子どもの気質と親の養育態度について

48期  野村 直子(河合ゼミ)



1 問題及び目的

   人にとって親子関係ははじめて経験する人間関係であり、この時期に親との信頼感がうまく形成されないと思春期の情緒的問題の要因になることも指摘され(Mahler et al.,1981)ている。3歳時の母子分離と5歳時ならびに思春期の発達の関連を検討した追跡研究(黒丸・杉浦、1986,古林・佐々木、1986)によれば、3歳時に分離に問題のあった子は、5歳時には、生活習慣や幼稚園での友人関係に問題があり、思春期には不安緊張が高い傾向があると指摘している。また乳幼児期にエリクソンの発達段階の第1段階である(親子間での)「基本的信頼」が形成されないと、青年期にアイデンティティの喪失や、摂食障害などがでてくることも知られている(谷、1998など)。発達初期の母親の関わり方が,後年の子供のパーソナリティー形成、特に自尊心や効力感に大きな影響を与えているという研究は数多くあり、小さい頃の恐怖体験や学校でのいじめなど、幼少期に大きな影響をうけたことや衝撃的なできごとは、トラウマとなることは周知のとおりである。発達のスタ−ト地点で悪影響をうけることは後の人格をも左右してしまうくらい大きい。
   そして発達初期である乳児は、決して受け身ではなく自分でしっかりと周りを見たり聞いたりすることを積極的に行っている.生後1日目の新生児は、眠っている時間が長いが目覚めたときには闇の中で目を大きく開けて、キョロキョロ何かを探すようにしていることが赤外線カメラを使った実験でわかっている。明るくて何かが見えるからただ見ているのではなく、能動的にものを見ようと探索している様子がうかがえる。また、疲れたら眠り、自分から目覚める、という営みにより環境の変化や動揺から自分の安定性や統合性を保っている。母親の顔の表情や声など、親の応答する情緒の内容によって、乳児は自身の情緒をコントロールしているのである。生後15ヶ月の乳児はそばで母親が見守っていると、活発に遊んだり動き回ったり探索行動をするが、そばにいても新聞を読むなど乳児の方に関心が向いていないと、あまりいきいきとは動かなくなる。乳児とはいえども他者の表情を敏感にとっており、積極的に交流を深めようとしている。そのため、養育者が暖かく見守って、家庭が安全な基地として作用することが重要である。また、自己意識が芽生える1歳頃、未知の状況にであうときには、周囲にいる養育者やその他の人々がどう反応するかによって、はじめて出会う不確かな状況にどう対応したらよいか、何がいけないことで、どんなことが嫌がられるのか、ということを学んでいく。このように乳児は有能であり、まだ言葉がわからないからと言って邪険な言葉を投げつけると、ちょっとした表情のゆがみで、言葉の意味を敏感にとらえているのである。これらのことから、乳児期の能動性にうまく対応してやることは、エリクソンの発達理論の「基本的信頼感」を形成するのにも、愛着を形成するのにも大事なことであり、乳幼児期の養育者との関係が、自己と他者との様々な関係場面でのモデルとなり、肯定的な愛着と愛着モデルを持っているということはその後の問題に立ち向かう糧になるのだろう。
   しかし,発達初期の家庭不和や分離体験などの影響を検討したRutter(1981)は,発達は流動的であって,変化が生じるのに遅すぎることはないとしている.田島(1989,1991)は抑制態度の強い子は不安定な愛着を形成しがちであるが,そうした子は自己認識が早く,1歳代に見られた対人関係や認知能力の差を3歳もでに取り戻してしまったことを報告しており,愛着の質の差は異なる側面の発達を促し,異なる側面の道筋を通ることを示唆している.また,大澤も日本心理学会第36回総会発表論文集で,話し合いや紙芝居などによって、友だちと仲良くする方法を考えさせる実験で,わがまま 自己顕示神経質傾向が減り、感情の統制力や精神発達が良好になり、攻撃性が低下するなど社会性が高まったといえる実験結果を発表している.
   そこで本研究では、これまでの研究をうけて、乳児期のに問題行動につながる気質傾向のあったと思われる子どもについて、それを補う養育態度や環境はどんなものなのか、ということを見ていきたい。


