大学生の恋愛についての研究

47期 藤井 和代 (西川ゼミ)

T 問題および目的

 対人魅力(interpersonal attraction)は人に対する正または負の態度であると考えられている。人はなぜ人を好きになるのか,どんな人が好かれやすいのか、どんな状況になると人は互いにひかれあうのかという疑問に答える研究が対人魅力である。この対人魅力には多くの要因があり、その中には人から好かれる性格の研究などが行われている。
 では「好き」とはいったい何なのだろう。「私はあの人が好きだ」というように私たちは「好き」という言葉を多用している。それなのに、「好き」という言葉の意味を定義することは難しい。この理由の一つにはこの言葉から思い浮かべられることが人によって違うからである。「好き」という言葉は場合によっては愛しているという意味をもち、別の場合には尊敬しているという意味をもつ。また憧れや、親しみなどという意味ももっている。


 この「好き」という気持ちが相手によって区別されている尺度を開発したのがRubin(1970)である。そして彼は人が恋愛関係において、恋愛相手に友達とは違う感情を持つことを明らかにした。これは日本でも藤原ら(1983)が尺度の検討を行いRubin(1970)と同じ結果を得ている。
 また松井(1993)はこの尺度を使い、恋愛行動の進展段階との関連をみている。その結果によると、Love尺度の平均値は段階が進むにつれて推移していくが、Liking尺度は変化がみられなかった。この結果はRubinの理論と一致しており、松井の恋愛行動段階設定の有効性を確証するものであった。 


 本研究は交際期間や2人の関係による、恋愛を進めるための努力や恋愛感情の強さの違いを検討することを目的とする。恋愛の意識は個々人によって異なるだけでなく、同一人物の中でも関係の進展や変化によって変動する。恋愛に伴う心理を理解するためには恋愛関係の進展度による意識の違いをとらえることが必要であろう。そこで本研究では松井(1990c)の恋愛行動の段階に基づいて、恋愛関係の進展段階を規定しその段階別に恋愛に関する感情を分析する。恋愛行動の段階を用いれば、自己認知に基づく分類より高い客観性を有し、中間段階の規定が明確な段階を設定できるものと考えられる。またこれまでの研究では感情と恋愛意識や恋愛行動段階に触れているものはあっても、実際の行動と感情の関連に言及しているものは少ない。恋愛をうまく進めていくため意図的に恋愛の相手に対して目立って行われる行動があるのではないか。そしてそれは恋愛をうまく進めるために必要な努力と考えられるのではないだろうかと考え調査を実施した。

 

1.方法

1.調査期間
   1998年12月中旬
2.調査対象
   三重大学学生254名(うち男性 91名、女性 163名)
3.質問紙の構成
 質問紙は、4枚で構成されている。
 @フェイスシート
  回答者に恋人あるいは、片思いや特に仲のいい異性を一人思い浮かべてもらい、その人との関係や交際期間を回答してもらった

 A恋愛推進努力を尋ねる質問
  予備調査として、三重大学の学生に「恋愛がうまくいくためにする努力」について尋 ね、得られた回答から支持者の多い順に12項目を選出した。5件法で得点の幅は12〜60 点 で得点が高いほど努力していると考えられる。

 BLove-Liking尺度
  Rubin(1970)のLove-Liking Scaleを藤原ら(1983)が因子分析したものを現在の情勢に 合う日本語に修正して使用した。5件法で得点の幅はLove尺度が11〜55点、Liking尺度 が9〜45点、Love-Liking尺度合計は20〜100点で得点が高いほど愛情および好意感情が 強いと考えられる。

 C二人の関係を尋ねる質問
  松井(1990c)の「恋愛行動の進行に関する模式図」を参考に
   A:友達以上に会話をする関係
   B:デートする関係
   C:いちゃついたりする関係
   D:恋人として紹介する関係
   E:結婚を考える関係
  の5つの関係を定義し、回答者に”特定の異性”との関係を最もあてはまるものから順に5段階評定で回答してもらった。

2.結果と考察

1.因子分析

恋愛推進努力を尋ねる質問の12項目について、主因子法バリマックス回転で因子分析を行った。結果4因子が抽出された。
 その結果
  第1因子「合わせる努力因子」
  第2因子「喜ばせる努力因子」
  第3因子「自己犠牲因子」
  第4因子「接触努力」
 の4因子が抽出された。
 なおこの質問項目におけるα信頼性係数は.87で、この尺度には高い一貫性があることが示された。

