【問題と目的】

1.はじめに

2.援助要請行動の先行研究

3.援助要請行動のメカニズム

4.大学生の悩みと相談行動

5.援助要請と自尊心の関わり

6.援助要請とソーシャルスキルの関わり

7.本研究の目的


                                     トップページ に戻る




1.はじめに

  私たちは日常生活の中で、いろいろな悩みを持つ。対人関係の悩みや自分の性格や健康の心配、将来への不安など、人によって悩みは違う。またその悩みを持ったとき人に簡単に相談できる人もいれば、相談できず、ずっと悩みを持ったまま話せない人もいる。私は後者のタイプで、自分のことを話すことが苦手で、悩みを持っていても誰にも話せず一人で抱え込むことがよくある。友達に相談したいと思っても、友達への遠慮や悩みを理解してもらえるのかどうかという不安から、なかなか「相談する」という援助要請に踏み出せない。
 誰かに相談することによって、自分の抱えていた悩みが解決したり、話すことで気持ちが楽になるなど、いくつかの利益が考えられる。しかし、自分の悩みを誰かに相談することで、自分の弱みを知られたり、相手の時間を使ってしまうなどの不利益も生じる。これら利益と不利益の査定によって、「相談をする」という援助要請をするかしないかが決まる。どのように援助要請は抑制されるのか。本研究では、援助要請を抑制するまでのメカニズムを明らかにする。

2.援助要請行動の先行研究
 
 過去には、援助要請行動よりも援助行動の研究がさかんに行われていた。援助研究は、援助を促進したり抑制したりする要因の分析に始まり、援助する人の特徴の検討、援助行動の類型や構造の解明、そして援助者の認知過程や意思決定過程のモデル化に取り組んできた。これらは、援助する側の心理的過程を明らかにするものである。
 援助要請行動と一口に言っても、いろいろな種類の援助要請行動がある。友達に本を借りることや、知らない人に道を尋ねること、家族に悩みを相談することなどあり、援助要請行動をひとくくりに説明することは難しい。
 そこで、まず分野による、「援助要請行動」の違いを述べる。被援助志向性、被援助行動の動向に関する調査の中で、水野・石隈(1999)は以下のように述べている。社会心理学の分野では、Depaulo(1983)が援助要請(help-seeking)を「(1)個人が問題の解決の必要性があり、(2)もし他者が時間、労力、ある種の資源を費やしてくれるのなら問題が解決、軽減するようなもので、(3)その必要のある個人がその他者に対して直接的に援助を要請する行動である」と定義している。教育心理学の分野では、中谷(1998)は援助要請(academic help-seeking)を「学習において、困難に直面し、自分自身で解決が難しいと感じたとき、必要な援助を他者に行動である」と定義している。最後にカウンセリング心理学、臨床心理学の分野では、Srebnik et al.(1996)は援助要請(help-seeking)を「メンタルヘルスか他の公的、私的サービスに対して情緒的、行動的問題の解決のために援助を求めること」としている。水野ら(1999)は、社会心理学の定義による「援助要請」は教育心理学・カウンセリング心理学の「援助要請」を含むと述べている。
 本研究で扱う援助要請とは、「情緒的・行動的問題の解決のために他者に相談すること」とする。これは、社会心理学の要素とカウンセリング心理学・臨床心理学の要素を含んでいる。
援助要請と関連して、「被援助志向性」というものがある。木村・水野(2004)の研究では、「被援助志向性」を「個人が、情緒的、行動的問題および現実生活における中心的な問題で、カウンセリングやメンタルヘルスサービスの専門家、教師などの職業的な援助者および友人・家族などのインフォーマルな援助者に援助を求めるかどうかについての認知的枠組み」(水野ら, 1999)として、大学生の被援助志向性と自尊感情、自己隠蔽、被援助不安などの心理的変数との関係を調査している。被援助志向性が高いことは、援助要請行動をとることを意味する。この調査で、友達と家族への被援助志向性は自尊感情と正の関連を、自己隠蔽と負の関連を示した。つまり、自尊感情が高く自己隠蔽が低いほど被援助志向性が高くなる。
 中学生の被援助志向性の研究もさかんに行われており、阿部・水野・石隈(2006)は、言語的援助要請スキルと被援助不安との関連を調査している。その結果、友人に対する被援助志向性では、学習、心理、社会、健康領域において言語的援助要請スキルと正の関連、進路領域おいては、言語的援助要請スキルと正の関連、被援助不安は負の関連があった。つまり、言語的援助要請スキルが高く被援助不安が低いと被援助志向性も高くなる。
このように、カウンセリング領域における研究では被援助志向性と心理的変数の関連が多く研究されている。
 では、実際の援助要請行動の研究はどうだろうか。社会心理学における研究では、島田・高木(1994)は、援助要請行動のメカニズムを援助要請意思決定時の状況認知要因と個人特性要因、援助要請意図の3側面間の関連性を検討し、状況によるその違いを明らかにした。このとき、個人特性要因は共感性・自尊心・社会的スキルを用いた。場面は「路上で書類を落とし、散乱させた」場面、「道を尋ねる」場面が用意された。この場合の「援助要請」とは書類を拾うのを手伝ってほしいという頼みや、道を尋ねると言った行動のことである。被験者は状況を提示され、どういった理由が援助要請しなかった理由になるか答えた。結果、「路上に書類を落とし、散乱させた」場面では、自尊心の低い人は、「要請に伴う悪い結果の恐れ」を要請しない理由とすることが明らかとなった。また、共感性の高い人は「ことの重大さの認識」を援助非要請の理由にしているが、逆に共感性の低い人は「周囲に対する恥ずかしさ」や「ことの重大さの認識」と言った理由を、その理由にしている。要請意図を決定する際、要請しないと決めた人は「ことの重大さの認識」が重要であるとし、要請すると決めた人は「援助者への遠慮」が重要であるとみていることが示された。

