【総合考察】

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  本研究では、個人特性要因の自尊心・言語的援助要請スキルが援助要請抑制要因と援助要請意図にどのような影響を与えるか、悩みの種類(@対人関係A性格・外見・健康B学業・進路)別に検討した。その結果、3種類の悩みに顕著な違いはみられなかったが、どんな悩みでも友達に相談しようとしたときに、「汚名の心配」を感じたとしてもそれが援助要請意図の決定要因にならないことが明らかになった。また、どんな悩みを持っていても、友達から呼応的な反応が得られないという「呼応性の心配」を感じたら、相談しないという決断をとることが示唆された。

  「対人関係の悩み」を持っているときには、自尊心と言語的援助要請スキルが低いと「気位の高さ」「汚名の心配」を感じやすいことが明らかになった。しかし、援助要請意図に影響を及ぼす援助要請を抑制する要因は「相談の必要性の低さ」であった。次に「性格・外見・健康の悩み」では自尊心と言語的援助要請スキルが低いと相談行動に「物理的コスト」「汚名の心配」を感じやすいことが明らかになった。また、言語的援助要請スキルが低いことが直接、援助要請できないことに影響し、「物理的コスト」を高く感じることで援助要請できないことにつながることが示唆された。「学業・進路の悩み」は言語的援助要請スキルが低いと、「自己開示の不安」「汚名の心配」が高く、自尊心が低いと悩みを重大に考えないこと明らかになった。また、悩みを重大に考えないことが援助要請しないことにつながることが明らかになった。これらより、「性格・外見・健康の悩み」を持っているとき、言語的援助要請スキルを高めることで、より友達に援助要請できることが示唆された。「学業・進路の悩み」を持っているときには、自尊心を高めることで、より友達に援助要請できることが示唆された。つまり、援助要請を高める方法として、言語的援助要請スキルと自尊心を高めることが考えられる。しかし、多母集団の同時分析を行った結果、「対人関係の悩み」「性格・外見・健康の悩み」を持っているとき、自尊心が高いと汚名の心配を感じることが明らかになった。援助要請を高めるために、一概に自尊心を高めればよいわけではないことが考えられる。

 多母集団の同時分析を行い悩みごとに比較を行ったところ、どの種類の悩みを持っていても、相談するときに相手の人から呼応的な反応が得られないといった心配がある場合、相談しないという決断をとることが明らかとなった。何か悩みを持っていて、悩みを相談してもその人から十分な援助がもらえないだろうといった心配はソーシャルサポートと関連していることが考えられる。水野ら(2002)の研究でも、中学生の被援助志向性と被援助不安の「呼応性の心配」が負の関連がみられたこと、被援助志向性とソーシャルサポートがみられたことから、ソーシャルサポートの重要性を提案している。ソーシャルサポートを高めるためには、ソーシャルスキルを高めることは先に述べた。しかし、本研究で扱ったソーシャルスキルは言語的なものに限定されているので、他のソーシャルスキルについても検討することが必要であろう。
 
 本研究において、悩みの違いによって言語的援助要請スキルと自尊心が援助要請抑制要因・援助要請意図に与える影響に顕著な違いが見られなかったことから、本研究の問題点がいくつか示唆された。まず、悩みの分け方の範囲が大きかったことが考えられる。たとえば、「学業・進路の悩み」は、勉強が理解できないといった悩み、進路に関する悩みが同時に含まれている。これは、質の違う二つの悩みが同時に含まれており、分ける必要があると考えられる。次に、援助要請抑制要因の項目の妥当性が低かったことが考えられる。本研究で用いた項目の中には、独自に作成された項目もある。この項目について再検討する必要がある。最後に、援助者を友達に限定したことも、悩みの違いに顕著な違いがみられなかった理由として考えられる。援助者には、両親、教官、学生相談といった者があげられる。今後はこれらの援助者も考慮することが示唆され、さらなる研究が望まれる。