2.恋人群・友人群・片思い群の比較

 Table1は関係ごとの恋愛推進努力得点の平均値の分散分析を行った結果である。この結果から恋人群は友人群や片思い群よりも、自分の時間を犠牲にしても相手を喜ばせたり、積極的に2人で共有する時間を持とうとするなど恋愛を推進するための努力をしていることが分かった。しかし,相手と同じ趣味を持ったり、相手の好みのタイプの人になろうとする合わせる努力においては片思い群の努力が大きい。これは片思いの状態は,恋愛の前段階、つまり恋愛の進行(松井,1990c)でいう出会いの段階であり、趣味や服装という目に見える外見的魅力の影響が大きくなっているためだと考えられる。

 次に関係ごとのLove-Liking尺度の平均値の分散分析を行ったところLove尺度(F(2,233)=21.15,p<.001)において、恋人群は友人群に比べて高い恋愛感情を持っているという結果が得られた。しかし,Liking尺度においては違いが見られなかったことから、恋人という関係において好意感情はあまり重視されないこと、愛情が強いからといって友人としても一目置いているとは限らないことが示唆された。  また、片思い群は恋人群についで恋愛感情が高くなっている。これは、人は現実に恋愛関係にない状態でも、友人と片思いの相手への恋愛感情を区別しており、返報性のない片思いの状態でも,相手に強い恋愛感情を感じることがある(楠見,1987)ためであろう。


3.恋人群内の比較

 @恋愛推進努力得点とLove-Liking尺度得点の関連
 Table2から恋愛推進努力項目が恋愛感情と強い関連があることが分かった。またLove尺度得点とLiking尺度得点に強い相関が見られたことはRubin(1970)や藤原ら(1983)の結果と一致している。
Table3は恋愛推進努力合計得点を恋人群内の平均値(X=38.4)を基準にしてH群とL群に分け、そのH-L群別のLove-Liking尺度得点のt検定を行った結果である。恋愛推進努力の小さい人は恋愛感情、好意感情ともに低くなっており、恋愛推進努力の大きい人は恋愛感情も好意感情も高くなっていることが認められた。特にH群の恋愛感情の高さは恋愛関係において、努力をするからこそ相手を愛おしいと思う、愛おしい思うから努力をするというような循環があることを示唆するものだと考えられる。また恋愛関係にあるからといって必ずしも恋愛感情が高くなる訳ではない。これは交際目的による違い(楠見,1987)や次に述べる交際期間の違いなど恋愛感情を左右する要因が様々であるからだと考えられる。

 A交際期間
交際期間と恋愛推進努力得点の分散分析を行った結果、交際期間が37ヶ月以上の人は1〜3年以内の人より接触努力(F(5,114)=7.17,p<.001)が有意に小さかった。(Figure.1)またLove-Liking尺度と分散分析を行った結果、Love尺度(F(5,114)=2.34,p<.05)で有意な差が認められ、交際期間が1〜3ヶ月の人の方が3年以上の人よりも高い恋愛感情を持っていることが分かった。これは交際期間が長くなると関係が安定してくるため、積極的に2人の時間を作る必要を感じなくなり、恋愛感情が低くなっているのではないか。また恋愛の初期に恋愛感情が高まるのは、相手をまだよく知らないために相手を美化する結晶作用(詫摩,1973)が働くためと考えられる。

 B2人の関係
 分散分析の結果、恋愛推進努力(F(4,115)=2.72,p<.05)で有意な差が認められ、結婚を考えている関係群の恋愛推進努力が友達以上に会話をする関係群よりも大きいことが分かった。結婚を考えている人たちは,恋人以外の同性異性の友人と遊びに行く回数を減らして,積極的に2人の時間を持とうとしているといえる。さらに結婚を考える関係群は恋愛感情も高くなっている。これは楠見(1986)の結婚を意識している人は相手に強い恋愛感情を感じているという結果とも一致している。このことから,結婚を考えている恋人たちは2人の将来のことを考えているため,恋愛感情が高く,恋愛をうまく進めるための努力を惜しまないのではないかと考えられる。

 

 

5.最後に

 人は恋愛することでハッピーになったり、ブルーになったり。いつも絶好調っていう人は少なくて、みんなそれぞれ悩んだりしてるんじゃないかと思います。恋愛は人と比較したりするものじゃないと思うけど、私は自分の興味があることを研究したくてこのテーマで卒業論文を書きました。アンケートに協力してくれた皆さん、プライベートなことにもかかわらず、快く回答してくださって本当にありがとうございました。また、研究の遅れがちな私を温かく見守って下さった方々、本当にお世話になりました。  この論文を読んだことが、自分の恋愛をチョット振り返って考えてみるきっかけになってくれたらうれしいです。お互いステキな恋愛ができるといいですね。