研究1 20代前半未婚女性の結婚観・恋愛観とライフコースについての面接

目的

 まず、“生き方に対する考え方”と一言に言っても、インフォーマント(被面接者・面接協力者)のどんな回答を持ってそれとするか、はっきりと断定することは難しい。そこで、各々の“生き方に対する考え方”に反映するもの、つまり、本番面接(研究2)で聞く質問項目内容を決める材料を見つけ出すことを、本研究の第一目的とする。また、面接は事前の訓練が不可欠である。そこで、本研究の予備面接における5名のインフォーマントとの面接を通して、20代前半女性を対象にインタビューするためのコツや注意点を把握することを本研究の第二目的とする。

 

方法

1.面接協力者

四年制大学4年の女子学生5名を対象にインタビューを行った。いずれも著者自身の知り合いで、直接依頼をして承諾を得た。内訳はTable.1に記した通りである。

 

2.手続き

半構造面接を行った。インタビューはインフォーマントの都合や希望に合わせ、大学教育学部棟内の談話室、もしくは著者宅の応接間で行った。一人当たりの実施時間は約2030分程度であった。

手順としてはまずインタビューの前に、本研究の意図やこれから行う主な質問項目を載せた説明書(資料@)をインフォーマントに渡し、数分間で目を通してもらった。インタビュアー自身は面接の一連の流れを書いた用紙(資料A)をもとにインタビューを進めた。インタビューの際、インフォーマントができるだけ緊張せず自然体で話せるように、堅苦しくない口調や雰囲気作りを心がけた。同時に、砕けすぎないように、また話を脱線しないように、という意識は持ちつつインタビューを進めた。制限時間をオーバーしたり、短すぎたりしないように、時間調整にも気をつけた。インタビュー内容は後にテープお越しをしてデータを得られるよう、テープに録音して記録した。(これついては事前にインフォーマントが承知済み)

 説明書に載せた質問項目は、1.結婚を含めた今後のライフプラン 2.恋愛観と結婚観 3.自分の結婚観に影響を与えているもの、以上主に3つの柱に関する項目である。今後のライフコース全般を探るのが目的だが、その中でも結婚というライフイベントは、それを選択するしないに関わらず、誰でも一度は向き合い、自分の人生を左右しかねない大きな要因であると考えるので、特に結婚に焦点を当てた質問項目を主に設けることにした。(資料@)

 

 

Table.1 調査対象者の概要(研究1)

番号

氏名

年齢

所属状況

予定進路

1-1

22歳

国立大学 4年 教育心理学科

公務員志望

1-2

22歳

国立大学 4年 教育心理学科

大学院進学志望

1-3

21歳

国立大学 4年 教育学部数学科

就職(公務員または民間)志望

1-4

21歳

私立大学 4年 デザイン学科

広告会社内定

1-5

21歳

私立大学 4年 社会福祉学科

介護施設もしくは教材販売会社志望

 

 

結果と考察

 1.結婚を含めた今後のライフプラン 2.恋愛観と結婚観 3.自分の結婚観に影響を与えているもの、という主に3つの柱についてインタビューし、その内容を録音したテープを文字に起こした。その結果を内容的に検討すると、それらの共通する特徴から以下の9つの項目に分類された。1.結婚を含めた今後のライフプラン 2.結婚に対するイメージ 3.子どもについて 4.結婚観と恋愛観 5.今の時期の恋愛と結婚の関連性 6.自分の結婚観に影響を与えているもの 7.結婚観の変遷 8.結婚願望 9.今後の進路予定、以上9つの項目について5名のインフォーマント各々のインタビュー内容を整理できた。5名のインタビュー内容結果と各々の特徴についての考察をする。(Table.2

 

 

 

 

 

Table.2 各インフォーマントのインタビュー結果と考察

2-1. aさん(教育心理学科4年 22歳)                  