3.援助要請行動のメカニズム

 このように援助要請意図を決定するまでのメカニズムは、援助要請抑制要因を調べる上で重要である。島田ら(1994)の研究では、援助要請行動の意思決定過程を紹介している。まず、援助要請行動の意思決定は個人の通常の状態との比較においてはじまり、「(1)問題の存在への気づき」がなされる。次にその問題について、「(2)重要性・緊急性・自己の能力との関係の査定」がなされ、「(3)援助要請にかかわるコストと利益の大きさに関する査定」が行われ、「(4)適切な援助者はいるか」、さらに援助者に直接要請するのか、第三者を介するのか、などといった「(5)援助要請の方略の検討」がなされるという過程のモデルである。
また、援助要請に伴う被援助者の不安も援助要請を抑制する要因の一つとして考えられる。被援助不安については、Deane & Chemberlain (1994)が援助不安と被援助志向性について述べている。被援助不安とは援助を求める際に生じる主観的な不安である。Deane et al(1994)は大学生に調査を行い、被援助不安が高いと被援助志向性が低いと報告している。
水野ら(2002)の研究では、被援助不安として「呼応性の心配」「汚名の心配」をあげている。「呼応性の心配」とは、ヘルパー(援助者)が期待通りに、呼応的に反応してくれないだろうという不安である。「汚名の心配」とは、援助を受けることで汚名を着せられると考える不安である。「呼応性の不安」と被援助志向性は負の相関があることが明らかになった。つまり「呼応性の心配」が高いと被援助志向性が低くなるのである。よって援助要請しない傾向にある。
本研究で扱いたい「情緒的・行動的問題の解決のために他者に相談すること」という援助要請行動でも、被援助不安は適用されうる。他者に自分の悩みなどを話す行動で、それを実際に行動に移せる人と移せない人がいる。後者の場合、なんらかの要因が援助要請行動を抑制していると考えられる。
ところで、援助を求めるときに援助要請を抑制する要因は呼応性の心配や汚名の心配以外あるのではないだろうか。ここで、援助要請行動するかどうかの意思決定のメカニズムにふれる。高木・宇留田(2002)の研究によると、援助要請行動をするかどうかの意思決定は、「援助を要請すると仮定したときのコストと利益の査定」と「援助要請しないと仮定したときのコストと利益の査定」を比べ、意思決定する。コストと利益には、それぞれに経済的・物質的側面と心理的側面がある(相川、1989; 高木、1998)。
援助を受けることによる利益(被援助利益)に関しては、経済的・物質的利益にとして、現在の問題の軽減・解決があり、心理的利益については問題の軽減・解決による不安・心配などの軽減があげられる。援助を要請することによるコスト(要請コスト)に関して、経済的・物質的コストとしては、費用や時間がかかることがあげられる。心理的コストとしては、援助を申し出ることの決まり悪さ、拒絶や無視の恐れ、自分の不適切さの露呈、援助者に負う借り、強いられる自己開示、自己達成の放棄、スティグマ(汚名・烙印)が考えられる。これは自尊心と関係があると考えられている。
援助を受けないことによる利益(非要請利益)については、経済的・物理的利益として、要請に関する余計な費用や時間を割かなくてもすみ、心理的利益として自尊心に対する脅威を避けることができるなどがあげられる。援助を受けないことによる(非要請コスト)について、経済的・物質的コストとしては、問題が軽減・解決されないまま残ってしまうことによる経済的・物質的な不利益があり、心理的コストとしては、問題が軽減・解決されないまま残ってしまうことによる心理的苦痛があげられる。
 問題を抱えた人が援助を要請する場合、要請コストが被援助利益より大きく、非要請利益が非要請コストより大きい場合、援助要請しないという意思決定を行う。要請コストや非要請利益に注目にして、援助要請を抑制する要因を考える必要がある。


