大学生の結婚観についての研究

48期 土田 雅樹 (平石ゼミ)

T. 問題と目的

 「結婚は恋愛の墓場である」という言葉がある。しかし、なぜ人は結婚をするのだろうか。人は結婚に何を期待し、何を求めるのだろうか。
 結婚に関する様々な問題がある中で、近年、日本では「非婚化」や「晩婚化」が急速に進んでいる。そして、これらが、「少子化」や「高齢化」の問題の1つの原因となっている。これらの問題は、経済活力の低下や社会保障負担の増大、教育面でなど、日本の社会の様々な面に影響を及ぼすと考えられている。(平成6年版国民生活白書など)
 では、なぜ「非婚化」や「晩婚化」が急速に進んできているのだろうか。
 第1の要因に、「高学歴化」などの”社会学的要因”(阿藤、1994、など)、 第2の要 因に、「男女の人口比のアンバランス」(大橋、1993)、「長男長女化」(阿藤、1994)などの”人口学的要因”、そして、第3の要因として考えられるのが、心理学的要因である。
 しかし、結婚に関する日本での調査や研究を観察してみると、とくに心理学での研究の少なさが目立つ。家族社会学などでは、家族や夫婦の研究がかなり頻繁に行われているが、心理学のなかではまだまだ、研究が始まったばかりといえる(数井、1998)。
 このように、心理学的要因についての実証的検証はほとんど見られないため、伊東(1997)は「結婚意思の低下」を中心に、心理学的立場から未婚化についての研究を行った(調査対象:大学生以上)。その研究では、「結婚意思」に対して直接的に影響が大きかった要因は、「結婚に対する一般的態度」、「結婚による”自由の喪失”に対する態度」であった。
 Jersild,A.T.(1957)は、青年期を「決定の時代 」(A time of decision)とよんで、学校の選択・職業の選択とならべて、結婚の選択をその重要な自己決定の対象としている。
 このように、青年期にあるさまざまな問題の中での、異性への適応という問題で考えると、結婚のことを考えることは、その準備期間であることとして重要であると思われる。
 そこで本研究では、伊東の「結婚意思の低下」を中心にした研究で扱った、結婚意思に影響を及ぼしていると考えられる7個の心理学的諸要因のうち、直接的に影響の大きかった上記の2要因と、「結婚による”自由の喪失”に対する態度」に影響のあった、「個人主義」、「伝統的性役割観」を用い、大学生は結婚に対しどのようなイメ−ジをもち、結婚意思と心理学的要因との関係を検討し、伊東の研究で得られた結果との比較をすることを目的としたい。


 <仮説>
1.結婚に対してポジティブな態度をもっている人ほど結婚意思が高いであろう。
2.結婚による自由の喪失に対して、ネガティブな態度もっている人ほど結婚意思が低いであろう。
3.個人主義傾向が強い人ほど、結婚意思は低いであろう。
4.伝統的性役割観の強い人ほど、結婚意思も高いであろう。


U.方法

1.回答者
   三重大学の学生234名(男子115名、女子119名)
2.調査期間
   1999年11月中旬
3.調査方法
   大学の講義中に質問紙を一斉に配布し、約15分後に回収した。
4.質問紙の構成
   伊東(1997)を参考に、結婚意思に関する項目(3項目7段階尺度)、一般的態度に関するSD法(10項目
  7段階尺度)、自由喪失に関する項目(15項目7段階尺度)、個人主義に関する項目(16項目5段階尺
  度)、伝統的性役割観に関する項目(16項目5段階尺度)で評定を求めるものである。

V.結果  

<尺度の信頼性>

 個人主義以外の各尺度について、クロンバックのアルファ係数を求めた。結婚意思 .866 、結婚に対する一般的態度 .955 、結婚による自由の喪失に対する態度 .920 、伝統的性役割観 .840 であった。よって、個人主義以外の尺度は信頼性が高いといえる。
 個人主義尺度については、主成分分析(主成分分析−直交バリマックス回転)を行い、固有値の減衰状況と、成分の説明可能性を考慮し、4成分を抽出した。成分構造は、青木(1970)とはかなり異なるものであった。 その中でも、「丈夫でのんきに暮らし、生活が楽しめればよい」などの4項目(享楽的自己主義)がまとまったため、この4項目の合計得点を個人主義得点として分析することにした。個人主義尺度のアルファ係数は.709であった。
 