結婚=子ども、という思いが強いという印象を受けた。267歳くらいでの結婚を望んでいるが、その背景には12年は仕事に熱中したいという思いと、30歳くらいには2人の子どもを持ちたいという思いが入り混じっているようだ。仕事を通して色々な社会経験を積んでから子どもを育てたいと考えている。結婚に対しては、現在交際中の相手との結婚も可能性はあると考えているが、もっと色んな人を知りたいとも思っている。結婚は、皆がそうではないけれど、するのが当たり前と昔から思っている。影響を受けたというはっきりとした自覚はないが、両親(母親)を見てきて、また周りに実際独身を通している人がいないことも影響しているようだ。また、老後に1人で生きるのは寂しいという思いもあり、血を分けた子どもがいてくれたら楽しいかなとも言っている。子どもには絶対両親が必要と考えている。結婚相手に対しては、子どもにとっていい父親であることを最も求めている。子どもを持ちたい理由として、子どもを育てたいという母性本能を挙げている。子どもを産むことは、女の使命であり喜びでもあると感じている。(結婚して子どもを産むことで)先祖代々的なつながりを受け継いでいかなければという思いもあるようだ。高校の頃は自分さえよければよかったが、だんだんと他のことも見えてきて、その中で友人、従姉妹の結婚・出産に出会い、自分も子どもを産めるんだということを実感したという。「安定・子ども」が、彼女の中の結婚におけるキーポイントのようだ。

 


2-2. bさん(教育心理学科4年 22歳)

結婚について今はほとんど何も考えていない感じを受けた。20代後半になったら考えるかも、という程度である。卒業後大学院に進学し、その後就職して、自分で収入を得て、なんとなく暮らしていけるようになったらやっと考えられそうといった感じだ。今は自分のこと、目の前のことで手一杯のため、視野が狭いと感じていて、相手のことまで思いやれる余裕がないというのが本音のようだ。結婚については、しない可能性もあると考えている。何事にも行き当たりばったりで、自由奔放という性格なので、結婚生活や結婚相手に対しても同様な態度で臨むようだ。結婚に対して、小学生の頃は単なる憧れを持っていたが、中学生になると、自分を客観的に意識し出し、自分にとっての異性が、抽象的ないわゆる王子様的なものから、現実の男性になってきた。高校に入ると、実際好きな人やつきあう人が出てきて、もっと男性像がリアルになり、自分の思い浮かべる男性像と実際の男性が一致してきた。好みはもっと具体的になり、この人と結婚したい、というような感覚になってきた。そして最近は、その人というよりは、その人のいる環境や生活スタイルなど、相手の周りも見えてきた。基本的に自由を重視し、子どもにも特にこだわりや考えはないようである。お互いを違う人間としてちゃんと認め、お互いの相違点に納得できた時が結婚を決める時だという。相手に依存することはなく、自分自身にも相手にも自立を求める。今は結婚願望はないが、もう少し年齢が上がってきたら、周りの結婚や祖母のプレッシャーに焦ることになるかもしれないという。両親の結婚生活の影響は大きいようだ。「自由」が、彼女の中の結婚におけるキーポイントのようだ。

 


2-3. cさん(教育学部数学科4年 21歳)

彼女にとっての結婚のイメージは結婚式だという。バイト先の近くのチャペルで、結婚式を挙げているカップルを見ての影響が大きいようだ。結婚は25歳くらいなど、若い時にしたいと考えている。若くてきれいなうちにウェディングドレスを着たいというのと、子どもにとっても若い母親の方がよく、体力的なことも考えてのこと。結婚式に対しての憧れや夢を強く持っている。生活に関しては、あまり思い浮かばないようだ。結婚=家族になることと捉え、自分の全てを見ても嫌いにならない人、お互いに飽きない、頼れる人を求める。恋愛結婚をしたいけれど、自分に恋愛経験がないことから、無理だと考えている。お見合いも話があればするという。結婚をするとお金がかかるということと、自分のプライバシーや金銭に干渉されるということを非常に気にしている。そのため、相手に経済力があることを大前提とし、自分の稼ぎは自分のために使いたいという。子どもも養育費のことを考えると、多くとも2人まで、できれば1人がよいということだ。恋愛感情というもの自体がまだよくわからず、むしろ男嫌いで、愛情とかそういった類のものを通り越して、漠然と結婚したいと考えているようだ。結婚したら、恋愛感情はなく家族愛で、相手のことはどこにいてもお父さんと呼ぶという。毎日話をして、話題が尽きない、ごく普通の自分両親の夫婦関係は、理想的だという。ライフプランや結婚についてはほとんど具体的に考えたことがないようだ。25歳を過ぎて、祖母に色々言われるようになったら、結婚についてどうするか真剣に考えるかもしれないという。「経済力・プライベートの確保・恋愛感情の欠如」が彼女の中の結婚に関するキーポイントのようだ。

