【予備実験T】




【予備実験Tの目的】
 幼稚園児に対して行う実験の描画道具を選定し、また、実験の手順及び教示が適切かどうかを確認する。

実験期間
平成12年9月28日(木)から同年10月5日(木)にかけて行われた。

実験場所
 実験は教育学部専門校舎1号館3階の暗室2でおこなわれた。暗室2には被験者用の机椅子、実験者用の椅子、実験用具を並べるためのテーブルが持ち込まれた。

材料
@呈示物
カマボコ型に曲げられたミラーシート、質問刺激用の写真三種(実験者の正面顔写真、同写真を縦方向に引き伸ばした写真、同写真を横方向に引き伸ばした写真)
A描画材料
八つ切りの画用紙、クレヨン(黒・茶)、コンテ(黒・茶)、

実験被験者
 三重大学に通う大学生および大学院生15名(男性6名、女性9名)である。

【予備実験Tの手順】
 被験者に、実験者とともに暗室2に入室してもらう。
 入室後、被験者にカマボコ型に曲げられたミラーシートと呼ばれる鏡を見せ、ミラーシートに映る自己の顔と一番似ているものを、別に用意した三枚の写真から選択してもらう認知課題と、ミラーシートに映った自己の顔を画用紙に描画する描画課題を行った。

1) ミラーシートについて
 ミラーシートは市販されている360mm×325mmのミラーシルバーと呼ばれる色のものを用いた。湾曲させたミラーシートの向かい合う二辺を幅220mmの厚紙の二辺に合わせてビニルテープで固定するという方法を用い、カマボコ型のミラーシート(高さ360mm、幅220mm、奥行き105mm、弧の長さ325mm)を作成した。

2) 提示する写真について
 デジタルカメラで撮影した実験者の胸から上の正面顔写真を、縦方向に引き延ばしたもの、横方向に引き延ばしたもの、無加工のものの計3種を作成した。

【予備実験Tの結果】
 認知課題は、15名全員が縦長の写真を選択した。
 また、描画課題についてはカマボコ型のミラーシートを提示された被験者全員が縦長(横:縦の比が1:1.5以上)の顔を描画した。
 実験所要時間は全ての手続きを含めても最長で5分ほどであった。


【予備実験U】




【予備実験Uの目的】
 実験の教示が実際に幼児に伝わるかを確認するとともに、コーディングを行うためのカテゴリを抽出することを目的とする。

実施期間
平成12年10月21日(土)  

実施場所
 附属幼稚園2階会議室(以下実験室と呼ぶ)で行われた。実験室には園児用の椅子、園児用のテーブル、実験者用の椅子が用意された。実験者の正面には部屋を仕切るカーテンが引かれ、視覚的な刺激の少ない状態に保たれた。なお、実験の様子を撮影するための三脚付きビデオカメラがテーブルの左右に配置された。

実験被験者
 附属幼稚園に通う年長児2名(ともに女子、6歳2ヶ月及び5歳11ヶ月)。

材料
@呈示物
 カマボコ型に曲げられたミラーシート(予備実験Tと同じ)、質問刺激用の写真三種(実験者の正面顔写真、同写真を縦方向に引き伸ばした写真、同写真を横方向に引き伸ばした写真)
A描画材料
 八つ切りの画用紙、クレヨン(黒)、

実験方法
 被験者には実験者と共に実験室に入室し、テーブルの正面に置かれた椅子に被験者を座らせた後、以下の二つの実験を行った。
 カマボコ型のミラーシートを見せ、鏡に被験者自身の顔が映っていることを口頭で確認後、実験者の顔写真を縦方向に引き伸ばしたもの、横方向に引き伸ばしたもの、何も処理を加えなかったものの三枚の写真を被験者に呈示し、「この鏡に映った○○ちゃんと一番似ている写真はどれかな?」と質問し、一枚を選択させる課題を行った。
 次に、被験者の前のテーブルに八つ切りの画用紙と黒色のクレヨン一本を置き、「このクレヨンで画用紙に、鏡に映った○○ちゃんを描いてみようか」と教示を行った。

【予備実験Uの結果】
 実験者の質問に対し、被験者は写真を選択することができた。また、被験者の左右にビデオカメラが設置され、被験者の右側後方で実験者が椅子に座っているという環境でも、鏡に映った自分を描画するという課題が行えることが分かった。
 また、撮影された予備実験Uの様子を検討した結果、描画中の子どもの行動をTable1のカテゴリに分類した。


     Table1 行動分析のためのカテゴリ
1. クレヨンを持つ
2. 鏡を見る
3. 画用紙を見る
4. クレヨンを見る
5. 鏡を見ながら画用紙に描画する
6. 画用紙を見ながら画用紙に描画する
7. 実験者を見る
8. 周囲を見る
9. クレヨンを置く 
10.その他の行動   




