1. 自尊感情の高さと安定性の関連 2. 自尊感情の高さと安定性と自己開示への抵抗との関連 3. 自尊感情の高さと安定性と開示度との関連 4. 自尊感情4群における開示行動を規定する抵抗について 5. 自尊感情の安定性の測定について |
1. 自尊感情の高さと安定性の関連 自尊感情の高さと安定性の関連を視覚的に確認すると、逆U字の関係が確認された(Fig.1)。 ![]() そこでさらに自尊感情の高さと安定性の関連を検討するために、まず自尊感情の高さ尺度および安定性尺度の各尺度の素点の合計を項目数で割って「高さ得点」、「安定性得点」を算出した。算出した各得点の平均値をもとにH群・L群を設定し、各得点を従属変数とした自尊感情の高さ(高、低)×安定性(安定、不安定)の2要因分散分析を行った。 その結果、高さ得点を従属変数とした分析において高さの主効果(F(1.239)=447.61, p<.01)、安定性得点を従属変数とした分析において安定性の主効果(F(1,239)=337.63, p<.01)、および高さ得点を従属変数とした分析において高さと安定性との間に有意な交互作用(F(1,239)=26.82, p<.01)が見られた(Fig.2, Fig.3)。 ![]() ![]() 高さ得点への高さと安定性による交互作用より、 ・ 自尊感情の高さの次元と安定性の次元は相互に独立的ではない ・ 高さの次元に安定性の次元が作用して自尊感情の高さとなる ということが示された。相互に独立的ではないが、高さと安定性の両者に関連があることを踏まえて自尊感情の二つの次元を組み合わせて自己開示への抵抗との関連を検討する正当性が認められた。 2. 自尊感情の高さと安定性と自己開示への抵抗との関連 @. 抵抗尺度の因子分析結果 親しい友人への自己開示、カウンセラーへの自己開示の二つの状況をあわせて468名分のデータとして因子分析を行った(主因子法、プロマックス回転)。その結果、解釈のしやすさから7因子解を採用した。抽出した因子は以下のとおりである(Fig.4)。 T「否定的評価懸念」: 自己開示することによって相手が自分に対してネ ガティブなイメージを持ったり、その結果自分から離れてしまうのではな いかという懸念 U「対自的傷つき」: 自己開示することで自分自身がその事実やそれに 伴う不安に直面することになり、その挙げ句自分が傷ついて惨めな気 持ちになるだろうという不安 V「不開示の信念」: 悩みごとや悩んでいる姿は人に話したり見せたりす るものではなく、一人で解決する物だという信念 W「理解困難」: 内容が一般的なことでなく、自分も説明しきれず相手に 分かってもらえないのではないかという不安 X「社交的印象低下」: 相手に話すことで自分の悩みに閉じこもって人と つき合うのが下手な人だと思われてしまうのではないかという懸念 Y「聞く態度への懐疑」: 自己開示をするときは相手が親身になって話を 聞いてくれ、悩みの最中にある自分を励ましてくれることを期待するが、 相手はそのような態度を取ってくれるだろうかと疑っている Z「内容些細性」: 話そうとする内容や悩みが大したことではないと感じ、 敢えて話すことへの抵抗 A. 因子分析によって抽出した7つの抵抗の側面を踏まえて、自尊感情の高さと安定性の次元と抵抗との関 連を検討 まず、「親しい友人への自己開示」と「カウンセラーへの自己開示」の二つの状況における抵抗を比較するために、抵抗尺度の素点の合計を項目数(46項目)で割って「抵抗得点」を算出しこれを従属変数とし、被開示者(親しい友人、カウンセラー)を独立変数とした一要因分散分析を行った。 その結果、カウンセラーに対する抵抗の方が、親しい友人に対する抵抗よりも大きいことが分かった(F(1,242)=34.74, p<.01)。二つの状況によって自己開示への抵抗が異なることが示されたことから、各状況ごとに自尊感情の高さと安定性の二次元と抵抗の7つの側面の関連を検討した。抵抗の各因子の素点を項目数で割って下位尺度得点を算出しこれを従属変数とし、自尊感情の高さと安定性を独立変数とした、高さ(高、低)×安定性(安定、不安定)の分散分析を行った。 結果として特に注目する点を述べる。まず、「不開示の信念」について、親しい友人において自尊感情の高さと安定性との間に交互作用傾向が認められた(F(1,239)=3.43, p<.10)。単純主効果検定の結果、自尊感情の低い群における、安定性の効果((低−不)群よりも(低−安)群の方が、より大きな抵抗を持つ)、および自尊感情安定群における高さの効果の傾向((低−安)群は(高−安)群よりも抵抗を大きく持つ)が認められた(F(1,119)=4.320,p<.05;F(1,122)=3.61,p<.10)(Table 5)。 ![]() また、カウンセラーにおいて高さの主効果と(F(1,239)=7.78, p<.01)、交互作用が認められた(F(1,239)=4.58,p<.05)。単純主効果検定の結果、自尊感情の安定群における高さの効果(F(1,122)=12.26,p<.01)、および自尊感情の低い群における安定性の効果傾向(F(1,119)=3.46,p<.10)が認められた。つまり、(低−安)群は(高−安)群よりも「不開示の信念」の抵抗を大きく持つということ、および(低−安)群は(低−不)群よりも大きな抵抗を持つ傾向があるということが示された。ここから、自尊感情が低く安定していることが、悩みや悩んでいる姿は人に話したり見せたりしないものだという抵抗を大きくさせることが分かった(Table 6)。 ![]() また、「対自的傷つき」について、カウンセラーへの開示において交互作用の傾向が見られた(F(1,239)=3.11,p<.10)。単純主効果検定の結果、自尊感情の安定群における高さの効果(F(1,122)=11.52,p<.01)、および自尊感情の高い群における安定性の効果(F(1,120)=4.917,p<.05)が認められた。 つまり、(低−安)群は(高−安)群よりも大きな抵抗を持つということ、および(高−不)群は(高−安)群よりも大きな抵抗を持つということが示された。なお、この「対自的傷つき」には、高さの主効果も認められている(F(1,239)=10.67,p<.01)。ここから、カウンセラーに対して自尊感情が高く安定しているときのみ、自分に対するネガティブな影響を懸念する抵抗は小さい、ということ、自尊感情が高くても不安定であれば、自尊感情が低い者と同様に「対自的傷つき」の抵抗を大きく持つということが分かった。 ![]() B. 親しい友人へとカウンセラーへとどちらにより大きく抵抗をもつかを検討 親しい友人への抵抗得点からカウンセラーへの抵抗得点を引いて「抵抗の差得点」、各因子ごとに「抵抗因子の差得点」を算出しこれを従属変数とし、自尊感情の高さと安定性を独立変数として、高さ(高、低)×安定性(安定、不安定)の分散分析を行った。「抵抗の差得点」および「抵抗因子の差得点」については、得点がマイナスである場合カウンセラーへの抵抗の方が友人への抵抗よりも大きく、得点がプラスであれば友人への抵抗の方がカウンセラーへのていこうよりも大きく、得点が0であれば両者に同程度に抵抗を抱くということを指す。 その結果、「不開示の信念」において高さの主効果傾向が認められた(F(1,239)=3.46, p<.10)。つまり、自尊感情高群が二つの状況に同程度に抵抗を持つのに対し、低群は明らかにカウンセラーへ大きく抵抗を持つということである。ここから、自尊感情が低い者は高い者よりもカウンセラーに対して怖れを抱き、悩みは人に話すものではないという抵抗を大きく持つということが示唆された(Fig.8)。 ![]() 3. 自尊感情の高さと安定性と開示度との関連 @. 親しい友人へとカウンセラーへとどちらにより開示するかの検討 各状況における開示度を問う1項目の素点を「開示度得点」とし、開示度を従属変数に、被開示者(親しい友人、カウンセラー)を独立変数として一要因分散分析を行った。 その結果、カウンセラーへの開示度の方が親しい友人への開示度よりも大きいことが示された(F(1,242)=4.96, p<.05)。各状況によって開示度に差があることが分かり、後続の分析では各状況ごとに自尊感情との関連を検討した。 A. 各状況ごとの自尊感情の高さと安定性のと開示度との関連 親しい友人への開示度、カウンセラーへの開示度をそれぞれ従属変数とし、自尊感情の高さと安定性を独立変数とした、高さ(高、低)×安定性(安定、不安定)の分散分析を行った。 その結果、親しい友人への開示度について交互作用が見られた(F(1,239=3.93, p<.05)。単純主効果検定の結果、自尊感情の低い群における安定性の効果の傾向((低−安)群は(低−不)群よりも開示度が小さい)が見られた(F(1,119)=3.213,p<.10)。 カウンセラーへの開示度については、高さの主効果と(F(1,239)=9.62,p<.01)、高さと安定性の間に交互作用傾向が見られた(F(1.239)=3.73,p<.10)。単純主効果検定の結果、自尊感情の安定群における高さの効果((低−安)群は(高−安)群よりも自己開示度が小さい)、および自尊感情の低い群における安定性の効果の傾向((低−安)群は(低−安)群よりも自己開示度が小さい傾向がある)が認められた。 