49期 山本 将也
2 方法
3 結果と考察
4 まとめ
〜先行研究の結果〜
稲垣ら(1968)の研究では、教養課程の心理学受講中の学生を心理群、心理学を全く受講したことのない教養部の学生を非心理群として調査を行っている。
学生の持つ心理学のイメージをとらえるために、SD法を使用し、そのコンセプトとしては、12個の科目名を使用し、20個の尺度を使用している。
この研究では、Dスコアーによる検討およびコンセプトを因子分析した結果から、心理群では心理学は電気・生物・数学・物理・機械と同じ次元に属していて、
非心理群では心理学が法律・哲学の次元、電気・数学・機械の次元、文学・生物・農学の次元すべてに属するという結果が出ている。
この結果を基に、稲垣ら(1968)は「心理群では、心理学が自然科学として一義的な概念であるのに対し、非心理群では、ある者には心理学が法律とか哲学と類似した学問と考えられ、
他の者には、電気・数学などの自然科学的な学問と見なされたり、文学・生物のように論理的傾向の薄い実証的な学問と考えられており、一義的な概念生に乏しく、あいまいなイメージが持たれている」と結論づけている。
〜質問紙の構成〜
〜調査対象者〜
〜調査時期〜
〜調査の手順〜
〜使用尺度選定〜
〜Dスコアーによる検討〜
〜意味空間モデルによる検討〜
〜学問の因子分析による検討〜
〜平均値による検討〜
〜全体的考察〜
方法
本研究の先行研究である稲垣ら(1968)の質問紙を基にし、心理学専攻生を対象に予備調査を行ったなかで、質問紙回答時の負担が大きいという意見を取り上げ、
調査対象者の負担を軽減することを目的とし、質問紙を構成した。
●心理専攻生群
三重大学教育心理学教室学部生・院生 28名
●非心理専攻生群
三重大学教育学部生・同人文学部生・岐阜県内医療系短大生 137名
●高校生群
三重県内A高校3年生 101名
2000年11月下旬〜12月下旬
高校生群および非心理専攻生群においては各講義室において、講義の前半約15分間を利用して調査し、心理専攻生群においては各自の自由な時間に行ってもらい回収するという調査形式をとった。
また質問紙の順序、調査対象者の疲労等による影響をなるべく排除するために、コンセプトの順番を変えたものを作成し、調査対象者にランダムに配布した。
結果と考察
精度の高い尺度を使用して分析を進めるために、尺度について因子分析を行った。その結果、全15尺度のうち、11尺度を本研究の分析に使用する尺度として選定した。
また、先行研究においてもこの11尺度を使用したものとみなし、比較する。
使用尺度選定と同時に、得られた第一因子(陽気な−陰気な・愉快な−不愉快な・やわらかい−かたい・うれしい−悲しい・きれいな−きたない)をE(価値)、
第二因子(明確な−あいまいな・男性的な−女性的な・速い−遅い)をA(活動性)、第三因子(深い−浅い・重い−軽い・大きい−小さい)をP(力量)と命名した。
それぞれの群が各学問についてどのようなイメージを抱いているのか捉えるために、Dスコアーを算出し、それぞれの距離関係を見るという側面から検討した。
Dスコアーは二つのコンセプト間の距離であるので、その値が小さいと、その二つのコンセプトは意味空間上でよく似た域に属していると考えることができる。
心理学を中心として他のコンセプトとの距離についてみると、際立った差は、哲学が68心理群と68非心理群では非類似コンセプトとされるのに対し、
00心理専攻生群、00非心理専攻生群、00高校生群では類似コンセプトとされていることであった。さらに68心理群と68非心理群においては哲学が心理学から一番遠いコンセプトと位置づけされていた。
このことからDスコアーによる検討では、現在の比較においては大きな差はなかったが、先行研究との比較において、心理学と他の学問との距離関係に差が見られ、その差は哲学との距離に見られるということがいえる。
因子分析で得られた結果を基に、E・P・Aそれぞれの平均値を求め、学問という意味空間上に各コンセプトを位置づける事でより具体的な差を見た。
意味空間モデルにおいて心理学の位置づけを見ると、E−Pの次元・A−Pの次元で、68心理群と68非心理群において差は見られず、00心理専攻生群・00非心理専攻生群・00高校生群の間にも差は見られないが、
前者と後者の間において差を見ることができる。
この結果はDスコアーによる検討で得られた結果を満たし、さらにPの次元において差があるということが分かる。また、A−Pの次元で哲学の位置づけは5つの群で差は見られないのに対し、心理学の位置づけで変化が見られることから、
過去に比べ意味空間上での心理学の位置づけが変化したことで、哲学との距離が近づいたということが分かる。
先行研究と本研究との比較において明らかに差があるということが分かったが、もう一つの柱である現在における、心理専攻生群・非心理専攻生群・高校生群の間に差はないのかということを確かめるため、
学問を因子分析(バリマックス回転)しその関係を見た。いずれの群においても、二つの因子が得られ、第一因子を理系科目、第二因子を文系科目と命名した。
その結果、現在における3群に際立った差は見られなかった。さらに、心理学はいずれも文系科目に属し、因子負荷量も高かった。
先行研究の結果と比較すると、現在における3群はいずれも文系科目に属するので、心理学は約30年の間で、文系科目であるとイメージされるようになり、それは心理学を実際に学んでいる学生と、
学んだことのない学生に共通しているイメージであるということが分かる。
平均値のグラフによると、心理学のPの次元において、大きな差が見られる。ここでは、68心理群・68非心理群に比べ、00心理専攻生群・00非心理専攻生群・00高校生群の方が、P次元を構成する3つすべての尺度において低い値をとっている。
この結果により、Dスコアーによる検討と意味空間モデルによる検討で得られた、心理学においてPの次元で差が見られるという結果に、さらにPの次元の得点が低くなったことによる差ということを付け加えることができる。
心理学のPの次元における差以外では、どの学問においてもさほど際立った差は見られなかった。
次に、E・P・Aの平均値を見た。Eの次元ではそれほど際だった差は見られず、Pの次元ではすべての学問が平均である4よりも低い値を示す傾向がある。
しかしAの次元では哲学・心理学・文学では4よりも高い値を示し、工学・数学・医学では4よりも低い値を示している。また法律・生物ではどちらかに偏る傾向がなく、ほぼ平均値に近い得点を示している。
このことから、理系科目はAの次元で高い得点を示し、文型科目では低い得点を示す傾向があるということをうかがう事ができる。心理学がAの次元で低い得点を示していることから学問の因子分析で得られた結果と同様に、心理学が文系科目に含まれるということが分かる。
本研究では、先行研究と本研究との比較において、心理学のイメージの中でも力量に関わるイメージが過去の学生に比べて低くなったという結果が得られた。すなわち、心理学は過去に比べ、より深く、より重く、より大きなものとしてイメージされるようになったということである。
それはやはり、心理学への関心が高まったということを表しているのではなかろうか。
また心理学は文系の学問の1つといて捉えられるようになった。この結果は、心理学が、カウンセリング等の相談というものと深く結びついてイメージされているということを表しているのではないだろうか。
またそうしたことにより、理系クラスの高校生には心理学への進路が閉ざされやすいというシステムが形成されているのではないかという疑問も浮かぶ。
心理学に携わる者は、この現状をふまえ、もっとその結果だけではなく過程も含めて実際に行われている心理学というものを伝えるべきではないか。心理学に関心が高まっている今こそ、その場が与えられるのであって、この機会を逃す手はない。