T 研究の目的
児童期から青年期にかけて、ホルモンの分泌による身体的変化や心理的離乳などにともない対人関係に変化が現れます。子どもたちは、それまで彼らの両親や教師と強い信頼関係をつくろうとしてきました。 しかし、この時期には、おとなたちから同世代の人間と信頼関係を結ぶようになります。友人関係は、青年期の主軸と言ってもよいでしょう。
過去、青年期の友人関係についていくつかの研究がなされています。友人への期待という面からみても、1975年にLa Gaipaらが6-22歳の男女に「友人関係において重要であること」について調査している他、1987年に和田らが同性の友人を対象に調査したりいろいろあるわけですが、調査の対象になっているのが、青年期後期の大学生や児童期後期の小学校高学年が多く、青年期初期や中期が少ないのが現状です。また落合らは、1996年の研究で青年期初期から後期にわたる縦断・横断研究の少なさも指摘しています。
青年期の対人関係は、先も述べたようにそれまでとは異なり、大人への第一歩としての対人関係を作りあげなくてはならず、そのため青年は様々な変化を通して対人関係を作りあげていくのです。したがって、友人関係の研究には、青年期初期から後期までの資料の必要性を感じ、本研究では、青年期初期(中学生)と中期(高校生)を比較検討することで、青年期の友人への期待を発達的に明らかにすることを目的としました。そこで、以下3点について検討しました。
@友人への期待の種類の分類。
A友人への期待について中学生と高校生の差と男女差。 B友人のレベルによるちがい。 |
U 方法
調査対象 静岡県焼津市内の公立中学校2年生(男子80人、女子73人)と三重県四日市市内の公立高校2年生(男子76人、女子82人)計311人。
実際に質問紙をしていただいた生徒の数は、もう少し多くなりますが、 資料として適当でないと思われる質問紙は、除外したためにこの人数に なりました。 質問紙の構成:1987年に和田らが設定した尺度を参考に作成しました。 質問紙は、 『援助』・『情報』・『類似』・『自己向上』・『敏感さ』 『共行動』・『真正さ』・『自己開示』・ 『尊重』・『相互依存』 の10領域から成り立っています。
質問項目は、全部で40項目あり、 1領域につき4つの項目が設定されています。 『援助』は、 質問項目の1,11,21,31に当たり、 『情報』は2,12,22,32といったように1の位の数に2がつく項目に相当しています。 『類似』 は3並び(1の位に3のつく項目)、 『自己向上』は4並び、 『敏感さ』は5並び、 『共行動』は6並び、 『真正さ』は7並び、 『自己開示』は8並び、 『尊重』は9並び、 『相互依存』は0並びに当たります。(資料1 参照)
質問の信頼性(その質問項目が気まぐれで選択されたのではなく、4回繰り 返すことでその項目に対する被験者の評価の一致度をみる)を得るため、同じ 内容の項目を4回繰り返しています。 |
V 結果および考察
友人への期待の種類の分類
40の質問項目が本当に10の領域(以下、因子と呼びます)に分かれているのか確認する意味で因子分析(主因子解―バリマックス回転)を行いました。結果、和田らが設定した10因子ではなく、6因子に分かれました。
各因子の名称については、第1因子を『信頼』、第2因子を『援助』、第3因子を『情報提供』、第4因子を『真正さ』、第5因子を『共行動』、第6因子を『類似性』と命名しました。(資料2参照) 各因子の命名の由来は、 第1因子は友人に対し、信頼し腹を割って付き合える関係でありたいという期待を含んだ項目で構成されていたので『信頼』と命名しました。 以下第2因子は、自分を援助してくれる存在であってほしいという期待を含んだ項目で構成されていたので『援助』と、第3因子は、自分へ新しい情報をもたらしてくれる存在であってほしいという期待を含んだ項目で構成されていたので『情報提供』と、第4因子は、友人との関係に無理が生じることなく本当に安心できる関係でありたいという期待を含んだ項目で構成されていたので『真正さ』と、第5因子は、常に一緒にいたいという期待を含んだ項目で構成されていたので『共行動』と、第6因子は、自分と似ている部分を持っている存在であってほしいという期待を含んだ項目で構成されていたので『類似性』と命名しました。
つまり本研究では、友人への期待は『信頼』・『援助』・『情報提供』・『真 正さ』・『共行動』・『類似性』の6つに分類されたことになります。 |
2)友人への期待の年齢差と性差
年齢と性別について差があるのか、またあったとすれば、どのような面に差が出るのか検討するため、因子別に分析(2要因の分散分析)を行いました。平均値によって有意差を見ました。
『信頼』因子
全体的な年齢差、性差ともに認められました。年齢差は、1%水準で高校生の方が高く、性差は、0.1%水準で女子のほうが高いことが明らかになりました。
