【考察】
1.各悩みの援助要請意図
2.自尊心と援助要請意図との関連
3.個人特性要因と援助要請抑制要因、援助要請意図との関連―階層的重回帰分析から
4.個人特性要因と援助要請抑制要因との関連―多母集団の同時分析から
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1.各悩みの援助要請意図
「対人関係の悩み」「性格・外見・健康の悩み」「学業・進路の悩み」を持っているとき、友達に相談するかしないかの回答を求めた。仮説@では「『学業・進路の悩み』は、『対人関係の悩み』『性格・外見・健康の悩み』よりも相談しにくい傾向があるだろう」と考えた。3つの悩みを独立変数、援助要請意図を従属変数とする一要因分散分析を行った結果、「性格・外見・健康の悩み」を持っているとき、「対人関係の悩み」「学業・進路の悩み」を持っているときに比べて相談しないということが示された。「性格・外見・健康の悩み」とは、自分が気にしている性格や外見、または健康状態や体質や成長のことなどである。中には、先天的な性格・能力といったもので、悩みを持っていても相談して解決しないこともある。また、健康の場合など、病気と関わることであれば命に関わる深刻な内容のことも考えられる。それらの悩みが相談されない傾向にあることが示唆された。また、この分析では仮説@は支持されなかった。
2.自尊心と援助要請意図との関連
仮説Aでは、自尊心と援助要請意図について関連について考え、「自尊心脅威モデルが支持されるのであれば、自尊心の高い人が悩みを持っていても援助要請せず、傷つきやすさ仮説が支持されるのであれば、自尊心の低い人が援助要請しない」とした。これを検討するため、援助要請意図の得点を独立変数、自尊心の下位尺度得点を従属変数としてt検定を行ったところ、援助要請する人としない人では自尊心の高さに違いは見られなかった。しかし、援助要請抑制要因を媒介として自尊心と援助要請意図の関係を検討することによって、自尊心に差が見られることが考えられる。このため、自尊心から援助要請抑制要因を媒介として援助要請意図のプロセスを仮定し、各悩みによる違いを検討する分析を行った。
3.個人特性要因と援助要請抑制要因、援助要請意図との関連―階層的重回帰分析から
個人特性要因と援助要請抑制要因、援助要請意図との関連を階層的重回帰分析によって、自尊心、言語的援助要請スキルと援助要請抑制要因、援助要請意図の関係をより詳しく検討した。
1)対人関係の悩み
「対人関係の悩み」は多くの大学生が持っている悩みである。対人関係の悩みは、友達同士の話題や恋の話題など、人との関係において様々あり、悩みではなくても日常の話題に出やすいものである。
まず、個人特性要因と援助要請を抑制する要因との関連を述べる。Figure3より、自尊心から「気位の高さ」「汚名の心配」に対して負の有意なパスを示した。つまり、「対人関係の悩み」を持っているとき、自尊心が低いと悩みを相談することに恥ずかしさを感じやすく、相談する自分の問題解決能力がないといった汚名の心配を感じやすい傾向にある。また、自尊心が高いと悩みを相談することに恥ずかしさを感じず、汚名の心配を感じないようである。
自尊心が低いことによって、援助要請する自分を否定的に評価していることが考えられる。相談する自分に対して否定的な評価を行いつつ、友達も否定的に自分を評価しているのではないかと恐れているのかもしれない。よって友達から無能力な人間、努力をしない人間だと思われているように感じるのかもしれない。援助要請することで、自分の悩みを自己開示する。もし、友達が自分の感じている悩みを悩みと感じていなかったら恥ずかしいと思うことが考えられる。自尊心が低いことによって、自己開示できないことが考えられる。対人関係の悩みは誰かと自分との関係の悩みであるため、自分が気にかけている人物の名前を出すことが嫌だという気持ちから、友達に相談に乗ってほしいといえないのかもしれない。
次に言語的援助要請スキルから「気位の高さ」に対して正の有意なパスを示した。つまり、言語的援助要請スキルが低いと「対人関係の悩み」を相談することを恥ずかしいと感じ、言語的援助要請スキルが低いと相談することを恥ずかしいと感じない傾向にある。
