結果と考察


1.自己受容と時間的展望による群分け

2.仮説T:自己受容と時間的展望による4群別の自己成長欲求に関する結果

3.仮説U:自己受容と時間的展望による群別の精神的健康に関する結果

4.自己受容と自己成長欲求の諸側面との関係に関する結果

5.自己受容と精神的健康の諸側面との関係に関する結果





1.自己受容と時間的展望による群分け

 仮説T・Uを検証するために、被調査者を自己受容得点と時間的展望得点の平均点をもとに“受容H・展望H群”、“受容H・展望L群”、“受容L・展望H群”、“受容L展望L群”の4つの群に分けた。
 さらに、4つの群にそれぞれ適当と思われる名前をつけた。“受容H・展望H群”は自己を受け入れ、未来への見通しも持っていることから「自己実現群」と名付けた。“受容H・展望L群”は自己を受容しているが、未来への見通しはもっていないことから、「自己満足群」と名付けた。“受容L・展望H群”は自己は受容していないが、未来への見通しは持っていることから、将来へ向けて心が追い立てられていると考えられ「焦燥群」と名付けた。“受容L展望L群”は、自己を受容しておらず、かつ未来への展望も持っていないことから「あきらめ群」と名づけた。


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2.仮説T:自己受容と時間的展望による4群別の自己成長欲求に関する結果

 自己受容と時間的展望の高低による4つの群ごとに、自己成長欲求得点が異なるかどうかを検討するために、自己成長欲求得点を従属変数、4つの群(自己実現群、自己満足群、焦燥群、あきらめ群)を独立変数とした1要因の分散分析を行った。その結果、4つの群の間に1%水準で有意な差が認められた。さらに詳しく検討するために、Tukey法による多重比較を行った結果、自己満足群と焦燥群の間以外には、すべての群の間に有意な差が見られた。
 つまり、自己実現群は他のどの群よりも自己成長欲求が高く、あきらめ群は他のどの群よりも自己成長欲求が低いことが明らかになった。



 これより、自己を受け入れており、未来に対する見通しも持っている「自己実現群」は、自己をより成長させたいという欲求を他のどの群よりも高く持ち、逆に自己を受け入れておらず、未来に対する見通しを持っていない「あきらめ群」は、自己を成長させたいという欲求が他のどの群よりも低いことが分かった。 しかし、自己受容が高く、時間的展望が低い「自己満足群」と自己受容性が低く、時間的展望は高い「焦燥群」の間に有意な差がみられなかったのは、自己成長欲求の規定要因としての自己受容と時間的展望は、どちらか一方がもう片方よりも自己成長欲求をより大きく規定しているとはいえないということを示唆している。このことから、青年期における自己成長欲求にとっては、自己受容と時間的展望の両方が、同じくらい重要であると考えられる。

 以上のことより、仮説T:「自己実現群」は他のどの群よりも自己成長欲求が高く、「あきらめ群」は他のどの群よりも自己成長欲求が低く、かつ、自己受容性の高い「自己満足群」の方が、自己受容性の低い「焦燥群」よりも自己成長欲求は高い、は前半の一部において、支持された。

 これは、自己受容が高い人は、自分自身を周りの環境と関わる際の安定した基盤とすることができ、自己探索や自己批判に使われていたエネルギーを他へ向けることができるため、高い自己成長欲求を持っていると考えられる。また、時間的展望の獲得によって、より遠くの将来が見通せるようになり、将来像にリアリティが表れはじめると、現在の努力と、時間的展望によって得られた将来像が感覚的に結びつくようになり、そのことが高い自己成長欲求につながっていると考えられる。


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3.仮説U:自己受容と時間的展望による群別の精神的健康に関する結果

 自己受容と時間的展望の高低による4つの群ごとに、精神的健康得点が異なるかどうかを検討するために、精神的健康得点を従属変数、4つの群(自己実現群、自己満足群、焦燥群、あきらめ群)を独立変数とした1要因の分散分析を行った。その結果、4つの群の間に1%水準で有意な差が認められた。さらに詳しく検討するために、Tukey法による多重比較を行った結果、あきらめ群と他のすべての群との間に有意な差が見られた。また、自己実現群と焦燥群の間に有意な差が見られた。
 つまり、「あきらめ群」は他のどの群よりも精神的健康が低く、さらに「焦燥群」は自己実現群よりも精神的健康が低いことが明らかになった。また「自己実現群」は「自己満足群」以外の他の群よりも精神的に健康であった。しかし、「自己実現群」と「自己満足群」、「自己満足群」と「焦燥群」の間には有意差がみられなかった。



 これより、自己を受け入れており、未来に対する見通しも持っている「自己実現群」は、「自己満足群」以外の他の群よりも精神的に健康であった。また、自己を受け入れておらず、未来に対する見通しも持っていない「あきらめ群」は、他のどの群よりも精神的健康が低いことが明らかになった。つまり「焦燥群」と「あきらめ群」は両群ともに自己を受け入れていないが、時間的展望の高い「焦燥群」の方が精神的健康が高いことが明らかになった。

