超常現象を信じる心について〜個人内要因より検討〜

三重大学教育学部人間発達科学課程
299707  河戸裕美

目次


………要旨………


………はじめに………
(1)青年期の占い志向が含む意味
(2)占いについての主な研究


………問題と目的………
(1)青年を取りまく「壁」
(2)占いの、不安への効用
(3)曖昧さと呪術思考
(4)個々の性格


………仮説〜方法………


………結果………
(1)占い尺度の下位因子
(2)各得点の相関関係
(3)「学部」、「性別」要因が、占い変数に与える影響
(4)不安変数・性格変数・曖昧変数のH.L群分け
(5)占い因子について、「曖昧変数」「不安変数」「性格変数」との関係


………考察………
(1)占いを「受け入れる」女性と「受け入れられない」男性に関わる「学部」
(2)占い行動は問題からの回避行動
(3)思考の省エネが、占い情報誌の氾濫を支え続けている


………まとめ………


………参考文献〜資料………



要旨

 若者の「占い志向」はどういった心持のなかで起こるのだろうか。曖昧さ耐性のなさが呪術志向を喚起しやすいのは確認されているが、それが対処行動であるならば曖昧な状況に置かれたとき感じる不安の大きさによっても、志向程度が変化するのではないだろうか。さらに、いくら問題回避のためだとはいえ、問題を抱えるすべての人が、その手法を占いに頼るというのも考えにくい。やはり解答を占いに頼るというには、そこに各々の考え方が関与しているのだと思われる。自身の考えが不思議なものを受け入れやすい土壌をしているからこそ、問題回避の手法として、占いを享受するのではないだろうか。今研究ではこれらの程度と占い志向程度とを調査するため、「占い志向尺度」を作成し、「曖昧さ耐性尺度」「不安特性尺度」「YG性格尺度,O因子」でもって、占い変数にどういった関与を示しているか調査した。結果は「占い志向」が高くなるほど「曖昧さ耐性」は低くなり、逆に「性格得点」「特性不安得点」は高くなった。このことから、当初の仮定どおり占いを好む内的要因として、状況に対するどうしようもなさと、それを狭量な思考のなかで享受している姿が想像されるだろう。




はじめに

(1)青年期の占い志向が含む意味

近年、私たちの周りには占いがあふれかえっている。占いが娯楽雑誌やテレビ、マスメディアによって普通に取り扱われている今、もはやその地域や流行による一過性のものではなく、私たちの生活に定着したかのように思われる。
人はそれが文明をもちはじめていらい、人の力が及ばない未知のものや力に対する恐れと敬いの感情を表す方法として、生活と占いが密着させてきた。ときにはそれは政治と密着し、人心を操る道具とされることもあった。だがそれは当時、人が生きていくために必要だった知恵が占いとなってあらわれていたのであり、決して興味本位で触れるものではなかったと思われる。
そして時代は移り変わり、現代は科学技術の進歩の時代である。産業や生活に関わる新技術が大量に生み出されており、青年はこうした科学技術に囲まれ、それに順応しながら成長してきている。この流れのなかでも近年では、どの雑誌にも占いコーナーが設けられ、何種類もの「占い専門誌」が出回り、占い街が繁盛するように占いは、日常生活のいろいろな場面で触れることができる手軽な行為、という地位を占めている。
しかしながら、占いという知識は、今日の日本社会から見れば、あくまでも周辺的な知識でしかないようである。『こころと暮らし 全国世論調査 1991・2』によると、「占いを信じていない人」の割合は約7割にも達していることから窺える。ならば必要のない行為なのかというとそうでもなく、『読売全国世論調査 1988・7』によると、占いが「盛んになる」もしくは「現状のまま」とする人の割合は約8割にも及んでいることが、支持されている証といえよう。占いは必ずしも信じられてはいない知識であることから、人々の占いの受容は安定性を欠くものだといえる。すなわち、占いはいつなんどき人々に拒絶されても不思議ではない状況に置かれているのである。
こうした状況は占いの衰退を招いてもよさそうなのだが、種田(1998)のまとめによると、占いコーナーを設ける娯楽雑誌は後を絶つどころか近年、次第に増加してきているようである。(Fig1・Fig2参照)占いにまつわる出版物は年をおうごとに増加し、占い店舗数が増えるにしたがって「占い街」が出現・繁盛し、「一兆円産業」(『週間スパ』1997,7扶桑社)といわれるまでになったからには、なにか必要性があるためだと考えられないだろうか。