ここから、自尊感情が低く安定している者の自己開示度の小ささが顕著であることと、またカウンセラーに悩みを話そうとするとき、自尊感情が低い者は慎重に、高い者や、低くても不安定な者はより積極的に開示しようとする、ということが示唆された(Fig.9,Fig.10)。 ![]() ![]() B. 二つの状況によって開示度に差があることと自尊感情との関連の検討 親しい友人への開示度得点からカウンセラーへの開示度得点を引いて算出した「開示度の差得点」を従属変数とし、自尊感情の高さと安定性を独立変数とした、高さ(高、低)×安定性(安定、不安定)の分散分析を行った。 その結果、開示度の差得点に対する高さの主効果(F(1,239)=5.94,p<.05)が認められた。つまり、自尊感情が高い者はカウンセラーへ選択的に開示し、自尊感情が低い者はカウンセラーへも親しい友人へも同程度に開示することが分かった。 ここから、自尊感情の高い者はカウンセラーへの開示に意味があると捉えるが、自尊感情の低い者はそうは思わないということが示唆された。なお、本論文においてカウンセラーへの自己開示というものは、「カウンセラーに自分の悩みを話そうとするとき」を想定したものであり、個々人の持つカウンセリングへのイメージが表れていると見ることも可能であり注意を要する。 4. 自尊感情4群における開示行動を規定する抵抗について @. 自尊感情4群における自己開示への抵抗と開示度との関連 自尊感情の高さ(高、低)と安定性(安定、不安定)による4群ごとに、自己開示への抵抗と開示度との相関を求めた。その結果、群ごとに自己開示への抵抗と開示度との関連が異なることが明らかとなった(Table1)。 ここから、自尊感情の各群ごとに開示を規定する要因を探ることが重要であることが示唆された。後続の分析では、自尊感情の高さと安定性による4群のそれぞれについて分析を行う。 A. 自己開示に伴う抵抗と開示行動との関連 自己開示に伴う抵抗が、実際の開示行動にどのように関連しているかを検討するために、自尊感情の4群ごとに、開示度得点を予測変数とし、抵抗因子の下位尺度得点を説明変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った。結果を以下に示す(Fig.11~Fig.14)。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() これらの結果より特に注目する点として、 ・「不開示の信念」が開示の抑制因となる ・(低−安)群では、新しい友人への「否定的評価懸念」が開示度を促進す る ・(高−安)群では、他yさいんしょうをコントロールする「社交的印象低下」 が開示を抑制し、自分に対するネガティブな影響の懸念は開示を促進さ せる ということが示唆された。 5. 自尊感情の安定性の測定について 自尊感情の安定性の次元を指摘する先行研究では、主に4日から7日間毎日1度か2度自尊感情尺度に評定し、個人内の標準偏差を自尊感情の安定性と捉えている(例えば Kernis, M.H., Cornell, D.P., Sun, C.,Berry,A.,&Harlow,T.,1993, 小塩,2001など)。そこで、調査2を用いてこれらの先行研究を参考に、個人の一日ごとの自尊感情の質問項目10項目を合計したものを項目数で割った「一日の自尊感情得点」を算出した。そしてこのようにして算出した「一日の自尊感情得点」の7日分の得点の分散を算出し、これを個人の「7日間の自尊感情の安定性得点」とした(M=2.13,SD=1.34;最小値0.24,最大値4.95)。この「7日間の自尊感情の安定性得点」と本研究で用いた「安定性得点」が同質の者を測定しているかを確認するために、両者の相関を求めた。 その結果、「7日間の自尊感情の安定性得点」と「安定性得点」とは無相関であることが分かった(r=.17, n.s.)(Fig.15)。 したがって、本研究で自尊感情の安定性として測定したものと、先行研究で扱われている自尊感情の安定性とは自尊感情の安定性の次元の別の側面を測定していることが示唆された。しかしながら、本研究における7日間連続の自尊感情の測定に携わった被験者は17名と少数であり、今一度、より多数の被験者で検討する必要がある。また、本研究で用いる高さと安定性を含んだ自尊感情尺度で測定する安定性と、7日間連続で測定した自尊感情の分散との間に相関が認められないのは、本人の変動の認識が7日間よりも長いスパンでの自分のあり方を捉えている可能性も考えられる。 しかし、自己開示という自尊感情の動揺を予測しうる事態においていかなる行動を決定するかということには、個人が自覚する自尊感情の変動しやすさが大きく関連していると考えられ、本研究で用いた安定性の測定は自己開示への抵抗や開示度との関連を検討する上で重要であると言える。 |