考察


本研究において、SAD音楽、HAPPY音楽、ヒーリング音楽として使用した全3曲について「音楽が表現する感情価」と、これらの音楽を聴取して変化する人の「聴取後の感情状態」を測定し、それぞれ特徴のある結果を得ることができた。

本研究における、「音楽の感情価AVSM」と「聴取後の感情MMS」の相関分析の結果からは、音楽と聴取後の感情に一定の関係があるということがわかり、これは谷口(1995)の報告と同様、音楽を聴取した人間の感情に、音楽が表現するさまざまな感情価が影響を及ぼしているということを示唆しているといえる。

また、SAD音楽、HAPPY音楽、ヒーリング音楽のそれぞれの感情価が異なることを示すことができ、それぞれを聴取した後の感情状態も音楽によって異なるということを示すことができた。つまり、音楽の感情的性質により、人の感情はその音楽の特徴と関連して変化するということが、実験の結果、実証的に確認することができたのである。

音楽聴取と記憶の関連についても検討をした結果、興味深い結果を得ることができた 。結果から、HAPPYな感情価をもつ音楽を聴取した場合は、 再生の正解率が最も低くなり、SAD、ヒーリングのような感情価をもつ音楽を聴取した場合は、記憶の再生正解率がHAPPY音楽を聴取したときよりも、明らかに高くなるという大変興味深い結果が示されたのである。この結果は、これまで行われている、感情と記憶の研究で確認されている、ムード一致効果やムード状態依存効果と同様の結果が示されていると考えることができる。 明らかに、音楽の聴取による記憶の変化であり、注目すべき結果であろう。

音楽の教示の違いについても検討を行ったが、本実験結果からは教示の違いによる「音楽の感情価」の評定や、「音楽聴取後の感情状態」の評定に有意な差を認めることが出来ず、部分的に教示によって微妙に異なる傾向があるという程度であった 。

本研究は、音楽聴取行動と、人間の感情的変化に関する基礎的な研究である。この研究でえられた結果からは、明らかに音楽聴取に伴いある一定の関係をもって、人間の感情状態が変化していることが確認された。そして、音楽の感情価の違いにより、聴取後の人間の感情状態も変化することが確認された。

今後は、本研究の結果確認された、音楽聴取と感情の変化に注目し、聴取後の感情的な変化に伴って現れる会話、行動の変容、対話の変化等について検討をすすめていき、それぞれにおける音楽聴取効果について検討し、新しい音楽療法、音楽効果としての研究を進めていきたいと考えている。

  

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