【結果】

1.調査対象者について

2.各悩みによる援助要請意図の比較

3.自尊心と援助要請意図の関わりについて
  
4.尺度構成と信頼性分析

5.各悩みの尺度構成と信頼性分析

6.個人特性要因(自尊心・言語的援助要請スキル)と援助要請抑制要因、援助要請意図との関わり

7.「被援助不安」の援助要請抑制要因を用いた多母集団の同時分析

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1.調査対象者について

 調査の対象となったのは、国立M大学の学生301名である。そのうち、欠損のある者が27名いた。それらを除き、被調査者274名のデータ(「対人関係の悩み」88名、「性格・外見・健康の悩み」98名、「学業・進路の悩み」88名)が分析に使われた。被調査者については、Table1~4の通りである。

Table1 各悩みの被験者の有効回答数

 
回収した質問紙  
欠損値を含む質問紙 
有効回答数
『対人関係の悩み』群 
99
11
88
『性格・外見・健康の悩み』群
103
5
98
『学業・進路の悩み』群  
99
11
88

          
Table2 『対人関係の悩み』群の平均年齢と男女数

平均年齢


『対人関係の悩み』群
20.8歳
30
58


Table3 『性格・外見・健康の悩み』群の平均年齢と男女数

平均年齢


『性格・外見・健康の悩み』群
20.7歳
33
65

     
Table4 『学業・進路の悩み』群の平均年齢と男女数


平均年齢


『学業・進路の悩み』群
21.0歳
25
63

     
2.各悩みによる援助要請意図の比較

 各悩みによる援助要請意図の差を検討するため、「対人関係の悩み」「性格・外見・健康の悩み」「学業・進路の悩み」の条件を独立変数、援助要請意図の得点を従属変数とする一要因分散分析を行った。結果、F(2, 271)=11.178, p<.001で0.1%水準で有意であることが示された。Tukey法による多重比較の結果、「性格・外見・健康の悩み」に比べて「対人関係の悩み」「学業・進路の悩み」を持っているとき、友達に悩みを相談することが示された。

Table5 悩みの援助要請得点の一要因分散分析

度数
平均値
標準偏差
対人関係の悩み
88
3.69
0.975
性格・外見・健康の悩み
98
3.18
1.221
学業・進路の悩み
88
3.92
1.053
 
Figure1 援助要請得点の一要因分散分析結果

3.自尊心と援助要請意図の関わりについて

 本研究では、「対人関係」の悩み、「性格・外見・健康」の悩み、「学業・健康」の悩みを設定し、それらの悩みを持っているとき友達に援助要請するかしないかを尋ねた。先行研究から、認知的一貫性仮説が支持されるならば、自尊心が高いと援助要請をせず、自尊心が低いと援助要請しなくなる。傷つきやすさ仮説が支持されるならば、自尊心が高いと援助要請するが、自尊心が低いと援助要請しなくなる。
援助要請をするかしないかによって、自尊心の高さに差があるかどうかを、援助要請意図を独立変数、自尊心を従属変数としてt検定を行った。本研究では、援助要請意図を「1.相談しない」「2.ほとんど相談しない」「3.どちらともいえない」「4.いくらか相談する」「5.たいてい相談する」の5件法で尋ねた。これは量的変数であり、質的変数に替えるため、1,2を「0,相談しない」、4,5を「1,相談する」に再符号化した。「3、どちらともいえない」を欠損値として分析対象から除外した。

Table6 援助要請意図ごとの自尊心の平均、標準偏差と援助要請意図ごとの差に関するt検定の結果


人数
平均
SD
t値
自由度
有意確率
対人関係の悩み
相談しない
16
2.993 .730
-1.202
81
.218

相談する
67
3.235
.693



性格・外見・健康の悩み
相談しない
34
3.167
.904
.550
86
.584

相談する
54
3.075
.656



学業・進路の悩み
相談しない
14
2.985
.994
-.574
82
.440

相談する
70
3.144 .626





Table6は援助要請意図による自尊心の下位尺度得点の平均値、標準偏差と援助要請意図による違いに関するt検定の結果である。相談する場合と相談しない場合での自尊心の高さは、すべての悩みにおいて有意差は見られなかった。

