![]() ![]() ![]() 本研究は、自己開示の中でも深い内容である悩みの自己開示と絶望感との関係を、曖昧さ耐性に 注目して検討したものである。また、悩みの自己開示と悩みの被開示者の反応、絶望感との関係 についても併せて検討した。先行研究で曖昧さ耐性の低さは不適応をもたらすことや抑うつ と関係があることが明らかにされている。しかしその結果に留まるのではなく、曖昧さ耐性が低いとい うように、それだけでみると抑うつにつながる特性をもっている人でも、健康的に生きていけるみ ちを探っていくことが重要であると考える。自己開示は精神的健康をもたらすことが先行研究 で明らかにされていて、自己開示、特に悩みの自己開示は曖昧さ耐性が低い人でも健康的に生きて いけるひとつの手段になるのではな いかという考えのもと、研究を行った。 本研究では、大学生226名(男性67名・女性159名)の質問紙の回答を用いて検討した。 調査項目は、曖昧さ耐性尺度(増田 , 1997)、絶望感尺度(谷 , 2002)に筆者が独自に作 成した4項目を加えた絶望感尺度、久世・蔭山(1973)の分類をもとに、JourardのJSDQ を中村(1983)が邦訳したものの中のパーソナリティ領域や、高比良(1998)のネガティ ブライフイベント尺度の対人の領域を参考に、大学生の悩みを測るのに適当と思われる項 目を採用したり、大学生によりふさわしいと思われる表現に変えたりして作成した悩みの 自己開示尺度、森脇・坂本・丹野(2002)を参考に作成した悩みの被開示者の反応尺度を 用いた。 各尺度間の相関係数によって、曖昧さ耐性が低いことと絶望感が高いこととの関連、悩 みの自己開示と絶望感が低いこととの関連、悩みの被開示者の受容的反応と絶望感が低い こととの関連が確かめられた。 次に、曖昧さ耐性(L群・H群)と悩みの自己開示(L群・H群)を独立変数、絶望感 を従属変数とする2要因分散分析の結果、曖昧さ耐性の主効果、悩みの自己開示の主効果、 曖昧さ耐性と悩みの自己開示の交互作用が有意であった。このことから、悩みの自己開示と曖 昧さ耐性は相互に影響し、この二つの要因の両方が絶望感に影響を与えていると考えら れる。 さらに、曖昧さ耐性(L群・H群)と悩みの自己開示(L群・H群)を組み合わせ て4群つくり、その組み合わせによる単純主効果の検定を行った。その結果、曖昧さ耐性が低い人は、 悩みの自己開示を行っているかどうかで絶望感に差があり、悩みの自己開示を多く行って いる方が絶望感が低いことが分かった。また、悩みの自己開示が少ない群は、曖昧さ耐性 の高低で絶望感に有意な差があるが、悩みの自己開示が多い群では、曖昧さ耐性の高低で 絶望感の差が小さくなることも明らかになった。これらの結果から曖昧さ耐性が低い人に とって悩みの自己開示は効果的であることが言え、不適応や抑うつにつながる特性をもっ ていたとしても、悩みの自己開示があることで、絶望感が低く、健康な状態でいられるこ とが分かった。曖昧さ耐性が高い人においては、悩みの自己開示の多少によって絶望感に 有意な差がみられなかった。 次に、悩みの自己開示得点(L群・H群)と悩みの被開示者の反応得点 (L群・H群)を独立変数、絶望感を従属変数とする2要因分散分析を行なった結果、悩み の被開示者の反応の主効果が有意であった。悩みの自己開示が絶望感低減と関連するため には、悩みの自己開示自体だけではなく、それによって被開示者からどのような反応が得 られるかが大きいと考えられる。 悩みの自己開示(L群・H群)と悩みの被開示者の反応(L群 ・H群)を組み合わせて4群つくり、それらの組み合わせによる単純主効果の検定を行った。その結 果、悩みの自己開示が少ない人は、被開示者からの反応によって絶望感の高低は違う が、悩みの自己開示を多くしている人は、被開示者からの反応によって絶望感の違いが みられなかった。また、被開示者の反応が非受容的であると悩みの自己開示の量によって絶望感に有意 な差がみられ、開示量が少ない方が絶望感は高いが、被開示者の反応が受容的であると 、悩み の自己開示量によって絶望感に差がみられなかった。 男女別に上記と同様の分析を行なったところ、女性は上記と同じような結果であったが 、男性は、悩みの自己開示と絶望感の間に相関がなかったこと、2種類の2要因分散分析の結果、 どちらにおいても悩みの自己開示の主効果がみられなかったことが特徴的である。男性において は、悩みの自己開示は絶望感に直接影響を与えているとは言えない結果になった。しかし、 曖昧さ耐性と悩みの自己 開示の交互作用が有意傾向であったことから、男性においても、曖昧さ耐性が低い人は悩み の自己開示をしているほど絶望感が低いということがいえた。 |