問題と目的

 

1.            未婚女性のライフコースの変化

近年、雇用機会や育児休暇制度の改善など、社会における女性の立場が見直されつつある。そのような現状も後押しして、女性はより多様なライフコース・ライフスタイルを選択できるようになったと言えよう。女性の就業状況については、平成15年度版国民生活白書によると、わが国の15歳以上の労働人口は、2002年は6,689万人で、70年の5,153万人から29.8%増加した。男女別でみると、男性が3,956万人で26.4%増に対し、女性は2,733万人で35.0%増と女性の増加が目立っている。(経済企画庁,2003)また、総務省統計局「労働力調査」において、平成14年の女性の労働力率を年齢階級別にみると、2529歳層(71.8%)と4549歳層(72.4%)を左右のピークとし、3034歳層(60.3%)をボトムとするM字型カーブを描いている。(厚生労働省雇用均等・児童家庭局,2003)これは左のピークを成す層を中心とした女性が結婚や出産、子育てにより離職し、子どもの手が離れるであろう右のピークを成す層の時期に、育児からの解放を機に再就職する、というライフコースを多くの人が選択するからであると考えられる。しかし、M字型は変わらぬものの、平成14年の調査によると、そのM字型カーブの左山は、初めて2024歳から2529歳層にシフトした。2024歳層の労働力率の低下と2529歳の労働力率の上昇はこのところ傾向的に見られてきていたが、前者については主に大学進学率の上昇、後者については労働力率の高い未婚者の割合の高まりによるところが大きい。(厚生労働省雇用均等・児童家庭局,2003)また、働き方においても、選択肢は多岐にわたり、その一つとして、女性の起業への関心が高まっている。日本労働研究機構「高学歴女性と仕事に関するアンケート」(平成10年)によれば、回答者の女性労働者の4.9%が今後の働き方として「自分で何かビジネスを始めたい」とし、起業への意欲をみせている。また「就業構造基本調査」(平成9年)による起業希望者の状況は、女性655,000人、男性2157,000人で、女性の割合は23.3%であるのに対し、起業家の状況をみてみると、女性新規開業者213,000人、男性新規開業者174,000人と、女性の割合は55.0%となっている。つまり、起業希望者に占める女性の割合に比べ実際に起業した者に占める女性の割合は高く、このことは女性の方が企業実現率が高いことを意味している。このように、働く女性の増加、働く意欲のある女性の増加によって、女性の社会進出は進んでいると言えよう。また、女性の社会進出に伴って、ライフコースにも変化が見られるようになった。国立社会保障・人口問題研究所による、「独身青年層の結婚観と子ども観」に関する出生動向基本調査の第10回調査(1992年)と第11回調査(1997年)を比較したところ、未婚女性が思い描く今後のライフコースにおいて、本人が「実際にそうなりそう」と考える予定のライフコースではあまり変化がなく、子育て後に再就職するコースに傾向があったが、理想のライフコースでは、専業主婦コースが減り、仕事と家庭の両立コースが増えるなど、5年で大きな変化を見せている。(国立社会保障・人口問題研究所,1999

 

 

