問題と目的





 近年、大学生のファッションに対する興味・関心は一段と高まっているように思われる。
というのも、服飾関連の店舗の増加、ブランド・流行へのファッション意識を促すような
雑誌・広告などの情報が溢れている。そのために学生のファッションは多様化、個性化の
傾向にある。阿部・上野(1999)はファッションの情報源としては約80%の人が『ファッ
ション雑誌』を挙げていることから、女子大生にとって自分のスタイルを決めるのにファ
ション雑誌がいかに重要な役割を担っているかが推測される、としている。

ファッションと言うと、一般的には男性よりも女性の方がファッションに対する意識が高
いと考えられている。藤井(1990)は、ファションの関心度では男子大学生と女子大学生
の間に1%水準で有意差が認められたとしている。しかし、最近では男性のなかでもファ
ッションに対する意識が高くなってきている。菅宮ら(1992)は衣服費が多い男子大学生
ほどファッションに関心があり、おしゃれを楽しんでいる者の比率が高い。また、彼らは
普段着を毎日変え、自分の個性を大事にし、女性や他人の服装への関心を持つ比率が高く
なるとしている。最近では男性用のファッション雑誌や広告が多く、男性にも容姿を気に
する時代である事がよくわかる。それでもまだ女性のファッション意識は高く、そこに影
響するものは大きい。特に、女子大学生は着飾る事があまり出来ない制服で過ごしてきた
高校時代を経て、開放されたキャンパスシーンで自分の嗜好に合った服を身に着けること
が出来るため、ファッションに対する意識は高いといえる。平良(1991)は「女子学生の
ファッションの受容性に関する一考察」で、女子高校生と女子大学生間でファッションの
嗜好性や受容性を比較した結果、日常の服装嗜好イメージにおいて、高校生が、すっきり
して、質素でカジュアル性の高いイメージのものを好んで着用しており、大学生はゆった
りとして、無難なもので、しかもその中に上品さや女らしさを求めた服装を好んでいる、
ということが明らかになった。このことから、大学生になると「女らしさ」を求めている
ことや服装についても女らしいものを選んでいることがわかる。これは青年期(18歳−30
歳)に入り、異性を意識し始め、「自分は女である」というジェンダー(gender)、社会
的・文化的側面から見た性差をファッションを通して表現・実現しようとする意識の生まれ
である。このように性に関連付けて被服に価値を創造する方法は他に次のような事がいえ
る。生物学的側面からみた性差(特に身体的性別や性欲)や男女間の恋心を、被服に付与
したり、被服によって刺激したり、被服を通して表現・実現する方法。例えば、女性にお
いては、胸元の開いた服を着て胸を強調したり、短いスカートをはいて足の露出度を大き
くしたりなどである。そうしたことで、女性は女らしさを表現し、男性に自身をアピール
するのである。それは女性が男性に関心を持ち、服装で男性に表現しようとするからであ
る。よって、ファッションが多様である大学生が「女らしさ」あるいは「男らしさ」を求
めている事はこのような性の理由がつけられることが出来ると考えられる。

 また、大学生は発達段階的に18歳からは男女を意識するため、男女の関係が深まる時期
ではあるが、関係が深まる要因の1つとして、学校での生活スタイルの変化が挙げられる。
高校時代でも男女それぞれが集まったり、行動を共にしたりする事が多いが、授業や学級、
クラブ活動である程度制限して男女が分けられることが多い。一方、大学生はサークルや
クラブ、講義形式等で男女が接する機会が増え、異性の友人が増える。そこから恋愛を意
識し、発展する事もあるだろう。すなわち、高校から大学においては様々なライフスタイ
ルの変化がある。よって女子高校生より女子大学生の方が女性性が高いのである。女性性
とは男性との対人関係の中で生じる女性の「女性であることの意識」という概念である。
青木・松井(1988)は対異性的存在としての女性のあり方に関する意識として女性性(異
性性)を捉えることとし、女性の異性性を測定するために異性性尺度を構成している。

 異性を意識してそれを表現する手段として、また異性を惹きつける手段としてのファッ
ションを考えると、ファッションはノンバーバル〔非言語的〕コミュニケーション(nonv
erbal‐communication;以下N.V.C.と記す)の一手段でもある。私達が身体を使って行
う多数の行動とそれに関する領域を指している。深田(1998)はN.V.C.の特徴を次の様
な6つにまとめてある。
@身体動作:身振り(ジェスチャー)、身体の姿勢、表情、凝視など。身体動作を使った
             コミュニケーションは身体言語(body language)ともいわれる。
A空間行動:対人距離、縄張り、個人空間、座席行動など。
B準言語(paralanguage):言語に付随する声の質(高さ、リズム、テンポ)、声の大きさ、
                          いいまちがい、間のとり方、沈黙など。
C身体接触(bodily contact):触れる、撫でる、叩く、抱く(touching behavior)が含
                              まれる。
D身体的特徴(physical characteristics):体格、体型、体臭、身長、体重、皮膚の色、
                                          毛髪の色など。
E人工品(artifacts):人工品は個人が身につけている品のことで、香水や口紅などの化
                       粧品、服装や眼鏡、ネックレスなどの装飾品を含む。

