結果と考察



 調査から得たデータに基づき,主成分分析法による因子分析を行った。その結果,「親しみやすい‐親しみにく

い」「温かい‐冷たい」などの12項目を含む『親近性』因子,「静かな‐騒々しい」「落ち着いた‐活発な」など3項目

を含む『活動性』因子の2因子が得られた。因子分析の結果から,我々はイヌを『親近性』と『活動性』の2尺度で

とらえていることがうかがえる。しかし,『親近性』因子は『活動性』因子に比べ,より多くの因子によって構成され

ているため,我々がイヌを見たときに主として働く因子は『親近性』因子であり,我々はイヌを近づきたいか,近づ

きたくないかといった対象としてとらえていると解釈できる。次に,抽出された2因子について,それぞれ姿勢別

に合成得点を求めた。以下にその結果を示す。(Fig.1)


Fig.1因子別に見た合成得点のちがい

 合成得点を求めることにより『親近性』因子の合成得点が最も高かったのは「正面」であった。またほぼ同じ得

点で,つづいて高かったのが「伏せ」であった。この結果から,イヌが我々に対して正面を向けているとき及び伏

せの状態のときに,我々はイヌに対して最も親近感を持つことができると解釈できる。一方『活動性』因子につい

てみてみると,「後ろ」における得点が最も高いことがわかる。一般的にはイヌの後ろ姿よりも正面からみた姿の

方が我々に活動的なイメージを与えるのではないだろうか。というのは,我々がイヌの正面を見ているということ

はイヌと我々は対面している状態であり,たとえ写真を通しての評定であってもイヌが今にも飛びかかってきそう

な様子がイメージされやすいのではないかと考えたからである。しかし,後ろ向きというのは顔が見えていない

ぶん,イヌに対して正面から見ているときよりも多くのイメージがもたれやすく,それが活動性につながっている

のではないかとも考えられる。

 次にイヌの好き,嫌いによってイヌの見方に差があるのかどうかをみるために,好き・嫌い別に『親近性』因子及

び『活動性』因子における合成得点を求めた。その結果を以下に示す(Fig.2, Fig.3)。

   

Fig.2親近性因子における好き嫌い別合成得点のちがい Fig.3活動性因子における好き嫌い別合成得点のちが

                                      い


『親近性』因子において合成得点が最も高かったのは,好き群では「正面」,嫌い群では「伏せ」であった

(Fig.2)。好き群の結果は,全体で見たときと同様の結果が出たが,嫌い群においては正面から見たよりも伏せ

の状態の方が親近感をもてるようであった。

【アンケートの結果】

 アンケートの結果,被験者90名のうち,イヌの好き嫌いについては「好き」と回答した者は70名(男子36名,

女子34名)で全体の78%であり「嫌い」と回答した者は20名(男子6名,女子14名)で全体の22%であった。ま

た,イヌの飼育経験の有無については,「有り」と回答した者が35名(男子19名,女子16名)であり,「無し」と回

答した者が55名(男子23名,女子32名)であった。イヌの飼育経験が無くても「好き」と回答した者は38名(男子

19名,女子19名)と飼育経験が無い者のうちの約70%もの割合を占めた。「イヌと人間は心が通い合うと思いま

すか」という質問に対しては,「通い合う」と回答した者が84名(男子38名,女子46名)でありほとんどの者が「通

い合う」と回答していた。また,イヌが嫌いな者でもほとんどの者が「通い合うと」回答していた。



Fig.4イヌの飼育経験の有無と好き嫌いの関係

イヌを飼育し始めた理由について

 イヌの飼育経験が「有り」の者に対して,イヌを飼ったきっかけを尋ねたところ,「家族が欲しがった」という理由

が最も多かった。また,「かわいかった」「知人からもらうことになった」「捨てイヌがいてかわいそうだったのでや

むを得ず」「イヌが好きだった」等の理由がいくつか見られた。その他「寂しさをまぎらわせるため」「家が楽しくな

りそうだったから」「番犬として」等の理由が挙げられた。また,イヌが嫌いでもイヌの飼育経験があると回答した

者の飼育動機は「自分以外の家族が欲しがった」「家族が勝手に知人からもらってきた」などとなっていた。

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