結果
1.各尺度の検討
(1)曖昧さ耐性尺度
本研究で用いた曖昧さ耐性尺度全24項目は、増田(1998)において、Norton(1975)が作成した曖昧
さ耐性尺度(MAT-50)の邦訳61項目に対して因子分析を行ない、初期解において第1因子に負荷量
の高かった24項目だけを用いたものである。よって、因子分析は必要がないと考えたため行なわな
かった。信頼性係数を求めたところ、項目10「明確な議題があれば、会議はうまくいくものだ」
が.0300と極端に低かったため、この項目を削除した。23項目全体の信頼性係数は.8044であった。
曖昧さ耐性尺度の平均値は2.87、標準偏差は1.291であった。
(2)絶望感尺度
本研究で用いた絶望感尺度全22項目に対して、因子分析(主因子法・バリマックス回転)を行った。
初期因子解として3因子が抽出されたが、スクリープロットから1因子と考えられたこと、
1因子の累積寄与率が40.3と高かったこと、複数の因子に負荷量が高い項目が多かったこと、
因子ごとの項目内容に違いがみられなかったこと、本研究の問題と目的から複数の因子に分けて考える
必要性がなかったことから、因子数を1に固定し、再度因子分析(主因子法)を行ったところ、
1因子の累積寄与率は42.337であった。本研究では先行研究の項目に加え、困難なこと
があって
も未来に希望をもち、全体的にポジティブに生きていくために大切だと思っているこ
とを独自に項目として作成し、絶望感尺度の反転項目として付け加えた。それらは「17.将来、
困難なことがあっても乗り越えていけると思う」「21.私は自分の人生を肯定して生きていくことが
できるだろう」といった4項目(項目6・9・17・21)であるが、4項目とも高い負荷量がみられた。
よって、これら4項目を含む絶望感尺度全22項目
を「絶望感」因子と命名した。全項目の信頼性係数は.9326であった。 絶望感尺度の平均値は1.988、標準偏差は0.856であった。
(3)悩みの自己開示尺度
本研究で用いた悩みの自己開示尺度全24項目に対して、因子分析(主因子法・バリマックス回転)
を行った。初期因子解として5因子が抽出されたが、スクリープロットから5因子とは捉え難かった
こと、複数の因子に負荷量が高い項目が多数あったことから、4因子に固定して再度因子分析
(主因子法・バリマックス回転)を行った。その結果4因子が項目20のみであったことから、
3因子に固定して再度因子分析(主因子法・バリマックス回転)を行った。回転後の因子負荷量が
0.40に満たない項目6.15と因子1と因子2に0.40以上の同程度の高い負荷がみられた項目11を
除き、再度3因子で因子分析(主因子法・バリマックス回転)を行った。
第1因子は「16.友人、恋人などと、けんかをしたことについて」「7.日常生活の中でゆううつな
沈んだ気分になるようなことについて」といった対人関係や日常生活での情緒面の項目から成って
いたため「対人関係・日常生活」と命名した。第2因子は、「21.将来の進路や就職が困難なことに
ついて」「8.勉強とクラブまたはアルバイトなどとの両立が困難なことについて」といった人生
や進路、就職、勉強の項目から成っていたため「人生・進路・勉強」と命名した。第3因子は
「両親が無理解なことについて」「19.家族に関する心配事について」といった家庭や家族の項目
から成っていたため「家庭・家族」と命名した。累積寄与率は42.745であった。全項目の信頼性
係数は.8865で、因子1の「対人関係・日常生活」は.8667、因子2の「人生・進路・勉強」は.7841、
因子3の「家庭・家族」は.7972であった。
悩みの自己開示尺度全項目の平均値(標準偏差)は2.474(0.946)、「対人関係・日常生活」因子、
「人生・生活」因子、「家族・家庭」因子の平均値(標準偏差)はそれぞれ2.545(0.94)、2.48(0.951)
、2.204(0.901)であった。
(4)悩みの被開示者の反応尺度
本研究で用いた悩みの被開示者の反応尺度10項目に対して、因子分析(主因子法・バリマックス回転)
を行ったところ2因子が抽出され、累積寄与率は65.06と高かった。
第1因子は「2.ただうなずくだけだった」「6.全く他人事のような返事をされた」など非受容的
反応の項目であったため「非受容的反応」と命名した。第2因子は「1.最後まで時間をかけてきいて
くれた」「10.親身になってくれた」など受容的な反応の項目であったため「受容的反応」と命名した。