神山(1996)は人がなぜ衣服を着るのかという着想動機について従来の研究者の立場をいく
つか紹介している。Fluguel(1930)の指摘した「装飾(身体を美化する事)」「慎み(身
体美を隠し、他者の注意を引かないように自制する事)」「身体保護(皮膚を守り、体温を
調節する事)」という3つの側面を明らかにしており、Laver(1932)は人の着装動機につい
て「上下関係の原理(自分が何者であるかを主張する事)」「魅惑の原理(異性の目を引く
ため)」「実用の原理(生活や仕事をよりやりやすくする、より快適にする)」ということ
を示している。被服の情報伝達には6つのメッセージがあると神山は指摘している。@アイ
デンティテイに関する情報、A人格に関する情報、B態度に関する情報、C感情や情動に関
する情報、D価値に関する情報、E状況的意味に関する情報である。このように被服は、そ
れ自体(素材、色彩、デザイン、スタイル等)が持つ象徴的な意味とともに、それが着用さ
れる状況と合わさって、多様な情報を呈示する手段になっている。そしてこの事が、非言語
的コミュニケーションを行う際の重要な道具となり得ている理由でもある。よって、情報伝
達の機能をファッションはこなしているといえる。例えば、好きな人に良く見られたいため
に、外見を気にしてファッションやメイクを意識して行動するというように「人工品(服飾、
化粧関連)」で身体的特徴を呈示したりするのである。

 人間関係においてファッションは自分の心理状況を表現する大切な事である。服装によ
って、自信を持てたり持てなかったりするのである。ファッションはただその人の個性の
主張や身を守ったりするだけではなく、目には見えない心理的な外的刺激からも影響を受
けているのである。特に学生は世代的にも流行や文化・社会現象を創りだす世代であり、
ファッションにおいてもより関心が向けられる時期である。そのような大学生を対象に、
異性の友達の有無と被服行動との関連をみると、男子大学生において、ファッション雑誌
を読まない人は異性の友達のいない人が多く、1ヶ月当たりの被服費も3,000円以下の低い
被服費を示す人が多くなる、と藤井(1990)は明らかにしている。また、菅宮ら(1992)
は男子大学生の着想態度における特徴の一つとして女性に好かれる条件の一つと考える男
子大学生が多いとしている。よって異性を意識すると人はファッションに興味を持ち、流
行に敏感になることが考えられる。また女性は先述した通り、ファッションへの関心は高
いため、異性の友達の有無による有意差はみられないのであろう。
しかし恋愛への関心の有無とファッションが直接関連しているかどうかの先行研究はほと
んど無い。ここでいう恋愛というのは異性の友達がいるかどうかとは異なる。Rubin(1970)
は次のような研究で友人に対する気持ちと恋人に対する気持ちの区別について明らかにし
ている。恋愛相手に対する熱中や独占欲などで構成されている恋愛(love)尺度と相手の
人を高く評価し、尊敬を抱く気持ちを表している好意(like)尺度の2尺度と「自分が恋を
している度合い」や「相手との結婚の可能性」の質問項目を用いて、デート中のカップル
に調査を行ったところ、恋愛尺度で測定された気持ちは恋心や結婚と結びつき、好意尺度
は結びつかず、2つの尺度はそれぞれの心理をうまく分離して測っている事がわかった。
またこの調査で男女差があることがわかり、女性は友人に対する気持ち(好意)と恋人に
対する気持ち(恋愛)を区別しているのに比べ、男性は両者を混同しやすい。このことか
ら女性が周囲の異性をどのように意識しているかによって、ファッションへの関心度は異
なってくるのではないかと考えられる。よって本研究の目的として情報伝達のメッセージ
が恋愛意識で、ファッション意識との関連性を検討していく事を第一の目的とする。

 以上の事から、現代のファッション意識の高い、異性への関心が高まる世代と考えられ
る大学生の恋愛意識(異性に対する恋愛意識)とファッション意識(ファッション行動と
ファッション情報への関心)を調査し、恋愛とファッションの関連性を見ていき、ファッ
ション意識が恋愛意識によって変化するのかどうか検討していく。

本研究の仮説を以下に示す。


[仮説1]:恋愛意識が高いと、自分の身体的特徴を相手に提示したいと思うために、ファ
ッション行動が伴い、よってファッションに関する情報を手に入れようとするため、ファ
ッション情報への関心が高い。

[仮説2]:男子大学生より、女子大学生の方が恋愛意識、ファッション意識はともに高い。

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