2.方法

(1)被験者
  被調査対象は、四日市市内の小学校の1年生と3年生の児童の(1年生の保護者44名、3年生の保護者63名)。小学校の児童に質問紙を持ってかえってもらい、母親あるいは 父親に渡してもらった。約5日から1週間後に回収した。

(2)調査時期 
 12月中旬

(3)使用された尺度
 質問紙はフェースシート、乳児期の気質を調べるRITQと養育者との相互関係があった後の児童期の気質を調べるBSQ、そして親の養育態度を調べるもので構成されている。  それぞれ,項目数が多すぎたので,カテゴリー別に2個から3個抽出し,それぞれ23項目,23項目,20項目の計66項目に短縮した.回答は5段階評価(0−全く違う 4−そうだった)である。
 RITQ,BSQ両尺度には,共通のカテゴリー(活動性,周期の規則性,接近・回避,順応性,反応強度,気分の質,根気の良さ・持続性,敏感さの9つ)があるが今回の研究では乳幼児の気質をみたかったので,規則性は必要ないと判断し,削除した.

(4)分析方法
 乳児期からの気質つまり遺伝的な気質と、養育者との交流があった後の気質とを比べてみて,それらの成長と養育態度とがどう関係していたかを見ていく。どのような養育態度,家庭環境が子どもの気質成長に良いのかについてみていきたいと思う.子どもにとって活動性や接近性,気分の質,順応性,根気(持続性)がのびていること,反応強度や気の散りやすさ,敏感さ(ナイーブさ),の成長が低くなっていることが望ましい成長といえる.そこで、活動性や接近性が高くなったもの,敏感さや気の散りやすさなどマイナス面が低くなったものを中心にみてみることにした.
 ・RITQ,BSQそれぞれにおいて項目をカテゴリー毎に分類して得点を足し,各カテゴリー毎の得点とし た.
 ・次に各カテゴリーについてBSQとRITQの差をとり、どれだけ変化したのかを得点化した.

<High群とLow群について>
 各カテゴリーの気質において、BSQからRITQ(児童期の気質得点から乳児期の気質得点)の差が、プラスの方向に変化したほうをHigh群、逆に変化がなかったり、マイナス方向に変化したほうをLow群にした。     


3.結果と考察

養育者の態度とフェースシートに書かれている事柄についての一元配置分散分析で、有意差のあった項目を次に示す。


**p<.01 *p<.05 無表示<.1
  出産異常、夫婦関係は、問題ありが1,無しが0でコーディングした。
 

T.活動性について
 活動性が伸びた子どもと伸びなかった子どもの間に有意差があったのは、「親としての能力には自信ががあると思う」、1日の交流時間で,対保護者以外の家族,母親、父親、そして夫婦関係であった。
 交流時間が長いこと、すなわちスキンシップやコミュニケーションの多いことが、社会的スキルで重要な要素である活動性に密接に関わっていた。このことは、愛着関係が子どもの快の情緒を伸ばすことを表しているのではないだろうか。  ここでわからなかったのは、「親としての能力には自信がある」で自信があると答えた親の子ども方が活動性が低くなる傾向にあるということである。自信がある、ということは権威的な養育スタイルであるととれるなら、サイモンズがいう、{親の養育態度と子供の人格の関係}で、支配型の養育態度は子供の自発性のなさ、服従的、社会的、消極的な人格を形成していくと示しているように、あまり親が権威的すぎると子供が萎縮してしまい、活発に行動したり発言することに消極的になってしまうことが考えられる。もう一つの可能性としては、自信のある親は活動性が高いことが考えられるので、活発かどうかの基準が高く、子どもが活動的な行動をしていても、それが当たり前と思うことがあるのかもしれない。

U.接近・回避
 接近性の成長で有意な差があったのは、出生異常、「子どもが間違った行動をしたとき子どもをたたく」、「子供と一緒になって冗談を言ったり遊んだりする。」、保護者以外の人との交流時間であった。
 「子供と一緒に冗談をいったり遊んだりする。」に高得点をつけた親の方が接近性が伸びていること、また、交流時間が長い方が接近性が伸びいているという結果は、先の{活動性}でも似たようなことは述べたが、母子間の愛着関係による良いコミュニケーションを通して、人は恐いことをしない、人に接することは楽しいことだというモデルができており、人に近づくことに恐れを感じなくなるのではないだろうか。

