問題と目的
Bandura.A(1977)は、自己効力感を 「自分がどの程度の行動に対する可能性や自信を持っているのかを認識していること。」とした。また、自己効力感が得られれば、行動への不安や恐れが弱まり、行動に対して積極的に取り組めるようになるということわかっている。このことから、身近に迫った将来に関して不安を抱いたり、難しい課題に取り組んだりすることの多い大学生や社会人などの大人(またはもうすぐで成人する年代の者)にとって、自己効力感は、前向きに生きていくために必要なものだと考える。
筆者は、「誉める」ということは一切されず、悪いところをひたすら指摘されるという経験をした。その頃の筆者は、慣れない環境での生活によるストレスを抱え、自信をなくし、意欲をなくしかけていた。この経験から、やはり、人から誉められることや認められることは、その人がその後、意欲的に行動したり、物事をプラス思考で考えたりすることに必要なことではないか、と強く感じた。このことから、誉められることは、自己効力感の形成に何らかの影響を及ぼすのでは、と考えた。
Banduraが挙げる自己効力感に影響を及ぼす4つの要因の中に、実際に成功したり、達成したりしたことのある経験、制御体験(inactive mastery experience)。成功できると思わされるような言語による励ましやどのようにしたらできるかなどの情報、 言語的説得(verbal persuasion )。などがある。これらは、『自分にはできる』という自己効力感を促す。私は、後者の言語による励ましには「誉めること」も含まれると考える。
そこで、本研究では、小学生や中学生に比べ、人から誉められる機会に遭遇することが少ないように思われる大学生を対象に、既に解決した悩みや現在も続いている悩みについてうまくいった経験(制御体験)を記述させ、さらに、否定的な面よりも肯定的な、解決している、うまくいっている側面に焦点を当てるという姿勢で臨む SFA(解決焦点化アプローチ)の技法のひとつで、被験者の持つ問題において、既にうまくいっていることを引き出して誉めるときに有効である、 コーピング・クエスチョン(本来、クライエントの置かれた状況があまりにも深刻で、ポジティブな話が引き出せそうにない場合に用いられるが、カウンセリングの中で、被験者の持つ問題において、既にうまくいっていることを引き出して誉めるときにも有効である。「こんな状況の中で、どうしてそんなことができたんだい。」というような聞き方。)を用いて、大学生が日ごろ受ける機会の少ない誉め(言語的説得…言語による励まし)を行うことで、自己効力感や、悩み・不安に対する意識がどのように変化するのかを検討することを目的とする。
既に解決した悩みや、現在も続いている悩みについて、うまくいった経験(制御体験)を記述させる群を実験群A、さらに、面接で誉める群を実験群B、何も操作を加えない群を統制群とし、制御体験の記述のみでの自己効力感の変化、さらにそれを誉められることでの自己効力感の変化を比較する。
また、実験群Bのうち、現在も続いている悩みについて書いた人をBa、既に解決した悩みについて書いた人をBbとし、面接で「現在も続いている悩みについてのうまくいった経験」を誉める実験群Ba、「既に解決した悩みについてのうまくいった経験」を誉める実験群Bbも同時に比較することとする。
仮説
仮説1
全ての実験群は「自己効力感」が上昇するが、その上昇幅は
実験群Ba>実験群Bb>実験群A
の順になる。
仮説2
全ての実験群は「悩み・不安に対する意識」が向上するが、
その向上の度合いは
実験群Ba>実験群Bb>実験群A
の順になる。