとして位置づけ、個人の生活空間が現在だけでなく未来や過去をもその中に含んでおり、個人の時間的展望とモラールの間には密接な関連があることを示した。時間的展望を確立させることは、現在が孤立した時間の断片ではなく、過去によって必然的にこのような自己が育ち、未来によって予測的に、このような自己になっていくであろうという、自己の実感を強くする。このことが、児童期的な一瞬一瞬の興味と関心によってその場その場の行動目標や達成動機を追う生き方と、質的に違った心理構造を形づくるに至るのである。このように、時間的展望はその人自身を理解する上で重要な概念であると言える。青年期の次の段階である成人前期には、多くの人が社会人となり、社会において責任を果たすことが要求される。また、青年期で確立させた異性愛をもって、配偶者と結婚し、子供を産み、育てる者も多くなる。このときに自分自身の中で時間的展望が確立できていると、10年後の希望的存在の自己に向かって現在の努力を続ける、2〜3年後の喜びのために現在の苦痛を受容することが可能となる。よって、時間的展望を確立させることは青年にとってなくてはならない発達課題なのである。

 時間的展望はtime perspectiveの訳語であるが、これ以外にもtime orientation、temporal orientation、temporal perspective、temporal experienceなどの用語が十分に定義されないまま、それぞれ微妙なニュアンスの違いを伴いながら用いられている。Wallace(1956)は「個人的な未来の出来事に関する時間的調節と配列化」と、時間的展望を未来に限定して捉え定義し、Hultsh&Bortner(1974)は「現時点で知覚された地位との関連における過去および未来の評価」と、情緒的な側面を定義した。先に述べたLewinによる定義が最も一般的であるが、様々な用語や定義が存在し、実際はその概念定義が曖昧であるという問題点がある。しかし、時間的展望には個人が自分の過去や未来にどのような出来事を想起あるいは予想するかという認知的側面と、個人が自己の過去や未来に対してどのような感情を持っているかという情緒的側面の2つが含まれていることが総じて言える。

 時間的展望はその漸成的発達論における観点から、青年期に確立されるものとしている。青年期以降も時間的展望の程度は変化するが、年齢が高くなるほど時間的展望は長くなり、その内容も現実的なものになる。それと同時に、年齢と共に未来志向的な思考が減少し、現在志向的な思考が増加することを見出した(Cameron , 1972)。また、Toban(1970)は、青年は高齢者よりも時間的展望が長く、未来志向的であることを見出した。Brim & Forer(1956)は、個人の時間的展望の長さは社会的環境の影響を受けて変化することを示している。

 

 

3.孫―祖父母の関係性  
 
 子どもにとって親や友人が重要な他者であることはこれまで多くの研究によって指摘されているが、祖父母もまた重要な他者であることが最近の研究によって指摘されるようになった。

 発達課題は、社会や文化の影響を大きく受ける。21世紀に入り、日本は65歳以上の高齢者が総人口の19%を占めるまでに至る超高齢社会となった。近年の核家族化に伴い、祖父母と孫の交流は減少したとされるが、好きな祖父母がいることが自己受容を高める要因の一部であることが示唆され、子どもの成長過程において重要なのは、単に祖父母との同居経験ではなく、祖父母が好きと思えるような交流体験であるという調査も報告されている(關戸, 2001)。祖父母および孫双方にとって、互いの存在価値は様々に変容する家族・親族関係にあって大きいと言わざるを得ない。

 

 

4.加齢イメージと時間的展望  
 


  高齢者は身体的諸機能が低下する一方、最近ではある種の知能は必ずしも加齢と共にそれほど低下しないということが明らかになってきた。発達と加齢は実質上同義ともいえる。
 加齢は忌むべきものでも拒否すべきものでもなく、寧ろ積極的に受け容れるべきものとして考えられる。

 

5.目的のまとめ  
 
 祖父母は孫である青年に対しどのような役割を果たしている、若しくは果たしていただろうか。

 また、加齢を象徴する存在として、やはりその身体的特徴から高齢者が挙げられることが多い。しかし、加齢を象徴する他にも、他者に加齢することを認知させる役割を持っているとも考えられるのではないか。

 本研究では、青年期の孫がまず初めに思い浮かべた祖父母は、その人にどのような役割を果たしてきたかを明らかにする。

 次に、その印象に残った祖父母は青年の加齢に対するイメージにどのように働いているかを検討する。親密な感情を抱くようになるには、祖父母と情緒的な関わりがあることが大切であると考えられる。よって、情緒的な関わりがあった、つまり祖父母が青年期の孫に対し情緒的な援助役割を果たしていると、加齢に対するイメージは肯定的なものになるのではないだろうか。

 よって、祖父母と情緒的な関わりがなされていた場合、青年期の加齢に対するイメージは良好なものとなり、それらは時間的展望の確立に寄与していると考えられる。以上から、祖父母との関わりが青年期の加齢に対するイメージと時間的展望にどのように影響しているかを検討する。