1.被験者
三重大学の学生57名(男性22名、女性35名)対象者の平均年齢は20.96歳であった。
2.調査時期
2006年11月下旬〜12月下旬
授業時間中に質問紙を配布し一週間後に回収したものと、休み時間などにお願いをし、その場で回答してもらったものと2通り。
3.質問紙の構成
フェイスシート、アイデンティティ地位分類尺度、友人との付き合い方に関する自由記述から構成された。フェイスシートでは調査についての説明がなされ、回答者の基本属性(性別、年齢、学年)が尋ねられた。
(1)アイデンティティ地位分類尺度
アイデンティティ地位の分類には加藤(1983)の同一性地位分類尺度を用いて測定した。これは、Marcia(1966,1980)がアイデンティティの状態を表すために考案した同一性地位面接法を参考にして作成された。Marciaは、アイデンティティ形成という課題への対処法として、危機の有無と自己投入の有無を挙げた。危機の有無とは、自分にはどのような職業、役割、理想などが適しているのかについて迷い考える時期の有無であり、自己投入の有無とは、自己定義を実現し自己を確認するための、独自の目標や対象への努力の有無のことである。これら2変数を用いて同一性地位を、“同一性達成”“モラトリアム(積極的モラトリアム)”“早期完了(権威受容)”“同一性拡散”の4つの地位に分類した。同一性達成地位の者は、自分の将来について真剣に悩み、やりたいことを見つけそれに積極的に参加することができる。しかし、同一性拡散地位の者は、悩みや危機の経験の有無に関わらず、自分の人生に対して積極的な関与を行なっていない。権威受容地位のものは、親の考えと自分の希望が一致しており悩むことなく歩んできた者である。モラトリアム地位の者は、まさに今悩み、自分の歩む道を探している者である。
加藤(1983)の同一性地位判別尺度は、領域を特定しない「現在の自己投入」「過去の危機(危機とは重大な転換期を意味する)」「将来の自己投入の希求」の3変数を組み合わせて6つの同一性地位に分類するものである。合計12項目から構成されており、回答は6段階評定により、「1.全然そうではない(1点)」から「6.まったくそのとおりだ(6点)」を与えた。なお今回は質問の整合性をたもつために「6.まったくそのとおりだ」を「6.まったくそうだ」に変更した。
○本尺度により判定される6つの同一性地位 ※分類の手順は結果に記載
同一性達成
過去に高い水準の危機を経験した上で、現在高い水準の自己投入を行なっている者。
同一性達成―権威受容中間
中程度の危機を経験した上で、現在高い水準の自己投入を行なっている者。
権威受容
過去に低い水準の危機しか経験せず、現在高い水準の自己投入を行なっている者。
積極的モラトリアム
現在は高い水準の自己投入は行なっていないが、将来の自己投入を強く求めている者。
同一性拡散
現在低い水準の自己投入しか行なっておらず、将来の自己投入の希求も低い者。
同一性拡散―積極的モラトリアム
現在の自己投入の水準が中程度以下の者のうちで、その現在の自己投入の水準が「拡散」地位ほどには低くないが、将来の自己投入の希求の水準が「積極的モラトリアム」地位ほど高くない者。
(2)友人との付き合い方に関する自由記述
友人との付き合い方は、長沼・落合(1998)が作成した質問紙を参考に5つの設問を作成した。
この質問紙は多種類の友人との付き合い方を実証的に析出し、それらの付き合い方に共通する心理的要因を解明することを目的として作られており「深い(積極的関与)―浅い(防衛的関与)」を両極とする「友達との付き合いの深さ」と、「密着―親密―分離」の順に並ぶ「相手との心理的接近の仕方」という2次元性の心理的要因が見出されている。
古野・藤原(2003)により明らかにされた、アイデンティティ達成地位の者がモラトリアム地位の者よりも多く行っていた友人との付き合い方は、「ありのままの自分を出している」「自分と合わない人とも付き合う」「悩みの相談をする」「相手を信じている」「自己理解が深まる」「傷ついても本音で付き合う」「励ましあう」の7つである。この中から「ありのままの自分を出している」「悩みの相談をする」「相手を信じている」「自己理解が深まる」のとくに関係の強い4つの付き合い方に関するものと、「過去と現在の友人との付き合い方の変化」を合わせた5つの設問を作成した。
○友人との付き合い方に関する質問
@あなたは友達と話をする時に内面的なことをどの程度話しをしますか?(将来のこと、恋愛等)
A自分が悩みを抱えている時(個人的な相手には関係のない)友達とはどのように接しますか?
Bあなたは友達を信じていますか?信じていませんか?理由も書いてください。
C友達と付き合うことによって、自分自身について何か気付くことはありますか?
D今の自分と、過去の自分で友達との付き合い方が変わったなと感じることがあれば教えてください。