はじめに 
近年、突然「キレ」る子どもが増加しているということをよく耳にする。
特に1997年から98年にかけて生じた神戸連続児童殺傷事件などをきっかけに、
メディアを賑わせている。少年犯罪の凶悪化が年々注目される中、「キレ」る
という現象は、単に一時のものと判断することはできないと考えられる。
また、上述のような「キレ」という現象は、怒り感情の表現の1つと捉えること
ができる。人々は様々な怒りを感じ、それを言語表現している。若者たちの間では、
例えば「むかつく」「キレる」などは日々頻繁に使用されている。
このように、心の中のモヤモヤやストレスを言葉にして吐き出すことで不快な感情
を解消している。これは、言葉にすることで気持ちの整理ができたり、客観視する
ことでモヤモヤが明確化できるという「言語化」の効用である。
本研究では、このように言葉での怒り感情の表出がされているにもかかわらず、
「キレる」という現象が起こっていることについて注目し、感情の言語化とキレ
との関係について検討する。「キレる」原因の1つとして、様々な怒り感情を感
じているにも関わらず、それを特定の言葉でしか表現できないことが、自分が何
をどう感じているのかを分からなくさせてしまっているということが考えられる。
また、自分の気持ちは非常に複雑なので「それを表現する言葉をもたない」、ある
いは「言葉などでは表現できない」という場合も考えられる
。
自分の気持ちをスムーズに「言語化」することができない若者が多数存在することが
推測される。
言語化されず原型のまま残されたストレスは、突破口を求めてますます活性化する。
その活性化されたストレスは行動化(暴力行為や反抗、自傷行為など)や身体化
(心身症など)という形で表出されてしまうのである。行動化であれ身体化であれ、
未熟な表現形態であり、できれば悩みやストレスに言語という形を与え、上手に解消で
きることが望ましいと考えられる。