4.大学生の悩みと相談行動

 本研究では、援助要請を抑制する要因を調べる上で大学生を被験者とする。大学生は青年期にあたる。青年期は“疾風怒濤の時代”と言われ、緊張と葛藤に満たされている。実際にすべての人が緊張や葛藤に満ちた時期を経験するわけではないが、第二次性徴の発現による身体的外観の変化や思考能力の発達ともあいまって、青年期にはほとんどの人が今までと違う自分に気づき、自分自身や自分と周囲とのさまざまな関係について考えるようになる。そして、進学や進路を決定し、経済的にも自立して、法的にも成人(大人)として扱われるようになる。それ以前とは異なる社会的役割への移行を経験し、それに適応していかなければならない。
青年期には、身につけなければならない課題や乗り越えなければならない課題がある。西川(2000)は青年期の課題を先行研究から次のように述べている。Havighurst(1953)は、青年期の発達課題として10個をあげている。@同年齢の男女との新しい、より高まった交際をすること A男性として、あるいは女性としての社会的役割を学ぶこと B自分の身体の構造を理解・納得し、身体を有効に使うこと C両親やその他の大人から情緒的に独立すること D経済的な独立について自信をもつこと E職業を選択し、そのための準備をすること F結婚と家庭生活の準備をすること G市民として必要な知識と態度を発達させること H社会的に責任のある行動を求め、成し遂げること I行動の指針としての価値・理論の体系を学ぶこと、である。この中でも@・Cなどは、周囲とのあいだにより成熟した対人関係を結ぶことに関わる課題は、社会的な適応をもたらし、その他の課題達成をもうながすという点で、重要なものとされている。また、Erikson(1959)は青年期には自我同一性の達成、すなわち、「自分とはなにか」という問いに対する肯定的な答えをみつけ、以前の自分との斉一性や連続性を保ちながら、社会の基準や期待に沿った形での適切な自己概念を形成していくことが課題となる。
 こうした課題を持つ大学生は、その課題を達成すべく多くの問題と向かい合っている。その中で必要に応じて友人や家族、大学教員などに援助を求めてその問題に対応している。学生が専門的な機関を使えるように、大学側は配慮している。木村ら(2004)によると、近年、大学教育の中で学生相談の機能の重要性が指摘されており、それは、学生相談室やカウンセリングセンターといった専門的な相談機関の設置が増加していることからもうかがえる(日本学生相談学会特別委員会、1998)。その背景には、大学生の抱える問題の多様化、複雑化が挙げられる。道又(2001)は1988年から2000年度の学生相談に関する研究をレビューし、スチューデントアパシー・不登校、困難事例・境界例・分裂病圏、摂食障害、セクシャルハラスメント問題、キャリア相談、宗教問題など、さまざまな領域の問題について実践、研究が行われていることを報告している。
  京都大学カウンセリングセンターによると、学生相談へ相談にくる学生の悩みには、学業の悩みや進路の悩みが最も多く、次いで心理障害に関するものや、対人関係の悩みが多い。彼らが学生相談を訪れる理由はいくつかあると考えられる。相談する人がいなかったり、相談しても有益なアドバイスがもらえない、また、友達にも相談するし学生相談にもくるという場合もあるだろう。悩みの種類によっても人に話せる、話せないといった話題がある。木村ら(2004)の研究では、「対人・社会面」と「心理・健康面」の問題領域において、自己隠蔽が被援助志向性と負の関連が認められ、自己隠蔽度が高い学生は「対人・社会面」と「心理・健康面」の問題領域では、友達に援助を求めようとしないことが明らかになった。自己隠蔽とは、自己に関するネガティブな情報を積極的に隠そうとする傾向である。援助を求める際には、自らが抱える問題を援助者に伝えなければならないため、自己隠蔽が被援助志向性に抑制的にはたらくといえる。また、阿部ら(2006)の研究では、友人に対する進路領域の被援助不安が高いほど被援助志向性が低いことが示唆された。このように、悩みの種類によっては友達への被援助志向性が低いことが先行研究で示されている。しかし、その悩みを持っていてどのような援助要請を抑制する要因が影響しているかは研究されていない。
  松井・浦(1998)は著書の中で、苦境にたったとき身近な人に援助要請しにくいといった研究を紹介している。援助を求めることは自分の問題解決能力が低いことを他者に知らせる行為としてとらえられる。したがって援助を求める必要にせまられたならば、可能な限り自尊心が傷つくことのない相手に助けを求めようとするだろう。Karabenic & Knapp(1988)は援助を求めたという事実を他者に知られないという理由で、問題事態の解決を「他の人」ではなく「コンピュータ」に求める人が多いことを明らかにした。友達などの身近な人に援助要請しづらいことは、社会的比較理論に沿って解釈される。つまり、類似した他者に援助を頼むことでその相手より劣っていることを自ら認めることは、個人が避けようとする否定的比較を導くことになり、自己への大きな脅威となる。この場合、人は身近な、自分と類似した他者に援助を求めることを嫌う。

