総合考察



本研究の目的は就職活動を通して、活動者の自己概念の明確化の程度によって職業忌避的傾向がどのように変化するのかということであった。第2の目的は、進路決定効力感と職業忌避的傾向の変化にも関連を検討することであった。

 

1 明確化H群・L群の考察

Tab. 9 自己概念の明確化HL群の忌避傾向タイプ表

 

明確化H群

明確化L群

忌避低下タイプ

<H−H−L>

あまり就職へ積極的でないために職業忌避的傾向が準備期から高く、活動期では就職活動へ消極的になり、就職への忌避的傾向が高まる。そして現在は、自己のやりがいを見つけたため、忌避傾向は低まっているというタイプ(B,,,G)。

<H−H−L>

準備期、活動期を通して就職することに消極的である。しかし、現在では消極的の原因であった仕事の内容に自分の満足するものを見つけたため職業忌避的傾向は低くなっているタイプ(A,J)。

忌避上昇タイプ

<L−H−H>

準備期には働くことへのやる気があることから職業忌避的傾向が低い。活動期でも就職への意志は低くなっていないが、就職するための手段である就職活動への嫌悪感があり職業忌避的傾向が少し高まっている。現在では、内定がで、安心したことからか、学生生活への未練が強くなり、学生でいたいという職業忌避的傾向がより高まるタイプ(L,,R)。

<L−H−H>

活動期、現在にかけては、当然のように就職活動をしている周りに流され、就職を決めたといように職業忌避的傾向へ意識はあまり向けられなかった。そのため、職業忌避的傾向にはあまり変化がなかったタイプ(C,,Q)。

 

その他

<活動期低下タイプH−L−H>

準備期には、働きたいという意志が強いものの、就職への不安はあるため、職業忌避的傾向は高い。活動期では、就職することへの不安より、活動するということが目的となるため職業忌避的傾向へ意識はあまり向かない。現在は友人と離れがたく学生が良いという意識が高まり、また就職への不安や不満もあり職業忌避的傾向が高くなっているタイプ(H,,O)。

<忌避停滞タイプ H−H−H>

終始、学生のままが良いや就職するということに対して嫌悪感を持っており、職業忌避的傾向は高いまま変化はあまり見られないタイプ(I,,S)。

 

明確化H群忌避低下タイプでは、準備期、活動期と職業忌避的傾向は高まっている。しかし、活動期に自己概念の明確化が促されたため、自身の仕事へのやりがい、目的を見つけ今後の就職ということへは楽しみが強く、職業忌避的傾向は低下している。これは自身のやりがいを活動期の中で明確にしたということ、自身の就職への目的をはっきりとつかめたことが影響していると考えられる。しかし、明確化H群活動期低下タイプ・忌避上昇タイプでは、忌避低下タイプとは異なり就職すること、働くことへのやりがいではなく就職活動へ重きがおかれている。そのため、就職活動を終えたとたん、職業忌避的傾向が高まり学生への未練、学生生活を続けたいという気持ちが芽生えるのではないだろうか。

つまり、活動期は就職活動というもの自体に意識が向けられやすいが、就職する仕事内容や働くやりがいなどについてを考えなければ、就職活動がおわると職業忌避的傾向が高くなってしまう。

明確化L群でも忌避低下タイプは職業忌避的傾向が低まっている。これはあまり自己の明確化が促されなくても、就く職業の仕事内容に納得し、自分なりの満足できる仕事内容を見つけたためと考えられる。明確化L群忌避停滞タイプ・忌避上昇タイプのように、あまり自己概念の明確化がされず、就職することへの意識も向けられないままの就職活動だと職業忌避的傾向は低下しない。しかし、自己概念の明確化があまりされなくても、自分なりの就く仕事へのやりがいや目的を発見できると忌避的傾向は低下する。

 

2 進路決定効力感と職業忌避的傾向

 進路決定効力感の欠如が職業忌避的傾向に影響するといわれている(古市1995)が、本研究では、被験者が19人と少ないためか進路決定効力感の程度の違いを明確に示すことができなかった。しかし、進路決定効力感の困難対処などによる自分の能力への自信では同様のことが示されている。

 自己概念の明確化がされている明確化H群では、自信が中から低のもの、つまり進路決定効力感が欠如していると考えられるものは、職業忌避的傾向が高くなる。これは、社会に出る自分というものを自覚していても自分の能力に自信がなければ、困難対処場面を考えたとき、自分に対処できる自信がないため、現在の職業忌避的傾向が高くなると考えられる。

 現在の職業忌避的傾向が低くなっているものでは、自分の能力への自信が高い。つまり、社会に出る自分の能力へ自信があり、困難対処場面を考えても、自分で解決できる方法、力を持っていると考えているものは現在の職業忌避的傾向は低くなっているのであろう。

  自己概念の明確化があまり促されない明確化L群では、能力への自信が高いものは、現在の職業忌避的傾向が高くなっている。職業忌避的傾向は準備期から高い傾向が多い明確化L群では、自分への自信からあまり困難対処場面などではどうにかできるという思いがあると、仕事の内容などには意識がいかず就職活動をおこなうことに意識がいってしまう。つまり、明確化L群では自分への自信が高いと職業忌避的傾向があまり変化しない。

 自分への自信が低く、困難対処場面を想起したとき、対処できる自信がない、どうすればいいかわからないと、仕事内容に自分が対処できるものを探すなどをおこなうと考えられる。そのため、自信のやりがいなどにも意識が向きやすく現在の職業忌避的傾向が低くなると考えられる。

 自己概念の明確化H群では、進路決定効力感欠如が職業忌避的傾向を高めている。しかし、自己概念の明確化L群では、効力感欠如が職業忌避的傾向を低くしている。

つまり、自己概念の明確化が促されることたけが、職業忌避的傾向に影響を与えるということではなく、進路決定効力感、特に自分の能力への自信も職業忌避的傾向に影響を与える可能性がある。

 今後、進路決定効力感の欠如のみ、自己概念の明確化のみの視点からではなく、多様な視点から職業忌避的傾向変化について考え、自分の能力への自信をどのように持つことが職業忌避的傾向を低くするとことなるのかについて詳しく検討していく必要があるだろう。

 また、発達段階によって進路を意識する時期が異なることがインタビュー内容から伺えた。そのため、発達段階を考慮した調査を行うことも、今後のキャリア教育について有意義なことなると考えられる。