結果



1.DSRSC(自己記入式抑う尺度)の分析

1-1.学年差・性差の検討

1-2.高抑うつ傾向群、低抑うつ傾向群の抽出

 欠席や未提出などの児童が5名いたため、回答が得られたのは458名(5年生男子114名、女子100名、6年生男子119名、女子125名)であった(回収率98.9%)。そのうち、回答に不備のあった26名を除いた432名(5年生男子106名、女子94名、6年生男子111名、女子121名)を分析の対象とした(有効回答率94.3%)。
 
 
1-1.学年差・性差の検討
 分析の対象となった432名の抑うつ得点の平均は9.20点、標準偏差は4.82点であった。抑うつ得点について、学年(2)×性別(2)の2要因分散分析を行った結果、交互作用(F(1,428)=3.81, .05<p<.10)が有意傾向であった。学年の主効果(F(1,428)= 1.80, ns)、性別の主効果(F(1,428)= 0.00 ns)は有意ではなかった。
 
 次に、抑うつ得点に基づいて、高抑うつ傾向群と低抑うつ傾向群を抽出した。村田ら(1996)は、DSRSC日本版18項目のカットオフ・スコアを16点としているが、本研究では2項目を除いた16項目で実施したため、菅原ら(2002)を参考に14点以上の児童を高抑うつ傾向群とした。一方、低抑うつ傾向群は、明確な基準がないため、武田(2002)を参考に、平均点(9.20)−1標準偏差(4.82)の4点を基準とした。14点以上の者は、5年男子106名中22名(20.8%)、5年女子94名中11名(11.7%)、6年男子111名中20名(18.0%)、6年女子121名中30名(24.8%)、全体で432名中83名(19.2%)であった。一方、4点以下の者は、5年男子17名(16.0%)、5年女子16名(17.0%)、6年男子21名(18.9)、6年女子21名(17.4%)、全体で75名(17.4%)であった。抑うつ得点では、有意な学年差・性差は見られなかったため、両群の構成において、学年、性別に関する特別な考慮は加えなかった。抽出された158名を以降の分析対象とした。
 
 
2-1.抑うつ傾向と攻撃性の各方向の関連
 抑うつ傾向によって、また条件(内的反応・外的反応)によって攻撃性の得点に差があるかどうかを検討するため、他責・自責・無責それぞれの反応得点について、群(高抑うつ傾向群・低抑うつ傾向群)×条件(内的反応・外的反応)×方向(他責・自責・無責)の3要因分散分析を行った。その結果、群と方向の交互作用(F(2,312)=9.42, p<.05)、条件と方向の交互作用(F(2,312)=30.63, p<.05)が有意であった。
 群と方向の交互作用について、方向ごとの水準誤差項を用いて群の単純主効果を検定したところ、自責(F(1,156)=12.43, p<.01)と無責(F(1,156)=30.63, p<.01)で有意であった。つまり、低抑うつ傾向群は、自責・無責の得点が高抑うつ傾向群より高いことが示された。また、方向の単純主効果を検定したところ、高抑うつ傾向群(F(2,312)=17.44, p<.01)、低抑うつ傾向群(F(2,312)=4.87, p<.01)ともに有意であった。LSD法による多重比較の結果、高抑うつ傾向群では他責が自責・無責より高かった(MSe=32.9710, p<.05)。低抑うつ傾向群では、無責が自責より高かった(MSe=32.9710, p<.05)。
 条件と方向の交互作用について、条件の単純主効果を検定したところ、他責(F(1,156)=124.16, p<.01)、自責(F(1,156)=18.04, p<.01)で有意であった。つまり、他責・自責は、内的反応が外的反応より得点が高いことが示された。また、方向の単純主効果を検定したところ、内的反応(F(2,312)=24.97, p<.01)、外的反応(F(2,312)=9.42, p<.01)ともに有意であった。LSD法による多重比較の結果、内的反応では他責が自責・無責より高かった(MSe=16.9543, p<.05)。外的反応では、他責・無責が自責より高かった(MSe=23.0539, p<.05)。
 
 抑うつ傾向によって、また条件(内的反応・外的反応)によって得点に差があるかどうかを検討するため、項目ごとに群×条件の2要因分散分析を行った。
 交互作用は、「片づけて欲しい」のみで有意であった。条件ごとの水準誤差項を用いて群の単純主効果を検定したところ、内的反応(F(1,156)= 10.02, p<.01)で有意であった。また、条件の単純主効果が高抑うつ傾向群(F(1,156)= 9.37, p<.01)で有意であった。つまり、高抑うつ傾向群における内的反応で有意に得点が高いことが示された。
 群の主効果が有意だったのは、「せっかくの絵が台なし」「自分ももっと気をつければよかった」「机の上に水入れを置いたのが悪かった」「自分で片づけるから」「ごめん」「大丈夫だよ」「描き直すから、いいよ」「たまたまこうなっただけだから、気にしないで」「仕方ないよ」の9項目であった。「せっかくの絵が台なし」は高抑うつ傾向群の方が高く、その他はすべて低抑うつ傾向群の方が高かった。
 また、条件の主効果が有意だったのは、「もう少し気をつけて」「せっかくの絵が台なし」「謝ってほしい」「自分ももっと気をつければよかった」「机の上に水入れを置いたのが悪かった」の5項目であり、すべての項目で内的反応の方が高かった。
 
抑うつ傾向によって、各対象児において内的反応と外的反応のどちらが有意にあらわれるかが異なるかどうかを検討するため、各群の内的反応得点と外的反応得点の差を取り、内的反応得点より外的反応得点が高い群、内的反応得点と外的反応得点が同じの群、内的反応得点より外的反応得点が低い群に分け、攻撃性の方向ごとにカイ二乗検定を実施した。
各群における各条件の他責反応4項目の合計得点間の差を取り、人数を集計した。カイ二乗検定を行った結果、人数の偏りに有意差はなかった(カイ二乗(2)= 3.510, ns)。他責の内的反応得点と外的反応得点の差の分布に群間での差はなかった。
各群における各条件の自責反応4項目の合計得点間の差を取り、人数を集計した。カイ二乗検定を行った結果、人数の偏りに有意差があった(カイ二乗(2)= 6.012, p<.05)。残差分析によると、内的反応の得点が外的反応の得点より低い児童が、高抑うつ傾向群で有意に少なく、低抑うつ傾向群で有意に多かった。また、内的反応の得点と外的反応の得点が同じ児童が、高抑うつ傾向群で多く、低抑うつ傾向群では少なかった。
各群における各条件間の無責反応4項目の合計得点の差を取り、人数を集計した。カイ二乗検定を行っはなかった(カイ二乗(2)= 0.621, ns)。無責の内的反応得点と外的反応得点の差の分布に群間での差はなかった。

考察