総 合 考 察 

 
 
 「存在受容」や「日常的・情緒的援助」においては続柄による有意な主効果が見られ、孫―祖父母関係評価と加齢に対するイメージ、時間的展望体験の関連については続柄によってそれぞれ異なる結果が出た。以上から、青年とその祖父母がどのような関わりを持ってきたかが重要でありつつも、続柄によって果たす役割や与える影響が異なることが示唆された。続柄による違いはなぜ生じるのか。これにはそれぞれの考察でも述べたことではあるが、性役割によるものではないかと考えられる。前原・稲谷・金城(1999)は、祖母が得意料理を作ってくれたり、身のまわりの世話をしてくれるなどの伝統的女性役割機能以外にも、孫の安全基地として、また社会生活の知識・習慣を教える人として、あるいは人生観や死生観の象徴的情報源として実に様々な機能を持つことを明らかにした。同時に、祖父はスポーツやゲームを一緒にしたり、職業上の知識や技能を伝えることにおいて、祖母よりも高い評価を受けている。このような結果から、祖父母は性役割モデリングの機能を持つことが示唆されている。本研究とは異なる尺度を用いたために必ずしも同じ結果が出るとは限らないが、祖父と祖母で異なる役割を持つものとして支持できるだろう。次に父方か母方かに関してであるが、これは被験者の家庭環境に大きく左右されるものではないかと考えられる。先と同様に、性役割の観点から父方、母方双方の考察をしたが、実際は家庭環境によって結果が大きく変わるものと考えられる。

 本研究において、被験者にはまず初めにその祖父母を思い浮かべたことについて特に殿理由を問わなかった。まず初めに思い浮かべるということはその祖父母が被験者にとって最も印象に残っている存在であり、その祖父母が加齢に対するイメージや時間的展望体験に影響を及ぼしていると考えたからである。しかし、例えばその祖父母が好きであった場合と嫌いであった場合には、加齢に対するイメージや時間的展望体験に大きな違いが生じたかもしれない。その祖父母に対する感情も影響している可能性もあるので、それを含めた検討は今後の課題となるであろう。

 孫―祖父母関係評価において最も高い下位尺度得点は「世代継承性促進」であった。孫と祖父母はとても年齢が離れており、お互い「自分とは異なる存在」として認識する。孫は祖父母を見て自分もいずれあのように身体が変化していき、自分を取り巻く環境も今とは全く異なっていくことを思う。祖父母は孫を見て、かつての自分自身や自分の子ども、つまり親を思い出し、過去を振り返る。そうして自分自身を再度見つめることになる。このように異世代間で相互関係を築いている。祖父母が孫に果たす役割は他にも日常的・情緒的援助や存在受容、金銭的援助や甘やかしなどが見出されたが、そのような相互関係から特に「世代継承性促進」を高く評価したものと思われる。青年期は学生がそのほとんどを占めている。学校生活やアルバイトなどを通して異年齢との関わりはあるだろうが、祖父母ほど離れた異年齢、というよりも寧ろ異世代と関わることは少ないのではないか。「世代継承性促進」のように、異世代から得るものは大きい。祖父母との関係評価を通して、異世代と関わることの重要性も示唆できたといえよう。
 祖父母との関係は加齢に対するイメージに影響を及ぼしていることも明らかになった。これは高齢者が加齢を象徴する存在であり、それだけでなく他者に加齢することを認知させる役割を持っているという仮説を支持するものである。加齢は誰にも避けられないことであり、今が楽しければいいという享楽主義、刹那主義の傾向にある青年にとって加齢に肯定的なイメージをもたらすことは極めて重要である。本研究では特に「世代継承性促進」が年齢を重ねることに肯定的なイメージをもたらしており、祖父母の姿が今後の青年自身にとって影響を及ぼすことが明らかになった。

 また、加齢に対するイメージはそのまま時間的展望体験にも影響を及ぼしていることが示された。これより、祖父母との関わりと加齢に対するイメージ、青年の時間的展望に結びつきが見られることが明らかになった。しかし、全体的に重決定係数が低く、必ずしも強い相関があるとは言い切れない。今後は加齢に対するイメージの形容詞対を構成し直し、祖父母との関係性をより詳しく尋ねるなど検討の方法を改良する必要があるだろう。

 本研究では加齢に対するイメージを4つの下位尺度に分けることができたが、特に「活動性」については現代の高齢者像を映し出しているという解釈もできる。日本は平均寿命が世界でもトップレベルの水準にあり、80歳を超えてもなお健康で活動的な高齢者も多い。そのような高齢者の存在が、「年齢を重ねることはとても活気あるものだ」という印象をもたらしたのではないか。加齢に対するイメージとは、同時に高齢者イメージとも言えるだろう。

 祖父母との関わりは、青年期に時間的展望を確立させるために重要な役割を果たしていることが本研究で明らかになった。今後は関わりの詳細や関係性の良否も含めて更に検討していく必要があるだろうと考える。