本研究では、「評価過敏性」を測定する項目を含む新たな自己愛尺度の作成を試みた。因子分析の結果、「評価過敏性」項目は下位尺度としてまとまり、「誇大性」「評価過敏性」「注目欲求」「対人恐怖」の4下位尺度からなる自己愛尺度が構成された。ここで得られた下位尺度間の相関をみたところ、「誇大性」と「評価過敏性」は無相関であり、Gabbard(1994)の記述やWink(1991)の結果に一致していた。このことから、「誇大性」と「評価過敏性」によって自己愛的な者を捉えることはまた、妥当であると考えられる。クラスタ分析の結果を見ると、「評価過敏群」が比較的高い誇大性を示しており、評価過敏性を特徴とする自己愛が、誇大性を伴っていることが示唆された。理論的な指摘と本研究において得られたこれらの結果をあわせて考えると、自己愛傾向の前提は「誇大性」であり、「評価過敏性」の強さによって「周囲を気にかけない自己愛人格」と「周囲を過剰に気にかける自己愛人格」を両極とする軸上に位置づけられる一軸上に位置づけることができる可能性が示唆された。一方で「対人恐怖」は「誇大性」と弱い負の相関関係にあることが示された。ここから、対人恐怖心性と評価過敏性は弁別されるべき概念であること、対人恐怖心性は自己愛の下位分類を規定する要素ではないことが伺えた。
NPIを用いて被験者の分類を行った先行研究(小塩, 2002; 清水ら, 2002)では、NPI総得点の高さが自己愛的であることの前提条件とされ、それにもう1つの要因(対人恐怖心性や注目・賞賛欲求)を組み合わせることによって分類が行われている。しかし、NPI得点が高い、ということの意味は曖昧であり、「もう1つの要因」も理論的指摘に照らし合わせると、妥当なものではないと考えられた。それに対し、「誇大性」の高さによって自己愛を定義することは理解しやすい。また、自己愛を「自己評価を維持する機能の一つ」とする立場からは、「誇大性」は自己愛が機能していることの現れであると捉えられ、この見方は妥当であると考えられる。
本研究では、「注目欲求」が「誇大性」「評価過敏性」の両方と正の相関関係にあることも示された。岡田(1999)は注目・賞賛欲求について、自分自身についての堅固な高い自己評価に基づくものではなく、むしろ他者からの否定的評価によって容易に覆されてしまう不安を伴ったものであるとしていたが、本研究で示された結果からは、注目欲求が2つの意味を持つことが示唆される。すなわち、評価過敏性を特徴とする自己愛傾向の者における注目欲求は不安を伴い、誇大性を特徴とする(評価過敏性を持たない)自己愛傾向の青年における注目欲求は、堅固な自己評価、あるいは自信に基づくものであるといえるだろう。
最後に作成されたモデルは、これまでの研究の知見や本研究で得られた結果を包括して作成されたものである。このモデルから、誇大性は直接的には対人恐怖心性に対し負の影響力を持つが、注目欲求を介することで正の影響を持ちうることが示された。このモデルは、自己愛傾向と対人恐怖心性に関する議論に対し、重要な示唆を与えるものであると考えられる。
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