まず思いつくのは、それが単に面白いから興味を持っているということである。国民の生活が生存のための消費からクオリティ・ライフを楽しむためのものに変わるにつれ、その関心は経済的・物質的土台から社会的・文化的、または心理的なものへとしだいに移行してきた。そういった「平和と豊かさ」を背景にして人々の価値意識も変化し、差異や変奇を楽しむ「面白社会」が強調されるようになったことが要因の一つかもしれない。または戦後10年ほどの間、占い師というのは男性の職業であったものの、今では、神戸の占い街にいる女性占い師は約9割にのぼり、1割にも満たない男性占い師も、「男性」性が表面に出ている人ではなく、中性的であるか、極めて優しげでソフトな風貌の人がほとんどであると紹介されている。こうした異性が感じられないところが、女性のステイタスを護るということで、受容が絶えないとも考えられる。さらには種田(2000)が指摘しているように、占いは疎外に対する補償、つまり女性の立場を確立するために使われる、対処行動だとも考えられる。
野村(1989)によると、占いやお守り、雨乞いの儀式などといった行為は俗信の一部であると考えられ、この俗信を維持する比較的重要な社会的・文化的要因として、俗信の「潜在的機能」があげられている。野村の紹介によると、それはマートンが社会構造や文化事象の機能分析をする際に、考慮すべき機能の一面として指摘したものだが、まず、彼は、機能分析の主な公理として同一の社会事象や文化事象が多様な機能をもつことがある点を指摘している。しかしそこには「顕在的機能」や「潜在的機能」の問題が含まれているのだそうだ。潜在的機能、つまり主観的に明確に意図されず、認知されていないために、目的とは異なった客観的結果がもたらされた場合に、潜在的機能が果たされたと述べている。潜在的機能の概念を導入することによって、ある社会・文化事象や行動が、たとえその公然の目的とはかけ離れていたとしても、当該の社会や集団に対してある機能を充足させる可能性のあることを示唆してくれるのである。
非合理と思われる占いが、現代の我々にでも維持敬称されていくのは、それが果たす潜在的機能に注目する必要がある。現代の二十代の青年は、Fig3、Fig4にみられるように、老人などの年長者よりもはるかに各種占いやおみくじなどの運勢判断の支持者であり、担い手である。特に男性よりも女性にその傾向が強い。これはどうしてであろうか。老人たちよりも彼らのほうが俗信深いからなのだろうか。その答えは、占いが当たると信じているからではなく、占いなどの運勢判断の実行は、興味本位に自己の運勢を占うという娯楽性を求める心理によるものである。(林知己夫・米沢弘による、首都圏調査結果 1982)

さらに、占い師が人生相談におけるカウンセラー的役割を果たしている側面もある(伊藤:1995)。現代の日本の若者は、自分のありかを喪失させた存在としての無力感・焦燥感・孤独感の真っ只中に居るといえるのだろう。
西山(1991)が指摘するように、こうした傾向は豊かな遊び心を強く持つ若者に顕著に表れ、非日常的なもののなかでも優れて非日常的なもの、非合理的なもののなかでも飛び切り非合理的なものとしての神秘や呪術が面白志向の対象とされ、それが現在の占いブームに続いているのだという。しかし西山が続けて指摘しているように、たとえ若者の神秘・呪術好みの背景に「平和と豊かさ」があるのだとしても、現代の神秘・呪術ブームを単なる豊かな遊び心の発露であるといいきるには、あまりにも単純すぎる。単に面白いだけであれば一過性の熱のようにその衰退が見受けられてもよいはずである。だが、個々人の好みによって細分化はされているものの、私たちの周囲から占いがなくなった日は一度としてない。これはやはり、娯楽性の面白み以外にも、青年の内面には、こういった現象を享受するものがあると考えるべきだろう。


(2)占いについての主な研究


@「俗信」の構造:人々は神仏やお払い、運命や運の効力やその意味するものの存在を必ずしも信じていないにもかかわらず、それら「俗信」に従って行動したり、またその逆であったりする場合がある。奥田ら(1991)は、「俗信」に関するさまざまな事項間の構造を、かかわり方の側面ごとに明らかにし、比較することで「俗信」を心理学的に細分化することを試みている(「興味」,「信念」,「行動」,「存在」の四つに分けたものの、「存在」はハッキリとした分かれ方にならなかった)。なかでも占い因子として抽出された「おみくじ・占い・お札とお守り・初詣・運命・まじない・血液型・前世来世」を上記の関わり方で分けてみると、「行動」では「おみくじ・占い・お守りとお札・初詣」が因子になった。「信念」では「血液型・占い・運命」が、「興味」では「血液型・占い・運命・おまじない・おみくじ・前世来世」が構成因子となっている。

A占いへの興味と因果思考:菊池・青木(1994)の大学生を対象にした調査によると、占いなどへの興味が、問題解決への前向きな姿勢と結びつく一方で、内的無力感や依存の反映であると推論されている。また、こういったものに興味をもちやすい人は、そうでない人とくらべると自分の働きかけが強い効果をもつと誤認しやすい、つまり因果関係を見出しやすいことが指摘されている。

B占いの機能:佐藤(1995)は、血液型性格関連説について、血液という誰もがもっているものを会話の中に持ち込むことによって、会話成員の全員が話題の中心になって盛り上がることができるという、対人関係促進機能があることを指摘している。それと同時に、皆で何度も話題にすることで、血液型性格判断の信憑性を高めていく社会性も指摘している。

C不思議なことを信じる性差:中島(1993)は、超常現象信奉尺度を作成する過程において、霊因子と超能力因子について女性のほうが男性より信じていることを見出している。また岩永(1998)の調査においても、超常現象を信奉する程度や科学観,マスメディア接触度,会話へ上る頻度等を被験者の性別、または専門分野別に検討すると、専門分野による得点の開きはほとんど見られず、性差が顕著に出ていることからも、俗信の志向には性差が現れると指摘している。