<t検定および相関分析>

Table 1:男子・女子の各尺度の平均値・標準偏差およびt検定結果
Table 2:各尺度間のPearsonの相関係数 (男子)
Table 3:男子の結婚意思H群-L群の各尺度の平均値・標準偏差およびt検定結果
Table 4:各尺度間のPearsonの相関係数(女子)
Table 5:女子の結婚意思H群-L群の各尺度の平均値・標準偏差およびt検定結果  


W.考察

 本研究では、「結婚意思」とそれに影響があると考えられる「心理学的諸要因」との間の関連についての検討を行った。「結婚意思」は男女共に高く、結婚願望は高いと考えられた。

1.結婚に対する一般的態度について
 結婚に対して良いイメージをもっている人ほど「結婚意思」は高く、悪いイメージをもっている人ほど「結婚意思」は低いといえ、仮説1.で述べた態度が行動を導くという証拠を裏付けるものであった。

2.結婚による”自由の喪失”に対する態度について
 「結婚に対する一般的態度」が結婚に対する一般的なイメ−ジとでもいえる反面、これは、結婚することによって生じる具体的な行動の自由の喪失や、精神的な束縛に対する信念や評価をあらわしている。 「結婚による”自由の喪失”に対する態度」は、男女共に「結婚に対する一般的態度」と有意な相関があった。これは、”自由の喪失”に対してネガティブな態度をもっている人は結婚に対してマイナスのイメージをもっていることをあらわしている。
 また、女子の場合にのみ、「結婚意思」と有意な相関がみられた。伊東(1997)の研究では、男子の場合にのみ有意であったが、本研究では逆に女子の方で影響が大きかった。 また、女子の場合、「結婚意思」H群-L群の間での「自由喪失」得点の差も大きかった。
 さらに、質問紙の問題番号でU-2)「結婚したいとは思わない」理由を自由に記述してもらう問いの回答として、”自由喪失”のことを挙げる人が非常に多かった。
  これらのことを考えると、女子は結婚に関して自由を重要な問題として考えているといえ、これは、吉廣(1988)、江原(1994)などの知見を支持できるものであった。
 男子の場合、「結婚意思」との間に有意な相関はみられなかったが、上で述べたように、「結婚に対する一般的態度」との間には有意な相関がみられた。しかし、「結婚意思」に対して直接的に影響をおよぼしてはいないということは、”自由の喪失”というのはただ単にイメージに結びつく1つの要因としては考えているが、いざ結婚のこととなるとある程度の”自由の喪失”を覚悟していると考えられる。そのため、女子ほど”自由の喪失”が「結婚意思」と結びついていないと考えられる。
 よって、仮説2.は、女子では支持できるものであるが、男子では支持できるものではなかった。

3.個人主義(享楽的自己主義)について
 「個人主義(享楽的自己主義)」は上の”自由”にも似ているが、ここでは有意な相関がみられなかったことは、このような生き方、生活と”自由の喪失”は別のものであるということを意味し、そのため「結婚意思」にも影響をおよぼさないと考えられる。
よって、仮説3.は、男女共に支持されなかった。

4.伝統的性役割観について
 江原(1994)は、女性は、「結婚したら家事育児をするのは当たり前」、「結婚したら出産するのは当たり前」、「結婚した女の位置は男性の地位によって決まる」・・・といった、伝統的性役割観に基づく結婚に拒否感をもつ、としている。本研究の結果からは、「結婚意思」との間の有意な相関がみられなかったので、この知見を完全に支持して考えることはできないが、男子に比べ得点の低い女子は、このような考えをもっているため自由を重視しているということはいえる。これは、2.の”自由の喪失”にも関係するものである。女性の「高学歴化」や、「キャリア志向」などにもみられるように、女性は、職業的社会的参加意識が高くなったため「現在のライフスタイルを変えない結婚」を望んでいる(永久、1998)のである。
 男子の場合、得点は高かったが、女子と同様「結婚意思」との間に有意な相関はみられなかった。よって、「男は結婚して一人前、女の幸せは結婚して夫につくすことにある」というような、昔の社会的規範と結びつくような”性役割観という縛り”も、男子の場合には、現在では結婚にとってはあまり重要な要因とはならないと考えられる。伊東(1997)は、男女共に性役割観と結婚意思との間には大きな関連はないと結論づけているが、本研究では、男子の場合にのみこの知見を支持できるものであった。
 本研究の仮説4.については、完全に支持できるものではなかった。


一覧へ戻る