 


2-4. dさん(デザイン学科4年 21歳)

結婚願望はあるが、まだ自分の時間を大切にしたいというのが彼女の現状のようだ。就職して24年は社会に出て、267歳で結婚し、30歳までに子どもを12人は産みたいと考えている。自分ももちろんだが、相手も社会に出て独り立ちして、結婚してもやっていけるか(経済的・精神的に)というのを見たいから、今すぐの結婚は考えられないという。現在交際中の相手との結婚は、社会に出てからの相手の変わりよう次第では可能性もあると考えている。結婚=家族をつくる、というイメージが強い。両親が亡くなって1人で生きていくのは寂しいというのもあって、新しい家族を作りたいと考える。結婚しても恋人同士のような気持ちでいることは大事だと思っている。女に生まれたからには子どもを産んでおかないと、という思いがある。自分には恋愛結婚しか考えられないという。恋愛はその時楽しければよいが、結婚は先が長く、深い問題で、堅く考えなくては、という気持ちがあるようだ。自分の家族に好かれること、頼れることが相手に求める条件だ。昔は223歳での結婚を考えていたが、実際その歳になると、考えていたほど大人ではなく、もう少し先だなぁという思いが出てきたようだ。まだまだ色々やりたいけれど、結婚が遅くなるのは嫌という気持ちの葛藤がある。今の交際相手が、結婚を夢や理想のように考えていることに不安を感じている。昔遊んでいなかった人は結婚してから遊ぶという周りの大人の意見を聞き、今の相手が他の人を色々知らずに自分に決めてしまうことに不安を感じているようだ。バイト先のお姉さんが、結婚をやめて30歳になった今も独身を後悔せず貫き通していることに、憧れている。自分も結婚すると後悔してしまうかなぁと考えるようだ。一方で、自分にはできないなとも思っている。周りの人の言葉の影響は大きいようだ。結婚しても自分の時間を持ち、それを理解してくれる人との結婚を望んでいる。具体的な結婚生活では、基本的には家事などは自分がするけれど、夫に手伝って欲しいという思いもある。結婚したいけれど、色々旅行したいと考えている。356歳が理想の結婚年齢で、そのくらいに256歳の若さがあれば10年間遊びたいなぁと言っている。全体的に周囲の状況や言葉に影響を受けやすいこと、相手の自立を強く求めているという印象を受けた。「自分個人としての自由・相手の自立・周囲の状況」が彼女の中での、結婚におけるキーポイントであるようだ。

 


2-5. eさん(社会福祉学科 4年 21歳)

 結婚に対して現実的で、かなり自立した考え方を持つ。結婚は、恋愛の時より一緒にいる時間も長いので、我慢・妥協も必要だと考える。就職して仕事をし、27歳で結婚して、30代前半までに2人子どもを産みたいと考えている。年子は避けたいということを考えると、そのプランがベストだという。結婚してすぐに子どもができてもいいと考えている。むしろ今結婚してもいいかなという思いさえ少しあるようだ。しかし、結婚すると、○○さんの奥さんと言われ、社会人ではない、1人の人間じゃないという感じがするため、自分1人で社会に出てみたいという気持ちがある。結婚相手とワンセットで考えられるのではなく、自分の名前で呼ばれる期間が社会人としても欲しいから、社会に出て数年後の結婚を望むという。社会に出て、自分を試し、認めてもらいたいと考える。現在の交際相手は、社会人というのもあるが、結婚を考えられる。今つきあっている人には、前の人にはない、結婚相手の条件として求める、気楽さがあるのだという。結婚したら、カップルのような夫婦ではなく、相手を静かに一番想っているという関係になりたいと考える。結婚は自分にとってそんなに大きいものではなく、ただ生活が一緒になるだけで、気持ち的には変わらないという。結婚後も、自分の世界を持ちたいため、どういう形態であっても仕事はしていたいと思っている。相手の両親とは、同居してもいいし、しなくても行く行くは自分の手で介護してあげたいと考える。両親の結婚生活は心の中のお手本だという。今は両親の家族の一員だけれど、今度はそこから抜け出し、一度は自分で自分の家族をつくりたいを考える。「結婚して子どもを産んで、それが人の道」という、電車の中で出会った見知らぬおばさんから言われた言葉に納得している。結婚は、決めたからにはずっと一緒にいるもので、恋愛より心理的距離が近いと考えている。恋愛も以前は夫婦に近いものだと思っていたが、それは恋愛の場合、相手を縛ることになるということを知って、今は基本的に自由でいられる、男友だちより少し上のランクという感覚でつきあっている。異性とつきあうことで、結婚観はほとんど変わってないけれど、恋愛観は変わったという。結婚後家事は分担するとして、女は育児、男はお金を稼いでくるという形でよいと考えている。「家族をつくる・穏やかな夫婦関係・伝統的な結婚スタイル」が、彼女にとっての結婚におけるキーポイントであるようだ。

