色に対するイメージの心理学的研究


48期 塩見 優子 (織田ゼミ)


T. 問題及び目的

 私たちの周囲にあるもの−食卓の上の食べ物や、身につける服、電車や自動車や建物、店に並べられている商品−は、全て何かしらの色を持っている。その色に違いはあるにせよ、『色』の中で生きているといってもいいくらいに、周囲のものはことごとく『色』を持っている。  
 また私たちは、色に囲まれているだけでなく、自分の気持ちや目に見えないものを色で表現することもある。例えば「ブルーな気分」「黄色い歓声」などがそうである。それは、色が何かしらの意味を持ち、その意味が一般的なものとなっている為、このような比喩的表現が成立するのであって、色による影響なしには起こり得ないことだろう。  
 このように色が生活の一部となっている今日、人は色をどのように意識し、どのように評価するか、また色は人の心にどのように働きかけ、どのような影響を与えるであろうか。  
 人の性格と色との関連を試みている先行研究には、色彩象徴テスト(小保内・松岡、1952)や色彩ピラミッドテスト、ロールシャッハ・テスト、ヒューマンカラー(大守光子、1992)等がある。  
 上記の色彩テストでは、条件を単純化し、色の好みを比較的はっきり出すために、同じ大きさの色紙や色鉛筆等で、実験者が色を抽出し、その中から色を選択させている。しかし、一口に「色」とは言っても、その種類は非常に多い。そのため、例えば赤色と言っても何種類もあり、抽出された色と各個人の思っている色とが、同じであると言えるかどうかが問題となってくるのではないだろうか。  
 そこで本研究では、色の種類は、大守(1992)の著書「カラー・彩コロジー」の中で【人の心理をつかむ基本的な5色】と言われている、赤・緑・黄・青・茶の5色に特定するが、先行研究であるように色紙などで色を提示することはせず、SD法を用いて各個人の考える基本色5色に対するイメージと自分自身に対するイメージを測定し、関連があるかどうかを調査していく。


U.仮説


《仮説1》色のイメージと色の順位との関連性

色のイメージ【肯定的】・・・・・・・色の順位は上位が選択される      
色のイメージ【否定的】・・・・・・・色の順位は下位が選択される

《仮説2》自己イメージと色の順位との関連性 

自己イメージ【肯定的】・・・・・・・・色の順位は上位が選択される
自己イメージ【否定的】・・・・・・・・色の順位は下位が選択される

《仮説3》自己イメージと色のイメージとの関連性 
自己イメージ【肯定的】・・・・・・・・1位色のイメージと相関が高くなる
自己イメージ【否定的】・・・・・・・・5位色のイメージと相関が高くなる


V.方法


(1)アンケート作成

井上、小林によってまとめられた(1985)、SD法で自己イメージの測定に有効な尺度と、色彩のイメージ測定に有効な尺度の中で、共通の形容詞対31対を取り出し、その形容詞対の中から自己イメージが『肯定的―否定的』となっているもの20対を、アンケートの項目として用いた。

 (2)被検者

三重大学生等 計196名 (男;79名、女;117名)

(3)調査時期

11月中旬〜12月上旬までの3週間程度

 (4)調査手続

 まず、赤・緑・黄・青・茶の5色の中で一番好きな色を1、一番嫌いな色を5として順位付けをしてもらった。その後、各色のイメージと自己イメージそれぞれ20項目(計120項目)の質問に対し、A「はっきりとAである」、a「どちらかといえばAである」、?「どちらともいえない」、b「どちらかといえばBである」、B「はっきりとBである」の各チェックボックスに、チェックしてもらい、5段階評定を行う。
 所要時間は、1人5分〜10分程度である。  
 得点化は、各項目のA:2点、a:1点、?:0点、b:-1点、B:-2点とし、20項目の合計点を出した。そして、合計点が 1〜40点のものを『イメージ:肯定的被検者』、-40〜0点のものを『イメージ:否定的被検者』とした。