2.未婚女性の結婚観の現状

 ライフコースの多様化に伴い、“女性と結婚”の関係にもまた、大きな変化が起きている。総務省の「国勢調査報告」によると、年齢階級別未婚率について1970年と2000年を比較すると、男女共にすべての年齢階級で上昇しており、晩婚化の動きを示している。とりわけ、2529歳の女性の未婚率は18%から54%に上昇し、未婚化が進行している。また、平均初婚年齢についても、1950年には女性23.6歳であったが、2000年には28.6歳に上昇している。さらに、非婚化の指標である生涯未婚率は、1950年には女性1.4%であったが、2000年には5.8%と顕著な上昇を示し、生涯結婚しない女性が増える非婚化傾向が目につく。(総務省統計局,2003)かつての適齢期、クリスマスケーキ説といった言葉も、もう通用しなくなりつつあるのが現状であろう。さほど年齢にこだわらず、結婚という選択を先延ばしにする女性が増えている傾向にある。その結果、晩婚者が増加するという事態を招いている。また、晩婚者の増加は同時に、経済的にも精神的にも親に依存して自立できないパラサイトシングルの増加という問題も生み出している。また、仮に結婚したとしてもそれが永遠のものになるかというと、それもまた違うようである。2001年の離婚件数は29万件で、過去最高を記録した。離婚件数は、1960年には7万件であったが、1980年には14万件と倍増し、その後も著しい増加を示している。最近の離婚の増加は、女性の教育水準の上昇や経済的自立の高まりとともに、社会の離婚に対する意識の変化が影響していると推察される。(総務省統計局,2003)このように、近年の離婚の増加には、女性の高学歴化に伴う社会進出や、離婚は必ずしも否定的なものではないという価値観の広がりも大きな影響を与えていると言えるようである。また、結婚には出産というイベントもつきものだと言えよう。その出産においてもまた、変化が起きてきている。平成15年度版国民生活白書によると、出生数は、第2次ベビーブーム(197174年)の73年に209万人となったが、それ以降、80158万人、90122万人、2000119万人、2001117万人と減少してきた。2002年は1156000人と推計されている。また、合計出生率は60年代以降2前後で推移していたが、801.75901.5420001.362001年には1.33と減少傾向が続いている。(経済企画庁,2003)現代女性の中で、子はかすがいでなくなってきているであろうか。それとも経済的要因など別の要因が、女性たちにこのような状況を余儀なくさせているのであろうか。出生率の低下は同時に少子化という問題を生み出している。今後さらに高齢社会が進んでいくことを考えると、この事態は非常に痛手であると言えよう。また、子どもを生む人が最も多いとされる世代である2529歳の層でさえも、その出生率は、80181.5%90139.8%200196.2%と大幅に低下してきている。一方で3539歳の出生率は8012.9%9020.8%200132.8%と上昇している。(経済企画庁,2003)このように、少子化のみならず、晩産化も進んでいるのが現状のようである。

以上のように、一方で新たな問題が浮上しつつも、生き方の選択幅が広がったことに伴い、女性は必ずしも結婚を選択しないという状況が生まれてきているようだ。

 

 

3.現代の未婚女性のライフコースにおける問題

 しかし、「近年女性は社会進出を果たし、結婚を含め様々なライフスタイル・ライフコースを選択できるようになった」と言われてはいるが、果たして本当にそうなのだろうか。本当に「結婚にとらわれず、バリバリ仕事をして、自分のために生きる生き方を貫きたい!」と考える女性は増えたのであろうか。そのように希望し、選択する女性は実際どのくらいいるのだろうか。また、各人が各ライフコースを希望する背景にはどんなファクターが存在しているのだろうか。 

 

 

 

4.未婚女性のライフコースに関連する先行研究の検討

 

4−1.女性のライフコースの多様化

 女性のライフコースに関しては、様々な年齢の女性を対象に、様々な視点から研究が成されている。まずその一つとして、女性が希望・選択するライフコース自体についての研究がいくつか挙げられる。田中・秋山(1999)が、日本全国の1849歳の独身者を対象とした1992年「第10回出生動向基本調査」独身票の中の「女性の人生コース」における質問結果について再分析したところ、「両立」コースを理想とする女性の数に対して、それらのコースを期待する男性の数は相対的に少ないということが判明した。逆に、「再就業」コースを理想とする女性の数に対して、そのコースを期待する男性の数は相対的に多いことも判明した。以上のことより、それに加えて、「両立」「再就業コース」を希望する女性はこの順に結婚が遅れがちであることがわかっている。以上のことより、男女間のライフコースに対する意識のギャップが晩婚化をもたらしている可能性は十分にあると言える。

 また、未婚女性の希望するライフコースだけでなく、様々なライフコースを実際に歩んできた成人女性(既婚女性も含む)を対象に、そのライフスコースにおいても検討されている。伊藤・原田(1997)は、中年期女性(3565歳)を対象に、選択してきたライフコースの違いが発達や、女性としての生き方への意識にどう影響を及ぼしているのかを検討した。すると、子どもの有無、仕事の有無が大きく関与していることが示唆された。さらに、ライフコースそのものが女性の成熟を左右するのではなく、女性自身がその生き方にどうコミットできるか、与えられた状況の中で何に生きがいを見出していくのかということが重要であることもつけ加えられている。また、中年期女性にとっては、結婚しない・子どもを持たないということが、積極的な選択というより、不本意ながらの結果であることが多いこともわかった。

また、ライフコースの種類ではなくあらゆる成人女性の各時期に果たす役割に注目した研究も成されている。西田(2000)は、2565歳の成人女性を対象に調査し、特に母親役割観が低下する45歳以上の女性にとって、社会活動参加という家庭外での役割は、就労とは異なった形で心理的well-beingに強く関連していると示し、家庭外活動としての社会活動の重要性を指摘した。他にも、母親役割の受容が課題である2534歳では母親役割達成感が、子どもが児童期から青年期に位置する3555歳では妻役割達成感が、各々の心理的well-beingに顕著に影響を及ぼしていることがわかっている。各々様々なライフコースを選択する全ての成人女性にとって、各時期において重要である役割が異なるというところも、注目すべき視点であると言えよう。