 


1.20代前半未婚女性の結婚観・人生観における概念的枠組みの検討

以上のインフォーマント5名各々の結果・考察を踏まえて見えてきた、20代前半未婚女性の結婚観の特徴を踏まえ、それらを分類するための枠組み構成を考えていきたい。また、彼女らのライフコースを調査していくために必要だと思われる視点をいくつか述べたい。

まず、結婚観の概念的枠組みをつくる要素となるものだが、家事・育児・仕事などの役割や結婚、女性という性に対して伝統的な考えが目立つ人と、逆に伝統に縛られることに拒否感を示す人がいた。例えば家事という役割に関して、「基本的には家事などは自分がする」(dさん)という。また育児という役割に関して、「女は育児、男はお金を稼いでくるという形でよいと考えている。」(eさん)結婚に関しては、「結婚は、皆がそうではないけれど、するのが当たり前と昔から思っている。」(aさん)その他女性として、「子どもを産むことは、女の使命であり喜びでもあると感じている。(結婚して子どもを産むことで)先祖代々的なつながりを受け継いでいかなければという思いもあるようだ。」(aさん)以上のような発言は従来の伝統的な性役割分業や女性観における考え方を受け継いでいると言えるのではないだろうか。それとは逆に、「結婚については、しない可能性もあると考えている。」(bさん)「356歳が理想の結婚年齢」(dさん)これらは従来の考え方には沿わない伝統否定的な結婚観に基づく発言と取れるのではないか。このように、伝統的・伝統否的という対極の考え方が見られる。

また、結婚後に重視にするものが各々で異なる点も、注目すべきところである。その一つとして、「結婚相手に対しては、子どもにとっていい父親であることを最も求めている。」(aさん)のように、家族・家庭を重視する意見があった。その一方で「何事にも行き当たりばったりで、自由奔放という性格なので、結婚生活や結婚相手に対しても同様な態度で臨む」(bさん)「(結婚後)自分の稼ぎは自分のために使いたい」(cさん)「結婚後も、自分の世界を持ちたいため、どういう形態であっても仕事はしていたいと思っている。」(eさん)のように、個人を重視する意見もある。これらもまた、家庭重視・個人重視という対極の考え方として捉えられるのではないだろうか。また、eさんについて言えば、「一度は自分で自分の家族をつくりたい」「女は育児」といった家庭志向の意見も見られるので、個人重視・家庭重視の両方の考え方を併せ持つ、両立重視という見方の余地もあると言えよう。

国立社会保障・人口問題研究所Uによる平成9年の第11回出生動向調査では、未婚男女の「結婚・家族に関する考え方」を調査し、その結果を検討したところ、伝統的―伝統否定的、個人重視―家庭重視という2組4カテゴリーに分類された。(国立社会保障・人口問題研究所U,1999)前者の伝統的結婚観に関する設問の一つとして「結婚したら子どもは持つべきだ」が挙げられている。これは先述した「子どもを産むことは、女の使命であり喜びでもあると感じている。(結婚をして子どもを産むことで)先祖代々的なつながりを受け継いでいかなければという思いもある」(aさん)の意見とほぼ同意であると考える。その他、「結婚後は、夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という設問も伝統的結婚観に関するものとして示されている。これは「女は育児、男はお金を稼いでくるという形でよいと考えている。」(eさん)の意見に重なると言えるだろう。

