バズ学習の研究
三重大学教育学部学校教育コース教育心理学教室
50期 298057 川口尚子
T、問題
「学力と人間関係」「個と集団」などを統合的に高める授業方式として、バズ学習がある。バズ学習では、バズ班(バズセッションの場)による小集団での話し合い活動が授業の流れの中核に位置付けられている。この小集団を固定せず、集団員を子どもたち自身に自発的に選ばせる方式をとったものが「自由バズ」と呼ばれるものである。
従来の自由バズ方式は、「理解できず説明できない児童」(C群)・「理解できるが説明できない児童」(B群)が「理解できて説明できる児童」(A群)のところへ自分から説明を聞きにいくという事態である。多くの場合、この話し合いは、C群・B群が、一方的にA群の説明を聞くにとどまってしまう。しかし、中川(1979)の研究では、C群・B群が一方的にA群の説明を聞くのではなく、C群・B群が説明をし、C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所を、適宜、A群が援助するという事態がみられ、満足度においてはやや悪い傾向を示したが、成績において、ややよい傾向を示した。中川(1979)の研究でみられたこの事態では、より多くの役割が遂行されており、また、C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所に沿ったていねいな話し合いがなされたと考えられる。そこで、本研究では、「A群が一方的に説明する事態」を従来方式、「C群・B群が説明をし、C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所を、適宜、A群が援助するという事態」を改良方式として、次のような仮説を立てる。
@C群・B群が自分の理解できない箇所・説明できない箇所を説明し、C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所が明確になったあと、A群が説明する群(改良方式)のほうが、A群が一方的に説明する群(従来方式)より成績においてすぐれる。
AC群・B群が自分の理解できない箇所・説明できない箇所を説明し、C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所を明確になったあと、A群が説明する群(改良方式)のほうが、A群が一方的に説明する群(従来方式)より満足度においてすぐれる。
U、方法
1、被験者
小学校5年生 2クラス 総人数46名
改良方式学級 22名
従来方式学級 24名
2、解決ストラテジー
2つの解決ストラテジーを設定した。授業者は実験者である。
@「C群・B群は、自分の理解できないところ・説明できないところをA群に説明し、わかるように説明してもらいなさい」という指示を示した後、学習課題を提示し、まず個人ごとに解決にあたらせ、次いで各自が自由に相手を選択してグループを作り、そのグループで解決にあたらせるタイプ(改良方式)
A「C群・B群は、A群に説明してもらいなさい」という指示を示した後、学習課題を提示し、まず個人ごとに解決にあたらせ、次いで各自が自由に相手を選択してグループを作り、そのグループで解決にあたらせるタイプ(従来方式)
3、学習課題
算数教材 小学校5年生「図形のまわりの長さ・面積」(中川(1979)の研究で使用したものを用いた。)
4、具体的手続き
@ 事前テスト
学習課題を含む2問からなるもの(テスト1)を、改良・従来両方式学級ともに、実験の前日に行った。
A 課題解決
改良・従来両方式にしたがって解決にあたらせる。その際、各個人の理解度がだれから見てもわかるように、表示板を利用した。具体的には、緑の表示板は「理解できて説明もできる」(A群)、黄の表示板は「理解できるが説明できない」(B群)、赤の表示板は「理解できず説明もできない」(C群)を示すものである。尚、課題は事前テスト(テスト1)の問い@だけにした。
B 事後テスト
事前テストと同一のもの(テスト1)を実験直後に実施した。
C 満足度・役割遂行テスト
満足度の調査項目は、「自分自身の課題に対する満足度(自T)」「自分自身の課題解決の過程に対する満足度(自P)」「自分自身のメンバーに対する満足度(自M)」それぞれ3項目、「自分から見た他成員の課題に対する満足度(他T)」「自分から見た他成員の課題解決の過程に対する満足度(他P)」「自分から見た他成員のメンバーに対する満足度(他M)」それぞれ2項目、計15項目である。
役割遂行の調査項目は、自由バズ方式における役割として中川(1979)の考案した、「@理解できない者に教える」「A理解できる者に教えてもらう」「B他の者の考えが正しいか判断してやる」「C自分の考えが正しいか判断してもらう」「Dよく理解できない所を、よく理解している者に質問する」「E質問されたら答える」の6項目である。
D 把持・転移テスト
把持テストは、事前・事後テストと同一のもの(テスト1)、転移テストは、その発展した問題からなるもの(テスト2)で行った。改良・従来両方式学級とも、実験の3日後に行った。
V、結果と考察
1、役割遂行
改良・従来両方式で、それぞれ遂行された役割にあまり差がなかった。実験条件の差が、児童の動きに明確な影響を与えなかった。しかし、わずかではあるが、改良方式学級のほうが高い役割得点を示したことは、「改良方式のほうが、従来方式よりも、より多くの役割を遂行する」という予想を支持する傾向がみられたといってよいであろう。特に、「判定する」役割で、改良方式学級において有意な差がみられたことは、改良方式学級において、C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所に沿った話し合いができたと考えられる。
2、役割遂行と成績
全体では、役割得点の高い改良方式学級で、事前・把持・転移テストにおいて、わずかではあるがよい傾向を示した。「改良方式のほうが、従来方式より成績においてすぐれる」という仮説@を支持する傾向にあるといってよいであろう。改良方式学級では、「判定する」役割に有意な差がみられた。他の者の考えを判定することが、自分の考えをより深め、自分の考えを正しい方向に導いたといえるのではないだろうか。把持・転移テストでの成績がよい傾向を示したことは、深められた考えがその者の中で定着し、徐々に効果をあらわしたといえよう。
