★問題意識と目的&仮説★




どうしてこの研究をしようと考えたのか、これまでの研究でわかっていること 。


☆問題意識と目的


近年の就職状況の厳しさは、大学生の職業的不安を高揚させていると考えられる。また、大学生の職業的不安の背 景には、現代の大学生にみられる職業キャリアの未成熟現象があげられ、将来の職業であるとか、これからの生き 方といった、直接的には進学にリンクしない進路問題は、高等教育段階になるまで先延ばししてしまう状況がある (坂柳1991)。そのため、職業や生き方の問題に対峙した時に支障をきたすものも少なくないという(吉谷1990)。

進路選択・決定についての心理学研究として、わが国では浦上(1995)が進路を選択・決定する過程で必要な行動に
対する遂行可能感を測定する尺度「進路選択に関する自己効力感尺度」を作成しており、浦上は自己効力感育成の 研究も行っているが、その種の研究は非常に少ないという。これまでの蓄積された知見も、実際の進路指導・進路 カウンセリングの場面で十分に活用されているとはいい難い(廣瀬、1998)。

そこで、進路に関する意識の援助方法として、近年注目されている短期療法の一つである解決焦点化アプローチ( solution-focused Approach)に注目してみたい。(以下SFAと記す。)SFAを用いた進路研究においては、手島(2 000)の研究があり、「スケーリングクエスチョン(数直線上のメモリで現在の自分の状態を点数化させることによ り成長を計る基準点を設定するもの)」と「うまく行えていると思うこと>(リソース)を引き出すこと」を用いて 、中学生の進路実現意識(自己対応力、意欲・関心)を向上させる効果があることがすでにわかっている。

さらに、SFAは、クライエントが自分の中からうまくいく方法を探し出し、実行していくことで、「変化の主体は自分にある」、と感じさせ ることができる方法であり、自己効力感に関する研究によると、「変化を自分自身の努力に帰属させるクライエントこそが、効力感を身に つける」(Bandura,1977,1986)とあり、解決焦点化アプローチが効力感を高める効果をもっていると考えられる。また、Bandura(1997)は 自己効力の導かれる情報源のひとつとして、自分である行動を遂行し、課題やそれに必要な遂行行動を達成できたという経験を持つこと(ま たはそのような疑似体験を思い出すこと)を意味する「遂行行動の達成」を挙げており、「リソースを引き出す」という方法からみても、S FAは効力感を高めることにも有効ではないかと考えた。

手島の研究における今後の課題を考慮に入れ、質問紙法ではなく、リソースがじっくり引き出せる、面接法でスケーリングクエスチョンか らうまく行えているところ(リソース)を引き出すプログラムを行い、その操作を行わなかった統制群との、進路実現意識及び進路選択自 己効力感への効果を比較検討することを目的とする。




☆仮説

仮説1
解決焦点化アプローチに基づく実験プログラムを行った実験群は統制群よりも進路選択に関する自己効力感が高まる。

仮説2
解決焦点化アプローチに基づく実験プログラムを行った実験群は統制群よりも進路実現意識が高まる。

仮説3
解決焦点化アプローチに基づく実験プログラムを行った実験群は統制群よりもスケーリングの値が上昇する。