考察


1.事前事後間と群間の差に関する考察

2.課題への関与の違いによる差についての考察

3.事前事後間の帰属内容と自尊感情得点の変化量群間の差に関する考察


1.事前事後間と群間の差に関する考察

 事前事後間と実験群・統制群間における自尊感情得点、楽観度得点および自由記述の帰属記述数・帰属次元数の差について明らかにするため分散分析を行った(結果1)。その結果、自尊感情得点および楽観度得点については有意な差は見られなかった。したがって事前事後間において自尊感情、楽観度に肯定的な変化は見られなかった。また、自由記述の帰属記述数に関しては、群間に有意な主効果が認められたものの、事前事後間の主効果は有意でなかった。さらに自由記述の帰属次元数については、群間および事前事後間において有意な主効果が認められた。この結果および統制群においても増加が見られたことから事前事後間の帰属次元数の増加の要因として、同じ測定を繰り返したことによる慣れの影響(学習効果)が見られたものと考えられる。以上より、実験群の被験者は統制群の被験者に比べて自尊感情が上昇し、自由記述で報告される帰属記述数・帰属次元数が増加するという仮説1は支持されなかった。

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2.課題への関与の違いによる差についての考察

 実験群における課題への関与の違いによる自尊感情得点、楽観度得点および自由記述の帰属記述数・帰属次元数の差について検討するため、まず課題での記述数によって実験群の被験者を群分けし、事前事後間×記述数群間の2要因の分散分析を行った(結果2)。その結果から、自尊感情得点・楽観度得点には有意な差は見られなかった。したがって課題への関与によって自尊感情や楽観度に違いは見られなかった。自由記述の帰属記述数に関しては、事前事後間と群間の主効果が有意であった。そこで多重比較を行ったところ、課題無記述群−課題記述数High群、課題記述数Low群−課題記述数High群の間に有意な差が認められた。したがって、全体として事前より事後の方が原因帰属が増加し、中でも課題での記述が多かった者は無記述あるいは記述が少数だった者より失敗の原因帰属の記述が多い、つまり課題への関与が高かったものは記述が多かったことがわかった。

 次に、課題で記述された帰属の次元数によって実験群の被験者を群分けし、事前事後間×次元数群間の2要因の分散分析を行った(結果3)。その結果から自尊感情得点には、有意な差は認められなかったが、楽観度得点において有意な傾向が見られた。したがって、課題において記述された次元の数が楽観度の変化に影響する傾向にあることがわかる。また、自由記述の帰属記述数に関しては事前事後間・群間それぞれにおいて有意な主効果が認められた。群間において有意な主効果が認められたので、多重比較を行ったところ、課題無記述群−課題次元数High群、課題次元数Low群−課題次元数High群、課題次元数Middle群−課題次元数High群それぞれに有意差が認められた。これらより、全体として事前より事後の方が原因帰属の次元数は増え、特に記述課題に多くの次元を記述した被験者は多くの帰属次元の記述をしたことがわかる。

 以上の結果から、実験課題でより多くの数・側面の帰属を記述した被験者は、そうでなかった被験者に比べて「自尊感情」が高くなるという部分では仮説2は支持されなかった。また自由記述で報告される帰属記述数・帰属次元数も増加するという部分についても、いずれの結果からも、課題においてより多くの数・側面の帰属を記述した被験者が他の被験者と比較して自尊感情が高くなるということはいえず、この点でも仮説2は支持されなかった。また、自由記述で報告される帰属記述数・帰属次元数はいずれも増加したが、無記述群にも増加が見られることなどから測定への慣れの影響(学習効果)があったものと思われる。また課題記述数・次元数High群が他の群よりも原因帰属の記述数・次元数が多かったが、課題に積極的に関与する態度を持った者は測定においても多くの記述をしたためと考えられる。

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3.事前事後間の帰属内容と自尊感情得点の変化量群間の差に関する考察

 結果4から事前事後間の帰属内容と自尊感情得点の変化量群間の差について検証する。ポジティブ帰属記述数の分散分析結果からは、交互作用に有意な傾向のあることが認められた。自尊感情得点の低下した群においてポジティブな帰属数が増えていることから、ポジティブな帰属記述が増えることが直接に自尊感情得点の上昇につながるとはいえないことがわかる。
ニュートラル帰属記述数に関しては、事前事後間の主効果が有意であった。事前に比べ、事後はニュートラルな帰属が増えたことがわかる。学習効果によって事前事後間で帰属数自体が増加していることから、結果としてポジティブ・ネガティブのどちらともつかない中立的な帰属数の増加したものと思われる。そのためニュートラル帰属記述数は自尊感情得点の上昇に影響を与えなかったと考えられる。
ネガティブな帰属記述数については、交互作用に有意傾向が見られ、自尊感情得点上昇群では事前に比べ事後の方が自由記述におけるネガティブな帰属記述が減る傾向にあると言え、低下群ではむしろ増える傾向にあるといえる。したがって、自尊感情得点にはネガティブな帰属記述が影響を与えている可能性がある。この点については抑うつ患者は否定的な出来事の後に自己への焦点化を行う傾向があるために、否定的自己複雑性が高くなるという指摘(Woolfolk et al., 1995)から、否定的な記述が増えたことが否定的な気分一致効果をもたらすために起こるものと解釈することができると思われる。

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