問題と目的


 動物は古来より人間とともに生活し,人間に食物を与えたり人間の伴侶となったりしながら

人間との絆を深めてきた。今や強い絆で結ばれている両者の関係は,近年見なおされつつあ

る。このような背景のもと人間と動物の相互作用に関する研究への関心は,近年著しく高まっている。

人間と動物の相互作用に関する研究は,すでに1970年代から始まっていた。この研究のさき

がけとなった人物はLevinsonである。Levinsonはペットの心理学的重要性を指摘し(1962),

障害児治療の助けとして臨床場面にペットを用いたり,家庭にペットを導入したりする,いわゆる

“ペット・セラピー”を提唱している。Levinson以降,人間と動物がともに触れ合うことの相互作用

により,精神的身体的に効果が生まれることが,医学者,精神分析医,心理学者など,

様々な領域の研究者らによって証明されている。

 我が国においても,人間と動物のかかわりに関する研究への 関心は近年高まっている。その

背景には,先に述べたように,人間と動物の相互作用が情緒的障害や身体的障害に治療効果を及ぼす

ことが医学的に認められているということや,動物の役割がとりわけ高齢者・独居者において重

要であることの認識が広まっていることがあると考えられる。我が国における人物と動物のかか

わりに関する先行研究には次のようなものがある。黒川ら(1994)は摂食障害の患者に対し,イヌ

を飼うことを勧めたことで,患者の病状が徐々に回復していったと報告している。後藤(1997)

は不登校児におけるペットの治療的役割を明らかにするために,一般中学生の親と子,不登校

児を持つ親,不登校児を対象に質問紙調査を行った。その結果,ペットを飼うことによって,不

登校児の方が一般の中学生に比べて多くの効果的な変化が現われていることがわかった。

また,稲毛・林(1998)は,カウンセリングに動物を介在させたカウンセリングの有効性とその問題点に

ついて検討している。

 このように我が国においても人間と動物のかかわりに関する研究がいくつかなされているが,

そのほとんどがアニマル・セラピーに関するものであり,動物を利用した治療の方法および

その効果を評価する研究である。このような現状のもと,松尾(1999)は,人間と動物の科学的研究の

現状は,まだその蓄積が十分とはいえず,基礎となるべき心理学的・行動学的所見は極めて乏しい

状況にあると述べている。したがって本研究では,動物と人間のかかわりに関する基礎的資料を得る

ことを目的に,動物の中でもイヌに限定し,イヌの様々な姿勢が人間にどのような印象を与えるのか,

また人間がイヌに最も接近しやすいのは,どのようなイヌの姿勢を見たときかを調査し,検討していく

ことにする。

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