全項目の信頼性係数は.8849で、因子1は.8377で、因子2は.8579であった。「非受容的反応」
因子は反転項目として扱い、値の置き換えを行なってその後の分析に用いた。
悩みの被開示者の反応尺度全項目の平均値(標準偏差)は3.399(0.834)、「非受容的反応」因子、
「受容的反応」反応因子の平均値(標準偏差)はそれぞれ3.166(0.874)、3.432(0.77)であった。
この尺度はどれも平均値が高く、標準偏差にも偏りがみられ、
問題点はある。しかし、偏りのある項目を削除すると項目数が極端に減るため、偏り
があることを心に留めておき、この尺度をその後の分析に用いることにした。
2.各尺度間の相関
各尺度のピアソンの相関係数を求めた結果、
悩みの自己開示と絶望感との間に有意な負の相関(r=-.182, p=<.01)がみられた。
また、悩みの被開示者の反応と絶望感との間に有意な負の相関(r=-.258, p<.01)、
曖昧さ耐性と絶望感との間に有意な負の相関(r=-.350, p=<.01)、悩みの自己開示と被開示者
の反応との間
に有意な正の相関(r=.295, p<.01)がみられた。
3.男女別の各尺度間の相関
(1)女性における各尺度の相関
女性における各尺度のピアソンの相関係数を求めた結果、悩みの自己開示と絶望感との間に有意な負の相関(r=-.183, p=<.05)がみられた。
また、悩みの被開示者の反応と絶望感との間に有意な負の相関(r=-.417, p<.01)、
曖昧さ耐性と絶望感との間に有意な負の相関(r=-.319, p<.01)、悩みの自己開示と被開示者の
反応との間に有意
な正の相関(r=.388, p<.01)がみられた。
(2)男性における各尺度の相関
男性における各尺度のピアソンの相関係数を求めた結果、悩みの自己開示と絶望感との間に有意な負の相関(r=-.441, p=<.01)がみられた。その他
の尺度間には相関はみられなかった。
4.各尺度の性差
曖昧さ耐性、絶望感、悩みの自己開示、悩みの被開示者の反応においてそれぞれ性差
があるかどうかを検討した。
性別を独立変数、各尺度値を従属変数とするt検定を行った。
(1)曖昧さ耐性尺度
曖昧さ耐性得点を従属変数としt検定を行った結果、(t=1.424, n.s.)で有意では
なかった。
(2)絶望感尺度
絶望感得点を従属変数としてt検定を行った結果、絶望感の性差は(t=.949,n.s.)で有意では
なかった。
(3)悩みの自己開示尺度
悩みの自己開示得点を従属変数としてt検定を行った結果、悩みの自己開示の性差は(t=-2.909,
p<.01)で有意であった。
(4)悩みの被開示者の反応尺度
悩みの被開示者の反応得点を従属変数としてt検定を行った結果、悩みの被開示者の
反応の性差は(t=-2.678, p<.01)で有意であった。
5.曖昧さ耐性と悩みの自己開示が絶望感に及ぼす影響についての検討
(1)2要因分散分析
曖昧さ耐性得点がその平均値より低い者をL群、高い者をH群に分けた。同様に、悩みの
自己開示得点がその平均値より低い者をL群、高い者をH群に分けた。以上のような手続
きの後、曖昧さ耐性得点(L群・H群)と悩みの自己開示得点(L群・H群)を独立変数、
絶望感を従属変数とする2要因分散分析を行なった。
その結果、曖昧さ耐性の主効果(F(1,222)=29.236, p<.001)、悩みの自己開示の主
効果(F(1,222)=8.374, p<.005)、曖昧さ耐性と悩みの自己開示の交互作用(F(1,222)=7.841,
p<.01)が有意であった。交互作用がみられたため、具体的にどこに差があるのかをt検
定によって求めた。
(2)多重比較
曖昧さ耐性(L群・H群)と悩みの自己開示(L群・H群)を組み合わせてLL、LH、
HL、HHの4群をつくった。
それら4群を組み合わせて、絶望感を従属変数とするt検定を行なった。
(1)LL群とHL群
LL(曖昧さ耐性が低く、悩みの自己開示が少ない)群とHL(曖昧さ耐性が高く、悩みの自己開示が多い)群の差(t=5.732, p<.01)は有意であった。絶望感得点
はHL群よりLL群の方が有意に高かった。
(2)LH群とHH群
LH(曖昧さ耐性が低く、悩みの自己開示が多い)群とHH(曖昧さ耐性が高く、悩みの自己開示が多い)群の差(t=1.870, p<.07)は有意傾向であった。絶望感得点はHH群よりLH群の方がやや高かった。
(3)LL群とLH群
LL群とLH群の差(t=3.950, p<.01)は有意であった。絶望感得点はLH群よりLL群の方が有意に高かった。
