現代大学生について余暇の満足感が
生活感情に与える影響
〜勉学の満足感との比較を通して〜

   

教育心理学科   西 敦規
  

問題と目的

 今日の社会では余暇活動の意義は、昔と比べて大変変化してきている。特に大学生は、自由時間が増加したり、学生という身分が将来の生活に対する準備の期間として捉えられている、といったことから余暇活動との関わりが深くなる。Kelly(1983)は人間の発達にとって、余暇は中心的役割を果たすものであるとし、寺出(1986)は自由時間の過ごし方が生活の質を規定するものの一つで、余暇活動が生活の満足度に与える影響の重要性を示した。以上の様に、余暇は我々にとって必要な時間であり、その時間を利用することによって生活の満足度を向上させ、我々の生活に潤いをもたらすものである。

 そこで、本研究では現代大学生において余暇がどれほどの価値をもっているものなのかということを、勉学と比較しながら明らかにしていく。その際に、余暇や勉学の満足度を取り上げ、それぞれの満足・不満足といった満足感が大学生の生活感情にどれほどの影響を与え、大学生活を有意義に送ることが出来るかという視点で捉えた。

 ところで、満足度とは、自らが期待しているものに対してそれがどの程度満たされているのかということである。よって、同じ余暇活動や、勉学を行っていたとしてもそれに対する期待、つまりいかにそれに対して重要性を見出しているかということによって、同じ満足感でもその中身は違ってくるのではないだろうか。つまり、余暇への重要性が高い人の満足感と、余暇への重要性が低い人の満足感では同じ満足といった感情でも、それが生活感情に与える影響も違ってくるのではなかということである。

 そこで、本研究の第1の目的として、余暇満足度・勉学満足度といった満足感が、自身の生活感情に対してどのような影響を与えるものかということを、重要性認知も交えながら明らかにする。また、この重要性の認知を規定するものは何であろうか。それは、将来を見通した時間的展望の違いではないかと考える。そして、もっと近い将来のことを意識した職業意識の違いではないかと考える。そこで、本研究の第2の目的として、第1であげられた重要性の認知を規定する要因を明らかにする。

 

仮説1

(T):友人関係満足度について・・余暇活動の大半は、人々との関わりの中で行うものなので、余暇満足度と、友人関係満足度には関係性があるだろう。余暇活動が満足・不満足の学生でも余暇重要認知によって友人関係に差があるだろう。勉学は基本的に一人で行うので、勉学満足度によって友人関係満足度に差は無いだろう。

(U):日々の充実度について・・余暇満足度と日々の充実度には関係性があるだろう。また、勉学満足度と日々の充実度も関係性はあるだろう。余暇重要度認知によって生活感情に与える影響は違うと考えるので、余暇活動が満足・不満足な学生でも余暇重要認知によって日々の充実度に差があるだろう。また同様に勉学が満足・不満足な学生でも、勉学重要度認知によって日々の充実度に差があるだろう。

(V):自尊感情について・・余暇満足度によって、自尊感情に関係性はないだろう。大学生=勉学の結びつきが強いので、勉学満足度と自尊感情は関係性があるだろう。勉学重要度認知によって勉学満足者でもそれが生活感情に与える影響は違うと考えるので、勉学が満足・不満足な学生でも勉学重要度認知によって自尊感情に差があるだろう。

 

仮説2

職業意識が高い学生は就職のことを考えているので、余暇重要性認知は低く、勉学重要性認知は高くなるだろう。逆に職業意識が低い学生は、今が楽しければ良いといった意識が強いので余暇重要性認知は高く、勉学重要性認知は低いだろう。時間的展望がある学生は、将来の自分の有り方をしっかりと意識しているため、同様に余暇重要性認知は低く、勉学重要性認知は高くなるだろう。逆に時間的展望が無い学生は、余暇重要性認知は高く、勉学重要性認知は低くなるだろう。