D占い・超能力を信じるあり方:松井(1997)の高校生を対象にした研究によると、宗教への関心が高いほど、また、科学の進歩に疑問を持ち、科学には限界があるという「科学限界感」を強く抱く人ほど、UFOや心霊などの神秘的現象や占い的現象に興味をもちやすく、信じやすいことが示されている。さらに、これら現象のうち一つを信じる人は他のすべても信じやすく、一つでも信じない場合は他も信じにくいことが指摘されている。
しかし不思議現象に対する肯定的な態度は、必ずしも科学的知識が欠けているからとは言い切れない。伊藤(1997)が理科系と文科系の大学生を対象に行った調査では、占いでも超能力でも、むしろ理科系のほうに肯定的にとらえられる人が多いという結果が出ている。さらに男女別に検討してみると、男性のほうが理屈っぽく因果的に捉える傾向があり、それに対して女性は直感的に捉える傾向があること、そして「傾倒しすぎる人」に対する批判は、女性の方が強く、「否定しきる人」に対する批判は、男性の方が強いことも指摘されている。

E超常現象信奉者のパーソナリティ:権威主義に関する研究は、アドルノによって1950年に行われている。野村(1989)のまとめによると、権威主義的パーソナリティがその行動傾向の一特徴として「迷信的所信」を含んでいることを指摘し、権威主義的パーソナリティの持ち主が迷信に陥りやすいことを示唆している。ここでいう迷信とは、超自然力への進行や服従、占星術、終末予言などで、これらは単なる知識の欠如に基づくものではなく、偏見に近い思考傾向を示すものである。アドルノはこういった信念を持つことを、自我の弱さという観点から説明している。弱い自我の持ち主には、個人に発生した諸問題を自力で解決することができず、権威や超自然力を頼りにして解決していく傾向があることから、迷信に陥りやすい人に見られる一面として、個々の人格が示唆されている。

F心的ストレスと曖昧さ耐性傾向が、呪術的思考に及ぼす影響:増田(1998)によるKeinanについてのまとめによると、高いストレス状況のもとでは、曖昧さに対する耐性の低いもののほうが、高いものよりも因果関係の記述を含む文章を作成しやすいと述べられている。さらに、湾岸戦争下でのイスラエル人の心理的ストレスと曖昧さ耐性傾向が呪術思考に及ぼす影響について、高ストレス群のほうが、低ストレス群よりも、また曖昧さへの耐性の低い者のほうが、高いものよりも呪術的思考の程度が高いという結果が出されている。これらの結果により、呪術思考は、ストレス状況に対する対処行動の一種であることが示唆されている。




問題と目的

(1)青年を取りまく「壁」

樋口(1978)は、青年が占いを用いる原因として、次のように述べている。「今、青年たちの前に、「世の中」は厚い壁と天井を張りめぐらしている。この囲いに護られた空間に居たおかげで、彼らは飢えも知らず、十分に様々なものを与えられて育ってきた。よくも悪くも、その空間しか彼らは知らず、生まれながらにある運命としか思えない壁は、戦後の経済成長の中でしだいにこの空間の中で生きていく以外の道を、用意に見出せない程度に厚くなってきた。」
こうした分厚い壁は世の中を変えていく力、変える方向を人々の目から見えなくさせていく一方で、うまくいったときの自分の未来はある程度見通すことのできる壁であると思われる。ただ残念なことに、運が悪かったときどこまで落ちるか、どこまではじき出されるかは簡単には見ることはできない。豊かな時代に生きる青年たちは、壁の中しか知らずに育ったために、それが無限に怖くてたまらないのだろう。島田(1992)らによると、変える力をもたない若者たちは、はみ出すことの不安におののいているという。自分の人生を選択したという実感のないままきてしまった若者たちは、現在の自分の生き方に自信をもつことができず、何かささいなことでも精神的な挫折感を味わうと、どうしていいかわからなくなってしまうという。宗教や自己開発セミナー、あるいは占いへのきっかけは、そういったときに生まれやすいのだと指摘されている。

(2)占いの、不安への効用

人間は不安を感じたとき、不安をもつ必要などないと言われるよりも、むしろ不安に根拠があることを教えてもらうほうが安心する。漠然とした不安も、根拠があるのなら、対処のしようもある。そこで、そういった心理を見透かすように、不安の根拠を示すものとして、古来より占いが用いられてきた。不安な自己を多少なりとも慰めるためにも、占い行為を行うのである。
田丸・今井(1989)は、高校生を対象とした占い調査研究において、青年期の占い志向と不安について次のように述べている。
「進学就職のことや自分の将来について不安を感じている青年の割合は高く、また、日本の将来や地球の将来について不安に思うものも高い。これらの不安はすべて、先に対する不安である。世の中の動きが見えにくく、自分の将来に対して見通しが持ちにくくなってきた青年にとって、一瞬にして未来を予見してくれる占いはひきつけられるものであるのかも知れない。」
青年期の不安傾向は社会的な時代背景との関わりが深いことを考慮に入れると、双方に直接の関連性があるとまでは言い切れないのかもしれないが、将来性に対する不安因子と、占い志向性の因子との間に比較的多項目で相関することがわかった。
この研究によって、将来への不安と占い志向との関係が確認されたといえる。しかしここでは、青年たちの将来への不安な気持ちの喚起しやすさ、つまり個々人が特性として持つ不安と、占い志向との関係は指摘されていない。人が不安に陥るにはさまざまな要因があるが、どの程度の範囲の刺激事態を危険、あるいは脅威と知覚しやすいかの個人差によっても、なにかしら占い志向に影響があるのではないだろうか。不安特性を高く持つことから、さまざまな状況をより脅威だと感じやすくなり、そこに答えを与えてくれる占いを受け入れ易くなると予想される。よって、人が特性的にもつ不安の高さと、占いの志向程度との関係を調べるのが目的である。

