Bartholomew(1990)は、他者についての内的作業モデル(他者観と呼ぶ)と自己についての内的作業モデル(自己観と呼ぶ)がそれぞれ肯定的か否定的かを捉え、その組み合わせにより青年期の愛着スタイルを捉える方法を提唱している。つまり、他者観と自己観がともに肯定的な安定型、他者観は肯定的で自己観は否定的なとらわれ型、他者観は否定的で自己観は肯定的な拒絶型、他者観と自己観がともに否定的な恐れ型に分類する(中尾・加藤,2003;丹羽,2005)。
なお、Bartholomew&Horowitz(1991)はそれぞれの特徴について述べている。それは、安定型は親密な友人関係を大切にする、とらわれ型は親密な関係に過剰にのめり込む、拒絶型は親密な関係の重要性を過小評価し自律性を重視する、恐れ型は拒絶されることへの恐怖から親しい関係を回避するである(加藤,1998/9)。
なお、Bartholomewの安定型、とらわれ型、恐れ型はHazan&Shaver(1987)の安定型、アンビバレント型、回避型とこの順で対応する(中尾・加藤,2003)。
また、Hazanらの愛着スタイルは愛着の理論的背景に対応する(金政,2003)。愛着の理論的背景とは、安定型はストレスが愛着対象により軽減される期待を持つためストレスの脅威を低く評価し愛着対象にストレスを歪めることなく表現する、アンビバレント型は愛着対象の反応を予想できないためストレスに過度に注意を向けストレスを誇張して表現する、回避型は愛着対象に拒否されるという信念をもつためストレスや愛着対象から注意を背けサポートを求めようとしないである(佐藤,1998)。
よって、愛着スタイルはBartholomewの愛着スタイルについて愛着の理論的背景を参考に仮説を設定する。
ストレスを統制すると使用するコーピングが比較的安定する(加藤,2000)ため、コーピングの個人差がより確認できると考えられる。また、特定のストレスに対する認知的評価およびコーピングとすることは、愛着スタイルとの関連をより理解しやすくなると考えられる。
そこで、愛着理論は対人ストレス場面であると考えられるため対人ストレスに統制し、大学生は友人関係が特に精神的健康の維持に重要である(加藤,2001)ため友人関係で生じるストレスとする。
認知的評価は、ストレッサーがどの程度自分に影響をおよぼすものであるか(影響性の評価)、どの程度脅威的であるか(脅威性の評価)、どの程度積極的に関与しようとするか(コミットメント)、状況をどの程度コントロールできるか(コントロール可能性)により概ね構成される(鈴木・坂野,1998)。
友人関係に起因する対人ストレスコーピングは、積極的に肯定的な人間関係を成立しようと努力する(ポジティブ関係コーピング)、人間関係を積極的に放棄・崩壊する(ネガティブ関係コーピング)、人間関係で生じるストレスを軽視することで回避する(解決先送りコーピング)から構成されている(加藤,2000)。
よって、認知的評価とコーピングはこれらについて仮説を設定する。
まず、愛着スタイルと認知的評価についての仮説を述べる。
次に、愛着スタイルとコーピングについての仮説を述べる。
金政(2005)は、詫摩・戸田(1988)の青年期の愛着スタイルと友人関係に起因する対人ストレスコーピングとの関連について検討している。よって、この結果を参考に仮説を設定する。
なお、詫摩・戸田の安定型、アンビバレント型、回避型はHazanらの安定型、アンビバレント型、回避型とこの順で対応する(詫摩・戸田,1988)ため、愛着の理論的背景と対応すると考えられる。
また、詫摩・戸田とBartholomewの愛着スタイルは安定型同士、アンビバレント型ととらわれ型および恐れ型、回避型と拒絶型および恐れ型が対応する(中尾・加藤,2003)。
金政(2005)の結果を概観する。
安定型はポジティブ関係コーピングと正の相関、ネガティブ関係コーピングと負の相関を示す。これは、愛着の理論的背景とBartholomewら(1991)の安定型より、対人ストレスに対しその人との関係を維持しようとすると考えられることから理解できる。
アンビバレント型はネガティブ関係コーピングと正の相関、解決先送りコーピングと負の相関を示す。
解決先送りコーピングは、愛着の理論的背景のアンビバレント型とBartholomewら(1991)のとらわれ型より、対人ストレスを軽視できないことから理解できる。
ネガティブ関係コーピングは、愛着の理論的背景のアンビバレント型とBartholomewら(1991)のとらわれ型より、対人ストレスを適切に表現できずその人との対人関係を崩壊させると考えられることから理解できる。また、愛着の理論的背景の回避型とBartholomewら(1991)の恐れ型より、対人ストレスに対しその人との対人関係を回避することで崩壊させると考えられることから理解できる。
しかし、とらわれ型よりも恐れ型の方が対人関係を崩壊させることと直接結びついていると考えられるため、ネガティブ関係コーピングは恐れ型との関連が強いと考えられる。
回避型は、ネガティブ関係コーピングと正の相関を示す。これは、Bartholomewら(1991)の拒絶型より、対人ストレスに対しその人との関係を維持しようとしないと考えられることから理解できる。なお、恐れ型とネガティブ関係コーピングの関連については、アンビバレント型のところで既に述べた。
以上より、仮説を述べる。
Bartholomewの愛着スタイルは、他者観と自己観から構成される。他者観は、他者に対し支援を期待できる存在と考えるかであり、他者への親密性の希求や回避に関わる。自己観は、自己への価値意識が高いかであり、他者との関係に対する不安に関わる(丹羽,2005)。なお、前者を親密性の回避、後者を見捨てられ不安と呼ぶ(中尾・加藤,2004)。
このため、親密性の回避と見捨てられ不安によって愛着スタイルを捉えることで、認知的評価およびコーピングとの関連をより理解できると考えられる。
よって、親密性の回避および見捨てられ不安と認知的評価およびコーピングとの関連について仮説を設定する。
中尾・加藤(2003)は、Bartholomewの4分類愛着スタイルと親密性の回避および見捨てられ不安の関連について検討しているため、この結果を参考に仮説を設定する。
中尾・加藤(2003)の結果を概観する。
拒絶型と恐れ型は、とらわれ型より親密性の回避の得点が高い。
とらわれ型と恐れ型は、拒絶型より見捨てられ不安の得点が高い。
安定型は、親密性の回避と見捨てられ不安の得点が最も低い。
以上より、仮説を述べる。