方法

1)調査対象・・国立M大学において共通教育:「心理学U」を受講している、1年生から3年生までの計276名を対象に、2001年12月に質問紙調査を実施した。

2)測定尺度

@余暇満足度尺度,勉学満足度尺度・・長尾(1998)の人生満足度尺度から関わりのある項目や、大野(1984)の充実感尺度から関わりのある項目を参考に作成した。

A友人関係満足度尺度・・内田(1990)の青年期の生活感情尺度の4領域の「対人関係の領域」の項目を利用した。

B日々の充実感尺度・・同じく生活感情尺度の「現実目標の領域」の項目を利用した。

C自尊感情尺度・・同じく生活感情尺度の「自己認知(肯定感)の領域」を利用した。

D職業意識尺度・・若林ら(1983)の職業レディネス尺度の8項目を精選し利用した。

E時間的展望尺度・・谷(1998)の「現在・未来の確実性の項目」を利用した。

F余暇重要認知尺度,勉学重要認知尺度・・筆者が、余暇や勉学の全般的な重要度認知を測定するために、指導教官から指導を受けながら独自に項目を作成した。

 

結果  

余暇・勉学と友人関係満足度について:


余暇満足度得点の平均値を基準として、H群・L群に分け、余暇重要性認知度得点の平均値を基準としてh群・l群に分けた。Hh、Hl、Lh、Ll群のグループとして友人関係満足度得点の平均値を求め、友人関係満足度を従属変数とし2×2の分散分析を行った。その結果、余暇満足度の主効果(F=27.27,P<0.01)が認められた。よって余暇の重要性認知に関わらずに、余暇満足度によって友人関係満足度に差があることが明らかになった。また、勉学について同様に分析を行った結果、有意な差は認められず友人関係満足度においては勉学満足度と関係性はないということが明らかにされた。


 

 

余暇・勉学と日々の充実度について:


日々の充実度を従属変数として、同様の分析を試みた。余暇について、交互作用は認められなかったものの余暇満足度の主効果(F=107.49,P<0.01)が認められた。よって余暇の重要性認知に関わらずに、余暇満足度によって日々の充実度に差があることが明らかになった。また、勉学について、交互作用は認められなかったものの、勉学満足度の主効果(F=37.48,P<0.01)が認められた。よって勉学の重要性認知に関わらず、勉学満足度によって日々の充実度に関係性があることが明らかになった。


 
 

余暇・勉学と自尊感情について:


自尊感情を従属変数として同様の分析を試みた。余暇について、余暇満足度の主効果(F値=13.38,P<0.01)と、余暇重要性認知度の主効果(F値=4.49,P<0.05)が認められた。よって仮説は棄却され、余暇満足度が高ければ自尊感情も高くなるということが明らかとなり、また余暇を重要だと認識している学生ほど自尊感情が高いということが明らかとなった。また、勉学については勉学満足度の主効果(F値=11.10,P<0.01)と、交互作用(F値=5.83,P<0.05)が認められた。よって勉学重要性認知が低い学生は、勉学の満足度に関わらずそれが自尊感情に与える影響はほとんどなく、勉 学重要性認知が高い学生が勉学に満足していると自尊感情は高くなり、勉学に不満足であると自尊感情は低くなるということが明らかにされたのである。

 

                                                    

職業意識と重要度認知について:


職業意識得点の平均点を基準としH群・L群に分けた。余暇重要性認知度の得点の平均点はH群・・23.70点,L群・・23.02点となり、t検定によって有意な差は認められなかった(t値=1.72,P=0.09)。また、勉学重要性認知度の得点の平均点はH群・・22.71点,L群・・20.72点となり、有意な差が認められた(t値=4.44,P<0.01)。 よって、職業意識と余暇重要性認知には関係性がなく、職業意識が高い学生は勉学重要性認知が高く、職業意識が低い学生は勉学重要性認知が低いことが明らかになった。


時間的展望と重要度認知について:


同様にしてH群・L群に分け、余暇重要性認知度の得点の平均点を求めるとH群・・23.38点,L群・・23.39点となり、有意な差は認められなかった(t値=-0.03,P=0.98)。また、勉学重要性認知度の得点の平均点を求めるとH群・・22.32点,L群・・21.14点となり有意な差が認められた(t値=2.61,P<0.05)。 よって時間的展望によって余暇重要性認知には関係性がなく、時間的展望が高い学生は勉学重要性認知が高く、時間的展望が低い学生は勉学重要性認知が低いことが明らかになった。