 以上のことより、仮説U:自己受容と時間的展望がともに高い「自己実現群」は他のどの群よりも精神的健康が高く、自己受容性のみ高い「自己満足群」は次に精神的健康が高いだろう。また、自己受容はしていないが、未来への展望は持っている「焦燥群」は、自己を安全基地とすることができないまま未来を築こうとしているため、焦燥の気持ちが強いと予想されそれが精神的健康につながるために、他のどの群よりも精神的に不健康だろう、は支持されなかった。

 自己受容しており、時間的展望も持っている「自己実現群」と、自己受容はしているが時間的展望は持っていない「自己満足群」の間に有意な差が見られなかったのは、一般的に自己受容性の高さは精神的健康の指標とされており、自己受容が高い群においては、精神的健康の規定因としての時間的展望の影響がそう大きくないことが考えられる。
 また「焦燥群」と「あきらめ群」は両群ともに自己受容が低いが、時間的展望の高低によって、時間的展望が高い「焦燥群」よりも時間的展望の低い「あきらめ群」の方が精神的に健康でないという結果であった。これは、自己受容の低い群においては、時間的展望をある程度持っているということが、精神的健康の一つの指標となりうることを示唆している。 やはり、自己受容をしていない人においても、未来への見通しを持たずに、その日その日のために生活している人よりも、未来への展望を持ち、未来へ向けて行動を起こそうとしている人のほうが、精神的に健康であると理解できるだろう。


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4.自己受容と自己成長欲求の諸側面との関係に関する結果

 因子分析の結果抽出された、自己受容の3因子(「自己価値」「自己信頼」「自己理解」)において、それぞれがどのように自己成長欲求に影響を与えているのかを明らかにするために、自己受容性の3因子を説明変数、自己成長欲求得点と自己成長欲求の諸側面を予測変数とする重回帰分析を行った。

@自己受容の諸側面が“自己成長欲求”全体に与える影響について
 重回帰分析の結果“自己成長欲求”全体は、自己受容性の側面における「自己価値」より中程度の正の影響(β= .45 p< .01)を「自己信頼」より中程度の正の影響(β= .54 p< .01)を受けていることが明らかになった。つまり、自分の価値を確信していることや、自己の可能性に信頼をよせることが、自己を成長させたいと思う欲求全体を向上させることが明らかになった。
 つまり、自己の人間的な価値を確信していることや、自分自身や自己の可能性に信頼をよせ、自信を持っていることが、自己を成長させたいとする欲求を高めることにつながっていることが明らかになった。
 以下は、自己受容の3因子からの自己成長欲求への影響をさらに詳しく検討するため、自己受容の3因子から自己成長欲求の2因子への影響を検討したものである。

A自己受容の諸側面が自己成長欲求の“成長動機”に与える影響について
 自己成長欲求の“成長動機”は自己受容の「自己価値」より弱い正の影響(β= .14 p< .05 )を、「自己理解」より弱い正の影響(β= .31 p< .05)を受けていることが明らかになった。つまり、自分の価値を確信していることや、自分のことを理解していると感じることが、自分自身をより成長させようとする動機につながることが明らかになった。しかし「自己理解」からの影響はごく小さかった。
 これは、自分を冷静に見つめ、自分の特徴について分かっていると感じると、自分の欠点や、長所が見えやすくなると考えられ、自分の欠点をなおそうと考えたり、長所を更に伸ばそうと考えるなど、具体的な自己成長欲求へとつながっていることが考えられる。
 「自己理解」からの影響がごく小さかったのは、自分の人間的な価値を確信することにより、現在の自己の状態を、今のままでも十分価値があると感じることから、さらに自分を高めようとする気持ちへとつながりにくかったためと考えられる。  また「自己信頼」は“成長動機”に影響を与えていなかった。これは、自分の可能性に信頼をよせて現在の自分に自信を持っているために、現在の自分をさらに高めようとする動機につながりにくかったと考えられる。

B自己受容の諸側面が自己成長欲求の“現実向上”に与える影響について
 自己成長欲求の“現実向上”は自己受容の「自己価値」から弱いの影響(β= -.15 p< .01)を受けていることが明らかになった。つまり、自分の価値を確信していることは、自己を高めようとする態度を低めることが明らかになった。
 これは、自分の人間的な価値を確信することによって、現在の自己の状態を今のままでも十分価値があると感じ、実際に自己を高める態度を持ちにくくさせていることが考えられる。