(3)曖昧さと呪術思考

私たちは外界に秩序やパターンや意味を見出しがちな性向をもち、ものごとが不秩序で、混沌としていて、無意味なままでいることに耐えることができない生き物である。T・ギロビッチ(1994)によると、人間の本性は、予期できない現象や意味のない現象を嫌う傾向があると述べられている。その結果、私たちは秩序がないところに秩序を見出そうとし、偶然の気まぐれだけに支配されているものに意味のあるパターンを発見してしまうという。
しかし、曖昧な情報の中にも秩序を探し出そうとするこうした傾向は、私たちが外界を理解する際に使う認知的機構そのものに組み込まれている機能であるから、取り外すことはできない。菊池(1998)によると、限られた情報処理の能力を有効に使っていくためには、できるだけ認知負荷の少ない方法で情報を処理し、問題を解決していかなくては、所有する認知リソースを瞬く間に使い切ってしまうのだという。だから人は問題を解決しようとするとき、その可能性の高低や確率で評価するよりも、正誤のハッキリとした答えを好むのだという。曖昧さを嫌うこうした認知の省エネ志向が、限られた知識を一般化して効率的に思考させるところに、占いを信じ込むことや体験を絶対視させる原因があるのだと思われる。ただし、原因不明のできごとをよく観察し、背景にある本当の原因を明らかにしていくことで新しい知識を積み重ね、現在の科学的法則が発見されてきたのであるから、一概に害を及ぼす機能とはいえない特性だとも思う。
こうした曖昧さにまつわる機能が、占いという不確かなものを肯定する原因であると考えられる。曖昧な状況下における耐性が低い人ほど、ものごとの白黒をよりはっきりさせたいという気持ちを誰よりも強く抱き、理論が確実ではない回答や結果であっても、受け入れやすくなるのであろう。その一方で、先行研究にもあったように、極度のストレス状況のもとで損なわれた統制感を回復する試みとして、呪術的思考が増加している一面も忘れてはいけない。つまり、ストレスを感じる状況下で呪術的思考であることが対処行動につながると示唆されているが、日常にはない不可思議なことに心が向かうには、それを素直に受け入れる考え方をすることが一因とも考えられる。個人要因として外界の捉え方が、主観に頼っていることが、呪術へ向かう心を支えているのではないだろうか。
よって、曖昧さ耐性の程度と、個人要因である考え方の違いによって、または曖昧さに対する耐性のなさから生じる不安の抱きやすさによって、占いという不確定な結論へ向かう心を調べるのが目的である。

(4)個々の性格

内閉性性格とは、非社交的・内気・控えめ・ユーモアを解さない・孤独・利己的・空想的というような特徴をもつ性格をいう(詫摩:1998)。一方では貴族的な繊細さを持ち、現実の生活から遠く離れた夢のような世界にあこがれたりする。しかし、決断がつかず、情緒の表出も乏しく、気心の知れない、捉えがたい人という印象を与えることもある性格特徴をもっている。このような人は自分の論理だけで考えていこうとするので、その論理が崩れてしまった場合には、今までの生活とまるで違った生活、例えば特別な宗教に帰依するとか、政治的結社に入っていくことがあるといわれている。つまり、ものごとを多角的に考えるタイプでなく、物事を一面に捉えようとするタイプが困難な状況に置かれた場合、通常ではない現象を肯定しやすくなることが予想される。
ならば、内閉的で独善的な考え方にとらわれがちな人ほど、与えられた情報のフィードバックをしにくいことから、与えられた情報が不確実だと指摘されても、それが再考の糧となりにくく、そのため、占いへの不信感が喚起されずに依然として高い関心をもち続けるのではないだろうか。今研究では性格的に主観でものごとを判断するか、それとも他の情報を取り入れ、客観的にものごとを判断する人かどうかの違いが、占い志向に影響を与えているのかどうかを調べるのが目的である。




仮説

「占いを信じる心」が対象ではなく、「占いを志向する心」を対象とする研究である。「あなたは占いをどのくらい信じますか」と質問紙でたずねたとしても、それは正鵠を得た質問とは思わない。例えば、占われるべき「運勢」が存在し、占われていることを「信じる」ことと、観念として私たちの行動を左右する占いを「信じる」ことの間には、大きな質的相違があると思うからである。「占いをどのくらい信じるか」という質問では、この相違を計りきれていないと伊藤(1997)も指摘していることから、本研究では「占い行為へ向かう心」を対象とする。そのうえで、大学生の占い志向性の強弱に関わる事項として、「特性不安」,「曖昧耐性」が関係していることを調査するのが目的である。これら尺度の高い群、低い群ごとに占い志向得点との比較検討をし、同時に男女差についても検討する。
これは、種田(2000)が述べているように、ジェンダー問題が占い志向への根源にあるのだとするならば、何度計測しても女性に志向傾向が偏ると考えられるからである。さらに、個々の性格の違いによっても不思議なものへの志向性に違いが現れると予想されるので、客観的・主観的性格との関係も調査する。


