考 察 


パーソナリティ認知構造

初対面場面におけるパーソナリティ認知構造を検討するために、本研究で設定した6つの初対面場面と6人の刺激人物を組み合わせた36通りの質問紙上で評定させたパーソナリティ評定尺度のデータを因子分析した。
その結果、「力本性」、「社会的望ましさ」、「個人的親しみやすさ」の3因子が抽出された。このことは、初対面場面においても、対人認知基本3次元である「力本性」、「社会的望ましさ」、「個人的親しみやすさ」が見出されることが示された。これらの因子は、廣岡(1990)と同様のものであり、また、林(1978)と類似したものであるので、非常に信頼性が高く、安定したパーソナリティ認知構造であるということが示された。

初対面場面と刺激人物が対人認知に及ぼす影響

初対面場面と刺激人物がパーソナリティ認知構造に及ぼす影響を検討するために、「力本性」、「社会的望ましさ」、「個人的親しみやすさ」全ての因子における初対面場面(6)×刺激人物(6)の2要因分散分析を行った。その結果、刺激人物の主効果が有意であった。このことから、本研究で設定した刺激人物が、認知者がパーソナリティ評定を行う際の大きな規定因となったと考えることができる。
また、「個人的親しみやすさ」、「社会的望ましさ」の因子において、初対面場面と刺激人物の交互作用が有意であったことは注目すべき点である。これは、廣岡(1990)と部分的に一致する結果であり、「交互作用論」(Bower,1973)の理論を支持するものであると考えられる。つまり、人と人とが出会う初対面場面において、被認知者の要因は確かに大きな影響があるが、どのような場面において出会ったのかということもパーソナリティ認知に影響をもたらしていると考えられる。

仮説の検討

(1)仮説1について

仮説1について検討するために、6人の刺激人物において、6つの初対面場面を独立変数に、パーソナリティ評定尺度の因子分析結果から得られた各因子の因子得点を従属変数として1要因の分散分析を行った。その結果、「力本性」因子では、どの刺激人物においても有意な差はみられなかった。
「個人的親しみやすさ」因子では、刺激人物U(親密性高・対人関係期待低)、刺激人物V(親密性低・対人関係期待高)、刺激人物W(親密性低・対人関係期待低)、刺激人物X(統制人物)において有意な差がみられた。また、「社会的望ましさ」因子では、刺激人物U(親密性高・対人関係期待低)、刺激人物Y(統制人物)において有意な差がみられた。6人の刺激人物全てに対して有意な差はみられなかったので、仮説1が支持されたとは言えないが、個々の刺激人物において部分的にではあるが、有意な差がみられたため、仮説1を部分的に支持する結果が得られたと言える。

(2)仮説2について

仮説2を検討するために、刺激人物ごとに、パーソナリティ評定尺度の因子分析結果から得られた3つの因子をそれぞれ従属変数とし、初対面場面を独立変数とした1要因の分散分析を行った。
 仮説2については、「社会的望ましさ」因子において、刺激人物U(親密性高・対人関係期待低)の初対面場面Dの「道ばた」場面と初対面場面Eの「長期アルバイト」場面の間に有意な差がみられた。これは、3つの次元それぞれに対応した場面において、それぞれのパーソナリティ特性の得点が高くなるという点では仮説2を支持するものではなかった。しかし、大学生の対人関係において同じ刺激人物のパーソナリティ特性であっても、重要度の高い場面の方が、重要度の低い場面よりも高く感じられるという仮説とは全く逆の結果を示すものであった。
刺激人物U(親密性高・対人関係期待低)の「個人的親しみやすさ」因子においても同様の結果が得られた。これらの結果が得られた理由として、大学生の対人場面の中で重要度の低い場面においては、その場限りのつきあいであることが認知者の中で強く意識され、被認知者に対してポジティブな認知をしやすいのではないか、ということが考えられる。

  
性差について

本研究において仮説には含まれてはいないが、性の要因に関しても検討を行った。
しかし、どの分析においても性の要因は有意な結果はみられなかった。
これは、設定した場面が初対面場面であり、刺激人物と認知者が同性であるという設定であるので、出会いの場面では両者ともに友人になるかどうかという枠組みの中で見ていると考えられ、男女間であまり差が見られなかったのではないかと考えられる。本研究においては、出会いの場面に焦点をあてて検討したので明確なことは述べることはできないが、対人関係の発展を追っていくことでもう少し性の要因について検討していくことができるのではないかと考えられる。また、刺激人物と認知者は同性という設定にしているので、さらに異性の設定も加えて検討をしてみることで対人認知に性の要因がどのように影響するのかを考えることができると思われる。

総合考察

本研究において、初対面場面におけるパーソナリティ認知には、被認知者の要因が大きな影響をもたらしていることが示されたが、初対面場面と被認知者の交互作用も確認されており、初対面場面という状況的要因が、パーソナリティ認知に少なからず影響をもっていることが示唆された。
 また、本研究における刺激人物は、他者に対する親密性、認知者に対する関係期待という2つの側面から設定されたが、初対面場面によって他者に対する親密性に焦点を当てて対人認知を行っていたり、関係期待に焦点を当てて対人認知を行っているのではないか、ということが考えられた。今後、認知者の持っている対人関係期待という側面についてさらに深く検討することで対人認知に対する新たな視点が得られるのではないかと考えられる。


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