今後の課題


 結果・考察から見て、「気分を高める」という目的においては、自分の悩みについて感情を吐き出したあと、「その悩みが解決し、なりたい自分になれた」という状況を想像することで、気分をポジティブな方向に転換させることを狙った実験群Cの書記方法が最も有効だと言うことが出来る。ただし、自由記述のほうでも、「気分はスッキリしたが、(悩みの)解決にはならなかった」という意見もあり、「日常の不安や悩みを改善する」という目的においては、「悩んだときには、実験群Cの書記方法を行うとよい」とは、断言できないものと考えられる。本研究における実験群Cの書記方法のように、「最も望ましい将来の可能自己」についての筆記による実験を行ったKing(2001)は、「対処」を必要としないと思われるわれわれの人生の諸相について(上記のような)筆記を通して探索することが有益かつ有用であることを示しているが、あくまでも「対処を必要としないと思われる」事柄についての結果であり、レポーレ・スミス(2004)も、筆記の効用を生み出すと思われるメカニズムによって、最も効果を生み出しやすいさまざまなトピックを比較する研究が必要であろうと述べている。やはり、その生み出したい効果ごとに、最も適した書記方法を開発することが求められている。本研究では、気分を従属変数としていたため、実験群Cが最も有効な方法という結果になったが、「問題の解決」を図るには、実験群Bの書記方法のように問題の明確化・客観視を促すことが有効なのかもしれないし、また他に、より有効な方法があるのかもしれない。実験群Bの書記方法について自由記述から読み取れることは、「自分はこうしたいんだ、っていうのが具体的にできた。」、「このままではやばいぞと思った。今日からがんばります。」、「もう少し、生活見直します。」、「このままじゃまずかった自分の行動に終止符がうてた気がする。」という意見があったように、書くことで、自分の今の問題や状況を客観視し、明確にできたことで、今後への頑張りや意欲が出てきていることは推察できる。ただし、それが、問題の解決や、あるいは他の効果につながるかどうかは、本研究で言及することは出来ない。「どのような効果を期待するか」という目的や、「何について書くべきか」という書記内容、また「どのような人に最も効果があるか」といった個人の特性など、様々な観点からそれぞれの目的に応じた最適な書記方法を開発していかなければならないだろう。

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