(4)HL群とHH群
HL群とHH群の差(t=.068, n.s.)は有意ではなかった。
6.曖昧さ耐性と悩みの自己開示が絶望感に及ぼす影響についての性差の検討
(1)女性における曖昧さ耐性と悩みの自己開示が絶望感に及ぼす影響
@2要因分散分析
女性被験者を対象にして、曖昧さ耐性得点がその平均値より低い者をL群、高い者をH群に分け
た。同様に、悩みの自己開示得点が平均値より低い者をL群、高い者をH群に分けた。
以上のような手続き後、曖昧さ耐性得点(L群・H群)と悩みの自己開示得点(L群・H群)を
独立変数、絶望感を従属変数とする2要因分散分析を行なっ
た。
その結果、曖昧さ耐性の主効果(F(1,155)=19.702, p<.001)、悩みの自己
開示の主効果(F(1,155)=6.794, p<.05)が有意であった。曖昧さ耐性と悩みの自己開示
の交互作用(F(1,155)=3.472, p<.07)が有意傾向であった。主効果が有意傾向であった
ため、具体的にどこに差があるのかをt検定によって求めた。
A多重比較
曖昧さ耐性(L群・H群)と悩みの自己開示(L群・H群)を組み合わせてLL、LH、HL
、HHの4群をつくった。
それら4群を組み合わせて、絶望感得点を従属変数とするt検定を行なった。
(1)LL群とHL群
LL(曖昧さ耐性が低く、悩みの自己開示が少ない)群とHL(曖昧さ耐性が高く、悩
みの自己開示が少ない)群の差(t=4.049, p<.01)は有意であった。絶望感得点は、L
L群よりLL群の方が有意に高かった。
(2)LH群とHH群
LH(曖昧さ耐性が低く、悩みの自己開示が多い)群とHH(曖昧さ耐性が高く、悩み
の自己開示が多い)群の差(t=2.002, p<.05)は有意であった。絶望感得点はHH群よ
りLH群の方が高かった。
(3)LL群とLH群
LL群とLH群の差(t=3.211, p<.01)は有意であった。絶望感得点はLH群よりLL
群の方が有意に高かった。
(4)HL群とHH群
HL群とHH群の差(t=.518, n.s.)は有意ではなかった。
(2)男性における曖昧さ耐性と悩みの自己開示が絶望感に及ぼす影響
@2要因分散分析
男性被験者を対象にして曖昧さ耐性得点がその平均値より低い者をL群、高い者をH群
に分けた。同様に悩みの自己開示得点が平均値より低い者をL群、高い者をH群に分けた
。以上のような手続き後、曖昧さ耐性得点(L群・H群)と悩みの自己開示得点(L群・H群
)を独立変数、絶望感を従属変数とする2要因分散分析を行なった。
その結果、曖昧さ耐性の主効果(F(1,63)=7.319, p<.01)が有意であった。悩みの自己開示の主効果(F(1,63)=1.083, n.s.)が有意ではなかった。曖昧さ耐性と悩みの自己開示の交互作用(F(1,63)=3.888, p<.06)が有意傾向であった。交互作用が有意傾向であったため、具体的にどこに差があるのかをt検定によって求めた。
A多重比較
曖昧さ耐性(L群・H群)と悩みの自己開示(L群・H群)を組み合わせてLL、LH、HL、
HHの4群をつくった。
それら4群を組み合わせて、絶望感を従属変数とするt検定を行なった。
(1)LL群とHL群
LL(曖昧さ耐性が低く、悩みの自己開示が少ない)群とHL(曖昧さ耐性が高く、悩みの自己開示が少ない)群の差(t=4.091, p<.01)は有意であった。絶望感は、HL群よりLL群の方が有意に高かった。
(2)LH群とHH群
LH(曖昧さ耐性が低く、悩みの自己開示が多い)群とHH(曖昧さ耐性が高く、悩
みの自己開示が多い)群の差(t=0.423, n.s.)は有意ではなかった。
(3)LL群とLH群
LL群とLH群の差(t=1.92, p<.07)は有意傾向であった。絶望感は、HL群よりLL
群の方がやや高かった。
(4)HL群とHH群
HL群とHH群の差(t=-0.73, n.s.)は有意ではなかった。
7.悩みの自己開示と悩みの被開示者の反応が絶望感に及ぼす影響についての
検討
(1)2要因分散分析
悩みの自己開示得点がその平均値より低い者をL群、高い者をH群に分けた。同様に
、悩みの被開示者の反応得点が平均値より低い者をL群、高い者をH群に分けた。以上のような手
続きの後、悩みの自己開示得点(L群・H群)と悩みの被開示者の反応得点(L群・H群)を独立
変数、絶望感を従属変数とする2要因分散分析を行なった。