4.尺度構成と信頼性分析

 自尊感情尺度、言語的援助要請尺度は先行研究で因子分析を行わず一つの因子として使われているため、先行研究と同じように下位尺度を採用した。援助要請抑制要因は、被援助不安尺度8項目(「呼応性の心配」4項目、「汚名の心配」4項目)、心理的負債感尺度3項目が含まれており、その他の援助要請抑制要因と考えられる項目も入っているため、因子分析をして尺度構成を行った。
まず、3種類の悩み(「対人関係の悩み」「性格。外見・健康の悩み」「学業・進路の悩み」)の質問紙を合わせて、援助要請を抑制する要因26項目に対して主因子法による因子分析を行った。質問紙を作成する段階で7因子構造を予定していたが、一つの因子に1項目のみになることや、共通性が低い項目が見られることから、4因子構造とした。その際、共通性が低い.200以下の項目10, 17, 18を除いて斜交回転による因子分析を行った。
 次に各悩みの援助要請抑制する要因26項目を、それぞれ4因子構造で主因子法による因子分析を行った。各悩みの因子構造が同じでなかった。3種類の悩みそれぞれに同じ因子を作り比較するために、先ほど3種類の悩みを合わせて因子分析を行ったとき、各因子にある項目と同じ項目を抜き出した。

5.各悩みの尺度構成と信頼性分析

1)対人関係の悩み

 第一因子は「12.友達に『相談したい』と恥ずかしくていえないと思う。」(.863)「5.自分から友達に相談にのってほしいと言いづらい。」(.821)「26.自分から友達に相談していいのかどうかわからない。」(.578)という項目が負荷しており、この因子を「気位の高さ」とした。
 第二因子は「13.相談をする必要性を感じず、自分でも解決できると思う。」(.761)「1.友達に相談しても、その友達から十分な援助がもらえないだろう。」(.760)「4.わざわざ友達に相談したくないと思う。」(.724)という項目が負荷しており、この因子を「相談の必要性の低さ」とした。
 第三因子は「22.友達は私の相談した問題に対して、一生懸命対応してくれるだろう。」(.-.838)「8.友達は相談した問題を真剣に扱ってくれないだろう。」(.713)「9.友達に相談したことについて秘密が守られるかどうか心配だ。」(.603)「25.友達に相談すると、その友達が私のことを心配するだろう。」(-.483)という項目が負荷しており、この因子を「友達の誠実さ」とした。なお、因子分析の結果をまとめた表はTableの通りである。
 第四因子は「2.友達に相談したら、その友達は『自分で解決できない弱い人間だ』と思うだろう。」(.954)「16.友達に相談したら、その友達は私を『自分で解決する努力をしない人だ』と思うだろう。」という項目が高く負荷しており、「汚名の心配」とした。
 個人特性要因である言語的援助要請スキル、自尊心と、援助要請を抑制する要因4因子の得点の平均、標準偏差、信頼性係数はTable11の通りである。信頼性係数はクロンバックのα係数を用いた。

2)性格・外見・健康の悩み

  第一因子は「6.友達に相談すると、自分が友達よりも劣って感じると思う。」(.715)「23.相談した内容を友達が知ったら、他の友達は私から離れてしまうと思う。」(.695)「5.自分から友達に相談にのってほしいと言いづらい。」(.648)「友達に『相談したい』と恥ずかしくて言えないと思う。」(.632)「3.自分から友達に助けを求めるとその友達に頭があがらなくなると思う。」(.587)「19.私から相談したら、その友達との仲が悪くなると思う。」(.587)「26.自分から友達に相談してもいいのかどうかわからない。」(.576)「20.友達に相談すると悔しいと思う。」(.570)「21.友達に相談することは、自分の弱みを友達に見せていると思う。」(.395)という項目が高く負荷しており、この因子を「評価の心配」とした。
第二因子は「4.わざわざ友達に相談したくないと思う。」(.905)「1.友達に相談しても、その友達から十分な援助がもらえないだろう。」(.678)「11.相談すると時間がかかるので相談したくないと思う。」(.600)「13.相談する必要性を感じず、自分でも解決できると思う。」(.537)という項目が高く負荷しており、この因子を「物理的コスト」とした。
 第三因子は「16.友達に相談したら、その友達は私を『自分で解決する努力をしない人だ』と思うだろう。」(.737)「友達に相談したら、その友達は私を『自分で解決できない弱い人間だ』と思うだろう。」(.673)という項目が高く負荷しており、この因子を「汚名の心配」とした。
第四因子は「9.友達に相談したことについて秘密が守られるかどうか心配だ。」(.689)「8.友達は相談した問題を真剣に扱ってくれないだろう。」(.627)という項目が高く負荷しており、この因子を「対応を心配」とした。
 個人特性要因である言語的援助要請スキル、自尊心と、援助要請を抑制する要因4因子の得点の平均、標準偏差、信頼性係数はTable12の通りである。信頼性係数はクロンバックのα係数を用いた。

