本研究の問題点、今後の展望




要約

1.学級集団介入の課題

2.何を指標とするか

3.性差の検討

4.実施上の留意点

5.統制群の問題

6.教育効果の評価に関する問題




1.学級集団介入の課題

今回のSTM実践の指導計画は、学級内の児童のニーズに基づいて作成されたものではない。そのため、STMが必要となる児童がいることは事実であっても、それを必要としない児童もいるだろう。また、担任へのインタビューからは、自分のストレスを見つめるだけの心の成長ができていない児童や、自分を客観視したうえで、ストレスに向き合うことの難しい児童もいたようだった。今回対象とした小学校5年生は、思春期の入り口である時期のため、自己の成長に個人差が大きい印象を受けた。従って、学級全体で集団介入を行う場合には、できるだけ多くの児童に必要とされる指導計画の内容にすべきである。合わせて児童のニーズを把握する調査を実施したり、発達段階を考慮したプログラムを作成することが望まれる。


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2.何を指標とするか

本研究では自尊感情尺度、自己効力感尺度、ストレス反応尺度、学級満足度尺度の4つの尺度を用いた。対象が小学生であり、実施の際の負担を考え、項目数を極力少なくすることに力を入れた。今後は項目数を増やしたり、他の指標を用いて測定するなど、STM教育の有効性を検討していくことが必要である。また、自尊感情や自己効力感は、より長期のSTM教育プログラムによって変化するものだと考えられるため、今後は自尊感情や自己効力感をポジティブに変化させるように働きかける中長期的なSTM教育プログラムを検討していくことが必要である。


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3.性差の検討

筆者の実践中の印象からは、女児の方が課題に真面目に取り組み、男児はふざけて取り組む傾向が見られた。今回は人数が少なかったため検討できなったが、今後はSTM教育の効果が性によって異なるのかという点も検討していきたい。


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4.実施上の留意点

児童がSTMの方法を学びたいというモチベーションを高めることが重要である。そのため、本研究においては、授業の最初の段階で、ストレスをためるとどうなるのかを、具体例を挙げてデメリットを話した。授業では、スポーツ選手の例を挙げて具体的に話をしたり、児童の感想をフィードバックする、使用した教材に赤入れして返却するなど、児童とのコミュニケーションを取りながら、授業への動機づけを高めることを意識した。また、本研究では、事前に学級に入りラポールを形成してから授業に臨んだが、個人の心の問題や学級内でのトラブルに関わることはできなかった。いじめや学級崩壊などのクラス内の問題がある場合は、STM教育を実施するのは難しい。STM教育はストレス関連問題の予防を目的とした教育のため、そのような問題がある場合には、個別対応などによってその問題を解決しておく必要があると感じた。


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5.統制群の問題

学校教育現場においては、クラス間の公平性の観点から、統制群を設定することが困難な場合が多い。事実、A校において5年生の他クラスの担任とも協議した結果、協力を仰ぐことができなかった。今後は、学校現場の教師が抵抗を示すことなく統制群を設定することができる方法を開発し、教師が長期的、計画的にSTM教育プログラムを実施できるような体制が保障されることが望ましい。


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6.教育効果の評価に関する問題

また、ここで実施したSTM教育プログラムは、必ずしも即効性のあるものとは限らない。教育期間が短いため、即効性を期待されれば、その教育の真の効果は見失われるだろう。児童が日常生活場面でストレスマネジメントを使用し(般化)、しかも長期間維持されて効果があったといえるだろう。そのため、実践の効果が般化され維持されているかどうかを確かめるためのフォローアップデータの確認をすることが必要である。また、STM教育終了後も、朝の会や帰りの会などの時間を使って、腹式呼吸やイメージトレーニングを練習するなど、学校場面の中で日常的に継続していくことが必要であろう。


以上、6つの観点から述べたが、今後はこれらの課題を踏まえ、学校現場で実践研究を重ねていくことが必要である。





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