 

4−2.女性の就業意識

以上の中からも女性のライフコースと仕事には密接な関係があることが伺われたが、職業・就業と女性の関係に焦点を当てた研究も多くある。富田(1998)によると、結婚で退職するつもりで働き始めた女性よりも、結婚後も働き続けるつもりであった女性の方が、実際に結婚後も働き続けている。これは第1子出産においても同様の傾向が見られた。このように学校を卒業して働き始めた時の就業意識が、実際の就業選択に影響を与えていることがわかった。また、実際に就業経験を経た後の、各ライフイベントにおける就業継続の選択においては、大沢・鈴木(2000)の「女性の就業における人的資本の蓄積が、結婚や出産を経ての就業の変化にどう影響するのか」という検証によると、教育年数や就業経験年数といった人的資本の蓄積を示す変数が、結婚や出産後も継続して働く女性に対して有意にプラスの影響を持つことがわかった。このことから、現代の女性にとって、仕事はライフコース・スタイルを決める大きなファクターになっていると言えよう。

また新谷(1998)は、1980年代以降、女性の高学歴化、晩婚化および結婚形態の変化など、様々に顕在化してきた社会的諸現象は、結婚後の女性の就業を促し、結果として初子の出生タイミングをも遅らせる要因となったという。また、出産期の就業は、夫の収入といった経済的な要因や、親の援助などの保育資源の有無、結婚や家族に対するジェンダー意識の変化とも関連があることがわかるとした。しかし、現在結婚後も働きつづける女性は、半数程度まで増加しているものの、出産後にはより多くの者が退職している。つまり、結婚と就業の対応関係が崩れつつある一方で、出産・子育てと就業の対応関係はむしろ強固なものへと向かっているという。女性にとって仕事は、結婚・出産を経ても続けていきたい(続けていかざるを得ない)ものではあるが、実際はその通りにはなっていないという矛盾した現状が伺われる。また滋野・大日(1997)は、女性は自分自身の労働所得が増加すると、結婚する確率自体が低下することを示した。この結果は、労働所得の上昇に見られる女性の経済自立が、結婚によって経済的に安定するという魅力を相対的に低め、結婚しなくなるということを示唆している。また、結婚は正規就業の女性に対して無職を選択する確率を高めることも明らかになった。さらに、結婚が同一勤務先での就業継続に対して負に影響するという結果も出た。これらの問題を解消するためには、女性が結婚・出産と就業を容易に両立できるよう、保育サービスの多様化、正規就業における勤務時間の選択の幅を広げるような、あるいは再雇用制度の整備等、柔軟な雇用制度の構築が必要であろう。また、実際に働く女性数人を対象にインタビューという方法で実態調査をした渥美(1994)は、性別役割分業モデルが未だに優勢な日本社会で、女性が結婚・出産後もフルタイムの仕事を持ちつづけるためには、二つの条件が必要だと言っている。一つは、本人に仕事を続けようという動機と仕事への積極的態度があること、もう一つは外的環境条件で、夫や近親者の理解と援助だ。以上のように、仕事は女性にとって一生を通して重要な存在となり、そのことを理解し、支援する他者や社会的保障が今後さらに必要不可欠となってくると言えるであろう。

 

4−3.女性にとっての結婚

就業と同様に、多くの女性にとって一大イベントである結婚と女性について取り上げた研究も多々ある。村上(2001)は、現代日本における「結婚の意味」の変貌を指摘している。日本の結婚をめぐる状況は結婚に対してその形式(結婚の安定性)よりも実質(結婚の質)を問う状況にあり、同時に、夫婦および親子間においていかに主体的に生きるかが問われていると言える。そこでは、結婚、離婚、再婚、独身、同棲といった諸相が、一つのライフスタイルの選択肢となりつつあることを示している。法制度の動きを見ても、夫婦別姓や出生届をめぐる問題から結婚のあり方が問われている状況である。

結婚の持つ意味自体が変容する中で、先に示したように、女性にとって結婚が魅力的なものでなくなってきているというのも事実のようである。中村(2001)では、女性の賃金が上昇すると、男女賃金格差が縮小し女性の結婚の利益が減少するため、結婚率が減少すると指摘された。また、親に経済面と生活面を依存する女性は、豊かな生活を維持することを望むため、結婚は遅くなるとの指摘もされている。このように、現代女性にとって結婚を選択することは必ずしも最上の幸せとは言えず、むしろ親の援助を受けつつ自分一人で生きていくことの方が楽で幸せな日々を送れるという状態が生まれてきているようだ。