その結果、悩みの自己開示の主効果(F(1,216)=2.641, n.s.)が有意ではなかった。悩みの被開示者の反応の主効果(F(1,216)=11.136, p<.005)が有意であった。悩みの自己開示と悩みの被開示者の反応の交互作用(F(1,216)=.404, n.s.)が有意ではなかった。交互作用が有意ではなかったが、主効果が有意であったため、具体的にどこに差があるのかをt検定によって求めた。
(2)多重比較
悩みの自己開示(L群・H群)と悩みの被開示者の反応(L群・H群)を組み合わせてL
L、LH、HL、HHの4群をつくった。
それら4群を組み合わせて、絶望感を従属変数とするt検定を行なった。
(1)LL群とHL群
LL(悩みの自己開示が少なく、悩みの被開示者からの反応が非受容的)群とHL(悩
みの自己開示が多く、悩みの被開示者からの反応が非受容的)群の差(t=1.247, n.s.)は有意であった。絶望感は、HL群よりLL群の方が有意に高かった。
(2)LH群とHH群
LH(悩みの自己開示が少なく、悩みの被開示者からの反応が受容的)群とHH(悩
みの自己開示が多く、悩みの被開示者からの反応が受容的)群の差(t=0.951, n.s.)は有意ではなかった。
(3)LL群とLH群
LL群とLH群の差(t=3.443, p<.01)は有意であった。絶望感はLH群よりLH群の方が有意に高かった。
(4)HL群とHH群
HL群とHH群の差(t=1.626, n.s.)は有意ではなかった。
8.悩みの自己開示と悩みの被開示者の反応が絶望感に及ぼす影響についての
性差の検討
(1)女性における悩みの自己開示と悩みの被開示者の反応が絶望感に及ぼ
す影響
@2要因分散分析
女性被験者を対象にして悩みの自己開示得点がその平均値より低い者をL群、
高い者をH群に分けた。同様に悩みの被開示者の反応得点が平均値より低い者をL群、高い
者をH群に分けた。以上のような手続き後、悩みの自己開示得点(L群・H群
)と悩みの被開示者の反応得点(L群・H群)を独立変数、絶望感得点を従属変数とする
2要因分散分析を行なった。
その結果、悩みの自己開示の主効果(F(1,149)=3.616, p<.06)が有
意傾向であった。悩みの被開示者の反応の主効果(F(1,149)=16.862, p<.0
01)が有意であった。悩みの自己開示と悩みの被開示者の反応の交互作用(F(
1,149)=1.909, n.s.)は有意ではなかった。交互作用は有意ではなかったが、主効果が有意で
あったため、具体的にどこに差があるのかをt検定によって求めた。
A多重比較
悩みの自己開示(L群・H群)と悩みの被開示者の反応(L群・H群)を組み合わせてLL、
LH、HL、HHの4群をつくった。 それら4群を組み合わせて、絶望感を従属変数とする
t検定を行なった。
(1)LL群とHL群
LL(悩みの自己開示が少なく、悩みの被開示者からの反応が非受容的)群とHL(悩
みの自己開示が多く、悩みの被開示者からの反応が非受容的)群の差(t=1.949, p<.07)は有意傾向であった。絶望感は、HL群よりLL群の方がやや高かった。
(2)LH群とHH群
LH(悩みの自己開示が少なく、悩みの被開示者からの反応が受容的)群とHH(悩
みの自己開示が多く、悩みの被開示者からの反応が受容的)群の差(t=0.600, n.s.)
は有意ではなかった。
(3)LL群とLH群
LL群とLH群の差(t=4.171, p<.0 )は有意であった。絶望感はLH群よりLL群の方
が高かった。
(4)HL群とHH群
HL群とHH群の差(t=1.821, p<.08)は有意傾向であった。絶望感はHH群より
HL群の方がやや高かった。
(2)男性における悩みの自己開示と悩みの被開示者の反応が絶望感に及ぼす影響
@2要因分散分析
男性被験者を対象にして、悩みの自己開示得点がその平均値より低い者をL群、高い者をH群に分けた。同様に、悩みの被開示者の反応得点が平均値より低い者をL群、高い者をH群に分けた。以上のような手続き後、悩みの自己開示得点(L群・H群)と悩みの被開示者の反応得点(L群・H群)を独立変数、絶望感を従属変数とする2要因分散分析を行なった。
その結果、悩みの自己開示の主効果(F(1,63)=.239, n.s.)、悩みの被開示者の反応の主効果(F(1,63)=.276, n.s.)、悩みの自己開示と悩みの被開示者の反応
の交互作用(F(1,63)=.034, n.s.)の全てにおいて有意ではなかった。
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