3)学業・進路の悩み

 第一因子は「自分から友達に相談してもいいのかどうかわからない。」(.899)「12.友達に『相談したい』と恥ずかしくて言えないと思う。」(.873)「7.普段から自分のことを話すのは得意な方である。」(-.416)「14.相談すると自分のことを知られるので、相談したくない。」(.412)という項目が高く負荷しており、この因子を「自己開示の不安」とした。
 第二因子は「13.相談する必要性を感じず、自分でも解決できると思う。」(.905)「4.わざわざ友達に相談したくないと思う。」(.677)という項目が高く負荷しており、この因子を「悩みの重大さの認識」とした。
第三因子は「2.友達に相談したら、その友達に私を『自分で解決できない弱い人間だ』と思うだろう。」(.999)「10.友達に相談したら、その友達は私を『自分で解決する努力をしない人間だ』と思うだろう。」(.495)という項目が高く負荷しており、この因子を「汚名の心配」とした。
第四因子は「8.友達は相談した問題を真剣に扱ってくれないだろう。」(.744.)「9.友達に相談したことについて秘密が守られるかどうか心配だ。」(.627)という項目が高く負荷しており、この因子を「対応の心配」とした。
個人特性要因である言語的援助要請スキル、自尊心と、援助要請を抑制する要因4因子の得点の平均、標準偏差、信頼性係数はTable13の通りである。信頼性係数はクロンバックのα係数を用いた。


Table11 「対人関係の悩み」群:援助要請を抑制する要因、個人特性要因の平均値、標準 偏差、信頼性係数

平均
標準偏差
信頼性係数
援助要請抑制要因



 気位の高さ
9.340
3.717
.810
 相談の必要性
10.150
3.666
.798
 友達の誠実さ
11.988
3.699
.717
 汚名の心配
4.400
1.951
.722
言語的援助要請スキル
30.863
5.422
.751
自尊心
32.102
6.959
.837

            
Table12 「性格・外見・健康の悩み」群:援助要請を抑制する要因、個人特性要因の平均値、標準偏差、信頼性係数

平均
標準偏差
信頼性係数
援助要請抑制要因



 評価の心配
25.040
8.551
.839
 物理的コスト
14.040
5.083
.781
 汚名の心配
4.880
2.165
.671
 対応の心配
5.800
2.333
.598
言語的援助要請スキル
30.122
5.490
.726
自尊心
31.275
7.346
.838

            
Table13 「学業・進路の悩み」群:援助要請を抑制する要因、個人特性要因の平均値、標準偏差、信頼性係数

平均
標準偏差
信頼性係数
援助要請抑制要因



 自己開示の不安
12.022
4.435
.773
 悩みの重大さの認識
6.250
2.671
.700
 汚名の心配
4.110
1.629
.626
 対応の心配
5.320
2.282
.652
言語的援助要請スキル
31.000
6.816
.821
自尊心
31.238
7.013
.855

            
6.個人特性要因(自尊心・言語的援助要請スキル)と援助要請抑制要因、援助要請意図との関わり

 個人特性要因と援助要請を抑制する要因との関係はどのようなものか。援助要請を抑制する要因は、個人特性要因からどのように予測されうるのかという観点から、因子分析によって得られた状況認知要因の因子得点を目的変数、個人特性要因を説明変数とする強制投入法による重回帰分析を行った。
また、個人特性要因と援助要請を抑制する要因が、援助要請意図にどのように影響を与えるか。援助要請意図を目的変数、個人特性要因と援助要請を抑制する要因の各因子の因子得点を説明変数とする強制投入法による階層的重回帰分析を行った。