青年期の友人関係で、友人に対し信頼できる関係でありたいという期待は、中学生から高校生にかけて強くなり、また男子よりも女子のほうがとても強いと言えます。
『援助』因子 中学生の性差、高校生の性差、女子の年齢差が認められました。中学生の性差は1%水準で女子の方が高く、高校生の性差も1%水準で女子の方が高く、女子の年齢差は1%水準で高校生の方が高いことが明らかになりました。(Fig.1 参照) ![]() つまり、友人に対し自分を援助してくれる存在であってほしいという期待は、男子よりも女子の方が強く、女子に関しては年齢が上がるに従って強くなると言えます。
B 『情報提供』因子
全体的な年齢差、性差が認められました。年齢差では、1%水準で高校生の方が高く、性差では0.1%水準で女子のほうが高いことが明らかになりました。
つまり、友人に対する常に自分に新しい情報をもたらしてほしいという期待は、中学生から高校生にかけて上昇し、また男子よりも女子のほうが強い言えます。
C 『真正さ』因子
中学生の性差、高校生の性差、女子の年齢差が認められました。中学生・高校生の性差は、ともに女子の方が高く、女子の年齢差については中学生よりも高校生の方が高いことが明らかになりました。水準は、すべて1%でした。(Fig2 参照) ![]() つまり、友人との関係に無理が生じることなく本当に安心できる関係でありたいという期待は、男子よりも女子の方が強く、女子に関しては年齢が上がるに従って強くなると言えます。
『共行動』因子
全体的な性差のみ差が認め、年齢差は認められませんでした。性差は、5%水準で女子の方が高いことが明らかになりました。
つまり、友人と常に一緒にいたいという期待は、年齢に関係なく女子のほうが比較的高いということが言えます。
『類似性』因子
全体的な年齢さのみ差が認め、性差は認められませんでした。年齢さは、5%水準で高校生の方が高いことが明らかになりました。
つまり、自分と似ている部分を持っている存在であってほしいという期待は、性別に関係なく年齢とともに少しずつ上昇すると言えます。しかし、この因子について過去の研究では、青年期の間に変化が認められていません。また本研究でも変化が認められたもののあまり大きな差ではなかったので、青年期において『類似性』に大きな変化がないことが予想できます。
文書中に「1%水準・・・」とありますが0.1%水準、1%水準、5%水準の順で大きな差があることになります。0.1%はかなり大きな差がある、1%は差がある、5%は比較的差があると読み取ってください。その他は、グラフで見たら差がある場合も実際は、差がないことになります。 |
友人のレベルによるちがい
本研究では、青年期の友人への期待について調査したわけですが、その際、被験者に友人を2人選んでもらい、各友人についてそれぞれに質問紙を行いました。 その意味として、青年が友人によって別の期待をしているのか(つまり、友人の使い分けをしているのか)また、友人に集団性をもとめているのか等を検討するためです。質問紙で1人目に選んだ友人を「友人1」、2人目に選んだ友人を「友人2」とし、友人1と2の平均値の差をt検定によって分析しました。
各因子における中学生の友人1と2のちがいについて分析した結果をFig7に示しました。差が認められた因子は、『信頼』(0.1%水準)、『情報提供』(5%水準)、『共行動』(0.1%水準)の3つで、いずれも友人1の方が高いことが明らかになりました。
一方高校生の結果は、『信頼』(0.1%水準)、『情報提供』(0.1%水準)、『援助』(1%水準)、『共行動』(0.1%水準)、『類似性』(0.1%水準)の5つに差が認められ、いずれも友人1の方が高いことが明らかになりました( Fig 3参照 )。
![]() 中学生の結果と高校生の結果を比較すると、高校生の方が友人1に対しての期待が多彩であることがわかります。したがって高校生は、友人1と2の差が大きく、親しい友人を1人に絞っていることが明らかになりました。また、どちらも『真正さ』については友人1と友人2の差が見られないため、中学生も高校生も友人に対しては友人との関係に無理が生じることなく本当に安心できる関係でありたいという期待を抱いていると考えられます。 |
まとめ
全体的な傾向として分析結果をまとめてみると、中学生よりも高校生のほうが友人に対する期待は多彩で強く、特に男子よりも女子に年齢的な変化がみられると言えます。 しかし、友人と常に一緒にいたいという期待だけは年齢的変化がみられなかったことから、青年期以前に発達するものと思われます。また、友人1と2については、期待が友人1の方へより多く示されていたので、友人1は青年にとって親友としての要素を含んでいるものと予想できます。
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