 

 

考察

仮説1について:

余暇の重要性認知に関わらず、余暇満足度と友人関係満足度の関係性が明らかになった。これは山田(1974)の「余暇満足度と友人関係には有意な関係性が見られた」という研究結果と一致するものである。日々の充実度に関して、余暇と勉学共にどちらの満足感も日々の充実感に関係性があることが分かった。これは、大学生の生活が余暇と勉学の両方ともが生活の一部となっていて、日々の生活を潤いの有るものにしたり、充実感をもたらせるということになっているということだろう。自尊感情に関して、自尊感情と余暇が関係しているという結果は予想外のことであった。このことは、余暇の意義を考えるに当たって非常に頼もしい結果であるといえる。また単に勉学の満足度が高ければ、自尊感情も高くなるということではなく、その満足度の内容の違いを決定付けると考えられる勉学の重要性認知よって自尊感情が変化するということで、それが生活感情に与える影響も違ってくるということが明らかにされたのである。

仮説2について:

職業意識が高いほうが余暇重要性認知度が高いという仮説とは逆の、有意な傾向があるということが明らかになった。これは、職業意識が高い方が就職すると自由時間がなくなってしまい、今の余暇が重要なんだといった意識が働くことが考えられる。時間的展望の高低と余暇重要性認知は、有意な関係性は見られず、どちらの得点も23.3という高い数値を示していた。これは、大学生にとって将来の見通しは関係なく、今が楽しければいいといったように余暇活動を重要視しているということだろうか。あるいは、時間的展望が高い学生が、将来自分が自由に使える時間は今よりもないだろうという考えから、大学生の余暇活動に重要性を見出しているので、互いの両者の得点に差は無いのかも知れない。

まとめ:

余暇満足度が3つの生活感情の全てに対して関係性があることがわかる。大学生において日々の生活を有意義に送るということは、余暇の過ごし方が大変影響しているということが言えるのである。また、勉学満足度が友人関係満足度を除いた、日々の充実度や自尊感情と関係性があることが分かる。これらから、大学生において日々の生活を有意義に送るためには、日々の充実感や自尊感情に影響のある勉学も大変重要であるが、それと同じくいやそれ以上に寺出(1986)や手塚(1993)が指摘した様に、3つの全ての生活感情に影響を与えている余暇活動も大変重要な大学生活の一部であることが言えるのである。

 また、従来の研究では本研究のように満足感を重要性認知の程度によって、さらに細分化するといった研究は試みられていなかった。本研究では重要性認知の高低の違いによって、同じ満足感でもそれが、生活感情に与える影響は違って来るだろうと考えたのである。しかし本研究では、重要性認知によって満足感・不満足感の生活感情に与える影響の違いについては、はっきりとさせることはできなかった。しかし、このような捉え方は間違いではないということは言えるだろう。

 また、職業意識が高い方が余暇重要性認知は高くなり、時間的展望が高くても余暇重要性認知には差はなかったということは、大学生というのは、これまでの受験勉強などの拘束から解放され自由に過ごせる時間、また、将来のための休息時間であるといった考えを持っているからではないだろうか。また、就職すれば自分のやりたいことも出来なくなってしまうといったネガティブな職業観をもっている為ではないのだろうか。そして、大学生にとって遠い将来よりも、より身近な職業意識の方に重要性認知は規定されているのである。

 

今後の課題

 本研究では余暇活動が3つの生活感情に影響を与えることが明らかとなった。しかしストレスに関することなど、様々こととの関わりが明らかにされていないこともあり研究の余地は残されている。また、余暇活動がこれほどまでに生活感情と大きく関わり合っているということは、日々の生活に満足していない人々や、憂鬱感を感じている人々にとって、そこから抜け出すために余暇活動が一つの手段になるのではないだろうか。だから、そのような実践的な研究を進めていくべきだろう。そう考えると、いかにして満足な余暇活動を行えるのか、また、満足な余暇活動を行うことが出来ない人々に、どのような支援が有効であるのかといった、もっと実践的な余暇活動に関する研究を進めていくべきだろう。そうすることによって、ますます勉学とは違った余暇の価値も明らかにされていくに違いない。



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