1)対人関係の悩み

 はじめに、個人特性要因と援助要請を抑制する要因との関係を述べる。「対人関係の悩み」を持っているとき、「気位の高さ」(第一因子)を目的変数とした場合、自尊心が負の有意な標準偏回帰係数(β=-.308、p<.05)を示した。つまり、自尊心が高い人は「対人関係の悩み」を友達に相談するとき、「気位の高さ」を感じず、自尊心の低い人が「気位の高さ」を感じるようである。同様に「気位の高さ」を目的変数とした場合、言語的援助要請スキルも負の有意な標準偏回帰係数(β=-.275、p<.01)を示した。つまり、言語的援助要請スキルが高い人は「対人関係の悩み」を友達に相談するとき、を「気位に高さ」を感じず、言語的援助要請スキルが高い人は「気位の高さ」を感じるようである。次に「汚名の心配」(第W因子)を目的変数とした場合、自尊心が負の有意な標準偏回帰係数(β=-.407、p<.001)を示した。つまり自尊心が高い人は「対人関係の悩み」を友達に相談するとき、「汚名の心配」を感じず、自尊心が低い人は「汚名の心配」を感じるようである。「相談の必要性の低さ」(第U因子)、「友達の誠実さ」(第V因子)を目的変数とした場合、自尊心、言語的援助要請スキルともに有意な標準偏回帰係数を示さなかった。
  続いて、援助要請意図を目的変数とし、個人特性要因(自尊心、言語的援助要請スキル)と援助要請を抑制する要因(気位の高さ、相談の必要性、友達の誠実さ、汚名の心配)を説明変数として階層的重回帰分析を行った結果を述べる。援助要請意図に対して、「相談の必要性の低さ」(第U因子)が負の有意な標準偏回帰係数(β=-.588、p<.05)を示した。つまり、「対人関係の悩み」を相談するとき、相談の必要性が低いと感じている人は、援助要請をしないようである。また、反対に相談の必要性が高いと感じている人は援助要請をするようである。


2)性格・外見・健康の悩み

 まず、個人特性要因と援助要請を抑制する要因の関係を述べる。「物理的コスト」(第U因子)を目的変数としたとき、言語的援助要請スキルが負の有意な標準偏回帰係数(β=-.272、p<.05)を示した。つまり、「性格・外見・健康に関する悩み」を友達に相談するとき、言語的援助要請スキルが低い人は、相談するとき時間がかかることや面倒くさいといった「物理的コスト」を感じるようである。また、言語的援助要請スキルの高い人は、そういった「物理的コスト」を感じないようである。次に、「汚名の心配」(第V因子)を目的変数とした場合、自尊心が負の有意な標準偏回帰係数(β=-.238、p<.05)を示した。つまり、自尊心が高い人は、「性格・外見・健康の悩み」を友達に相談する際、「汚名の心配」を感じず、自尊心の低い人は「汚名の心配」を感じるようである。同様に、「汚名の心配」に対して言語的援助要請スキルが負の有意な標準偏回帰係数(β=-.280、p<.01)を示した。つまり、言語的援助要請スキルが高い人は「性格、外見、健康の悩み」を友達に相談するとき「汚名の心配」を感じず、言語的援助要請スキルの低い人は「汚名の心配」を感じるようである。「評価の心配」(第T因子)、「対応の心配」(第W因子)を目的変数とした場合、自尊心、言語的援助要請スキルともに有意な標準偏回帰係数は示さなかった。
 続いて、援助要請意図を目的変数とし、個人特性要因(自尊心、言語的援助要請スキル)と援助要請を抑制する要因(評価の心配、物理的コスト、汚名の心配、対応の心配)を説明変数として階層的重回帰分析を行った結果を述べる。援助要請意図に対して、物理的コストが負の有意な標準偏回帰係数(β=-.680、p<.001)を示した。つまり、「性格・外見・健康の悩み」を友達に相談するとき、物理的コストが高いと援助要請せず、物理的コストが低いと援助要請するようである。また、援助要請意図に対して言語的援助要請スキルが正の有意な標準偏回帰係数(β=.191、p<.01)を示した。つまり、「性格・外見・健康の悩み」を友達に相談するとき、言語的援助要請スキルが高いと援助要請し、言語的援助要請スキルが低いと援助要請しないようである。