仮説1:曖昧耐性が低く、特性不安が高いことが占いの志向性を高くすると予想される。さらに、空想的・主観的な人ほど、占いの志向性は高くなると予想される。
仮説2:仮説1とは逆に、曖昧耐性が高く、特性不安が低いうえに客観的な人ほど、占いへの志向性は低くなると予想される。
仮説3:女性のが男性よりもより強く、占い志向性が高くなると予想される。





方法

【調査対象】三重大学生(学部生・院生) 
講義ごとにその構成学年を聞き、一年生からM2までの学生であることを確認した。
合計336名(男152名,女184名)
【調査年月】2002年11月中に各授業単位で、質問紙により集団実施をした。
【質問項目】
 @占い志向尺度:田丸・今井(1989)の占い尺度から5項目、菊池・青木(1994)の占い尺度から3項目、伊藤(1995)を参照にディスカッションによって7項目を追加し、合計15項目を作成する。先行研究より、占いとの関わり方が「行動面」「信頼面」「興味面」の3構造でとらえられるとのことなので、これらの構造から逸脱した内容にならないよう注意する。「全くそう思う」から「全くそう思わない」まで、5件法で回答させる。
A特性不安尺度:清水・今栄(1981)のSTAI(State‐Trait Anxiety Inventory)日本語版のうち、A‐Trait(特性尺度)全20項目を使用する。「全くそうである」から「全くそうではない」まで、4件法で回答させる。
B性格尺度:YG性格検査のO因子、全10項目を使用する。「はい」から「いいえ」まで、3件法で回答させる。
C曖昧耐性尺度:増田(1998)の尺度、全24項目を使用する。「全くそうだ」から「全く違う」まで、5件法で回答させる。
【フェイスシート】
 @学部:「文系」の学部に「教育・人文」を、「理系」の学部に「生物資源」「工学」「医学」と分類した。
 A性別:女・男の分類にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・合計71項目を回答させる。

【所要時間】講義開始・終了のどちらか20分間で回答・回収する。
【フィードバック用用紙】曖昧耐性尺度の自己採点をしてもらうため、回収時、被験者に解説用紙を配る。先行研究結果から68〜70点を平均値とし、それ以上ならば曖昧耐性が高く、以下ならば曖昧耐性が低いという内容。



結果

(1)占い尺度の下位因子

占い尺度15項目について主因子法による因子分析を行い、プロマックス回転を行った。因子負荷量の低い項目7・11を省いた13項目について、再度プロマックス回転を行った結果、Table1に示す2因子が得られた。第1因子は占いに対する「興味・関心」因子、第2因子は占い結果に関する「行動・信仰」因子であった。α係数は、「興味・関心」因子が0.797、「行動・信仰」因子が0.833となっている。占い尺度を作成する過程では、奥田らの研究のように因子が3つ出るように考えていた。だが、結果としては2因子が検出されたのみである。これは、「信念」を持って占いと対峙するということが、同時に「行動」に移せるということの動機となっているため、「信念」項目と「行動」項目が一つの因子として検出されたのだと思われる。


Table1.占い尺度の因子負荷量
第1因子.「興味・関心」
今日のラッキーカラーに従って服装を選びたいと思う。 0.67 -0.09
困ったことが起こったら、占いを参考にしたいと思う。 0.66 -0.04
占いに『今日、自転車に乗ると事故にあう』とかいてあるとき、乗るのをやめようと思う。 0.60 -0.13
TVや雑誌で見た占いが気になる。 0.55 0.29
占い師に占われたことは、実行してみようと思う。 0.52 0.24
風水占いから出た結果を生活に取り入れたいと思う。 0.50 0.15
様々な占いの中には、信頼してもよいものがある。 0.49 0.19
血液型や星座で、相性の良し悪しが決まると思う。 0.48 -0.06
姓名判断で良くない名前は、自分につけられたくない。 0.41 0.14

第2因子.「行動・信仰」
占いは面白いものである。 -0.27 0.98
自分の誕生星座の性格を知りたいと思う。 0.06 0.68
占いをしてみたいと思う。 0.02 0.62
新聞や雑誌の占い記事には目をとおしておきたいと思う。 0.24 0.56

a.因子抽出法: 主因子法・回転法: Kaiser の正規化を伴うプロマックス法
b.3回の反復で回転が収束した。
c.因子負荷量が低い2項目(項目7・11)が削除されている。



Table2.「占い尺度」第1因子、第2因子の度数分布状況
占い因子1
N 平均値 中央値 標準偏差 分散 最小値 最大値
336 14.58 15 3.89 15.10 4 20


