結果と考察







1.気分誘導の効果

2.自尊心が気分不一致効果に及ぼす影響

3.自我同一性が気分不一致効果に及ぼす影響

4.自我同一性の下位尺度とポジティブ度との関連


1.気分誘導の効果

気分誘導を行った後の気分確認の平均値(標準偏差)は、ネガティブ群はM=3.80(SD=1.044)、ネガティブ群はM=1.67(SD=.595)であった。気分誘導の有効性を調べるため、気分の評定値について気分確認を従属変数とするt検定を行ったところ、ネガティブ群の方がニュートラル群より、有意に不快な気分を示した。(t(52)=10.04,p<.001) 気分誘導の効果が自尊心や自我同一性の高低によって異なるのか検討するために2要因分散分析を行った。気分誘導(ネガティブ群・ニュートラル群)と自尊心得点(L群・H群)を独立変数、気分確認を従属変数とする2要因分散分析によって求めたところ、気分誘導の主効果(F(1,50)=9132.991,p<.001)が有意であったが、自尊心の主効果(F(1,50)=10.359,n.s.)と気分誘導と自尊心の交互作用(F(1,50)=5.918,n.s.)が有意ではなかった。また、気分誘導(ネガティブ群・ニュートラル群)と自我同一性得点(L群・H群)を独立変数、気分確認を従属変数とする2要因分散分析によって求めたところ、気分誘導の主効果(F(1,50)=99.621,p<.001)が有意であったが、自我同一性の主効果(F(1,50)=1.019,n.s.)と気分誘導と自我同一性の交互作用(F(1,50)=2.330,n.s.)が有意ではなかった。このことから、自尊心や自我同一性の高低に関わらず、気分誘導操作が有効であったことが示唆された。


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2.自尊心が気分不一致効果に及ぼす影響

自尊心と自我同一性は、相関が高い(r=.768,p<.001)ため、同時に3要因分散分析を行うのは好ましくないと考え、それぞれにおいて2要因分散分析を行った。自尊心が気分不一致効果に及ぼす影響について、気分誘導(ネガティブ群・ニュートラル群)と自我同一性得点(L群・H群)を独立変数、ポジティブ度の平均得点を従属変数とする2要因分散分析を行った結果、自尊心の主効果(F(1,50)= 7.506,p<.01)が有意であり、それ以外は有意でなかった。この結果は自尊心が高い人は自尊心が低い人よりもポジティブな記憶を想起しやすいことを示しているが、気分誘導と自尊心の交互作用は有意な結果が得られなかったため、本研究では、自尊心が高い人は気分に関係なくポジティブな記憶を想起しやすいことが示唆されたといえる。この結果によって、仮説@「自尊心が高い人は自尊心が低い人よりも、気分不一致効果が起こしやすい。」は一部支持されたといえる。自尊心が高い人は、不快気分時に気分不一致効果が起こるのに対して、自尊心が低い人は、不快気分時には中性気分時より肯定的な記憶の想起が困難になる(榊,2004)という先行研究と一部、一致する結果が本研究でも得られた


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3.自我同一性が気分不一致効果に及ぼす影響

自我同一性が気分不一致効果に及ぼす影響について、気分誘導(ネガティブ群・ニュートラル群)と自我同一性得点(L群・H群)を独立変数、ポジティブ度得点を従属変数とする2要因分散分析を行った。その結果、自我同一性の主効果(F(1,50)=10.942,p<.01)が有意であり、気分誘導と自我同一性の交互作用(F(1,50)=4.178,p<.05)が有意であった。それ以外は有意ではなかった。これは、自我同一性が高い人は、自我同一性が低い人よりもポジティブな記憶を想起しやすいことを示しており、仮説A「自我同一性が高い人は自我同一性が低い人よりも、気分不一致効果が起こしやすい。」は支持された。また、気分誘導の主効果は有意ではないが、交互作用が有意であることから、気分誘導と自我同一性は互いに影響し合ってポジティブ度に関連していることがわかった。交互作用が有意であったため、上記の2要因分散分析の後、単純主効果を検討した。その結果、ネガティブ気分条件において自我同一性の高低に有意な差(F(1,50)=20.834,p<.O1)が見られ、自我同一性が低い被験者において気分誘導に有意な差(F(1,50)=6.025,p<.O5)が見られた。それ以外に、有意な差は見られなかった。この結果により、ニュートラル気分では、自我同一性の高低とポジティブな記憶の想起のしやすさは関係ないが、ネガティブ気分では、自我同一性が高い人は自我同一性が低い人よりも、ポジティブな記憶を想起しやすいことがわかった。また、自我同一性の低い人はニュートラル気分とネガティブ気分でポジティブ度の差に有意傾向が見られたが、自我同一性が高い人はニュートラル気分とネガティブ気分でポジティブ度に有意な差が見られなかったことから、自我同一性の高い人は、気分に関わらず安定してポジティブな出来事を想起することができ、それらがネガティブ気分の時には感情制御・感情緩和機能として働く可能性が示されたといえる。


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4.自我同一性の下位尺度とポジティブ度との関連

自我同一性の下位尺度とポジティブ度との関連をみるため、ポジティブ度を目的変数、「自己斉一性・連続性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」を説明変数とする重回帰分析を行った。その結果、「自己斉一性・連続性」からの関連に有意傾向(β=.270,p<.07)がみられた。それ以外の方向に有意な結果はみられなかった。この結果は、自我同一性の中でも特に「自己斉一性・連続性」がポジティブ度にやや影響していることを示唆している。「自己斉一性・連続性」とは、自己の不変性および時間的連続性の感覚のことで、細かく言えば、連続性とは自分自身が時間的に連続しているという自覚であり、斉一性とは自分が他の誰でもない自分自身であるという自覚である。これは、自己についての明確さ(対自的同一性)や、本当の自分自身と他者からみられている自分自身が一致すること(対他的同一性)や、社会的現実の中で定義された自我へと発達すること(心理社会的同一性)よりも、自己の不変性および時間的連続性(自己斉一性・連続性)が、気分不一致効果に影響を及ぼしていると考えられる。自己を明確にもつということよりも、明確さが安定していることの方が気分不一致効果にはやや重要であると考えられるのではないだろうか。つまり、自己を明確に「持ち続ける」ことが感情制御・感情緩和機能に重要だということを示唆していると考えられる。


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