担任教師によって分けられた算数の学力の上・中・下位群別にみてみると、上位群では、改良方式学級で、「判定する」「質問に答える」役割においてわずかであるが高得点を示した。このことは、「C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所に沿ったていねいな説明をする」というA群の役割が、改良方式学級の上位群において遂行されたといってよいであろう。役割遂行の得点の合計は、従来方式学級のほうが高かったが、C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所に沿ったていねいな説明をするという改良方式学級において、成績では高得点を示す結果となった。仮説を支持する傾向にあるといえる。
中位群では、改良方式学級において、「教えてもらう」役割を多く遂行しているにもかかわらず、成績では悪い傾向を示した。役割遂行の得点の合計も、改良方式学級のほうが高得点を示しているが、成績では従来方式学級のほうが高得点を示した。仮説は支持されなかった。中位群にとっては、より多くの役割を遂行することが、成績には悪い傾向を示すといえる。特に、「判定する」役割で、改良方式学級のほうがやや高得点を示しているが、成績は悪い傾向を示した。中位群にとっては、他の者の考えを判定することが、他の者の考えに引きずられて、自分の考えをあいまいにしてしまうと考えられる。
下位群でも、「判定する」役割が遂行されている改良方式学級において、成績で悪い傾向を示した。役割遂行の得点の合計についても、改良方式学級のほうが高得点を示しているにもかかわらず、成績では従来方式学級のほうがよい傾向を示した。下位群にとっては、より多くの役割を遂行することが、成績に悪い傾向を示すといえる。仮説は支持されなかった。課題を深く理解できていないのに多くの役割を遂行することが、下位群にとっては、自分の考えを混乱させてしまうと考えられる。
3、役割遂行と満足度
より多くの役割を遂行している改良方式学級で、満足度の総計においてややよい傾向を示した。「改良方式のほうが、従来方式より満足度においてすぐれる」という仮説Aを支持する傾向にあるといってよいであろう。特に、「自分自身の満足度」については、3項目(「自T」「自P」「自M」)すべてにわたって高得点を示した。しかし、「自分から見た他成員の満足度」については、合計では改良・従来両方式で同得点を示した。項目別にみると、「他P」では、改良方式学級のほうが高得点を示したものの、「他T」、「他M」においては、従来方式学級のほうが高得点を示す傾向がみられた。改良方式学級では、「判定する」役割の得点が高い。「判定する」役割を遂行することが、他成員にとっては不満であると思って遂行されていると考えられる。
上・中・下位群別にみてみると、上位群では、役割遂行の得点の高かった従来方式学級で、満足度においてややよい傾向を示した。上位群においては、より多くの役割を遂行することが、満足度にもよい傾向を示すことがわかる。しかしそれは、従来の自由バズ方式の事態においてみられた傾向であり、仮説は支持されなかった。項目別にみてみると、従来方式学級では、6つの項目のうち「自T」、「自P」、「他T」、「他P」の4項目で高得点を示した。特に「自T」について、従来方式学級のほうがやや高い得点を示している。上位群にとっては、より多くの役割を遂行することが、課題に関する満足度を高めると考えられる。しかし、「メンバーに対する満足度」については、「自M」、「他M」のどちらも、より多くの役割を遂行した従来方式学級で悪い傾向を示している。従来方式学級上位群では、「判定してもらう」役割の得点が高い傾向を示している。他のメンバーに「判定してもらう」ことが、上位群にとっては不満であるといえるであろう。
中位群では、より多くの役割を遂行した改良方式学級で、満足度においてよい傾向を示した。「教えてもらう」役割を多く遂行していることから、中位群にとっては、「教えてもらう」役割を遂行することが、満足度によい傾向を示すことがわかる。仮説は支持される傾向にある。項目別にみると、「他P」、「他M」において、改良方式学級のほうが悪い傾向を示している。「判定する」役割を多く遂行していることから、中位群にとって、「判定する」役割を遂行することは、他成員には不満と思われていると感じられるのであろう。
下位群では、より多くの役割を遂行した改良方式学級で、満足度においてやや悪い傾向を示した。改良方式学級では、「自分自身の満足度」3項目(「自T」「自P」「自M」)については、すべてにわたって高得点を示しているのに、「自分から見た他成員の満足度」3項目(「他T」「他P」「他M」)で、すべてにわたって悪い傾向を示している。仮説は支持されなかった。改良方式学級では、「判定する」役割が多く遂行されていることから、中位群同様、下位群にとっても、「判定する」役割を遂行することが、他成員には不満と思われていると感じられるのであろう。
W、討論
本研究の結果については、全体でみると、「より多くの役割を遂行した群のほうが成績、満足度においてすぐれる」という傾向を示すものとなった。成績については、中川(1979)の研究でもいわれたことである。しかし、この傾向は、すべてが改良方式学級でみられたわけではなく、従来方式学級の算数の学力の上位群でもみられた傾向であった。また、従来方式学級下位群においては、役割遂行の得点が低くても、成績や満足度でよい傾向を示した。今回、従来の自由バズ方式を改良する事態として、「C群・B群が自分の理解できない箇所・説明できない箇所を説明し、C群・B群の理解できない箇所・説明できない箇所を明確にし、A群が説明する」という事態を設定し、これを改良方式としたのであるが、これが、必ずしもより多くの役割を遂行することにはならず、また、C群・B群の理解・説明できない箇所に沿ったていねいな話し合いができることにもならなかった。すべての群においてよい傾向を示すさらなる改良方式を、今後検討する必要があるだろう。
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