占い因子2
N 平均値 中央値 標準偏差 分散 最小値 最大値
336 23.57 25 6.84 46.85 9 40



(2)各得点の相関関係


回答の得られた尺度項目ごとの相関関係を調べるため、2変量の相関係数を出した。同時に、性別と学部といった個人要因との関係性も検討するため、項目に入れられている。
Table3に示したように、「曖昧変数」と「占い因子1」「占い因子2」「不安変数」「性格変数」の各得点との間に、1%水準で有意な負の相関が見受けられる。「曖昧変数」は得点が低いほど、曖昧さに対する耐性のなさを意味している。そして耐性の低いものは、特有の認知様式によって不適応に陥りやすいことが指摘されている。ストレス反応だと思われる占い因子と負の相関をし、ストレス認知に差をつけると思われる「不安変数」や「性格変数」と負の相関をしていることは、曖昧さに対する耐性がストレッサーとストレス反応の間に介在する要因であると考えてよいだろう。
さらに、田丸ら(1989)の研究のように、占いと不安との関与が確認された。しかし、興味のみで占いに関係しているときは、そこに不安要因は関与していない。そして曖昧耐性の高低差に不安が左右されることから、状況を驚異的に感じやすい人のほうが、曖昧さに対する耐性がないのだということがわかる。さらに、性格変数が不安変数に関与していることから、主観に頼ったものの見方をする人のほうが、特性的な不安をもちやすいと考えられる。


Table3.尺度ごとにみた、Pearson の相関係数相関関係
占い因子1 占い因子2 不安変数 性格変数
占い因子2 0.66
不安変数 0.17
性格変数 0.30 0.25 0.46
曖昧変数 -0.15 -0.25 -0.51 -0.33
a.有意確率は両側検定による結果である。


(3)「学部」、「性別」要因が、占い変数に与える影響

先行研究でもたびたび、占い志向には性差が影響を与えると指摘されている。今研究でも同様に、性差や学部が占い志向に関係していると考えられる。では、この要因は占い因子にどういった影響を与えているのだろうか。「学部別」と「性別」を独立変数とし、「占い因子1」、さらに「占い因子2」を従属変数とした分散分析を行った。Table5、Table6、Table7にその結果を示す。
興味・関心因子である「占い因子1」では、性差がその主効果となっている。種田(2000)の指摘どおり、女性のほうが、占いが掲載されている娯楽雑誌をよく読むことや、占い関係の娯楽書に触れ合う頻度が高いこと、そして占いの女性化が起こっているということが、女性に占い志向が高く出た理由だと考えられる。
信念・行動因子である「占い因子2」では、性差、学部がそれぞれ主効果であるうえ、交互作用も見受けられる。岩永(1998)の結果では専門分野の系統では迷信因子に差は出ていない。しかし各々が持つ科学観とは低いながらも相関関係が見受けられる。このことをふまえ、出された結果に従うかどうかということに学部が影響していることから、占いの結果を受け入れ、現実行動としてふるまうためには、これまで培ってきた科学的思考が、不思議なものへ向かう気持ちに関与しているし、学部を選ぶことにも科学観が関与しているのだと考えられる。


Table4-1.学部別人数
学部 N N
教育 169 1 231
人文 62
生物資源 26 2 105
工学 62
医学 17


Table5-1.被験者間因子
N
学部別 1 231
2 105
性別 1 184
2 152


Table5-2.従属変数「占い因子1」・記述統計量
学部別 性別 平均値 標準偏差 N
1 1 15.51 3.57 157
2 13.45 3.82 74
総和 14.85 3.77 231
2 1 15.04 2.64 27
2 13.62 4.43 78
総和 13.98 4.09 105
総和 1 15.44 3.45 184
2 13.53 4.14 152
総和 14.58 3.89 336


Table5-3.従属変数「占い因子1」・被験者間因子の検定結果
ソース タイプ III 平方和a 自由度 平均平方 F 値 有意確率
学部別 1.32 1 1.32 0.09 0.76
性別 174.17 1 174.17 12.17 0.00
学部別 * 性別 5.91 1 5.91 0.41 0.52


Table6-1.従属変数「占い因子2」・記述統計量
学部別 性別 平均値 標準偏差 N
1 1 25.68 6.21 157
2 21.53 6.41 74
総和 24.35 6.56 231
2 1 22.04 6.01 27
2 21.79 7.58 78
総和 21.86 7.18 105
総和 1 25.15 6.30 184
2 21.66 7.01 152
総和 23.57 6.84 336


Table6-2.従属変数「占い因子2」・被験者間効果の検定結果
ソース タイプ III 平方和a 自由度 平均平方 F 値 有意確率
学部別 163.5 1 163.49 3.78 0.05
性別 277.2 1 277.18 6.40 0.01
学部別 * 性別 219.5 1 219.48 5.07 0.03
a.R2乗 = .084 (調整済みR2乗 = .076)


(4)不安変数・性格変数・曖昧変数のH.L群分け

独立変数においた「STAI-T尺度」「YG尺度」「曖昧耐性尺度」の、傾向の強さによる従属変数(占い尺度)への影響を調べるため、上記3変数をH群、L群に分けた。3変数とも、得点の平均値から左右1/2SDを省いた残りをH群・L群とした結果をTable4に示す。各変数の度数分布状況を見てみると、平均値と中央値がほぼ同じ値であるので、群分けには平均値を使うこととする。

「H群」(数値2)M+1/2SD ,「L群」(数値1)M−1/2SD

Table7‐1.「性格尺度」「不安尺度」「曖昧尺度」の群分け
平均値 中央値 標準偏差 1/2SD M±1/2SD 最小値 最大値
性格変数 10.35 10.5 4.09 2.04 L 8.26 0
H 12.34 25
不安変数 49.88 49 9.84 4.92 L 44.98 22
H 54.82 79
曖昧変数 67.25 68 11 5.50 L 61.8 35
H 72.8 98
 

