言葉掛けが
態度変容に及ぼす効果


47期 松葉 綾(織田研究室)

   
〈T 問題及び目的 〉

 私達は、しばしば、人を思い通りに動かそうとする。家族、友人、恋人、同僚…。しかし、思う通りにはなかなか動かせない。どうしても人を思う通りに動かしたい時、中にはいろいろと試行錯誤して、自分の思うようになるように努力し、相手に働き掛ける人もいるだろう。
 こういった働き掛けは、心理学的には「説得」と言われる。説得者がいれば、被説得者もいる。
 この被説得者が「説得」に応じた(意図するようになった)場合、その人は「態度」が変わった、すなわち「態度変容」したという。
 この「態度変容」であるが 、過去の研究を見ると、説得者の取った行為・行動や説得者の地位・容姿、説得者との信頼関係、被説得される時の場所や状況など説得者側の要因や、その場の状況を要因とした実験が多くを占めている。
 そこで、説得者の立場・容姿等に関係なく「態度変容」をさせることが出来るかどうかを検証してみたい。
 よって本研究では、文章呈示という説得者が明らかでない「言葉掛け」による「説得」方法を用いる。文章など「言葉掛け」による「説得」を行なう場合、論理的に話を進めていく場合が効果的であるという。よって、「感情的」「論理的」の2つの意見文を用いて文章形態の違いによる「態度変容」に及ぼす効果を検討していきたい。
 また、Hovland (1953)や菊池(1993)によると、被説得者のパーソナリティが関与していると考えられている。そこで、実際にどのようなパーソナリティが関係しているのかをも関連させ検討していく。
 「態度」が変わるか、変わらないかにはRosenberg &Hovand(1960),Krech, Cruthfield&Ballachey(1962)によると、
「三つの成分」 @『認知的成分』A『感情的成分』B『行為傾向成分』が関係し、そのうちの1つの成分でも変化しようものなら「その三つの成分間は、相互に一貫性を保とうとする傾向がある」という考えの基づき、他の成分も変化するという。
 そこで、
@の認知的成分には「意見文の書式形態についての質問項目」、
Aの感情的成分には「意見文に対する評価」、
Bの行為傾向成分には「1回目の態度と2回目の態度の測定」を当てはめて、この3つの関連性からも「態度変容」に及ぼす効果について分析を行なってみたいと考えている。

〈 U 分析方法 〉

1) 被験者

 三重大学生231名、岐阜大学生20名、岡山就実女子大学5名
合計256名(男子166名・女子90名)

2) 実験期間

 1998年11月

3) 調査用紙

 話題は、「迷彩服であるアーミー」についてと、「クローン人間計画」についてである。「アーミー」と「クローン」の意見文の提示順序効果を排除する目的で、「アーミー」に関する意見文を1つめ、「クローン」に関する意見文を2つめに配置した『社会問題意識調査A』と、2つを入れ替えた『社会問題意識調査B』を作成した。
 この意見文を読む前と後とで、2回態度尺度を測った。
 また、この意見文に対する評価・意見文の書式形態(論理的・感情的)・被験者のパーソナリティについても関連させて聞いた。

〈 V 結果及び考察 〉

 結果は、「アーミー」の意見文を読むことによって、1回目の態度と2回目の態度が変わり、説得者の信憑性が関係しなくても「態度変容」することが明らかとなった(Fig.1)。


Fig.1


Fig.2


 また、この態度変容の要因として、意見文に対する評価が、好意的であること(Fig.3,4,5)、また「社会性」が強く「演技性」が弱いパーソナリティであること(Fig.6,7,8)が挙げられる。


Fig.3


Fig.4


Fig.5


Fig.6


Fig.7


Fig.8

 「演技性」が強い人は、付き合う人や場面によって、全く別人のように振る舞ったり(Snyder,M)、自分を印象づけたり、人を楽しませるために、演技さえもする(Snyder,M)傾向があるので、一見「社会性」傾向が強く、相手に合わせやすい様にも感じるが、人から好かれたり、人と上手くやっていくために、全く別人のように振る舞うことを意図的にすることから、ある意味自己主張的なパーソナリティ、また積極性が強い傾向にあるといえる。
 ゆえに相手には合わせるが、自分の信念までは変えない「態度変容」しにくいパーソナリティといえよう。また、「個人主義傾向」を多少でも持ち合わせる人は、なかなか態度変容を起こさないことが明らかになった。
 また上記で述べたように、意見文に対する評価に好意的であると「態度変容」し易いといえる反面、納得いかないと感じると、「その文章」がいっている内容とは逆方向に「態度変容」する( Fig.4)という結果になった。そして、文章形態による「態度変容」に及ぼす影響をみると、「論理的」な文章と感じるほど「その文章」に対して納得いくと感じている(Fig.7)ことから、「その文章」に対する評価と関連しているといえる。
 故に本研究により「人は、その対象に納得がいくと感じるとその対象の方に、態度変容を起こしやすい。また、納得がいくと感じるようにさせるためには、論証することが効果的である」ということが明らかにされた。


