思春期は、親への依存と反抗が両価的に存在する不安定な時期と特徴づけられる。
そして、現在、学校教育現場では、中学校や小学校高学年において、授業が成立しないなどの子どもの荒れが大きな問題となっている。思春期の教師−生徒関係は、単に教師−生徒間の問題にとどまらず、その背景として親子関係が密接に関連していることが予想される。しかし、これまでに親子関係と教師−生徒関係の双方に着目し関連させた実証的研究は、ほとんどなされていない。
ところで、久世・平石・辻井(1991)は、青年心理研究の現状と課題において、児童後期から青年期にかけての変化がどのようなものであるか検討することが必要であると述べている。これまで多く行われてきた親子関係の研究においても、児童期から青年期にかけての研究は、まだほとんどなされていないと言える。
そこで、本研究では、児童期後期から思春期の親子関係、教師−生徒関係における依存と反抗の発達的傾向、および依存と反抗の二つの側面における親子関係と教師−生徒関係の関連について調査を行い(研究T)、さらに思春期の依存や反抗が、親の養育態度や子どもの有能感とどのような関連があるのかについて調査を行う(研究U)。
〈研究T〉
方法
1 尺度の作成
親子関係および青年期心理の先行研究等を参考に項目抽出を行い、2000年2月〜3月に、四日市市内小学校4年生〜6年生、中学校1年生、計120名を対象に予備調査を実施・分析し、父親、母親、担任教師それぞれについて回答を求める、計72の項目からなる質問紙を作成した。回答形式は、「そう思う(4点)」、「ややそう思う(3点)」、「あまりそう思わない(2点)」、「そう思わない(1点)」の4件法とした。
2 調査対象
四日市市内小学校3校の4年生〜6年生、中学校2校の1〜3年生、分析有効数は小学生659名(男339、女320)、中学生486名(男234、女252)、計1145名(男573、女572)。
3 調査時期
2000年6月〜7月。
4 実施方法
学校に依頼し、授業中に集団で実施してもらった。
結果と考察
1 因子分析
父親、母親、担任教師それぞれについて、男女別、小学・中学別、小学男女別、中学男女別、学年別に因子分析(主因子法・バリマックス回転)を行い、想定していた2因子を抽出し、項目を選定した(Table 1)。第1因子を「甘え・依存」、第2因子を「対立・反抗」と命名した。

2 信頼性(クロンバックのα係数)
各下位尺度において、.88〜.95のそれぞれ高い数値が示された。
3 下位尺度得点の平均値、標準偏差および分散分析の結果
各下位尺度ごとに、学年別、男女別に、尺度得点の平均値と標準偏差を算出し、学年(6)×性(2)の2要因分散分析を行った(Table 2)。学年の主効果・単純主効果が有意な下位尺度については、学年間の差(p<.05)を多重比較(テューキーのHSD検定)により求めた。平均値の学年変化をグラフで示したものがFigure 1-1〜4である。
親および教師に対する依存は、学年が進むにつれ徐々に低くなり、対照的に親および教師に対する反抗は、学年が進むにつれ徐々に高くなった。依存の下降、反抗の上昇は、小学5年から中学2年にかけて顕著であり、親や教師への依存・反抗の対照的な変化が、思春期的特徴の一つであることがより明確になった。
母親への依存については、学年ごとに性の単純主効果の検定を行ったところ、小学4年から中学3年のすべての学年で、女子は男子に比べて有意に高くなっており、高橋(1968a,1968b,1970)による一連の依存性の発達的研究で、母親は女子において一貫して重要な依存行動の向けられる対象であるとする知見と一致する。高橋の研究は、調査対象が中学・高校・大学生で、小学生を対象としたものではないが、今回の調査で、小学4年の段階から、母親は女子において高い依存が向けられる対象であることが明らかになった。





4 依存・反抗尺度得点間の関連(ピアソンの積率相関係数)