Table7-2.H群・L群の人数
N
性格変数 L 1 115
H 2 107
不安変数 L 1 109
H 2 106
曖昧変数 L 1 99
H 2 105



(5)占い因子について、「曖昧変数」「不安変数」「性格変数」との関係

「占い因子1」「占い因子2」を従属変数にし、「曖昧H群・L群」と「性格H群・L群」、さらに「不安H群・L群」が占い変数に関与しているかを調べるため、「曖昧H群・L群」、「性格H群・L群」、「不安H群・L群」を独立変数としたt検定を行った。Table8以降にその結果を示す。
曖昧耐性が呪術的思考に関与しているのはKeinanによる研究で調べられているが、他変数にも有意な差が出たことより、今研究で予想した仮説が立証されたことになる。

Table8-1.「不安H群・L群」によるt検定
不安HL N 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差
占い因子1 1 109 14.50 3.80 0.36
2 106 15.12 3.86 0.38
占い因子2 1 109 22.53 7.03 0.67
2 106 25.23 7.16 0.70


Table8-2.「不安H群・L群」によるt検定結果
F 値 t 値 自由度 有意確率 (両側) 平均値の差 差の標準誤差
占い因子1 等分散を仮定する 0.24 -1.18 213 0.24 -0.62 0.52
占い因子2 等分散を仮定する 0.00 -2.78 213 0.01 -2.69 0.97


Table9-1.「性格H群・L群」によるt検定
性格HL N 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差
占い因子1 1 115 13.22 4.20 0.39
2 107 15.69 3.54 0.34
占い因子2 1 115 21.61 6.96 0.65
2 107 25.54 6.80 0.66
 

Table9-2.「性格H群・L群」によるt検定結果
F 値 t 値 自由度 有意確率 (両側) 平均値の差 差の標準誤差
占い因子1 等分散を仮定しない。a 4.19 -4.76 217.92 0.00 -2.47 0.52
占い因子2 等分散を仮定する 0.53 -4.25 220 0.00 -3.93 0.92
a.等分散性のためのLeveneの検定結果、.042で有意であった。


Table10-1.「曖昧H群・L群」によるt検定
曖昧HL N 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差
占い因子1 1 99 15.68 3.32 0.33
2 105 14.01 3.86 0.38
占い因子2 1 99 25.81 6.39 0.64
2 105 21.71 6.79 0.66


Table10-2.「曖昧H群・L群」によるt検定結果
F 値 t 値 自由度 有意確率 (両側) 平均値の差 差の標準誤差
占い因子1 等分散を仮定する。 1.56 3.30 202 0.00 1.67 0.51
占い因子2 等分散を仮定する 1.51 4.43 202 0.00 4.09 0.92





考察

(1)占いを「受け入れる」女性と「受け入れられない」男性に関わる「学部」

「占い因子1」(興味・関心)、「占い因子2」(行動・信仰)ともに女性に高い志向性が出ている。
そして「占い因子2」に関してのみ学部による差が生じ、さらに性別・学部間に交互作用も出ている。つまり「占い因子2」では、文学部女子生徒が最も占い行動を起こしやすく、続いて理学部女子生徒、理学部男子生徒となり、最後に最も行動に移さないのは文学部男子生徒という結果となった。
「占い因子1」では性差しか見受けられないことから、先行研究でもあるように興味本意で占いを扱うのは女性に多いことが裏づけされた。これまで占いに関心を持つ性が女性に偏っているわけとして、女性を対象とする占いの専門誌や、その他の女性向けの雑誌などで占いに関する特集がよく組まれること、そして男性に比べると女性のが、そういった女性情報誌に接する機会が多いことが原因として考えられてきた。
かといって男性はこれら占い情報と全く縁がないのかというと、TVや新聞にまで占いが載っていることを考えると、そうだと断定することはできない。岩永によるとマスメディア接触度が低いほど、「迷信」に対して肯定的であるとされているので、専属的に女性へ占い情報がもたらされていることが、女性の興味を引いているとは考えにくい。今研究では占い変数に関わる変数として、性差と同列に置ける変数がないためこれ以上はいえないが、おそらく性差で占いへの興味を考えようと思うと、種田が述べているように、占い師らの現状に見られる「占いの女性化」という社会要因をもって、関与を考えなくてはならないのだろう。
そして「占い因子2」についてだが、理学部男性のが文学部男性よりも占いに対する高い志向性を持つことがわかった。伊藤によると、「占いをうまく利用する」のは理学生のほうだが、文型学生の方が概して占いをクールに受け止めやすい。占いを肯定的に捉えるにしても、否定的に捉えるにしても、総じて文系学生は、占いは楽しむものという割り切りができているように見えるのに対して、理学生は、占いに根拠があると考える人はそれを真剣に受け止めるが、そう考えない人は否定してしまうという傾向があるという。さらに男性学生の方が理屈っぽく因果的に捕らえている傾向があり、それに対して女性学生は直感的に捕らえている傾向があると指摘されている。
つまり「占い因子2」に関していうと、これは楽しむための「占い」というよりは根拠をもととして肯定する「占い」であると考えられることから、理学部生には根拠をもって占いと対峙する学生が文学部生よりは多いといえそうである。