Fig.9

 ところで、何故「アーミー」には態度変容が起こり「クローン」では起こらなかったのか(Fig.2)。これは、1つにPetty & Cacioppo(1977)の提唱する、「予告されると抵抗力が増す」に置き換えて考えられる。これを「クローン」で考えると、最近テレビや新聞、学校での講義など様々な所で「クローン問題」について騒がれている。従って、被験者の大半はこの「クローン」に関する情報を持っていたといえる。これがある種の「予告」という効果を生んでいたのかもしれない。また、以前に「クローン」に関する情報を得た時点で既に「態度変容」してしまっていたことも考えられる。これは、「クローン」に関する態度尺度が1回目から高い得点にあったこと(Fig.8)から考えられよう。
 このことから、「ある対象」において「説得」行動がなされた場合、「その対象」を以前から認知していた時、態度は変化せず、「ある対象」が新しい情報源だった時、態度は変化しやすいといえよう。

<用語説明>

 態度」

 学校内や街中などを歩いている時、自分が苦手意識を持っている人等と出くわしそうになったら、「あっ、ちょっと嫌だな」「他に道はないかな」「声を掛けるべきか、掛けないべきか」…といった気持ちを持つようなこともあるだろう。
 こういった時、
@自分が苦手意識を持っている人がいることに気づいたということ(分かるということ)、
A何とかその場を抜け出したいという気持ちを抱くこと、
B他に道はないだろうかと探すこと、という3つのことがその人の行動を支えているといえる。  このような心のしくみを菊池(1993)は、「構えSET」とよんでいる。その相手もまた、「あっ、自分を避けているな」と理解していく。 この2人のこういったギクシャクした関係は、学校での関係や友人としての関係全体、主婦であれば、地域活動など日常生活での関係全体にまで及び、ある程度持続的なものとなりうる。ある対象に対して「苦手だな」という評価をもっていたから、このような行動に出てしまい、それが、ある程度持続的なものとなったといえる。
 心理学ではこういった、行動の基となっている、その対象に抱く評価のことを「態度」という。

「3つの成分」


@ 認知的成分(cognitive component)『態度対象に対する知識や評価的な判断・信念からなる(「善―悪」「望ましいー望ましくない」などを含む)もの』
A 感情的成分(feeling component)『感情的(「愉快―不愉快」などを含む)なもの』
B行為傾向成分(action tendency component)『その対象に対する接近傾向や回避傾向』『特定の仕方で反応する準備状態』

 例えば、「省エネルギー」について考える時、「確かに環境保全につながる」という信念が『認知的成分』で、「省エネルギーは好ましい」と考える気持ちが『感情的成分』、「暑くても、エアコンを使うのはやめよう」とすることが『行為傾向成分』に当てはまるといえよう。
 そして、その三つの成分間において、相互に一貫性を保とうと する傾向があるといわれている。 もしもここで「省エネルギーが、環境保全につながらない」という情報が耳に入った場合、三つの成分のうち、1つの「認知的成分」に微妙な変化があったことになる。そうすると、「三つの成分間において、相互に一貫性を保とうとする傾向」を考えると、「暑くても、エアコンを使うのはやめよう」という行動に変化が現れるといえる。

「説得」

 例えば、全く勉強しない子どもに勉強して欲しいと考えている場合、我々はどうするだろうか。
 最終的には、どのような理由からであれ、子どもが勉強してくれるようになったら良いのである。  しかし、いやいやながらに勉強をしても身に付かないだろうし、その時だけで終わってしまっても困りものである。このように、先のことを考えると、出来ることなら、自分から進んで勉強していくようになって欲しいものである。この為に我々が取る行動が「説得」である。  我々が、ここで目的としていることは、究極的には行為の変化であるにしても、そこには、
@ 子どもが勉強に対して好意的感情を抱くようになること、(すなわち、情動の変化)
A 子どもが勉強に対して支持(必要性・評価)するようになる事
Bそして、実際に持続的に勉強するようになることを伴ったもの である。

 ゆえに、「説得が十分成功した」と言えるのは、こうした様々な面での変化を伴った行動の変化が生じた場合であろう。すなわち、勉強をしないという態度を支えている要素が崩れてしまった場合である。「説得」とは「被説得者の賛同を得て、納得させる機能を持つもの」「態度変容」一定期間持続していた態度が、何らかの原因によって変化することといえよう。