【本実験】




【本実験】
 本実験は予備実験で用いたカマボコ型ミラーシートを用いて行われた。 実験は被験者が曲面の鏡に映った自己像をどう認知しているかを確認する認知課題と、その鏡に映った自己像を画用紙に描画するという描画課題の2つの実験から構成された。
 なお、描画課題の様子は二台のビデオカメラによって撮影され、予備実験Uで得られたカテゴリを用いて描画課題中の被験者の全ての行動のコーディングを行った。

実験期間
 平成12年11月1日(水)から同年11月29日(水)にかけて行われた。

実施場所
 附属幼稚園2階会議室(以下実験室と呼ぶ)で行われた。実験室には園児用の椅子、園児用のテーブル、実験者用の椅子が用意された。なお、実験の様子を撮影するための三脚付きビデオカメラがテーブルの左右に配置された。
 また、この実験室となった会議室は職員室の真上に位置しており、職員室の出入りは自由であるものの、普段は2階へあがることは園児たちは禁じられていた。よって多くの被験者は実験室に入室することは初めてか、入園時以来の2回目であった。なお、会議室を実験室に選んだ理由は、園児が2階に上がることを禁止されているため、実験中に他の園児が遊びにきたりせず、また外部の声や音があまり聞こえない環境であるため、外部からの刺激が少なく実験に集中しやすい環境が生まれやすいという理由による。

被験者
 年中児21名(三重大学附属幼稚園、男児10名、女児11名。平均年齢5歳1ヶ月、4:7−5:7)、年長児26名(男児13名、女児13名。平均年齢6歳1ヶ月、6:6−5:8)、合計47名。

材料
@ 呈示物
 カマボコ型に曲げられたミラーシート(高さ360mm、幅220mm、奥行き105mm、弧の長さ325mm、Figure1)、実験者の正面顔写真一枚、同写真を縦長に引き伸ばした写真一枚、及び先の写真を横長に引き伸ばした写真一枚の計三枚。
A 描画材料
 八つ切り画用紙、黒色のクレヨン。


【本実験の手順】
 本実験では、あらかじめ保護者から実験協力の承諾を得られた園児を被験者の対象とした。 実験者は平成12年9月25日から実験開始日までほぼ週3日幼稚園に通っているため、被験者とは初対面ではない。なお、実験への協力について、被験者には「大学で研究をしていることがあるので、そのお手伝いをしてほしい」とお願いし、同意を得られた園児を被験者として実験を行った。
 本実験は附属幼稚園の2階にある会議室で行った。 被験者は実験者とともに一人ずつ実験室に入室し、実験者の提示した椅子に座らされた。実験者は被験者の右後ろに位置する椅子に着席した。
 被験者が落ち着いて着席したら、被験者の正面にカマボコ型にしたミラーシートを提示した。次に、「○○くん(ちゃん)の前に鏡があるよね?」と質問を行い、被験者がミラーシートを見ていることを確認し、その上で「鏡には○○くん(ちゃん)の顔が映ってるよね?」と再度確認を行った。これらの手続きを踏まえた上で、認知課題、描画課題のそれぞれの実験を行った。


1)認知課題
 被験者の正面のテーブルに、写真を3枚提示した。この写真はデジタルカメラで撮影した実験者の正面向きの写真と、それを縦長に引き伸ばした写真、横長に引き伸ばした写真の3枚である。 これらの写真を提示した上で、被験者にミラーシートを指さして、「この鏡に映っている○○くん(ちゃん)と、一番似ているのはどの写真かな?」と質問を行い、写真を指さしてもらうか、口頭で一枚を選択させた。
 被験者に質問の意図がうまく伝わっていない場合、「○○くん(ちゃん)には、この鏡に映った自分がどんなふうに見えるかな?」と再度質問を行った。


2)描画課題
 被験者の前のテーブルに、画用紙とクレヨンを並べた。次に、被験者の正面に置かれたミラーシートを指差して、「この鏡に映った○○くん(ちゃん)を、この画用紙にクレヨンでお絵描きしようか」と描画を促した。
 また描画課題の終了は、被験者が「できた」「描けた」などと終了の意志を口頭で伝えるか、「クレヨンを置く」「画用紙を差し出す」「手を止めて頻繁に実験者を振り返る」などの行動が見られた場合に、実験者から絵が完成したかどうかの質問を行い、それに対して被験者が完成の意志を示した時点をもって、終了とした。
 被験者が「難しい」「描けない」など課題が困難だという意思を示したときは「○○くん(ちゃん)にはどんなふうに見えているのかな?」「見えたように描けばいいんだよ」と、もう一度描画を試みるよう促した。
 なお、これらの手続きを踏まえても被験者が「どうしても描けない」「どうしても描きたくない」と訴えた場合は、実験を中止した。


 以上の認知課題、描画課題の両方を終えた被験者を実験室から退室させ、実験を終了する。 なお、認知課題・描画課題の順番は無作為に決め、カウンターバランスをとった。実験の様子は、被験者の左側やや後ろと右側からのビデオカメラによって撮影されており、被験者もカメラの存在に気付いていた。