W.結果と考察


 (1)仮説1について

《赤》
 色のイメージを肯定的とする人は1位2位に多く、否定的とする人は4位に多いが、有意差はみられなかった。





《緑》 
 色のイメージを肯定的とする人は2位3位に多く、否定的とする人は4位5位に多く、有意差がみられた。




《黄》
 色のイメージを肯定的とする人は3位4位に多く、否定的とする人は5位に多く、有意差がみられた。 




《青》
 色のイメージを肯定的とする人は1位2位に多く、否定的とする人は1位2位3位に多く、有意差がみられた。




《茶》
 色のイメージを肯定的とする人は3位4位5位に多く、否定的とする人は4位5位に多く、有意差がみられた。




《まとめ》
 全体的に見ると色のイメージを肯定的としている人の方が、否定的としている人に比べ上位の順位を選択していることが明らかとなった。
 したがって色のイメージと色の順位付けには、色のイメージが肯定的であるならば、色の順位は上位が選択され、色のイメージが否定的であるならば、色の順位は下位が選択されるといった関係があることが証明された。

(2)仮説2について

《赤》
 自己イメージを肯定的とする人は1位2位に多く、否定的とする人は3位に多く、有意差がみられた。





《緑》 
 自己イメージを肯定的とする人も否定的とする人も2位3位に多く、有意差がみられた。




《黄》
 自己イメージを肯定的とする人は3位4位に多く、否定的とする人は4位5位に多く、有意差がみられた。  




《青》
 自己イメージを肯定的とする人も否定的とする人も1位2位に多いが、有意差はみられなかった。




《茶》
 自己イメージを肯定的とする人も否定的とする人も4位5位に多いが、有意差はみられなかった。




《まとめ》
 自己イメージと色の順位付けには、赤と黄では、自己イメージが肯定的な人のほうが上位を選択し、否定的な人の方が下位を選択するといった関係がみられるが、緑では、自己イメージが肯定的な人と色の順位付けには関係がみられず、否定的な人は、上位に集中していた。また、青と茶では、青は上位に茶は下位にというように対照的ではあるが、どちらも自己イメージが肯定的であっても否定的であっても色の順位付けに差はなく、自己イメージと色の順位付けとの関係はまったくみられなかった。 

(3)仮説3について

《因子分析》
 質問紙に用いた項目で因子分析を行った結果、3つの因子が求められた。
 1つ目は『積極的な−消極的な』『活発な−不活発な』といった項目があることから、【活力因子】と名付けた。
 2つ目は『楽しい−苦しい』『好きな−嫌いな』といった項目があることから、【満足因子】と名付けた。
 3つ目は『やさしい−こわい』『暖かい−冷たい』といった項目があることから、【平穏因子】と名付けた。
 また、『清潔な−不潔な』『粋な−野暮な』の2項目は、どの因子にも属さなかったため、その他とした。

《相関係数比較》
 自己イメージと色のイメージとの関連性をみるために、自己イメージが肯定的な人と、否定的な人それぞれで、1位と選んだ色(1位色)のイメージと5位と選んだ色(5位色)のイメージとを、【|1位色との相関係数の平均|−|5位色との相関係数の平均|】という計算をすることにより比較した。この計算の結果が、0より大きければ、自己イメージと1位色のイメージとの相関が高いことが言え、0より小さければ、自己イメージと5位色のイメージとの相関が高いことが言える(0の場合は、どちらが高いとも言えない)とした。

 【自己イメージが肯定的な人】
 5つの項目以外すべて0より大きく、1位色のイメージとの相関が高いものが多かった。したがって、自己イメージが肯定的な場合、1位色のイメージとの相関が高くなることが言える。

 【自己イメージが否定的な人】
 9項目が1位色のイメージとの相関が高く、11項目が5位色のイメージとの相関が高かった。したがって、自己イメージが否定的な場合には、1位色のイメージとの相関と5位色のイメージとの相関に差はみられない。
 そのため、因子分析の結果をもとにみていくと、1位色のイメージと相関が高いものの多くは【満足因子】の項目であった。
 これは自己イメージが肯定的であっても否定的であっても1位色のイメージとの相関は高いため、自己イメージとの関連性はないと言えるだろう。
 次に、5位色のイメージと相関が高いものの多くは【活力因子】と【平穏因子】の項目となった。
 これは自己イメージが肯定的な場合には1位色のイメージとの相関が高く、自己イメージが否定的な場合には5位色のイメージとの相関が高いため、自己イメージとの関連性があると言えるだろう。 

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