結果と考察


1.因子分析の結果

2.仮説1の検討

3.仮説2の検討

4.仮説3の検討

5.結論





1.因子分析の結果

@パーソナリティ評定尺度の因子分析結果
 →「社会的望ましさ」次元
  「だらしない−きちんとした」、「頭のわるい−頭のよい」など
 →「個人的親しみやすさ」次元
  「人のよい−人のわるい」、「感じのよい−感じのわるい」など
 →「活動性」次元
  「内向的な−外向的な」、「にぎやかな−静かな」など

A他者意識尺度の因子分析結果
 →「内的他者意識」因子
  「他者の心の動きをいつも分析している」、「人のちょっとした気分の変化でも敏感に感じてしまう」
 →「外的他者意識」因子
  「人の外見に気を取られやすい」、「人の体型やスタイルなどに関心がある」


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2.仮説1の検討

仮説1: 同じ発話速度でも、背景となる場面によって、パーソナリティ認知の判断は異なる。
また、背景となる場面に対応した対人認知の基本3次元のパーソナリティ特性が高く評定される。

 男声と女声別に、各発話速度において場面を独立変数に、パーソナリティ評定尺度の各次元の因子得点を従属変数として1要因分散分析を行った。(Table 2)
 その結果、女声のslowの「社会的望ましさ」次元を除いて、男声・女声ともにどの発話速度においても全ての場面で有意な差が見られた。よって、一部分を除いて、同じ発話速度であっても、背景となる場面が異なればパーソナリティ認知が異なるということが示唆され、仮説1は支持された。



 次に、どの場面間に差があるのかを比較するために各発話速度と各次元において多重比較(Tukey法)を行った。(Figure 1-3)
 (*Figure 1-3は音声刺激が男声の場合であるが、女声においても似たような傾向を示している)
 その結果、「社会的望ましさ」次元は男声・女声ともにどの発話速度でも課題志向的場面で高く評価され、「個人的親しみやすさ」次元は大部分が親密な場面と活動性場面で高く評価され、「活動性」次元は活動性場面で高く評価されるが、親密な場面でも同様の傾向があることが示された。


Fig.1 fastの各場面における各因子得点の平均(男声)



Fig.2 originalの各場面における各因子得点の平均(男声)



Fig.3 slowの各場面における各因子得点の平均(男声)


 このことから、「社会的望ましさ」の次元の評価が高い課題志向的場面においては仮説1は支持され、「個人的親しみやすさ」の次元と「活動性」の次元の評価が高い親密な場面と、「活動性」の次元の評価が高い傾向がある活動性場面においては、仮説1は部分的に支持されたと考えられる。

 廣岡(1990)では、「社会的望ましさ」の次元は課題志向的場面において最も高く評価され、「個人的親しみやすさ」の次元は場面に関わらず高い評価であり、「活動性」の次元はリラックスした場面において比較的高い評価であった。従って、本研究の結果は、「個人的親しみやすさ」の次元が課題志向的場面では高く評価されなかった点を除いて、廣岡(1990)と類似したものであると言える。


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3.仮説2の検討

仮説2:同じ場面であっても、発話速度によって、パーソナリティ認知の判断は異なる。具体的には、
・課題志向的場面→fastの発話の方が「社会的望ましさ」の次元において高く評価される。
・親密な場面  →slowの発話の方が「個人的親しみやすさ」の次元において高く評価される。
・活動性場面  →originalの発話の方が「活動性」の次元において高く評価される。


 各場面において発話速度を独立変数に、パーソナリティ評定尺度の各次元の因子得点を従属変数として1要因分散分析を行った。
 その結果、男声では全場面において「社会的望ましさ」「活動性」次元で、女声では親密な場面の「個人的親しみやすさ」次元を除いて、発話速度に有意な差が見られた。(Table 3)
 よって、「個人的親しみやすさ」次元においては一部分しか当てはまらないが、同じ場面であっても相手の発話速度が異なれば対人認知の判断が異なると言え、仮説2を支持すると考えられる。

Table 3 男声と女声の各場面における因子得点の分散分析表



 次に、場面(3)×発話速度(3)の2要因分散分析を行ったところ、場面の主効果は男声・女声ともに全次元で有意であり、発話速度の主効果は男声の「個人的親しみやすさ」次元を除いて、どの次元でも有意であった。また交互作用が見られる次元もあった。
 つまり、背景となる場面と被認知者の発話速度が対人認知に大きな影響を与えていることが示された。

 さらに、どの発話速度の間に差があるのかを比較するために多重比較(LSD法)を行った。
 その結果、課題志向的場面ではfastとoriginalが「社会的望ましさ」次元で高く評価され(Fig.4,5)、親密な場面ではどの発話速度でも「個人的親しみやすさ」次元の評価はほとんど変わらず(Fig.6,7)、活動性場面では男声のoriginalが「活動性」次元で高く評価されるが、女声はどの発話速度でも評価がほとんど変わらない(Fig.8,9)ことが示された。
 よって、課題志向的場面と男声の活動性場面でのみ仮説2は支持された。


Fig.4 社会的望ましさの平均(男声)                         Fig.5 社会的望ましさの平均(女声)



Fig.6 個人的親しみやすさの平均(男声)                       Fig.7 個人的親しみやすさの平均(女声)



Fig.8 活動性の平均(男声)                             Fig.9 活動性の平均(女声)


 


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4.仮説3の検討

仮説3:他者意識の高い人の方が、課題志向的場面では「社会的望ましさ」次元を、親密な場面では「個人的親しみやすさ」次元を、活動性場面では「活動性」次元をより高く評価する傾向がある。

 他者意識尺度から得られた他者意識得点をH・L群に分け、パーソナリティ評定3次元について場面(3)×他者意識(2)の2要因分散分析を男声・女声別に行った。
 その結果、場面の主効果は全次元において有意な差が見られたが、他者意識の主効果は男声では有意ではなく、女声では「社会的望ましさ」「活動性」次元において有意であり、交互作用が「活動性」次元でのみ見られた。(Figure 10,11)


Fig.10 社会的望ましさの平均(女声)



Fig.11 活動性の平均(女声)



 つまり、男声と異なり、女声では他者意識の高い人の方が、「社会的望ましさ」「活動性」次元を高く評定していることが示され、仮説3は一部支持された。


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5.結論

 本研究において、背景となる場面に加えて相手の発話速度も対人認知に影響を及ぼしていること、認知者の他者意識が影響する部分もあることが明らかとなった。
 ただ実際には、日常場面で音声のみで相手がどんな人か判断することはほとんどないため、今後は実際場面に近づける工夫が必要だろう。


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