方法

1.被験者
 三重大学学生及び大学院生95名(男性46名、女性49名)を対象として実験調査を実施した。有効回答数は計93名(男性45名、女性48名)であった。
 被験者の平均年齢は20.8歳であった。
 実験は、2004年11月下旬〜12月上旬に実施した。

2.独立変数
 本研究での独立変数は、対人場面(3水準)と発話速度(3水準)と音声刺激の性別(2水準)である。これらは被験者間要因である。
 対人場面の3水準は、課題志向的場面と親密性場面と活動性場面の3条件である。発話速度の3水準は、通常の発話速度を収録した音声テープを「original(100%)」として、「fast(70%)」、「slow(125%)」に設定した3条件である。被験者は各条件にランダムに割り当てた。

3.対人認知場面の設定
 本研究では、廣岡(1985)にしたがって、状況認知次元である「課題志向性」、「親密性」、「不安」の3次元それぞれについて、大学生が日常的に遭遇すると思われる3場面を設定した。
@)課題志向的場面:ゼミや授業などで発表について討論しているとき
A)親密な場面  :食堂や喫茶店などで友人と雑談しているとき
B)活動性場面  :クラスコンパやパーティーなどで一緒にお酒を飲んでいるとき


4.音声刺激
 発話者は、実験協力者である三重大学学生の男女各1名の計2名。
 発話内容は、各場面に適すると思われる話題の内容を2通りずつ、計6通りを用意した。各文ともに普通に読んで10秒前後の長さとなっている。
 これらの発話内容について、実験協力者が普段話している速さで発話したものをICレコーダー(SONY,ICD-SX20)で録音し、原音声データとした。この原音声データをPCに取り込み、ICレコーダーの付属品であるアプリケーションソフトウェア(「Digital Voice Editor 2」)によって再生、速度変換をした。
 速度変換は内田(2002)を参考に、原音声データを「fast(70%:通常よりも速い)」、「original(100%:通常の速さ)」、「slow(125%:通常よりも遅い)」の3段階に操作した。この際、実際に何人かに聞いてもらい、発話速度に不自然さを感じさせないように変換調整を行った。


5.被験者のパターン分け
 3つの対人場面と3つの発話速度をそれぞれ組み合わせて9通りのパターンを男声と女声の音声刺激それぞれに作成した(Table1)。被験者は、1つのパターンについて各音声刺激をどのように感じたかを評定し、さらに男声の音声刺激で評定したパターンとは異なったパターンを女声の音声刺激で評定することとした。
 つまり、Table1の A に該当する被験者は、男声の音声刺激では@課題志向的場面のaとa'の2通りの発話内容を「fast」で聞き、女声の音声刺激ではそれとは異なる場面の発話内容を異なる発話速度で聞き、評定した。



Table 1 男声を聞く場合の被験者のパターン分け


6.実験手続き
 実験室で、被験者の他者意識特性を測定した後、音声刺激を聞いてその刺激人物に対してどのように感じたかを評定させることを繰り返した。


7.質問紙の構成
@パーソナリティ評定尺度
 廣岡(1990)で使用されたパーソナリティ評定尺度の因子分析結果から、「社会的望ましさ」、「個人的親しみやすさ」、「活動性」の各因子に高い負荷を示した項目から、自身がそれぞれの対人場面で人を評定する項目としてふさわしいと考えた項目を8項目ずつ抜き出し、計24項目の質問紙を作成した。これを場面の記述とともに被験者に提示し、それぞれの状況における人物についてどのように感じたかを、3を「どちらでもない」として、それぞれ1,5に向かうほど各項目の形容詞について「非常にそう思う」となる5段階で評定させた。


A他者意識尺度
 被験者が他者に注意や関心を向けやすいかどうかを測定するものとして、辻(1993)の作成した「他者意識尺度」から、他者の内面情報と外面情報への関心の向けやすさについて測定する「内的他者意識尺度」と「外的他者意識尺度」の11項目を用いた。「全くそうだ」から「全くちがう」までの5段階で評定させた。