このように日本で晩婚化・非婚化が急速に進んでいる原因として宮本(2000)は、未婚者の自由度と消費水準の高さ、結婚における性別役割分業の明確さの二つを挙げている。リストラの対象となっている親世代と子どもとの間には大きな意識のギャップがあり、未婚期の解放性、遊び感覚、局外者意識(小此木,1977)は、特に女性の中に顕著に見られるという。消費社会は若い女性を重要なお客様として位置付ける一方、職業の世界では依然として男中心社会で、女性を拒んでいるため、女性はますます職業の世界から逃走する。職業生活を通して自己実現するよりも、海外旅行や留学といった形でそれを果たすのであろう。しかも、消費水準の高さは自身の経済力ではなく、親との同居や親からの援助によって可能となったものである。また家庭が母―娘を機軸とする女性中心家庭となっている現状もある。これがパラサイトシングルであると考えられる。また、日本のような未だ性別役割分業の概念が根強く残る社会では、結婚することによって女性は職業上のチャンスと所得機会を失う。結婚前と結婚後のギャップが大きいため、結婚を延期あるいは回避しようとする方向に動くのであろう。また夫婦の性別役割分業の体制を前提とした労働システムが未だ確立したままであることも大きい。そのため、女性にとって男性の所得水準は依然として重要な結婚選択基準となり、より好条件の男性を求めるため、どんどん結婚は遠くなるという悪循環を生み出している。また、結婚・家族に関する意識においても、男性の方が女性より概して伝統的な意識を持っていることがわかった。男女間の意識のギャップが大きく、しかも現実のパートナーシップや家庭の実態が意識の変化に追いつけていない現状の中で、男女双方が性役割から逃げること(つまり結婚モラトリアム)によって自体を静観している状況がある。女性は家事・育児を全面的に担うことは拒否するが、職業人として自立する自覚は不完全で、重要なのは自己充足である。他方、男性は家事・育児を共に担い、夫婦共に職業を持ちながら共同生活していくという意識は不全である。そうした中で、女性の自己充足の高まりを受けて、「自分だけが妻子を養うために働く必要があるのか」という疑問が生じるため、結局、男女双方にとって結婚の意義は不明確となり、結婚モラトリアムが進行するのだという。このように、女性の社会進出に伴う仕事観の変化がある一方で、一人前の社会人としての自覚が持てないという自立への意識の低さを持つ女性も多く存在するという現状が、女性の晩婚化・非婚化を進めると同時にパラサイトシングルの増加という社会問題を生み出していると言えよう。その背景として大沢・山田(2000)は対談の中で「現在の若者は夢を山のようにもち、ちょっと苦労すると別の方向へ進む」「若者は「楽」を選んでしまう傾向がある」と、若者の精神的弱さを指摘している。それと同時に、「親に依存せざるを得ない状況がある」「子どものためにすることを生き甲斐に感じている親は多い」と、若者の独立を支える社会システムが確立されていないことや親自身にも責任があるという点を加えている。

 

 

4−4.女性と子ども

非婚化・晩婚化は、婚外出生率が1%に過ぎない日本においては、少子化にもつながる。少子化は経済活動の基礎となる労働力供給の減少を意味し、投資や貯蓄を減らし、所得の向上を抑制する大きな要因となる。また、少子化は人口全体に占める高齢者比率を引き上げ、その結果社会保障制度を通じた所得分配の規模が拡大し、高齢者の扶養負担が政府と家庭の双方で高まる。こういった意味合いで少子化は大きな社会問題と言われるのだと考えられる。(八代,2000)先に示してきたように、女性の就業拡大が進む中で、男女の固定的役割分担が支配的な社会では、女性の望む就業継続と結婚・出産とが両立できにくい。結婚をして夫に養ってもらう必要の無い豊かな現在の社会では、女性は就業継続を結婚に優先させる傾向が強まり、それが出生率の低下をもたらしている。(八代,2000

また鈴木(2000)は、近年の出生率の低下をもたらした要因として、従来の頑健な結婚制度を背景とした同棲や婚外出生の少なさ、加えて性交頻度の低下や受胎確率の低下の可能性も指摘している。また長澤ら(2002)が行った10代・20代未婚女性を対象に「結婚に対する意識調査」によると、子どもを持ちたくない人のうち、その理由として「(出産)痛い」を挙げる人が10代女性25%20代女性17%も存在した。このように、肉体的苦痛が先行して出産欲求が低下しているということも、出生率低下の要因の一つとして取れるのではないだろうか。