3)学業・進路の悩み

 まず、個人特性要因と援助要請を抑制する要因について述べる。「自己開示の不安」(第T因子)を目的変数とした場合、言語的援助要請スキルが負の有意な標準偏回帰係数(β=-.387、p<.01)を示した。つまり、言語的援助要請スキルが高い人は「学業・進路の悩み」を友達に相談するとき「自己開示の不安」を感じず、言語的援助要請スキルの低い人は「自己開示の不安」を感じるようである。次に「悩みの重大さの認識」(第U因子)を目的変数とした場合、自尊心が負の有意な標準偏回帰係数(β=-.360、p<.01)を示した。「悩みに重大さの認識」は因子得点が高いほど、悩みを重大に感じておらず、得点が低いほど悩みを重大と感じている。つまり、自尊心が高い人は「学業・進路の悩み」を相談するとき、悩みを重大に感じており、自尊心の低い人は悩みを重大に感じていないようである。そして、「汚名の心配」(第V因子)を目的変数とした場合、言語的援助要請スキルが負の有意な標準偏回帰係数を示した。つまり、「学業・進路の悩み」を友達に相談するとき、言語的援助要請スキルが高いほど「汚名の心配」を感じず、言語的援助要請スキルが低いほど「汚名の心配」を感じやすい。「対応の心配」(第W因子)を目的変数とした場合、自尊心、言語的援助要請スキルともに有意な標準偏回帰係数は示されなかった。
 続いて、援助要請意図を目的変数とし、個人特性要因(自尊心、言語的援助要請スキル)と援助要請を抑制する要因(自己開示の不安、悩みの重大性の心配、汚名の心配、対応の心配)を説明変数として階層的重回帰分析を行った結果を述べる。援助要請意図に対して、「悩みの重大さの認識」が負の有意な標準偏回帰係数(β=-.650、p<.001)を示した。つまり、悩みを重大と感じていると援助要請し、悩みを重大と感じていないと援助要請をしないということになる。

7.「被援助不安」の援助要請抑制要因を用いた多母集団の同時分析

1.個人特性要因が援助要請を抑制する要因に与える影響

 つづいて、自尊心と言語的援助要請スキルが援助要請を抑制する要因にどのような影響を与えるか、3つの悩みによる比較を行った。ところで、援助要請を抑制する要因を因子分析した結果、3つの悩みにそれぞれ違う援助要請を抑制する要因が抽出された。この状態では、3つの悩みによる違いを測定できない。そこで、個人特性要因(自尊心と言語的援助要請スキル)が援助要請を抑制する要因(呼応性の心配、汚名の心配、友達に対する借り、物理的コスト、決まり悪さ、自己達成、強いられる自己開示)に影響を及ぼし、援助要請を抑制する要因が援助要請意図に影響を及ぼすというモデルを仮定して検討を行うことにした。
このような検討を行う場合、共分散構造分析による多母集団の同時分析の検討が最も適していると考えられるため、AMOS4を使用し分析を試みた。仮定したモデルでは収束せず、援助要請を抑制する要因を「呼応性の心配」「汚名の心配」のみにしぼり、残りの要因は除外した。新たに仮定したモデルは、自尊心が「呼応性の心配」、「汚名の心配」に影響を与え、また言語的援助要請スキルが「呼応性の心配」、「汚名の心配」に影響を与えるというモデルである。このとき、自尊心を構成する項目は「11.色々な良い素質を持っている」「13.物事を人並みにうまくやれると思う」「14.自分には自慢できるところがあまりない」「15.自分に対して肯定的である」「18.自分は全くだめな人間だと思うことがある」で、言語的援助要請スキルを構成する項目は「1.私は相談したいとき、タイミングを考えて相手に相談することができる」「4.私は不安になった時、それを誰かに話すことができる」「5.私は困った状態を伝えるとき、身振りや表情も使っている」「6.私は大事な話を、整理して伝えることができる」「8.私は人に頼む時、話し方や態度を工夫できる」に絞った。
その結果、自尊心から「呼応性の心配」「汚名の心配」に影響を与えるモデルでは、GFI=.866、AGFI=.792、CFI=.890、RMR=.184となり、言語的援助要請スキルから「呼応性の心配」「汚名の心配」に影響を与えるモデルでは、GFI=.860、AGFI=.805、CFI=.873、RMR=.186という適合度になった。自尊心、言語的援助要請スキルから「呼応性の心配」「汚名の心配」へのパスには等値制約を課した。

1)対人関係の悩みについて
 
 まず、自尊心が「呼応性の心配」「汚名の心配」という援助要請を抑制する要因に与える影響について述べる。「呼応性の心配」を目的変数とした場合、自尊心が正の有意な標準化係数(.299、p<.05)を示した。つまり「対人関係の悩み」を相談するとき、自尊心が高いと「呼応性の心配」を感じ、自尊心が低いと「呼応性の心配」を感じないようだ。次に「汚名の心配」を目的
変数とした場合、自尊心が正の有意な標準化係数(.478、p<.01)を示した。つまり「対人関係の悩み」について相談するとき、自尊心が高いと「汚名の心配」を感じ、自尊心が低いと「汚名の心配」を感じるようである。
 次に、言語的援助要請スキルが「呼応性の心配」「汚名の心配」に与える影響を述べる。「汚名の心配」を目的変数とした場合、言語的援助要請スキルが負の有意な標準化係数(-.266、p<.05)を示した。つまり、「対人関係の悩み」を友達に相談する場合、言語的援助要請スキルが高い人は「汚名の心配」を感じず、言語的援助要請スキルが低い人は「汚名の心配」を感じるようである。「呼応性の心配」を目的変数とした場合、言語的援助要請スキルが有意な標準化係数は示さなかった。