5.援助要請と自尊心の関わり
 
身近な人に援助要請しづらいことと関連して自尊心をとりあげる。援助を受けることは、被援助者にとっては苦境からの脱出に導いてくれる、また援助を通じて援助者の自分に対する好意的感情を感じさせてくれる、ありがたい経験である。しかし他方で、援助されることは自分自身の問題解決能力が援助者よりも低いことを示すことであり、被援助者自身の否定的感情を喚起したり、自己評価を下げたりする働きがあることは先に述べた。被援助者の特徴についてもこの否定的感情に関連して考えられるものがいくつかある。被援助者の自尊心はそのような変数の一つである。
 まず、自尊心が先行研究でどのように取り上げられてきたか述べる。松井ら(1998)は著書の中で先行研究のレビューを紹介している。援助要請者する傾向が強いのは男性か女性かについて、過去からたびたび議論されてきた。Nadler(1982)は、男性は身体的魅力度の高い女性に対して援助要請を控えることを明らかにする一方で、女性が身体的魅力の乏しい男性よりも魅力的な女性に対していっそう頻繁に援助を要請することを見出した。このことについてNadler(1982)は、援助を要請することが否定的に評価される場合には魅力的な異性への要請が少ないが、他方、要請が要請社自身の自尊心の低下につながらず、逆に肯定的に評価される場合には、魅力的な異性への要請は、そうでない異性に対するよりもいっそう頻繁に行われると述べた。この結果について、男性が女性に援助を要請することは、他者に依存すべきでないという西欧社会の男性に付与された性役割規範に反する行為であり、自分の当事者能力ないしは問題解決能力の欠如を意味する。このことから、援助要請は自尊心の脅威となることが説明されている。
 援助要請者の自尊心は、このように援助要請することで自尊心が犯される危険性があることが注目されてきた。このモデルは自尊心脅威モデルと呼ばれ、Nadler(1987)は自尊心の高い人にとって援助を要請することが自分自身の肯定的な自己イメージと一貫しなくなるために、あえて援助を求めないのだろうと述べている。たとえば、自尊心の高い人は何か悩みを心に持っているとき、それを人に話したら、他人に助けてもらわないと解決できない自分の問題解決能力のなさを自覚しなければいけない。これは自分の肯定的イメージと一貫しなくなる。このような矛盾を避けるため、悩みを人に話さず自分の力で解決したという自己達成欲求があるのではないか。そのような援助要請を抑制する要因があるため、自尊心が高い人は援助要請できないことが考えられる。また、自尊心の低い人にとっては、援助要請することによって得る自分の否定的な情報が彼らの自己認知と一貫しているので、自尊心が低い方が援助要請する傾向が高いということになる。
 自尊心と援助要請については傷つきやすさ仮説(Tessler & Schwartsz, 1972)という考えもある。この仮説では自尊心の高い人が豊富な肯定的自己認知を持ち、自分の否定的情報にあまり関心を持たないのに対して、自尊心の低い人は、自分についての肯定的認知をほとんど持っておらず、それゆえに自力で問題解決できないといった傷つく情報に対していっそう敏感に、そして防衛的に反応するというのである。たとえば、自尊心の低い人は何か悩みを持っているとき、それを人に話すことで、他人に助けがないと解決できないという自分の問題解決能力のなさを自覚しなければならない。自分に対して肯定的な自己認知を持っていない上に、人の助けが必要だという否定的情報も得るため、さらに自分の問題解決能力のなさを実感する。このような脅威を避けるためにあえて援助要請しないことが考えられる。
 本研究で扱う援助要請は、悩みを持っているときに友達に相談するという援助要請行動である。水野ら(2004)は自尊心と被援助志向性との関連については、「心理・健康面」と「修学・進路面」の悩みを持っているとき、自尊心が低いほど友達への被援助志向性が低いことが明らかになった。この結果は「傷つきやすさ仮説」を支持するものである。つまり自尊心が低い人にとって、友達に援助を求めることで、さらに自尊心が傷つくのではないかと恐れて、援助を求めようと思わない、あるいは援助を求めようと思っても援助を求めることができないと解釈できる。
 