確かに結婚や出産という選択は個人の自由であるが、このような非婚化・晩婚化、それに伴うパラサイトシングルの増加、またさらにその先にある少子化という問題をこれ以上進めないためにも、早急な社会システムの見直し・改善は必要不可欠であろう。大沢・鈴木(2000)も、たとえば(1)労働市場における女性差別の撤廃(アメリカ)(2)税制を世帯単位から個人単位に変える(イギリス、スウェーデン)(3)育児休業制度とその給付を充実させる(スウェーデン)(4)パートタイム就業を増やすことによって就業と育児の両立を可能にする(オランダ)(5)企業内保育所を設立した企業に助成する(イギリス、オランダ)など各国の政策を参考に、日本も独自の視野に立って、個人に多様な選択を可能にする社会を作るための制作を打ち出す時期にきていると示唆している。

 

以上のように、女性のライフコースを探るにあたって、就業・出産・育児というライフイベントはいずれも欠かすことのできない存在であるということがわかる。

 

5.20代前半未婚女性を研究対象とする意義

 これまで紹介してきた研究はそのほとんどが対象を25歳以降としている。仮に10代・20代前半の女性が含まれていたとしても、質問紙やアンケートによる紙上調査に止まっている。このように女性の希望・選択するライフコースを調査する際、主として対象となるのは20代後半が多い。これは、そのくらいの世代になればほとんどの人が社会に出ていくらか経験を重ね、経済的にもある程度自立し、自分の今後を具体的に思い描ける、また自然と思い描く状態に置かれているということを前提としているからだと考える。また、結婚という大きなライフイベントをより現実のものとして捉えられるようになるのも25歳前後からであると思われる。それに加えて、出産というイベントが体力的に切実な問題となってくるのも20代後半からと考えるからである。20代前半の女性は、社会に出ていない者が多く、それ故世間一般ではまだ社会的に一人前ではないと見なされる。まだ世の中の現実を目の当たりにしていないため、その時点で思い描く自らの将来像や、今後のライフコースはどこかまだ曖昧で明確でなく、真実味に欠けると捉えられているのではないだろうか。そういった年代の女性に現時点で思い描くライフコースを聞き出しても、そこに何の意味があるのかと思われがちなのではないだろうか。確かに20代前半の未婚女性の多くはまだ先のことに関して明確なビジョンを抱けずにいるのが事実であろう。夢見がちであると取られても仕方あるまい。しかし、就職活動などを通して今後の自分の進路・将来を真剣に考えたであろう大学4年生の未婚女性(主に21歳〜22歳)を対象に、ライフコースを聞き出すことは、たとえその内容が実際実現されなかったとしても、非常に意味のあることだと考える。また、大学生のみを対象とすると、環境要因が偏ってしまう。対象として大学4年生を選ぶならば、環境要因を平等に反映させるためにも、同世代の社会人未婚女性も同数調査する必要があると考える。

 

 

6. 本研究の目的

 近年、様々な社会制度の改善が成されるなど(まだ十分とは決して言えないが)、社会において女性の立場が見直されることによって、社会進出する女性の増加など、女性はより多種多様なライフコース・ライフスタイルが選択できるようになった。このような変化に伴い、女性の平均初婚年齢の上昇、晩婚化・非婚化、出生率の低下というように、女性が結婚から遠ざかる現象が起きている。しかし、本当に現代の女性たちは、伝統やしきたりにとらわれない、自由奔放な自分だけのための生き方を望んでいるのだろうか。現代の未婚女性にはもっと各々異なった複雑な思いや背景があるのではないだろうか。そのような疑問のもと、これから社会人として、結婚を含めて大きな選択を求められる状況に何度となく置かれるであろう20代未婚女性の“生き方”についての本音を探ることが本研究の目的である。そしてそれはまた個々に大きく異なるであろうから、一人一人がどんなライフプランを持っているかを、各ライフコースにおいて大きなファクターとなることが予測される就業・結婚・出産といった主なライフイベントの視点から探求することにしたい。また特に結婚は、選択するしないに関わらず、いずれの女性も一度は直面するであろう特に大きなライフイベントであると考える。他の主なライフイベントである就業・出産に対する考え方もそれぞれ直接的、また間接的に結婚に影響を与え、また逆に与えられるであろう。そのため、20代未婚女性のライフイコースを、特に結婚観と関連させて探っていきたいと考える。

 

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