TAS-20、ストレス、キレ衝動の重回帰分析
@)全体のモデル
アレキシサイミア傾向がストレスを介してキレ衝動に影響するモデルを,
重回帰分析を用いて検討した
。
最初にTAS-20の下位尺度であるF1、F2、F3を説明変数,ストレスを基準
変数として重回帰分析を行った結果、感情同定困難(F1)、感情伝達困難(F2)
それぞれからストレスへの影響がみられた。(.337,p<.001)(.233,p<.01)
次にF1、F2、F3とストレスを説明変数,キレ衝動を基準変数として重回帰
分析を行った結果、感情同定困難(F1)、感情伝達困難(F2)、外的志向(F3)、
ストレスそれぞれからキレ衝動への影響がみられた。
不快感情をラベリングできないということは、言葉による伝達も困難である
と考えられる。
また、感情をラベリングできないことや伝達できないことは、ストレスの
蓄積を引き起こすと考えられ、「キレ」の定義のひとつである「自分に
とって不快なことを無理に押さえ込んでいる状況」となり、結果として
キレ衝動を高めているのではないかと考えられる。
アレキシサイミア傾向の下位尺度それぞれからストレスを介すことなく
キレ衝動への影響が認められた。特に感情を認識することが困難な傾向が
キレ衝動に強く影響しているということが認められた。
自分の感情について多くを語らず、事実だけを語る外的志向の傾向も影響
は認められたが、それほど強いとはいえない。
これは、自分の感情についてあまり関心がないことよりも、不快感情は感
じているにもかかわらず感情を認識しラベリングすることが困難であるこ
とのほうがより不快感を増し、それが鬱積した結果「キレ」という衝動的
かつ非常に強い行動として現れてしまうのではないかと考えられる。
さらに、ストレスを介すことなく感情同定困難(F1)と外的志向(F3)から
キレ衝動への影響が認められることから、感情を認識できないことと外的な
話し方をする人は,ストレスを蓄積していなくても,いきなりキレることが
あるということも考えられる。
また、感情を伝達することが困難な傾向にある人ほどキレ衝動は低いとい
う結果が得られた。
これは、感情を伝達するという行為が、自身の自由意志によって決定する
ことが原因ではないかと考えられる。
つまり、普段からあまり積極的に感情の言語表現・表出をしない人は、
「キレ」という強い感情表現にはあまり結びつかないのではないだろうか。
A)ストレスを下位尺度に分けた全体のモデル
次にストレスを下位尺度に分けて再度重回帰分析を行った。
最初にTAS-20の下位尺度であるF1、F2、F3を説明変数,ストレスの
各下位尺度である抑うつ、不機嫌、無気力を基準変数として重回
帰分析を行った。
結果、抑うつへは感情同定困難(F1)と感情伝達困難(F2)から
(.328,p<.001)(.119,p<.01)、不機嫌へは感情同定困難(F1)から
(.357,p<.001)、無気力へは感情伝達困難(F2)から(.371,p<.001)
それぞれ影響を受けている事が判明した。
次にF1、F2、F3と抑うつ、不機嫌、無気力を説明変数,キレ衝動を
基準変数として重回帰分析を行った結果、キレ衝動に対しては、感
情同定困難(F1)と外的志向(F3)、そしてストレスの不機嫌から
の影響がみられた(.379,p<.001)(.165,p<.01)(.353,p<.001)。
感情を認識することが困難な傾向にある人は、抑うつ、不機嫌
に影響があることがわかった。特に不機嫌に対しての影響が強い
ことが、その後の不機嫌からキレ衝動への影響につながっている。
前述したように、感情を認識できないことは、不快感情をより増幅させ
ると考えられ、不機嫌因子につながっていくのではないかと考えられる。
また、感情を伝達することが困難な傾向にある人は抑うつと無気力に影
響が認められた。
これも先に述べたように、感情の伝達というのは自身の自由意志による
ところもあるからではないだろうか。つまり、積極的に感情の言語表現
をしなかったり、あるいは出来なかったりするということが考えられる。
もともとの人格特性としてあまり積極的な発言や行動をしないというこ
とが今回の結果につながったと考えることはできないだろうか。
以上より、アレキシサイミア傾向からキレ衝動につながるストレスの下位
尺度というのはは,不機嫌であって抑うつや無気力ではないということが判明した。
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