6.援助要請とソーシャルスキルの関わり
 
  援助要請行動は、対人関係の中で行われる行動であり、その実行には行動レベルでの技能が必要と考えられる。先行研究で、援助要請するためにはソーシャルスキルが必要であることが述べられている。水野ら(2002)は、中学生477名を対象にヘルパー(友人・教師・養護教諭・スクールカウンセラー・心の教室相談員)に対する被援助志向性について調査している。その結果、被援助志向性には、援助不安とソーシャルサポートが関連していた。ソーシャルサポートの量が多い生徒ほど高い被援助志向性を持つことが明らかになった。水野ら(2002)では、生徒がスムーズに援助を受けられるようになるためにはソーシャルサポートが受けられるようにすることが大切であることを提案している。ソーシャルサポートが受けられるようにするためにはソーシャルスキルをはぐくむことが大切だと指摘する研究がある。戸ヶ崎(1998)は中学生708名に対して調査を実施し、戸ヶ崎ら(1997)が開発した中学生用社会的ソーシャルスキルを使用し、ソーシャルスキルの高い子どもほど「恋の相談に乗ってくれる」「悩み事を話せる」などの項目からなる「情緒的サポート」を多く得ていたという結果になった。
 このように考えると、ソーシャルスキルに介入することで、被援助志向性が高められる可能性がある。ところで、ソーシャルスキルには多くの側面があるが、ここでは、援助を要請する際の言語的表現を検討することにする。それは、人は悩みを持っているとき、「話す」という手段を使って援助要請するからである。よって、ソーシャルスキルの中でも言語的援助要請スキルをはかることにする。
 阿部ら(2006)は言語的援助要請スキル、援助不安及び友人、教師に対する被援助志向性の関連を検討した。その結果、友人に対する学習領域、心理領域、社会領域、健康領域の被援助志向性では、言語的援助要請スキルの主効果が認められ、言語的援助要請スキルの高い中学生は被援助志向性が高いことが確認された。また、進路領域では言語的援助要請スキルとともに援助不安の主効果が認められ、言語的援助要請スキルの高い中学生、援助不安が低い中学生の被援助志向性が高かった。進路領域では、自分の自尊心と関連が深い。こうした問題で、友人に援助を求めることは、援助に対する不安が関連している可能性がある。この場合の不安には「呼応性の心配」「汚名の心配」があった。

7.本研究の目的
 
 以上より、自尊心、言語的援助要請スキルは援助要請に影響を及ぼしていることが考えられる。また、自尊心、言語的援助要請スキルから援助要請への直接の影響だけでなく、援助要請抑制要因を媒介として援助要請に至るまでのプロセスを仮定することで、悩みを持っているときに援助要請するメカニズムをより詳しく捉えることができると考えた。
個人特性要因の自尊心・言語的援助要請スキルと援助要請抑制要因、援助要請意図の3側面間の関連性から検討し、悩みの種類(@対人関係A性格・外見・健康B学業・進路)によるその違いをも明らかにすることを研究目的とする。

上に戻る

トップページ にもどる