つづいて後者の個人対家庭に関する設問としては「結婚しても、人生には結婚相手や家族とは別の自分だけの目標をもつべきである」が挙げられている。「結婚後も、自分の世界を持ちたいため、どういう形態であっても仕事はしていたいと思っている。」(eさん)という意見は、まさしくこの設問に合致するものであろう。他にも「結婚したら、家庭のためには自分の個性や生き方を半分犠牲にするのは当然だ」という設問が挙げられているが、「結婚相手に対しては、子どもにとっていい父親であることを最も求めている。」(aさん)のうちの「最も」と強調されている部分や、自分だけでなく他者にまで求めているという姿勢を考慮すると、この意見は設問に沿うものと考えられるのではないだろうか。さらに「(結婚後)自分の稼ぎは自分のために使いたい」(cさん)はこの設問の考え方に対する反意であると取れる。

「結婚については、しない可能性もあると考えている。」(bさん)「356歳が理想の結婚年齢」(dさん)という意見は、先述では伝統否定的のカテゴリーに含めていたにもかかわらず、第11回出生動向調査では、「生涯独身で過ごすというのは、望ましい生き方ではない」という設問を個人対家庭に関する設問と捉えていることがわかった。しかし、結婚の意味が変わりつつあり、結婚を選択したからといって全てを家庭に捧げるのではなく、結婚生活をしつつも自分一人としての生き方を大切にしたいという願望を持つ女性が増えてきている現代では、結婚の選択の有無が必ずしも個人対家庭重視という考え方の有無に直結するとは考えにくいと言えるのではないだろうか。そのため、「結婚については、しない可能性もあると考えている。」(bさん)「356歳が理想の結婚年齢」(dさん)のような皆婚志向否定や晩婚志向は、伝統的結婚観の対極として位置付けたいと考える。

以上のことより、先述した各インフォーマントの発言は各々のカテゴリーに一致し、その分類は妥当であると考える。このことから、第11回出生動向調査結果から編み出された伝統的―否伝統的、個人重視―家庭重視という2軸を使用して、20代前半未婚女性をタイプ分けしていきたい。

さらに、第11回出生動向調査では「結婚・家族に関する考え方」を問うに止まっていたが、本面接(研究2)では20代前半未婚女性の結婚観を中心としたライフコース全般について問うことが目的であるので、結婚観についてのみ伝統志向性や個人志向性を見るのではなく、インフォーマントのライフスタイル・ライフコース全般にわたって見られた発言の中で、適当と思われる発言に対しては結婚に対する考え方も含めた性役割観として、検討したいと考える。よって、伝統的性役割観というカテゴリーは伝統的結婚観とそれ以外の伝統的性役割観の二つを合わせたものを意味することとする。「子どもを産むことは、女の使命であり喜びでもあると感じている。」(aさん)という意見が伝統的結婚観に含められ、かつ「女の使命」という表現から伺えるように出産を女性という性故の役割として捉えている内容であることを考慮すると、結婚観を性役割観の一つとして考えることは誤りではないと言えよう。また、伝統的に対極するものとして否定的だけでなく伝統的以外の全ての志向性を含みたいと考えるので、伝統否定的改め非伝統的とする。個人志向性に関しては、特に傾向の違いが顕著に表れるであろう結婚前後についての意識の変化に注目して検討していきたいと考える。以上のいきさつより、本面接(研究2)では、伝統否定的伝統的性役割観―非伝統的性役割観、個人重視―家庭重視という2軸を設け、各カテゴリーを組み合わせて、伝統―個人、伝統―家庭、非伝統―個人、非伝統的―家庭という4カテゴリーに、20代前半未婚女性の生き方志向(結婚観を含む)を分類したいと考える。

2.20代前半未婚女性のライフコースを構成するイベントの検討

今回の研究1(予備面接)の結果より、予想外に皆子どもへの関心が強いことが伺われた。出産願望の強さに差はあるにしろ、結婚の先には出産があるとごく自然に考えているようだ。例えばaさんにとっては、子どもをもつことは結婚以上に重要なイベントであるようだ。そのため、結婚やライフコースを考える上で、子どもについて問うことは不可欠であると考える。

