【問題と目的】
1.合唱コンクールの目的と意義
校内合唱コンクールは、小・中学校の中でしばしば特別活動として行なわれている。そして、中学校学習指導要領(文部科学省 1999)には、合唱コンクールは特別活動の中でも学芸的行事(学校行事のひとつ)に含まれている。なお学芸的行事とは「平素の学級活動の成果を総合的に生かし、その向上の意欲を一層高めるような活動を行うこと」と扱われており、合唱コンクールの他に、文化祭・作品発表会・映画や演劇鑑賞などがある。
一方で現場の教師が合唱コンクールのねらいとして言及しているものは「クラスの集団つくり」「リーダーの育成」といったものである。しかし、現場の教師は合唱コンクールが集団つくりに有効であるということを体験的に感じてはきているが、それが具体的にどのような効果があるのか、なぜそのように考えられるのかといった事については論じられてこなかった。諸富(2004)は、「合唱コンクールなどの学校行事などで、個を大切にした一体感のある学級集団を目指すことが大切だ」と述べている。また、筆者も諸富と同様に合唱コンクールの活動を通してクラスが一体化するような体験をすることが、人間関係を形成していく上で重要であると考えている。合唱コンクールなどの学校行事を通してクラスが一体化するのにはどのような要因が関係しているのか、また、合唱コンクールをより有意義な活動にするにはどうすればよいのかを本論文で考察していきたい。
2.集団凝集性について
中学校学習指導要領(1999)は望ましい集団活動の育成について、「生徒は、学級集団や、学級や学年の枠を超えて組織される集団に属し、その中で互いに理解しあい、高めあい、個人と個人、個人と集団、集団相互が互いに作用しながら、集団活動や体験的な活動を進めていくことが求められる。」と述べている。そのことから筆者は、集団自体の改善向上を図るには、集団が一体化することが大切ではないかと考えている。
クラスが一体化することは社会心理学的には集団凝集性が高まった結果として説明できる。「集団凝集性」という概念はレヴィン(Lewin.K 1954)によって提唱されたものである。この集団凝集性については、原岡(1982)は「集団凝集性とは、集団への魅力と言う正の力とほかの集団への魅力という負の力の合成力である」と言っており、フェスティンガー(Festinger.L 1965)は「メンバーたちをその集団に魅きつけ、その中に引きとめておく魅力の総計を指すもの」と述べている。自分の集団に魅力を感じると凝集性は強くなり、他の集団に魅力を感じると所属している集団の凝集性は弱くなると考えられる。すなわち、集団への魅力を高めることが凝集性を高めることにつながると言える。集団への魅力、言い換えると凝集性を高める要因について原岡(1982)は次のように言っている。
@集団メンバーの持つ魅力
A集団メンバー間の類似性
Bメンバー間の相互依存性
C集団目標の魅力
D集団に入ることによってのみおこなえる行動
E集団の持つ好ましい雰囲気
F集団のコミュニケーション構造、地位構造、権力構造
Gリーダーシップのあり方H意思決定への参加の程度
集団凝集性の強さが集団に与えるさまざまな影響については、ショー(Show.M.E 1981)や原岡(1982)が言っているが、佐々木(1979)は、それを大きく4つに分けて述べている。また、その4つを基に、便宜上筆者がそれぞれの特徴を「@定着性A統制性B積極性C適応性」と名づける。これらが凝集性を示す特徴である。つまり、クラスが一体化しているときにはこれらの4つの特徴が高く見られることになる。
@定着性
凝集性の高い集団のメンバーは、集団活動により精力的であるため、集団から抜け出そうとすることは少ないものである。ショー(1981)は「高い凝集度集団のメンバー達は、低い凝集度集団のメンバーよりも、集団に対して満足するのが一般的である。」と述べている。このことから、集団に対して満足感を抱いていると、その集団から離れていこうとはしなくなると考えられる。原岡(1982)の言う「メンバーがその集団にとどまってその一員でありたいと望む」ことは集団に対する定着性の現れであると言える。
A統制性
例えば、集団の中に意欲がないメンバーがいるとする。しかし、他のメンバーが積極的に活動していると「周りの人が一生懸命やっているから自分もがんばろう」と意欲を見せることがある。これに関してもショー(1981)は「集団メンバーが集団に惹きつけられている場合には、他の集団メンバーの希望に沿って行動するように動機づけられ、また集団機能を促進するような方向で行動するよう動機づけられるものである。」と説明している。したがってこのような条件の下ではメンバーに及ぼす集団の力が強くなり、集団の欲求がメンバーに受け入れられやすくなるのである.
B積極性
凝集性が強い集団のメンバーは、集団の利益のために行動をするように動機づけられた結果、自ら集団のために活動を行うようになる。つまり、成員たちはその集団の目標を達成するために積極的に行動するようになると言える。原岡(1982)の言う「メンバーは集団活動に積極的に参加し、集団への忠誠心が強まる。」とはこのことを指している。
C適応性
メンバーが意欲を示し活動に参加するようになると、おのずから他のメンバーとのコミュニケーションの機会は増えていく。そこから、成員同士のつながりが強くなり集団の中に適応しやすくなると考えられる。さらに、ショー(1981)は「高い集団凝集性のメンバーは、お互いに非常に多くコミュニケートしあい、また集団相互作用の内容は好意的に方向づけられる」と述べている。したがって、集団活動にはメンバー個人の適応性を高める効果もあると考えられる。
3.本研究の目的
合唱コンクールの活動を通してクラスが一体化するための要因を調べる。そのために、合唱コンクールに向けてクラスが一体化するプロセスを観察し、集団凝集性が高まる誘因性特性をもとに考察する。また、今回は誘因性特性の中でもリーダーシップのあり方に着目し、事例をもとに検討する。