言語的援助要請スキルが低いので、悩みを相手に伝えるスキルが乏しい。よって、自分が悩みを持っている人の名前を出し、相談している友達に自分をどう感じられるか心配なのかもしれない。もしかしたら、その友達に自分の意図を読み取ってもらえず、不快感を抱かせるかもしれない。一方、言語的援助要請スキルが高ければ、自分の悩みをポイントをしぼって相手に伝えるスキルがある。また、たとえ自分の苦手な人の名前を出したとしても、直接「嫌」だという言葉を用いずに婉曲させて伝えることができ、友達のアドバイスを受けることができると感じているのかもしれない。
最後に援助要請抑制要因から援助要請意図に与える影響について検討する。「相談の必要性の低さ」が援助要請意図に負の有意なパスを示した。つまり、相談の必要性が低いと援助要請せず、相談の必要性が高いと援助要請するということが示された。自分が悩んでいる問題を自分で解決でき、相談の必要性がないので、実際に「相談」という手段をとらないようだ。「対人関係」の悩みは日常会話の中にも出やすい内容であり、「相談」という改まった形式で話さないのかもしれない。よって、相談するかしないかといった選択に遭遇することがほとんどなく、この選択肢に出会った場合、必要ならする・必要でなければしないといった単純な思考が働くのかもしれない。
また、この「相談の必要性の低さ」には自尊心も言語的援助要請スキルも有意な影響を及ぼしていなかった。「対人関係の悩み」を持っているとき、自尊心、言語的援助要請スキルが直接に援助要請意図に影響を及ぼしていないようである。「対人関係の悩み」では、仮説ABは支持されなかった。
2)性格・外見・健康の悩み
性格・外見・健康の悩みは個人的な悩みである。「性格・外見・健康の悩み」は自分の性格や外見、または健康状態や体質や成長のことなどである。中には、先天的性格・能力といったもので、悩みを持っていても相談して解決しないこともある。また、健康の場合など、病気と関わることであれば命に関わる深刻な内容のことも考えられる。
まず、個人特性要因と援助要請を抑制する要因について述べる。Figure4から、自尊心が「汚名の心配」に対して負の有意なパスを示した。つまり、自尊心が低いと「汚名の心配」を感じやすく、自尊心が高いと「汚名の心配」を感じない傾向にある。
自尊心が高い人は、自分が「性格・外見・健康」といった弱みを話すにもかかわらず、普段から自分に対して肯定的自己認知を持っているため、否定的情報も受け入れることができるのかもしれない。たとえば、自分の容姿の面では自信がなくても、学力の面で自信を持っている場合があるとする。自分の自信を保つ部分があれば、「性格・外見・健康の悩み」を友達に相談しても、自分は問題解決能力のない人間だと思わないようである。一方自尊心の低い人は、自分の否定的な情報をさらけだすことによって、友達に自分の問題解決能力のなさが露呈され友達がどう思うか不安に感じている。これは、一部「傷つきやすさ仮説」が支持されている。
つづいて言語的援助要請スキルが「物理的コスト」「汚名の心配」に対して負の有意なパスを示した。つまり、言語的援助要請スキルが低いと「性格・外見・健康の悩み」を相談するとき、相談することが面倒ということと汚名の心配を感じる傾向にある。一方言語的援助要請スキルが高いと、相談することに対して面倒と感じないし、汚名の心配を感じないようである。
言語的援助要請スキルが高いと汚名の心配を感じない傾向にある。「性格・外見・健康の悩み」は他の悩みと比べて個人的な問題である。たとえば、自分は行動が遅いということで悩んでいても、話を聞く人によっては深刻ではないと感じたり、どうしてそんなことで悩んでいるのか理解できない人もいるかもしれない。そのような聞き手は、相談を受けても相談者を問題解決能力のない人だと評価することが考えられる。言語的援助要請スキルが高い人は相手のタイミングを考慮したり、自分の話し方や態度を工夫するといった相手に自分の悩みを伝えようとする対応ができる。これは時間や労力を要するものであろう。相談者側のこれらの工夫から相手は自分の話を真剣に考えてくれることを期待でき、汚名の心配を感じないのではないだろうか。一方、言語的援助要請スキルの低い人は、自分が相手に悩みを深刻に伝えることができず、相手の対応に期待できないので汚名の心配を浴びせられると心配するのではないだろうか。また、このような心配があることにより、相談にあえて労力をかけたくないという思いがあるのかもしれない。これらから、言語的援助要請スキルが、「汚名の心配」「物理的コスト」に負の影響を与えていることが解釈できるのではないだろうか。
