全体要約



 人は、社会で生活していく上で他者との関わりを避けることはできず、関わる相手がどのような人間であるのかという推論は、他者と関係を構築する初段階からその後の対人関係にまで大きな影響を及ぼすものである。
 本研究は、人に対する判断を左右する要因として、状況的要因発話速度の要因、および認知者の個人差要因を取り上げ、それらがパーソナリティ認知に及ぼす影響について検討することを目的とする。
 つまり、相手がどのような人であるかを判断する際に、その場の状況や相手の話す速さ、自分の特性がどのような影響を及ぼし、その結果、どのような判断に至るのかを検討するものである。



 このことを明らかにするために、独立変数として、対人場面と音声刺激の発話速度を用いた。対人場面については「課題志向的場面」、「親密な場面」、「活動性場面」を設定し、発話速度については通常の発話速度である「original」を基準に、発話速度の速い「fast」、発話速度の遅い「slow」の3段階に実験協力者による原音声を速度変換した。

 このような条件の下で、三重大学大学生及び大学院生95名(男性46名、女性49名)を対象に、始めに被験者自身の他者意識特性について測定し、その後、音声刺激を聞いてその刺激人物に対してどのように感じたかを評定させた。



 その結果、女声の音声刺激のうちslowでの「社会的望ましさ」の次元を除いて、背景となる場面が異なればパーソナリティ認知の判断が異なり、「社会的望ましさ」の次元は課題志向的場面において、「個人的親しみやすさ」の次元は親密な場面と活動性場面において、「活動性」の次元は活動性場面において高く評価されることが示された。

 また、男声の「個人的親しみやすさ」の次元を除いて、対人場面だけでなく発話速度も対人認知を行う上で影響を及ぼしていること、そして、課題志向的場面ではfastやoriginalが社会的に望ましく、親密な場面ではどの発話速度でも個人的に親しみやすいと感じる程度は変わらず、活動性場面では男声のoriginalが外向的に思われる傾向があることが明らかとなった。

 さらに、男声の音声刺激と異なり、女声では他者意識の高い人の方が、刺激人物をより社会的に望ましく、より外向的であると感じる傾向があることが示された。



 以上のことから、背景となる場面に加えて、相手の発話速度も対人認知に影響を及ぼしており、発話速度によってパーソナリティ認知次元の評価が異なること、また、認知者の他者意識が影響する部分もあることが明らかとなった。