 また、"現実向上"は「自己信頼」から弱い正の影響(β= .34 p< .01)を、「自己理解」から弱い正の影響(β= .23 p< .05)を受けていることが明らかになった。つまり、自己の可能性に信頼をよせることや、自分のことを理解していると感じることが、現実に自己を高めようとする態度を高めることが明らかになった。
 これは、自己の可能性を信頼し自信を持つことにより、自分が行動すれば、きっと何かを成し遂げることができると信じているために、現実に自己を高めようとする行動につながっていると考えられる。また、自己に冷静な目を向け、自分のことを理解できていると感じることが、自分の欠点や長所を見えやすくさせるため、そのことが欠点をなおしたり、長所を伸ばそうとするような、現実に自己を高めようとする態度につながると考えられる。




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5.自己受容と精神的健康の諸側面との関係に関する結果

 自己受容の3因子(「自己価値」「自己信頼」「自己理解」)において、それぞれがどのように精神的健康に影響を与えているのかを明らかにするために、自己受容性の3因子を説明変数、精神的健康得点と精神的健康の諸側面を予測変数とする重回帰分析を行った。

@自己受容の諸側面が“精神的健康”全体に与える影響について
 重回帰分析の結果“精神的健康”全体は、自己受容性の側面における「自己価値」より強い正の影響(β= .82 p< .01)を「自己理解」より中程度の正の影響(β= .54 p< .01)を受けていることが明らかになった。つまり、自己の価値を確信していることや、自分のことを理解していると感じることが、精神的な健康全体を高めることが明らかになった。
 これは、自分を価値のある人間として確信することにより、自分の存在に対して肯定的な気持ちを持つことが出来るようになり、自分自身に肯定的であることが、精神的な健康に強く影響していると考えられる。このことから、精神的に健康であることに対して、自分の価値を確信し、自己に肯定的な感情を持っていることはとても重要な要因であることが示唆された。  また、自己に冷静な目をむけ、自分のことを理解していると感じることが、精神的健康全体に影響を与えていることから、自分のことを客観的に捉え、自己の欠点や長所について、冷静に把握していると感じることが、現実にそぐわない極端な自己卑下や自己否定をふせぎ、結果的に精神的健康を高めることにつながることが示唆された。
 しかし、“精神的健康”全体は「自己信頼」より影響を受けていなかった。つまり、自分自身や自らの可能性を信頼し、自信を持っていることが精神的健康にはつながらないことが明らかになった。

 以下は、自己受容の3因子から精神的健康への影響をさらに詳しく検討するため、自己受容の3因子から精神的健康の3因子への影響を検討したものである。

A自己受容の諸側面が精神的健康の“心の余裕”に与える影響について
 精神的健康の“心の余裕”は「自己価値」より弱い正の影響(β= .28 p< .01 )を、「自己信頼」より弱い正の影響(β= .10 p< .05)を、「自己価値」より弱い正の影響(β= .30 p< .05)を受けていることが明らかになった。つまり、自分の価値を確信していることや、自分の可能性を信じること、自己のことを理解していると感じることが、心の余裕を高めることが明らかになった。しかし「自己信頼」からの影響はごく小さいものであった。
 これは、自分の人間的な価値を確信していることにより、例え困難が起きた場合であっても、自分の人間的価値への確信が大きくゆるいだりせず、またそのことが安定した自己概念にもつながっていると考えられ、そのことにより心の余裕を持ち続けることが考えられる。また、自己に冷静な目をむけ、自分のことを理解していると感じることも、自己概念の安定を示すと考えられる。そのことが心の余裕につながっているのではないかと考えられる。

B自己受容の諸側面が精神的健康の“自己表明”に与える影響について
 精神的健康の“自己表明”は「自己価値」から弱い正の影響(β= .11 p< .05)を、「自己信頼」から弱い正の影響(β= .27 p< .01)を受けていることが明らかになった。つまり、自分の価値を確信していることや、自分の可能性を信頼することが、非難や反感をおそれずにありのままの自己を表明する態度を高めることが明らかになった。
 これは、自分の人間的な価値を確信していると、例え自己表明したことにより非難や反感を受けた場合でも、自己の価値がそれによって揺らぐことはないと信じることができるため、非難や反感を恐れないありのままの自己表現ができると考えられる。また、自分自身や自分の可能性を信頼し、自信を持っていることが、他者に対する言動にも自信を持たせ、また他者から非難や反感を受けても、自分の持つ自信がゆらぐことはないと考えられるため、そのことが非難や反感を恐れない自己表明につながると考えられる。

C自己受容の諸側面が精神的健康の“向上心”に与える影響について
 精神的健康の“向上心”は、「自己信頼」から弱い正の影響(β= .31 p< .01)を受けていることが明らかになった。つまり、自分の可能性を信頼していることが、自分にしかできないことをしようとしたり、情熱を持って何かに取り組もうとするような向上心を高めることがあきらかになった。
 これは、自分の可能性を信頼し、自身を持つことが、自分の行動によって何かを成し遂げることが出来るということへの確信につながり、自分にしかできないことをしたり、情熱を持って何かに取り組むというような行動へとつながっていると考えられる。




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