最後に、援助要請意図に与える影響について述べる。「性格・外見・健康の悩み」を持っているときに援助要請意図に対して、援助要請抑制要因では「物理的コスト」が負の有意なパスを示した。言語的援助要請スキルが低いので、相談する時間や労力を高く感じ、よって援助要請しなくなる。「性格・外見・健康の悩み」は言語的援助要請スキルが低い人はわざわざ時間をかけてまで相談する必要はないと感じているようである。
個人特性要因では「言語的援助要請スキル」が正の有意なパスを示した。つまり、「性格・外見・健康の悩み」を持っているとき、言語的援助要請スキルが高い人は相談し、言語的援助要請スキルが低い人は相談しないようである。阿部ら(2006)の研究でも、中学生の友人に対する学習領域、心理領域、社会領域、健康領域の被援助志向性でも、言語的援助要請スキルが高い中学生は被援助志向性が高くなっており、相談する傾向にある。本研究で大学生でも言語的援助要請スキルの高いと援助要請することが示唆され、よって先行研究は支持された。「性格・外見・健康の悩み」では、仮説Aの傷つきやすさ仮説が支持され、仮説Bの一部の「言語的援助要請スキルが低いと援助要請しにくいこと」が支持された。
3)学業・進路の悩み
学業・進路の問題は自尊心との関連がある(阿部ら、2006)。こうした問題で友達に援助を求めることは被援助不安と関連していることがみられる。自分より学力の高い友達に相談したとき、友達との比較によって自分の否定的情報を得ることになり、自尊心脅威仮説に従えば、自尊心の高い人は援助要請せず、傷つきやすさ仮説に従えば、自尊心の低い人が援助要請ないことが考えられる。
まず、個人特性要因と援助要請を抑制する要因について述べる。Figure5より、自尊心が「悩みの重大さの認識」に負の有意なパスを示した。この場合、自尊心が高い人ほど自分が今持っている悩みを重大だと思い、自尊心が低いほど悩みを重大と思わないことになる。
学業・進路の問題は、大学での問題でもある。大学側が提供するサービスや先輩、友達、教官などからの情報を得るなどの手段を使って解決可能だと考えられる。自尊心の高い人は、自分にとって脅威となる悩みを解決したいために、悩みを重大だと感じるのかもしれない。一方、自尊心が低い人は、そのような解決手段があるにもかかわらず、悩みを重大でないと思うことによって、自分の現状から逃避して傷つくことを避けているのではないだろうか。この解釈であれば、傷つきやすさ仮説が支持される。
続いて言語的援助要請スキルが「自己開示の不安」「汚名の心配」に対して負の有意なパスを示した。つまり、「学業・進路の悩み」を持っているとき、言語的援助要請スキルが低い人は悩みを自己開示することに不安を感じ、汚名の心配を感じる傾向にある。また、自尊心が高い人は悩みを自己開示することに不安を感じず、汚名の心配を感じない傾向にある。
言語的援助要請スキルが低いので、自分の問題としていることを相手に的確に伝えることができない傾向にある。学業の悩みの場合、たとえば理解できない、解けない問題があるといった場合、その悩みを的確に友達に伝えることができず、友達から「自分で解決できない人間だ」といった汚名の心配を感じるのかもしれない。汚名の心配があるから悩みを自己開示することに不安があるのかもしれない。野崎(2003)は、友達への学業的援助要請に対して、社会的コンピテンスが依存的要請に直接正の影響を与えていることを示している。社会的コンピテンスとは、人とのつきあいに関して自分は有能であるという認知である。言語的援助要請スキルはソーシャルスキルの一つであり、このスキルが高い生徒は他者との関係を円滑に運ぶことができることため、社会的コンピテンスも高いことが考えられる。言語的援助要請スキルが低いことによって、社会的コンピテンスが低く、対人関係に不安をもっているため「自己開示の不安」「汚名の心配」を感じるのかもしれない。