父依存、母依存、教師依存のそれぞれの組み合わせにおいては、一貫して有意な正の相関(.207〜.660)が示され、依存が高い子どもは、父親、母親、担任教師のいずれに対しても依存が高い傾向にあると言えるだろう。父反抗、母反抗、教師反抗のそれぞれの組み合わせにおいては、学年別、性別で程度の違いが認められるが、一貫して正の相関(.159〜.609)が示された。反抗が高い子どもは、父親、母親、担任教師のいずれに対しても反抗が高い傾向にあると言えるだろう。また、同一対象に対する依存と反抗については、学年別、性別で程度の違いが認められるが、一貫して負の相関(-.162〜 -.652)が示された。例えば、母親に対して依存が高い子どもは、母親に対して反抗が低く、反対に、依存が低いと反抗が高くなる傾向にあると言えるだろう。
〈研究U〉
方法
1 尺度
3つの尺度を使用した。依存・反抗尺度 研究Tで作成した尺度。
親子関係診断尺度EICA(辻岡・山本,1976) 二次因子として、「受容性−拒否性」、「統制性−自律性」の2因子から成る、子どもが親の養育態度をどのように認知しているか測定する尺度。
認知されたコンピテンス測定尺度日本語版(Harter,1979;桜井,1983) 「認知的コンピテンス(学習に対する認知された有能さ)」、「運動的コンピテンス(スポーツに対する認知された有能さ)」、「社会的コンピテンス(友人関係に対する認知された有能さ)」、「全体的自己価値(全般的な自分の生き方に対する認知された有能さ)」の4つの下位尺度から成る。
2 調査対象
四日市市内小学校4校の5年生、中学校1校および鈴鹿市内中学校1校の2年生、分析有効数は426名(小5男98、小5女95、中2男121、中2女112)。
3 調査時期
2000年11月〜12月。
4 実施方法
学校に依頼し、授業中に集団で実施してもらった。
結果と考察
1 依存・反抗と親子関係との関連
依存・反抗尺度と親子関係診断尺度の下位尺度得点間の相関係数(ピアソンの積率相関係数)を算出した。
男子女子共に、親の養育態度が受容的であると、子どもの親への依存が高くなり(.461〜.699)、親の養育態度が受容的でない(拒否的である)と、子どもの親への反抗が高くなる(-.282〜 -.392)傾向が示された。そして、男子においては、親の養育態度が統制的であると、子どもの親への反抗が高くなり、その傾向は小学5年(.247)より中学2年(.389)の方が顕著であった。しかし、依存・反抗と親子関係の関連を、学年別、男女別に見てみると、それほど大きな違いは認められない。それは、子どもが成長しても、親の養育態度はそれほど変化するものではないためと思われる。
親子関係と教師反抗の関連については、ほとんど有意な相関は認められなかった。担任教師への対立や反抗は、親子関係との関連よりも、今回の調査で測定しなかった教師と児童生徒間の関係が影響するものと推察される。
2 依存・反抗とコンピテンスとの関連
依存・反抗尺度とコンピテンス尺度の下位尺度得点間の相関係数(ピアソンの積率相関係数)を算出した(Table 3)。
小学5年女子では、認知的コンピテンスと父反抗(-.307)、母反抗(-.279)、教師反抗(-.224)のそれぞれの間に有意な負の相関が認められる。女子は小学5年において、教科学習に対する有能感のなさが、親や教師への反抗や対立に関連する傾向があると言える。さらに、父反抗と運動的コンピテンス(-.210)、父反抗と社会的コンピテンス(-.304)、母反抗と社会的コンピテンス(-.265)、父反抗と全体的自己価値(-.371)、母反抗と全体的自己価値(-.442)においても、有意な負の相関が見られ、この時期の女子は、有能感のなさと親への反抗が密接に関連していると言えるだろう。
中学2年男子では、教師反抗と運動的コンピテンスの間に、有意な正の相関(.319)が見られた。この時期の男子は、体格的・体力的に教師と対等になり、運動的コンピテンスの高さが教師への反抗につながる傾向にあると考えられる。
依存・反抗とコンピテンスの関連については、学年別、男女別で、かなり違いが認められた。小学5年と中学2年では子どもの心理的発達が大きく変化し、また同学年でも男女間で心理的発達の違いがあることが、その理由として考えられるだろう。
教育心理学教室ホームへ