 また、卒業後に控えた就業というイベントも今後のライフコースに大きな影響を及ぼしているように感じた。「仕事を通して色々な社会経験を積んでから子どもを育てたいと考えている。」(aさん)「就職して、自分で収入を得て、なんとなく暮らしていけるようになったらやっと(結婚を)考えられそう」(bさん)このように、結婚や出産を含めた今後のライフプランを考えるにあたって、就業によって社会に出るということは、重要な前提として位置付けられている。また、「結婚後も、自分の世界を持ちたいため、どういう形態であっても仕事はしていたいと思っている。」(eさん)というように、結婚後も就業はライフコースを決定づける大きな要因となり得るようだ。このことから、仕事と女性の関係を見ていくことも、未婚女性のライフコースを考えるにあたって、重要な意味を持つと言えるであろう。出産・育児、就業に関する考え方もまた、先に示した基本となる4カテゴリーに分類できるだろうと考える。また結婚観を尋ねた際に、女性故の発言と取れるような性別にこだわったものが見られたため、各々の女性性受容度も、結婚観さらには生き方にまで影響を及ぼす要因であると考えられよう。並びに現時点での未来の明確性や明るさも思い描くライフコースに強く影響すると考えられる。

 今回取り上げた恋愛観については、「現在交際中の相手との結婚も可能性はあると考えているが、もっと色んな人を知りたいとも思っている。」(aさん)「現在交際中の相手との結婚は、社会に出てからの相手の変わりよう次第では可能性もあると考えている。」(dさん)「現在の交際相手は、社会人というのもあるが、結婚を考えられる。」(eさん)というように、恋愛観自体を結婚に結び付けているのではなく、現在付き合っている人とならばどうかという回答に止まり、しかも現在の恋愛が結婚に結びつくかもかなり曖昧である。また「恋愛感情というもの自体がまだよくわからず、むしろ男嫌いで、愛情とかそういった類のものを通り越して、漠然と結婚したいと考えている」(cさん)など、異性との交際未経験者にとってはまず恋愛についての考え方自体が曖昧であるというケースも見られた。全般的に見て20代前半という年齢ではまださほど恋愛経験や交際経験を経ていない場合が多いため、恋愛観と言えるほど確固たるものは持ち得ず、それを結婚観に結び付けて考察するのは無理があるようだ。

 

3.面接対象者の検討

また対象について、インタビュアー自身と比較的面識の無いインフォーマントを抽出するべきであると感じた。今回はいずれも非常に著者と面識のある友人に協力を依頼した。そのため、面接中にどうしても話が脱線してしまう事態、また分析時にも先入観を持って行いがちになってしまうという事態が起こった。そういった事態は結果として研究の客観性を欠くことになりかねない。そのため、対象はできるだけ初対面のインフォーマントを抽出する必要があると考える。また、面接中は一定の緊張感を保たせるということも、インタビュアーの意識として止めておく必要があるだろう。また、対象の年齢・年代に注目するならば、立場・環境という要因による違いも見られるように、大学生という枠に偏らず、同年代の社会人女性も対象に含むべきだと考える。

今回、対象者はたった5名という人数であったが、「ある程度の年齢までに結婚して子どもを産んで…」というような将来を思い描く人が多かったように思う。本面接ではその背景にあるものや、そのライフコースを希望する思いなど、各々の個性が出るような回答をもっと得たいと考える。

本面接(研究2)では、各インフォーマントのライフコースや結婚観をより詳しく、冷静な目を持って様々な項目に基づいて探っていくため、また研究に客観性を持たせるため、面接に加えて量的分析の可能なSCT法(文章完成法を)を用いて1.女性性受容 2.時間的展望 3.結婚観を探りたいと考える。さらに、各インフォーマントが描くライフコース自体をライフコースの種類ごとに分類するための手がかりとなるよう、今後のライフコースを実際に図示してもらおうと思う。また、20代前半未婚女性のサンプルとしての妥当性を高めるため、より多くのケースを得るべく、対象者数を増やしたいと考える。

 

以上のような予備面接の結果と、そこから得られた課題をもとに、本面接(研究2)での結果を分類する枠組みとなるカテゴリー、またそのカテゴリーに関する回答を導き出すのに適当と思われる質問や未婚女性のライフコースに関連する重要な項目に関する質問を決めていきたいと考える。

 

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