つづいて、援助要請意図に影響を及ぼす要因について検討する。援助要請意図に対して、援助要請を要請する要因で「悩みの重大さの認識」が有意な負のパスを示した。この場合、悩みを重大と感じていないと援助要請せず、悩みを重大と感じていると援助要請することになる。自尊心が「悩みの重大さの認識」に影響を与えていたことと関連して、自尊心の低い人は「学業・進路の悩み」を重大と思わず援助要請しないことになる。これは、木村ら(2004)で自尊心が低いと被援助志向性が低くなったことと一致し、仮説Aの傷つきやすさ仮説を一部支持する結果となった。学業・進路の悩みは、自分の将来につながる問題で、悩みがあるとしたら解決しておきたい問題である。「自己開示の不安」「汚名の心配」があったとしても、それらは援助要請意図に影響を及ぼしていなかった。一方で自尊心が低いと悩みを重大と思わず援助要請しなり、その問題から逃避していることが考えられる。「学業・進路の悩み」では、仮説Aは傷つきやすさ仮説が一部支持され、仮説Bはこの分析では支持されなかった。
以上より3種類の悩みを持っているときの自尊心・言語的援助要請スキルが援助要請抑制要因・援助要請意図に及ぼす影響を検討した。その結果、援助要請抑制要因に「汚名の心配」がどの悩みにもみられ、援助要請意図には影響を与えていなかった。つまり、どんな悩みを持っていても、悩みを話すとき、「自分は問題解決能力のない人間だ」と友達から評価される心配はあるが、その心配があったとしても援助要請しない理由にならないことが明らかとなった。
4.個人特性要因と援助要請抑制要因との関連―多母集団の同時分析から
つづいて、自尊心と言語的援助要請スキルが援助要請(「呼応性の心配」、「汚名の心配」)を抑制する要因にどう影響を与えるか、「対人関係の悩み」「性格・外見・健康の悩み」「学業・進路の悩み」の3つを、多母集団の同時分析を行った。「呼応性の心配」とは、相談を求めても、友達が呼応的に反応してくれないだろうとする心配である。
「対人関係の悩み」を相談するとき自尊心が「呼応性の心配」と「汚名の心配」に正の有意なパスを示し、言語的援助要請スキルが「汚名の心配」に負の有意なパスを示した。この場合、「対人関係の悩み」をもっているとき、自尊心が高いと「呼応性の心配」「汚名の心配」が高く、自尊心が低いと「呼応性の心配」「汚名の心配」が低くなるようである。自尊心と「汚名の心配」の関連は、階層的重回帰分析の結果と異なるものであった。階層的重回帰分析では、自尊心は「汚名の心配」に対して負の有意なパスを示していた。つまり、自尊心が高いと「汚名の心配」を感じず、自尊心が低いと「汚名の心配」を感じるようである。どうして、このように違う結果になったのか。多母集団の同時分析に使った自尊心の下位項目が、階層的重回帰分析に使ったものと異なっているということが原因として考えられる。自尊心の質が、階層的重回帰分析で用いられた自尊心と異なることによってこのような結果になったことが示唆された。
次に「性格・健康・外見の悩み」を友達に相談するとき、自尊心が「汚名の心配」に正の有意なパスを示し、言語的援助要請スキルが「汚名の心配」に負の有意なパスを示した。つまり、自尊心が高いと「汚名の心配」を感じ、自尊心が低いと「汚名の心配」を感じないようである。また、言語的援助要請スキルが高いと「汚名の心配」を感じず、言語的援助要請スキルが低いと「汚名の心配」を感じるようである。
最後に「学業・進路の悩み」を友達に相談するとき、自尊心、言語的援助要請ともに「呼応性の心配」「汚名の心配」に有意なパスを示さなかった。つまり、「学業・進路の悩み」を友達に相談するとき、自尊心と言語的援助要請スキルは「呼応性の心配」と「汚名の心配」に関連があることは示されなかった。
これら3種類の悩みを多母集団の同時分析によって比較したところ、「学業・進路の悩み」を友達に相談するとき、「呼応性の心配」「汚名の心配」は自尊心、言語的援助要請スキルと関連がみられないことが明らかになった。
また、「呼応性の心配」と「汚名の心配」を説明変数、援助要請意図を目的変数とした判別分析を行ったところ、すべての悩みについて、「呼応性の心配」が高いことが援助要請しないことと関連した。水野・石隈・田村(2006)の知見では、友達への被援助志向性は他のヘルパーより高いにもかかわらず、「呼応性の心配」との関連が他のヘルパーより強かったと述べている。本研究の結果でも、この知見が一部示唆された。つまり、「対人関係」「性格・外見・健康」「学業・進路」のどの悩みを持っていても、友達に相談したとき呼応的な反応が得られないと感じると、相談しないことが明らかとなった。
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