2)性格・外見・健康の悩みについて

 まず、自尊心が「呼応性の心配」「汚名の心配」に及ぼす影響について述べる。「汚名の心配」を目的変数とした場合、自尊心が正の有意な標準化係数を示した。つまり、「性格・外見・健康の悩み」を友達に相談するとき、自尊心の高い人は「汚名の心配」を感じ、自尊心の低い人は「汚名の心配」を感じないようである。「呼応性の心配」を目的変数とした場合、自尊心は有意な標準化係数を示さなかった。
 次に、言語的援助要請スキルが「呼応性の心配」「汚名の心配」に与える影響について述べる。「汚名の心配」を目的変数とした場合、言語的援助要請スキルが負の有意な標準化係数(-.460、p<.01)を示した。つまり、「性格・外見・健康の悩み」を友達に相談するとき、言語的援助要請スキルが高い人は「汚名の心配」を感じず、言語的援助要請スキルが高い人は「汚名の心配」を感じるようである。一方、「呼応性の心配」を目的変数とした場合、言語的援助要請スキルは有意な標準化係数を示さなかった。

3)学業の悩みについて
 
 まず、自尊心が「呼応性の心配」「汚名の心配」に与える影響について述べる。「呼応性の心配」「汚名の心配」ともに目的変数とした場合、自尊心は有意な標準化係数を示さなかった。つまり、「学業の悩み」を友達に相談するとき、「呼応性の心配」「汚名の心配」に対して、自尊心は関連していないようである。
 つづいて、言語的援助要請スキルが「呼応性の心配」「汚名の心配」に与える影響について述べる。「呼応性の心配」「汚名の心配」ともに目的変数とした場合、言語的援助要請スキルも有意な標準化係数を示さなかった。つまり、「学業の悩み」を友達に相談するとき、「呼応性の心配」「汚名の心配」に言語的援助要請スキルは関連していないようである。

2.援助要請を抑制する要因が援助要請意図に与える影響

 つづいて、共分散構造分析による多母集団の同時分析の検討で使用した「呼応性の心配」「汚名の心配」が、援助要請意図にどのように影響しているか検討した。この場合、援助要請意図を目的変数とし、「呼応性の心配」「汚名の心配」の下位尺度得点を説明変数とした。本研究では、援助要請意図を「1.相談しない」「2.ほとんど相談しない」「3.どちらともいえない」「4.いくらか相談する」「5.たいてい相談する」の5件法で尋ねた。これは量的変数であり、質的変数にするため、1,2を「0,相談しない」、4,5を「1,相談する」に再符号化した。「3、どちらともいえない」を欠損値として分析対象から除外した。
 判別分析はウィルクスによる強制投入法である。この分析結果では、標準化正準判別関数係数の値が大きいほど「援助要請しない」方向に、値が小さいほど「援助要請する」方向に寄与する。

1)対人関係の悩み
 
 「呼応性の心配」(v=1.142、p<.05)と「汚名の心配」(v=-.386、p<.05)であった。つまり、対人関係の悩みを友達に相談しようとしたとき、「呼応性の心配」を感じる人は相談しないと決定し、「汚名の心配」を感じる人は相談すると決定する傾向にあるようである。

2)「性格・外見・健康の悩み」群

 「呼応性の心配」(v=1.204、p<.01)と「汚名の心配」(v=-.609、p<.01)であった。つまり、対人関係の悩みを友達に相談しようとしたとき、「呼応性の心配」を感じる人は相談しないと決定し、「汚名の心配」を感じる人は相談すると決定する傾向にあるようである。

3)学業・進路の悩み

 「呼応性の心配」(v=1.198、p<.05)と「汚名の心配」(v=-.660、p<.05)であった。つまり、対人関係の悩みを友達に相談しようとしたとき、「呼応性の心配」を感じる人は相談しないと決定し、「汚名の心配」を感じる人は相談すると決定する傾向にあるようである。

                                                                                     上に戻る

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