1.調査対象
M大学の学生の1〜4年生、153名を対象として質問紙を実施した。このうち、質問紙に記入漏れや記入ミス、記入不備があった者をのぞき、有効回答者計146名(男性77名、女性69名)のデータを分析対象とする。対象者の平均年齢は19.5歳(SD=1.1)だった。
2.調査時期2005年12月中旬に行った。
3.調査実施状況調査は講義時間の一部を利用して一斉に実施し、その場で回収した。また、個人的にも調査を依頼し、その場または自宅で各自実施してもらった後に回収した。質問紙の回答に要した時間は約15〜30分程度であった。
4.質問紙の構成
質問紙は、フェイスシート(学部、学年、年齢、性別)、(1)自尊感情尺度、(2)自己認知の複雑性、(3)理想自己をきく質問、(4)理想と現実のズレの程度をきく質問、(5)自己形成意識尺度からなる。
(1)自尊感情尺度
自尊感情尺度は、Rosenberg(1965)により作成された自尊感情尺度10項目の邦訳版(山本・松井・山城,1982)を使用した。評定は、「あてはまらない」〜「あてはまる」の5件法。
(2)自己認知の複雑性
自己の様々な側面を書き出し、それぞれの側面の特徴を表す言葉を40個の性格特性語から選択してもらった。その際、同一の特性語を何度使用してもよいこと、必ずしも全部を使う必要がないことを教示した。なお、性格特性語は林ら(1997)を使用し、50音順に配列して示した。また、わかりやすいように書き方を例示した。
林ら(1997)で使用されている性格特性語
Linville(1985,1987)の研究で使用された特性語の内容を考慮しつつ、性格特性のBig Fiveモデルの各因子からPositive、Negativeな語を4つずつ選定したもの。Woolfolk et al(1995)の研究の一部でも、Big Fiveに準じた特性語群が使用されており、Linville(1985,1987)が用いた33語の多くもこのモデルに従って解釈可能な内容となっている。この性格特性語をTable 1に示す。
(3)理想自己に関する質問水間(1998)を参考に、“あなたが「自分はこうなりたいな」と思う、理想の自分のイメージを思い浮かべて下さい。その理想の自分は「どんな性格か」「どんな外見か」「どんな生き方をするのか」「対人関係はどうか」「どんな能力があるか」などについて、その特徴を以下の10個の空欄すべてに自由に箇条書きしてください。10個以下でもかまいませんが、できるだけたくさん書いてください。また、書きにくい場合は下の欄に挙げてある例の中から選んでその言葉を記入して下さい。”という教示を与え、10個の欄を設けた。
書きにくい場合の例については、青木(1971,1972)によって示された特性を表す形容詞の中から、望ましさのはっきりしているものをベースに、菅(1975)によって用いられた項目、水間(1998)が個別に質問したものによって抽出された項目などを加えて最終的に25項目設定されたもの(水間,1998)を使用した。設定の際には、できるだけ多くの対象において理想自己概念を表す項目例として有効であることを狙い、山本・松井・山城(1982)によって示された「重要とされる側面」が含まれること(ただし、容貌については、その例を並べることで、外面的なことのみに流れる懸念があったため、除外した)、可能な範囲で多岐の側面に渡ることを念頭において作られている。
例としてあげた項目は25個、以下の通りである。〔明るい、親切な、元気の良い、自分の考えをもった、人づきあいのよい、がまん強い、思いやりのある、決断力のある、寛大な、意志の強い、粘り強い、着実な、活動的な、まじめな、純真な、優しい、正直な、人に理解される、社交的な、一貫性のある、人に流されない〕
(4)理想自己と現実自己のズレ(3)で挙げてもらった理想の自己それぞれについて、現在の自分がどれくらいあてはまっているか。「あてはまらない」〜「あてはまる」の5件法。
(5)自己形成意識梶田(1988)より作成された自己形成意識に関わる意識の尺度をもとに水間(1998)によって作成されたものを使用した。梶田の尺度から「達成動機」とまとめられた項目、「努力主義」とまとめられた項目を抽出し、さらに若干の項目を加えたものである。「あてはまらない」〜「あてはまる」の5件法。