V.順応性
 このカテゴリーでHigh群とLow群に差があったのは、「子どもが行動をおこす前に、親が子供に期待していることを話す」だけであった。
  この項目で高得点をつけた親の子どもに、順応性が高くなった傾向がある。何かをするにあたって事前に手順や方法を教える親に関するものであるが、このようなことをする人は、手順を考えてから何か行動を起こす人、すなわち、気性の優しく社会的な人に多い特徴なのではないか。養育態度が子供を順応にさせたというより、親に順応性があるので見習ったためではないだろうか。

W.反応強度
 ここで有意差のあったものは、「子どもが間違った行動をしたとき子どもをたたく」,「子どもが間違った行動をしたときには大声で怒鳴り散らす」、「子どもの行動が親の期待にそぐわないとき、叱ったり非難したりする。」、「子どもがなぜいうことを聞かなければならないのかと尋ねたら、親だからとか、そうして欲しいから、と答える」であり、すべて、高得点をつけた親の子どもに反応強度が強くなる傾向がみられた。
  子どもの問題行動の発達:Externalizingな問題傾向に関する生後11年間の縦断研究から(菅原ら 1999)では、6ヶ月時、18ヶ月時の問題行動傾向が母親のネガティブな愛着感に影響し、そのネガティブな愛着感が8歳時の子どもの問題行動に影響して、それ以降、ネガティブな愛着感と子どもの問題行動とが関わりあい、悪循環になっていくという研究結果をだしている。今回の結果だけでは子どもの反応強度の強さが親のネガティブな養育態度のにつながるのか、その逆かはっきりいえないが、この先行研究を支持するものではないだろうか乳児期の反応強度の強さが、ネガティブな養育態度をひき起こし、ストレスも重なって体罰をするようになると考察される。 

X.気分の質
 ここでの有意差は、「親としての能力には自信があると思う」、母の年齢、「子どもとは気楽に付き合っている」であった。
 母の年齢が高い方が、気分の質を良くすることに関わっていた。先行研究では、子どもの問題行動を防御する因子のひとつとして、父親の年齢が高いことがあげられており、それは加齢に伴う成熟度からくるものではないかと考察されているが、ここでもそうとれる。「親としての能力に自信がある」「子どもとは気楽につきあっている」に高得点をつけた親の子どもに、気分の質が良くなる傾向があったことも含めて考えると、親としての威厳は見せつつも、気張らず気楽につきあうことが、不機嫌になるのを防いでいる要因であるといえよう。

Y.根気・持続性
 ここで、High群とLow群に有意差のあった項目や環境は、「子どもの行動が親の期待にそぐわないとき、叱ったり非難したりする」、「子どもに自分の怒りをぶつける」、「子どもの間違った行動をどうしていいかわからない」、「子どもとは気楽につきあう」、「子どもをしつけるのは難しいと思っている、性別、出生順位であった。
 出生順位と性別は相関係数を出したところどの項目とも相関がなく、有意差もあまりなかったので、ここでは関係がないだろう。
 「子どもの行動が親の期待にそぐわないとき、叱ったり非難したりする」、「子どもに自分の怒りをぶつける」「子どもの間違った行動をどうしていいかわからない」、の項目ではそれぞれ高得点をつけたほうが根気や持続性が低くなる傾向が見られた。やはり、このような親の自分勝手な叱り方や体罰は、子どもに悪影響を与えることがはっきりとでている。  そして「子どもとは気楽につきあう」に高得点をつけた親の方が根気・持続性が良くなる傾向があり、これとは逆の意味の項目である「子どもをしつけのは難しいとおもっている」では、高得点をつけた方が根気が低くなる傾向がみられた。根気の良さと親のこのような子育てに対する楽観的・悲観的な態度が関係してくるのは意外であった。根気や持続性の成長には、気楽につきあうというような雰囲気の良さが重要だという結果であった。

