[問題と目的]



自己開示について
開示抵抗感
自尊感情について
自己開示に対する状況要因
目的



[問題]

 人は本来的には、人は他者と過ごす中で、自分の抱く問題に整理をつけ、楽に生きていくと考えられる。しかし、小此木(1984)や小塩(2002)の研究によって、青年たちの内に、他者とともに過ごしていながら、自分の悩みや内面性の高いことを語らず、他者との間にサポートを受けサポートをするというような深い関係性を持たない事態が指摘されている。これは昨今耳にする現代の青年の関係性の希薄さを指すものと考えられる。Altman&Taylor(1973)は、他者との関係性を形成したり、維持したりする自己開示の機能を指摘しているが、問題となっている他者との関係性の希薄さには、自己開示に関わる問題の存在を予想できる。
 本研究では、関係性が希薄だとされる現代青年がより自分について他者と語り合い、深い関係性を持ってその中で豊かに生きていけるよう、開示を促進させることを長期的な目的とした上で、「なぜ自己開示しないのか」という点に注目して取り組む。






 自己開示の機能について多数の先行研究で検討されている(Jourard,1971.岡堂訳,1974; Chelune,1976; 遠藤,1989 など)。安藤(1986)は開示者の個人内部の心理的過程に関するもの、他者との関係に関するもの を整理し、個人内部に対しては、感情表出、自己明確化、社会的妥当化の機能、他者との関係に対しては 主に、開示者と受け手の双方にとっての報酬機能、社会的コントロール、親密度・プライバシーの調節の機能を あげている。
 自己開示に様々な機能や効果が確かめられているにもかかわらず開示しない状況があるのは、自己開示に 伴うリスクがあるからである。リスクとは例えば、開示することによって、他者に拒否されたり、嫌われたりといったよう なことである。遠藤(1995)は、自己開示は開示する相手に分かってもらいたい、共有してもらいたいという思いと、 拒否されたくない、回避されたくないという思いが拮抗するものであると指摘し、「自己開示とは程度の差こそあれ 抵抗感を伴う自己表出行動の一つである」と定義している。本研究でもこの遠藤(1995)の指摘に則り、自己 開示を抵抗感を伴う自己表出行動の一つであると捉える。








 自己開示への抵抗を研究するものに、遠藤(1995)や片山(1996)が挙げられる。 特に片山(1996)は、自己開示への抵抗の3つの側面を指摘した上で、開示度と抵抗に関する個人内要因として自尊感情を挙げて検討している。自己開示への抵抗の3つの側面とは、
T: 「対自的傷つき」…他者に話すことによって自分自身が傷つくことを示す
U: 「対他印象の低下」…他者との関係において自己の印象が低下することを示す
V: 「無効性」…他者に話すことによって有効な効果があることを否定する
である。これらと自尊感情との関連の検討によって、
 ・ 自尊感情の低い者は「対自的傷つき」が大きい
 ・ 自尊感情が高い者は低い者に比べて「対自的傷つき」は小さく、「対他印象の低下」を予想するときに自己開示への抵抗を感じる
ということを指摘する。
 しかし、対外的には素直で人当たりがよくても実は人と深く関わることに不安を抱く青年像(小此木,1984)もあり、それについて片山(1996)の知見のみでは説明できない場面があり、この点を検討する。








 そもそも個人は様々な側面を持ち、複数の特定領域の自己への重視の仕方、評価の仕方によって自分自身を評価しそれらを包括した全体的な自己についての基本的に価値あるものと感じる感情を自尊感情という。評価の仕方については、Rosenberg(1965)が、自分を「とてもよい(very good)」と考えることと「これでよい(good enough)」と考える考え方があると指摘するように、他者と比較する仕方と、自分自身で設定した願望にどれだけ到達しているかの判断による仕方とがある。このような評価の仕方を捉えると自尊感情は高いか低いかという次元だけではなく、その高さが安定しているか変動しやすいかという安定性の次元があると考えられる(Rhodewalt et al.,1998; Kernis,1993)。つまり、安定した自尊感情とは、日常の出来事や他者の言動に簡単に影響を受けてその高さを動揺させる程度が少ないことを指し、不安定な自尊感情とは、出来事や他者の言動に影響を受けてたやすく自尊感情が高まったり低まったりすることを指す。
 以上より、目的の一つ目として自尊感情を高さと安定性を踏まえて二次元的に捉え、自尊感情と自己開示に対する抵抗との関連を検討する。








 先行研究により、自己開示を抑制、あるいは促進させる要因として状況要因が指摘されている。状況要因とは例えば、被開示者との親密度や開示場所などである(遠藤,1989; Chaikin&Derlega,1974; 大坊・岩倉,1984)。本研究では、
 ・ 親しい友人への自己開示…開示者の日常生活に密接である。
 ・ カウンセラーへの自己開示…日常生活から切り離された場面。開示の機能は個人の内部に果たす機能に集中する。
という二つの状況を設定する。これらはどちらも開示が前提となりうる状況であるが、どちらか一方にだけ開示する、あるいは両方とも開示する、両方とも開示しないという開示度の個人差が予想できる。
 そこで、目的の二つ目として、親しい友人への開示、カウンセラーへの開示という二つの状況において、自尊感情の高さと安定性が両者に対する開示行動をどのように規定するかについての検討を行う。








以下の2点を検討する。
 1. 自尊感情の高さと安定性の二次元と自己開示への抵抗との関連



 2. 二つの状況における自己開示行動と自尊感情の高さと安定性との関連