(2)占い行動は問題からの回避行動

「占い因子1」たる興味・関心因子に「不安H群・L群」が影響を及ぼしていないのは、期待を持ちつつ楽しい暇つぶし的な心持で占いに接している分には、状況を不安に感じてしまう心など全く関係していないからであろう。一方、行動・信仰因子たる「占い因子2」にのみ、不安特性に有意な関係が見受けられる。つまり不安特性の低い人よりも、不安特性が高い人のほうが占い行動に移りやすいということから、自尊心を脅かすような状況や個人の適切さが評価されるような状況をより脅威と知覚しやすい人は、その状況から逃れたいがために、回避行動として占いを志向しやすいのだと考えられる。
しかし、いくら占いが問題を抱える人に回答を授ける機能を持つとはいえ、問題をだかえこんだすべての人が占いに回答を求めるとは思いにくい。
そこで性格特性をみる変数である「性格H群・L群」と占い変数との関係をみてみると、占い志向性が高くなるほど主観的、空想的なものの見方も高くなる傾向があることがわかった。つまり、私たちが占いを受容するためには、それを自身がどう考えて受けとめているのかに拠るところが大きいと思われる。
占い行為を受容する人は独自的な世界を形成する人が多いといえるだろう。そしてこのような人は、周りからどのような情報が入ってこようが、自分の世界を壊させず、保ち続ける傾向が強いと思われる。さらに鳥山(2002)による調査では、占いを信じる人は人生を「楽天的」と見る傾向があることが確認されている。このことからも、空想性を豊かにもつ人ほど占い志向性が高くなることは、ストレスがあふれている世界から一歩退き、傷つけられない、豊かな世界を望む気持ちをより強く持つことを意味していると考えられる。

(3)思考の省エネが、占い情報誌の氾濫を支え続けている

紹介されていたKeinanの研究同様、「占い因子1」「占い因子2」ともに「曖昧H群・L群」と有意な差があることが確認された。出された結果を受容しようとする第二因子と曖昧耐性の高低差とが関与するのは、それがストレス反応だからだという仮説どおりだと考えられるのだが、今調査結果では、面白そうだから関わろうとする第一因子とも曖昧さ耐性が関与しているという結果になった。曖昧な状況を脅威だとより強く知覚すること、つまり漠然としたものを考えることを嫌悪し、白か黒かとステレオ・タイプ的な決め付けを好む人ほど占いへの興味を引き立てられるということが確認されたのである。
このように「占いへの興味」を喚起させる要因に、思考の省エネによって深遠まで考えることをやめることがあげられていることを考えると、簡単に手が届くところに提示されたわかりやすい解答だから、手にとってみたくなることが考えられる。そしてこういった思考の欠如による興味を表に出す人が、現在の占い情報の氾濫を支えていると思われる。渡り鳥のように次から次へと占いの種類を替えても不都合を起こさず、目にとまるものには目をとおしておきたいという受容が絶えないことが、占い雑誌の増加につながっているのだと考えられるだろう。




まとめ

占いを志向する人は、曖昧さ耐性が低く、主観的・空想的な考えを持ちやすいこと、そして漠然とした状況を、より脅威と捉えやすいことが今研究で確認された。占いが先見の手法として用いられてきたことから、これまで、将来に対する不安が占いへの喚起となっていることは確認されてきていた。しかし、今置かれている漠然とした状況が耐えられないと思う人も、占いを志向する程度が高いことが確認されたことから、「運勢を占う」、「相性を占う」という行為は、主体性を喪失した人が好んで使う対処策なのだと思う。島田が指摘するには、力強く先行してくれるものに漫然と従い続け、たとえそこに不都合が生じ、不満を感じたとしても、次の先行者に替えるだけで自力の解決ができない人ほど、占いや宗教に傾倒していきやすいのだという。この、占いへの志向傾向も、また、そういった薄弱とした意思によるところが大きいのかもしれない。
「女性」が占いへの興味・関心を抱きやすいとなったのは、今研究で見られた曖昧さとの関係以外にも、種田の指摘するように情報機関が占いを「女性化」している要因も考察にいれるべきだろう。それは子供向けの占い本に、特に現れているように思う。本屋に並ぶ占い本とは、キラキラの目をしたキャラクターが表面に出されているのが大半であり、男子にしてみればそのような本を手にとるのは大変気恥ずかしいと思われる。筆者が目にする限りでも、男子が占いの本を手にするのはごくまれであり、手にしたところで照れくさそうにする男子しか見かけなかった。逆に女子は次から次へとそういった本を手にとり、または仲間内で楽しんでいるのが大半であった。つまり、こうした子どもの頃からの占いとの関わり方が、現在の占い市場を支えている、もしくは「占いの女性化」を起こす原因であると考えられる。占いを志向するにあたって、性差が生じることは自明となっているが、社会的にこういった現状を起こしているのは何なのか、一兆円産業をさらに発展させるためにも、そのプロセスの解明が、今後必要となってくるのだろう。
これらより、今研究では内的要因のみを占いとの関わり対象としてきたが、発達段階で見られる因果応報的思考を形成する過程と占いとの関わりを調査することもしてみるべきであろう。




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