1.問題と目的
平成13年度の高等学校中途退学者数は104894人であり、中途退学率は2.6%にのぼる。中途退学
の理由は、「学校生活・学業不適応」が38.1%と最も多く、次いで「進路変更」が36.3%となってい
る。このことについて、以前から、中学校の進路指導が学業成績によって振り分け的に行われたため、
無目的進学や不本意入学が生じて不適応を生むという指摘がなされてきた(文部省,1994)。
この問題を考える上で、「進路決定に対する自己効力」は重要な概念である。「進路決定に対する自
己効力(Career Decision-Making Self-Efficacy ; CDMSE)」とは、進路を選択する過程で必要となる
行動についての自己効力であり、積極的な進路決定行動や、その中で生じる問題や困難に対処するた
めの力と関係があるとされている。
本研究では、これまであまり扱われていない、一般的な心理的特性が進路決定に対する自己効力に
影響を与える可能性について焦点を当てる。その意義は、次の様なものである。
Bandura(1995)は自己効力の形成において、忍耐強い努力によって障害に打ち勝つ体験(制御体
験)をすることや、そのような他者の体験を観察すること(代理体験)の重要性に言及しているが、
進路選択は機会そのものが少なく、中学生にとって自己効力をこのような体験によって高めることは
難しい。進路決定に対する自己効力について、一般的な心理的特性の影響を検討することは、進路指
導への応用という面からも有用であると考えられる。
また、先行研究において、自尊心(self-esteem)との関連も指摘されているが(長谷川,1999)、
Damon(1983)は、自尊心は自分自身に対する肯定的又は否定的な評価の程度を測定しているのみ
であり、自己概念の性質を表現するものとしては不十分であると指摘している。
そこで本研究では、自我同一性(Ego Identity)と自己統制感(Locus of Control)という概念を用
いて、中学生の進路決定に対する自己効力への影響について検討したい。そして、青年期の自我の在
り方や行動に関する信念が、進路意識にどのような影響を与えるかについて明らかにしたい。なお、
これまでの進路に関する自己効力研究や自我同一性研究において男女差の有無に焦点を当てたものが
多いため、分析は全体のものと男女別のものを行うことにする。