気の散りやすさは、とくに有意差は見られなかった。

[.敏感さ
 敏感さのHigh群Low群に有意差があった項目は、「子どもが行動をおこす前に、親が子供に期待していることを話す」、「子どもとは気楽につきあっている」、母の学歴,であった。
 母の学歴は相関係数でも父親の学歴以外は相関がなかったし、有意差も低いので、考察は省いておく。
 ここでは、「子どもが行動をおこす前に、親が子供に期待していることを話す」の得点の高い親の子供の方が敏感さが増していた。これは先の順応性の所でも言及したが、このような態度を示す親は、社会的,順応的であると考えられ、人との争いや衝突を避ける傾向にあるのではないだろうか。そのため、その子どもも争うことを避けるようなナイーブな子になることが考えられる。  またここでは「子どもとは気楽につきあっている」で高得点をつけた親の子どもは敏感さが低くなっている、すなわち良くなる傾向にあることがわかった。


4.まとめ

1)結果について
 今回の研究の目的は、子どもの気質の良い方向の成長は、親のどのような養育態度や環境が関連しているのかということを探るためのものであった。次のような結果が示された。

 親の学歴は、子どもの気質や人格・気質の成長に影響するような結果は出なかった。やはり学歴や地位などではなく親が子供にどれだけ関心があるかということや、一緒にいてやれるか楽しい時間過ごすかどうかが重要なのであろう。

2)子どもを育てること
 子どもは育っていくなかで、周囲にあるいろいろなものから影響をうける.学校の友達関係,先生に言われたことば,近所の親同士の地位,生まれ育った地域や接する人が違うだけでもいろいろな違いがでてくるとおもう.だがあえて家庭に目を向けたのは,一番の土台になるからだ.学校で友達にいじめられても,家庭があたたかければ,子どもは自分の帰る場所がある.でもいじめられたり,嫌なことを言われなくても家庭で自分を受けとめてくれる存在がいないならなら,その子が休める逃げ場がなく,暗い気持ちだろう.子どもが家で自分らしくいることを認められていないということは,自分を認めることができないということではないだろうか。そして、自分は子どもをきちんと受けとめていると思っていてもそれが独りよがりになっている親はいないだろうか。子どものためと思っていることが負担になていないだろうか。子どもの気持ちをくみ取る前に自分の考えを押しつけてないだろうか。家庭は、外からの攻撃と戦うときに、休むことのできる安全基地ではないか。経済的にも自立できないし,家でいつも顔を合わせ養ってもらっているだけあって,子供は親を基本にして生きている。家庭の状況は生涯の土台となり、子どもが一生幸せに生きることができるか、できないかを左右するかもしれない。
 そのことをわかっている親はどのくらいいるだろうか。


5.今後の課題

 子どもの性格というものは、表面に見えているものとは違うことも多々あり、親の目から見ると自分の期待や希望もヴェールになってうまく測れないと思う。時間的制約や筆者の勉強不足で質問紙を保護者に配ることになったのだが、それだけでは子どものほんとうの気質を測れない。面接法などから比べて質問紙は時間的制約、サンプル数が少ないことから開放してくれているのだが、やはり、それだけ信頼性には欠けるものがある。子どもの気質は小学校の先生に書いてもらうようにすれば更に正確なデータが得られたのではとおもう。 また、養育態度についても、自己評価だけでは信頼性が低いので、母親には父親のことを、父親には母親のことをきくなどして、客観的にみてくれる人からの評価が得られるように改善しなければならない。そして、項目を減らしたことで,BSQとRITQの各カテゴリーごとの項目数が違うため、成長度を絶対値で比較することができなかったこと、先行研究と同じ質問紙を使って、比較検討もしたかったこと、さらに、統計的にももっと高度なことをしたかったこと、また、夫婦間の養育態度の違いや、親自身の気質や社会的スキルにおいても子どもにどう影響していくのかということも見たかったのだがそれもできなかったこと、ひとえに筆者の勉強不足のゆえでの問題点である。  上に書いた統計やデータ収集に関する反省点をふまえて、子どもが安心できる家庭環境になるよう、勉強だけの教育でない情動的教育をするように、保護者の教育に関する意識改善がされることを望んでいる。そのためには今後、子どもは大人が思っているほど無能ではないことや、家庭環境・生活態度、親の性格などが乳幼児期の基盤の大切さについてもっと一般の人たちにも伝えられる研究が必要である。  



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